声明・アピール・決議
労働基準法、労働者派遣法「改正」に関する声明
  1.  労働基準法「改正」法案と労働者派遣法・職業派遣法「改正」法案が、2003年3月国会に提出され、6月6日に派遣法「改正」が、6月27日に労基法「改正」が、それぞれ成立した。
     今回の労働法制の改悪は、新自由主義のイデオロギーに基づく労働法制の規制緩和として、有期契約や派遣労働など使い捨ての効く不安定労働者を増やし、さらに正社員についてはリストラをすすめる一方で残った者には残業手当なしで長時間労働(サービス残業)が可能となる勤務形態を広げていくことが目的であり、この影響は、正社員の長時間労働・サービス残業と不安定雇用の増大という現在の労働者のおかれた悲惨な状況をより深刻化させるものに他ならない。

  2.  まず、労基法「改正」で、現行法の原則1年(専門業種は3年)以内の有期雇用期間を原則3年(専門業種等は5年)以内に延長した。これは、1年以内の雇用期間では、契約を反復更新することが実際上多くなり、その場合、確立された判例によって正当な理由がないと更新を拒否できなくなるので、その回避のために有期契約の上限を3年に延長し、更新せずに使い捨てのできる労働者を確保しやすくするものである。有期契約の拡大によって使用者の裁量の範囲は拡大し、身分の不安定な労働者は増大する。また、3年で雇用契約を自由に終了させることができるとすれば、事実上の若年定年制として機能する。  
     さらに、現行育児・介護休業法は、期間雇用労働者には適用されないが、有期雇用の期間延長にかかわらず、変更する立法措置がとられていない。加えて、契約期間の上限延長に伴って労働者の転職の自由が制限されるおそれがあるが、附則として、専門業種等の場合を除いて契約日から1年を経過した場合の労働者の退職の自由が盛り込まれることになったが、専門職の場合も区別する理由はないと言わざるを得ない。

  3.  次に、労働者派遣法「改正」では、労働者のリース制度とも言うべきものであり、中途解約、社会保険への未加入など身分の不安定かつ無権利状態におかれている。今回の労働者派遣法改悪では、派遣制限期間を1年間から3年間に、26業務の派遣期間制限を廃止し、製造業や医業の派遣を解禁するものであり、派遣事業の拡大を図り、正社員を使い捨てのできる不安定かつ無権利な派遣労働者に置き換えようとするものである。また、これまで禁止されていた事前面接を、紹介予定派遣については解禁しており、使用者は、まず派遣労働者として受け入れ、働きぶりをみてから正式採用をするかどうかを決定できることになり、問題が多い。

  4.  さらに、労基法「改正」は、企画業務型裁量労働制の要件を「労使委員会の全員一致」から「5分の4の賛成」にし、労使委員会の設置についての届け出制を廃止し、本社だけでなく、支社・工場でも導入するなど、大幅に緩和した。裁量労働制は、実際の労働時間にかかわらず、労使で定めた時間だけ働いたものとみなすものだが、裁量と言っても、仕事の量や納期に労働者の裁量があるわけでなく、仕事をこなすために必然的に実際の労働時間が長くなり、サービス残業の「合法」化となる。これでは、過労死、過労自殺の温床となる長時間、サービス残業をなくそうとする流れに逆行する。

  5.  なお、解雇ルールに関する労基法「改正」では、当初、本文に「使用者は・・解雇できる」と解雇の原則自由がうたわれていたが、労働者保護法に解雇権限を規定することは法の趣旨に反するし、解雇を誘発しかねないものであった。解雇原則自由の法文化には、連合・全労連および日弁連、労働弁護団、自由法曹団などの法律家団体は一致して反対したため、本文は削除され「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とする」という解雇規制のみを残すことができた。これは、労基法に、判例で確立した解雇権濫用法理を明記するものであり、解雇規制ルールの明文化として、不当解雇を許さない大きな歯止めになるものと評価できる。

  6.  協会は、今回の法「改正」のうち有期契約、派遣労働などの不安定雇用の拡大とサービス残業の合法化については、強く抗議する。 
     他方、解雇規制については、附帯決議にあるように解雇権濫用の評価の前提となる事実については使用者側に主張立証責任を負わせている現在の裁判上の実務を変更するものでないことを周知徹底に努め、使用者に対し、東洋酸素事件等解雇4要件に関するものを含む裁判例の周知徹底を図ることを強く求める。 
     協会としては、今後も、不安定雇用労働者および正社員の雇用の安定、賃金、労働時間など労働条件において公正な働くルールの確立を目指して、地域、職場で粘り強く闘っていく決意である。

2003年7月4日
                           民主法律協会
会長 小林つとむ
   
 
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