声明・アピール・決議
労災保険の民営化に反対する決議
  1.  平成15年7月に,政府の総合規制改革会議のワーキンググループで,労災保険の民間開放が提案された。平成15年末に同会議から出された答申では,議論は先送りされた格好だが,両論併記となり「今後の課題」として明記されることとなった。
     しかし,労災保険の民営化は,労働災害にかかわる労働者の権利保障を揺るがすことになるものであり,断固反対するものである。

  2.  労災保険制度の目的に照らし,民営化は許されるものではない。
     労災保険の基本理念は,憲法25条で保障される生存権の公正な補償にある。労働災害の危険は,労働者が業務に従事する際至る所に存在していることから,被災者が確実な保護を受けられるよう,社会保険方式を利用した強制賠償保険制度を導入したのである。
     このように,現行の労災補償制度が憲法の要請を受けたものである以上,その運営は,生存権の義務履行主体である国により行われるべきものである。利益を追求する民間営利企業に行いうるものではない。

  3.  労災保険は公平・公正な立場で適用されるべきであるが,そのような適用の実現は民間保険会社によっては困難である。
     民間保険会社が営利を目的とする以上,保険料を支払えない使用者は切り捨てられ,保険料を確実に納付する使用者のみ扱われるおそれがあり,労災補償を受けられない労働者が多数生じるおそれがある。また,労災認定の過程で,労使が事実認定を巡り対決するケースが多いが,認定の判断が民間保険会社に委ねられられば,顧客である企業寄りになる危険性が高い。さらに,事実認定を巡りその立証責任について民事一般の原則が適用されると,被災労働者に立証責任が課されることになり,被災者・遺族の保護が後退するおそれがある。

  4.  このように,労災保険の民営化は,様々な問題を含んでおり,実施された場合重大な弊害が多数生じることは明らかである。平成15年7月に提案されて以降,各種団体はもちろん,厚生労働省からも反対が出され,現在結論は先送りされた格好になっている。しかし,「今後の課題」とされるなど依然重要な問題となっており,今後具体化されることのないよう,断固反対するものである。

2004年2月15日
                           民主法律協会
2004年権利討論集会
   
 
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