声明・アピール・決議
裁判迅速化法案に反対するパブリックコメント
 内閣の司法制度改革推進本部は、民事刑事とも裁判の一審を2年以内に終わらせるための裁判迅速化法案を次期通常国会に提
出する方針である旨報じられた。
 しかしながら、現在既に平均審理期間は、民事については8ヶ月、刑事は4ヶ月と、ほとんどの一審裁判が2年以内に終了しており、かかる法案を支える立法事実がない。
また、裁判に時間がかかり、なかには2年を超える事件もあるが、これは、裁判官・検察官・書記官・事務官の不足や法廷、和解室等のなどの不足など人的・物的基盤の不十分さに起因している。
 また、民事事件においては、当事者間に証拠の偏在があり、立証困難なために時間を要することがある。とりわけ大型差別事件や不当労働行為事件、過労死・労災事件を含む労働事件においては、使用者側に証拠が偏在しており、これを是正するディスクロージャーなどの制度のない現状で労働者側は主張・立証に困難を強いられている。かかる状況下で、裁判所・当事者に審理期間の短縮に対する責務を負わせて「迅速」にみを求めるならば、拙速に陥り、「適正」な裁判、「充実」した裁判は実現されなくなる。
 さらに、現在までも審理促進の名の下に証人調べ・本人調べ・検証・鑑定が制限され
てきている反面、反対尋問による弾劾を受けない「陳述書」を証拠として多様されており、かかる事情は労働事件においても同様である。ことに労働事件において使用者側の同僚や上司の陳述書は、使用者たる企業に勤務しつつ作成されるものであるから第三者性のあるものとは言えず、これを鵜呑みにして事実認定をすることは危険であり、反対尋問による弾劾が必要な場合が多くあると考えられる。
 このような現状であるにもかかわらず、人的物的基盤の整備や証拠収集法法の拡充などの抜本的な改革なくして、一律に審理期間について2年以内という数値目標を導入するならば、裁判がさらに拙速に陥ることは不可避である。ことに、労働事件の分野は法規の単純な適用では解決できない法的問題が日々生起するダイナミックな分野であり、裁判の法創造機能が果たす役割がとりわけ重要である。例えば、解雇規制に関する4要件などはその最たるものである。しかし今回の法案により裁判がよりいっそう拙速に陥るとすれば、かかる重要な法創造機能が損なわれかねない。民主法律協会/声明・アピール・決議
 以上のとおり、現状において民事刑事事件の一審を2年以内に終わらせるようにするという数値目標を規定し、裁判所、当事者、代理人、弁護人、日本弁護士連合会に対して、個別事件において迅速な裁判をする責務を課すこと及び2年以内に一審を終わらせる責務を課すことは、適正で充実した審理を求める当事者・被告人の「裁判を受ける権利」を阻害するおそれがあり、これらの規定を設けることには反対する。

   
2002年12月25日
                           民主法律協会
会長 小林つとむ
   
 
← BACK TOP↑