声明・アピール・決議
NHK番組への政治介入を許さない決議
1 2001年1月にNHK教育テレビで放送された従軍「慰安婦」についての女性国際戦犯法廷を扱った番組に関して、NHKが、事前に自民党の政治家から意見を聞き、その直後にNHK幹部の指示によって番組内容が改変されたということが明らかになった。
ことの発端は、朝日新聞の報道であることから、朝日新聞とNHKの間の紛争であるかのようなマスコミ報道もみられるが、ひどい問題のすり替えである。ことの本質は、報道の自由とジャーナリズムの独立、ひいては、国民の知る権利、言論表現の自由の根幹をゆるがす重大な問題である。

2 政治家の事前介入は事実上の「検閲」にあたる
 そもそも、公共報道機関として公平が要求されるNHKの番組の放送の前に、政治権力が事前に番組内容に介入することは、憲法21条が禁止する事実上の「検閲」にあたる。検閲や表現行為の事前抑制は、私たちがその番組内容を知る前に、権力によって規制されるものであり、表現の自由を侵害し、民主主義を危機に陥れるものであり、絶対的に許されない。ことに今回圧力をかけたとされる安倍自民党幹事長代理は、当時の官房副長官、中川経済産業相は自民党の「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」代表という政府及び政権政党の中枢にいた人物であるから、事態はより深刻である。
 NHKは、内部調査の調査結果を公表して、中川氏については、事前に面談した事実はないとしつつ、安倍氏については、「放送前に面談したが、事業計画に付随して今後放送される番組について説明することは通常の業務の範囲内」であり、放送法に違反しないと結論づけた。
NHKでは、予算の関係で政治家に対する番組内容の事前報告が常態化していたという指摘があるが、この調査結果は、自ら権力に迎合して権力の意向を慮って番組制作するという体質にあったということを自認したことになり、公共放送機関としてあってはならないことである。問題の徹底究明が求められるところである。

3 NHKの事後的な対応の問題点
さらに問題なのは、NHKが自らのニュース番組の中で、朝日新聞の報道を「虚偽報道」と決めつけ、報道時間の大部分をNHKの一方的な声明の紹介にあて、最後に朝日新聞の見解を僅かに加えるという報道姿勢である。これは、公平な報道とは言い難い公共放送の私物化であり、視聴者に対する重大な背信行為である。

4 内部告発者の保護
 1月13日には当該番組の担当プロデューサーが「政治的な圧力があった」と内部告発の記者会見を行なった。私たちは、勇気を持って内部告発に踏み切った担当プロデューサーに対して、いかなる意味でも不利益な取り扱いがあってはならないと考える。
しかし、NHKは、内部告発を真摯に受け止めて反省しようとしないどころか、政権党幹部の政治介入がなかったかのように、これをかばう態度に終始しており、内部告発者に対して不利益処分がなされるおそれもある。そのようなことは決して許されない。

5 私たちはNHKが、自らの弁明を公共メディアを使って流すのではなく、公正で中立な第三者機関により、番組改変の経緯および背景について事実関係の調査をおこない、真相を究明したうえで、権力におもねらない公共報道機関としての立場に立ち戻ること、そして国民の受信料によって運営されているNHKが政治的圧力を受け入れて真実の報道をゆがめることを繰り返さないように万全を期すことを強く求める。
                                                             以上
2005年2月13日
                       民主法律協会 2005年権利討論集会
   
 
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