1 厚生労働省は、2026年8月19日、全国の労働基準監督署(以下「労基署」という)における時間外労働の監督指導方針を見直し、9月1日以降、特別条項付きの三六協定を締結している事業場に対して行われてきた、時間外労働を月45時間以内へ抑制することを求める一律の指導を取りやめることを公表した。2026年4月15日、自由民主党の日本成長戦略本部が、高市首相に対して、同指導の見直しを求める提言を行っていたところであり、この提言を受けた対応と考えられる。当会としては、この提言に対して、「自民党日本成長戦略本部の提言及び労働時間規制緩和の動きに反対する声明」において、「働き方改革関連法後5年の総点検」の結果に沿わないものであり、安易な労働時間規制緩和に反対する意見を表明した。しかしながら、同指導の見直しは、労働者の命と健康を著しく脅かし、労働基準監督行政の根幹を揺るがすものと言わざるを得ない。
2 労働基準法上、三六協定を締結した場合の時間外労働の上限は月45時間・年360時間と定められている。三六協定に特別条項を設けた場合には、月45時間を超え、最長で月100時間まで時間外労働が許容され得るが、特別条項を設けることができるのは、あくまで「臨時的な特別の事情」が存在する場合に限定されている。これまでの労基署による月45時間以内の指導は、長時間労働の常態化や過労死ライン(月80時間)を超えるような働き方を防止するために行われていたものである。この一律指導を見直すことは、長時間労働を事実上容認し、労働時間の上限規制をないがしろにするものにほかならない。
3 医学的知見からは、時間外労働が月45時間を超えると、健康被害のリスクが徐々に高まるものとされ、脳・心臓疾患の労災認定基準においても同様に定められている。月45時間を超える長時間労働は、睡眠不足や疲労の蓄積をもたらし、脳・心臓疾患や精神障害の発症リスクを高めるのである。令和7年度の脳・心臓疾患に関する労災請求件数が1254件(前年度比224件の増加)、精神障害に関する労災請求件数が4958件(前年度比1178件)と過去最多となっており、労働現場においていまだに長時間労働がはびこり、深刻な状況にあることが示されている。月45時間以内の指導を見直し、月45時間という基準を事実上放棄することは、労働者の健康被害のリスクをさらに高めるものである。
4 厚生労働省は、月45時間以内の指導を見直すとともに、「健康確保措置」を実施すると公表している。しかしながら、「健康確保措置」が形骸化しているケースも珍しくなく、仮に健康確保措置が採られていたとしても、長時間労働による身体的負荷を軽減することはできない。そもそも、時間外労働が月45時間を超えるか否かにかかわらず、労働者の健康は確保されるべきものであり、前記の健康被害のリスクは、労働時間の削減と休日・休息の確保によって確保されるものである
5 当会は、過重労働を助長し、過労死・過労自死を誘発しかねない月45時間一律指導の見直しに対して、強く抗議するともに、労基署が本来の機能を発揮し、違法な長時間労働の根絶に全力を尽くすことを求める。
当会は、労働者の命と健康を確保し、過重労働の根絶を求め、今後も働き方の改善に向けた取組みを続けていく。
2026年8月29日
民主法律協会 第71回定期総会



