声明・アピール・決議
弁護士報酬の敗訴者負担「合意論」に反対する声明
  1.  唐突な敗訴者負担「合意論」の登場 
     司法制度改革推進本部司法アクセス検討会では,弁護士報酬の敗訴者負担制度に関し,「原則敗訴者負担」を前提に,例外的に導入しない訴訟類型を検討してきた。
     これに対し,本年9月までに5134通のパブリックコメントが寄せられ,ほとんどが敗訴者負担制度導入反対の意見であった。また,敗訴者負担制度導入反対署名は100万人を超えている。国民の大多数が制度導入に強く反対していることは明白である。
     ところが,10月10日のアクセス検討会で,突如「合意による敗訴者負担制度」の提案がなされた。その骨格は,
    @ 原則各自負担とし,合意があった場合に敗訴者負担とする。
    A 敗訴者負担の合意は,訴訟提起後代理人双方の共同申立てによる。
    というものである。
     この唐突な「合意論」の登場は,広範な国民の反対意見を前にして,推進勢力が「原則導入」論を維持できなくなったものであると同時に,あくまでも敗訴者負担に固執するものである。
     しかしながら,かかる「合意論」は,以下のとおり根本的な問題があり,当協会は,合意による敗訴者負担制度の導入に反対するものである。

  2.  国民の司法利用を遠ざけることには変わりがない
     第1に,合意をしなければ裁判所に勝訴の自信がないとの心証を持たれかねず,合意をすれば敗訴者負担のリスクを負わされることになる。社会的・経済的弱者は,相手方の弁護士費用を気にして困難な選択を強いられるのに対し,大企業等の強者側は,そのような心配をせずに敗訴者負担を選択することができる。結局,弱者側に不利に働くことになる。
     第2に,裁判上での敗訴者負担制度導入は,裁判外の契約による敗訴者負担にお墨付きを与えることになる。すると,労働契約,消費者契約,借地借家契約等に敗訴者負担条項が入り,結局,労働者,消費者,借地借家人等,社会的・経済的弱者は相手方の弁護士費用負担を恐れて裁判することが出来なくなる。
     第3に,不法行為による損害賠償請求等,一定の類型には,被害者側に弁護士費用を「損害」として請求することが認められている。合意による敗訴者負担制度が導入されれば,弁護士費用は同制度によるべきとして,両当事者が合意しない限り,被害者側が弁護士費用を請求することが出来なくなるおそれがある。
     これらにより,国民の司法アクセスが阻害される危険が大きい。

  3.  導入すべき根拠(立法事実)が全く存在しない
     「負けた者が勝った者の費用を負担するのが正義だ」という敗訴者負担制度導入論の論拠から,合意によって費用負担が左右されることをどのように正当化するのか。「合意論」は敗訴者負担導入論の破綻を示すものにほかならない。
     「合意による敗訴者負担」は司法アクセスに全く役立たず,導入論者も正当化することができないものであり,結局この制度を導入すべき根拠が全く存在しない。

  4.  国民の意見を聴いていない
     パブリックコメントの段階で,「合意論」は全く議論の対象になっていなかった。それにもかかわらず,検討会における数回の検討だけで「合意論」を導入するというのでは,およそ,国民の意見に耳を傾ける姿勢が欠けているというほかない。

  5.  結局,敗訴者負担「合意論」には,実体的にも手続的にも全く合理性がない。当協会はかかる「合意論」による敗訴者負担制度の導入に反対する。

2003年12月2日
                           民主法律協会
会長 小林つとむ
   
 
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