声明・アピール・決議
男女雇用機会均等法の実効性ある改正を求める決議
 1986年4月に男女雇用機会均等法(以下「均等法」という)が施行されてから今年で20年という節目を迎え、同法の改正が予定されている。
 2006年1月27日、「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律及び労働基準法の一部を改正する法律案要綱」(以下、「要綱」という。)が出され、同年2月7日、労働政策審議会から要綱を概ね妥当と認める旨の答申が出された。
 要綱は、現行の均等法と比べ、多少の改善部分はあるものの、男女の性差による差別、賃金格差が依然として残る労働現場からすれば、はなはだ実効性に乏しく、且つ男女差別の温存をもたらす危険があると言わざるを得ない。
 当協会は、両性が家庭生活及び職業生活に責任を負い、真に両性が平等に扱われる社会を実現するため、上記要綱に、以下のとおり意見を表明し、均等法の実効性ある改正を強く求める。

                  
  1.  均等法の目的及び理念に「仕事と家庭の調和」を明確に盛り込むこと
     今や、正規・非正規雇用を問わず、男女ともに長時間過密労働を強いられているが、とりわけ多くの女性は、家事・育児・介護等の負担を負っていることから、非正規雇用の勤務を余儀なくされ、また長時間過密労働とこれらの負担の両方に苦しめられている。
     「仕事と家庭の調和」を規定することにより、均等法の目指す平等が、無限定な長時間過密労働を前提とするものではないことを明らかにし、実質的な両性の平等の実現が可能となる。また、上記規定に、均等法の具体的解釈の基準としての意味を持たせることもできる。

  2.  間接差別禁止の原則を明示し、対象事由を限定しないこと
     要綱では、間接差別禁止規定につき、厚生労働省令で3つの間接差別事例を限定列挙することとしている。しかし、間接差別事例を限定列挙しその列挙事例のみを禁止するならば、かえって、列挙された以外の基準による間接差別を事実上容認する結果になりかねない。そもそも限定列挙自体、間接差別の考え方に反するものであるし、差別は、時代や状況によってさまざまに変化するのであるから、あらかじめ一定の事例を列挙すれば、禁止は現実の後追いに過ぎなくなり、差別禁止の実効性は失われる。
     しかも、要綱で列挙された事由は、@募集又は採用における身長、体重又は体力要件、Aコース別雇用管理制度における総合職の募集又は採用における全国転勤要件、B昇進における転勤経験要件といった、極めて限定的なものであるため、事実上、要綱に定められた以外の間接差別を抑制することは不可能に近い。
     とりわけ現在、多くの職場では「職務内容」や「勤務形態」による「雇用管理区分」を理由として男女労働者の処遇に格差が設けられているが、要綱案の「間接差別禁止」は、これらの男女差別の解消に役立たない。
     改正にあたっては、外見上性中立的な基準であってもその基準適用によって差別的な結果が生じる場合にはこれを差別として許さないという間接差別禁止の原則を明記し、且つ事業主が当該基準が適切かつ合理的であることを立証できない場合は、労働者の性別を理由とした差別であると見なすこと(主張立証責任の転換)を明記することを求める。

  3.  「雇用管理区分」に関する指針の見直し
     現行均等法第10条に基づく「指針」は、「雇用管理区分」ごとに均等取り扱いの有無を判断することとしているが、そのために、コース別雇用管理制度による男女差別が温存される結果となっている。
     したがって、「雇用管理区分」が異なれば差別的取り扱いが許されるという前記指針を改正し、「雇用管理区分」による男女差別を解消することを求める。

  4.  積極的改善措置の義務づけ
     差別を是正するには、差別を禁止するだけでなく、企業が積極的な平等実現策を講じ、両性の平等に向けた環境づくりをすることが必須である。しかし、現行均等法は、企業が自発的に措置を講じる場合に、国が援助できると規定するに止まっている。このような規定の下で、いっこうに差別が改善されなかったことに鑑み、事業主の積極的差別改善措置、少なくとも行動計画を作成・公表することを義務づけるべきである。

  5.  強制力のある差別救済機関の設置
     現行均等法には、強制力を有する救済機関の定めがない。
     要綱は、事業主の自主的解決や労働局長による紛争調停委員会の調停について定めるが、事業主の自主的解決や強制力のない調停によっては、男女差別が解決されないことは、均等法制定後20年間の経過を見れば明らかである。
     改正にあたっては、差別の合理的根拠を示す証拠、資料の提出義務を事業主に課すとともに、資料の提出を拒んだり、差別に合理的根拠が認められない場合には、差別を認定して是正を勧告し、勧告に従わない場合には刑罰を科したり、緊急の救済の必要がある場合には緊急命令を発するなどの権限を有する、強制力のある救済機関の設置を求める。

  6.  坑内労働の禁止を緩和しないこと
     要綱は、労働基準法による女性の坑内労働禁止規定を「人力により行われる業務その他」のみに緩和しているが、これは母性保護の労働保護法の歴史を顧みないものであり、女性労働者を母性にとって危険且つ有害な業務に従事させるものであって、緩和規定は削除すべきである。
2006年2月19日
                       民主法律協会2006年権利討論集会
   
 
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