1 自民党が2026年2月の衆院選で戦後最多の議席を獲得した状況下で開かれた特別国会は2026年7月24日に事実上閉会した。政府・与党は、衆議院での数の力を背景に、国論を二分する法案や合憲性に強い疑義がある法案を含め、数々の法案を、十分な議論を尽くさないまま次々と強行成立させた。結果として、政府提出法案64本すべてが成立したことになる。150日以上の会期を通じて露呈したのは、説明責任から逃避し、立憲主義を蔑ろにし、物価高や市民の生活には向き合わず、自民党と日本維新の会の連立合意書に盛り込まれた内容を優先する高市政権の独善的な姿勢である。
2 当会の2026年6月19日付けの声明「国旗損壊罪法案の制定に反対する声明」において法案の即時撤回を求めていた国旗損壊罪についても、2026年7月17日に成立、8月13日に施行された。同法は、「人に著しく不快または嫌悪の情を催させるような方法」で「公然と国旗を損壊」したり、国旗を傷つける様子をライブ配信したりした場合、2年以下の拘禁刑または20万円以下の罰金を科すという内容である。
しかし、既存の刑事法制で対応し得る行為まで新たに処罰対象とする立法の必要性は乏しく、「不快」や「嫌悪」といった主観的感情を処罰根拠とする点で、憲法が保障する表現の自由や思想・良心の自由を脅かすおそれがある。実際、参議院内閣委員会における参考人質疑において、憲法学者から違憲の可能性が指摘され、全国の刑事法学者約150名も「『不快』を処罰の根拠とするのは危険で、重大な疑義がある」として、反対する声明を出した。さらに、憲法研究者約200名も同法の速やかな廃止を求める声明を発表しており、同法が憲法上重大な問題を有する法律であることは明らかであった。にもかかわらず、十分な議論もなされないまま、法案が強行成立されてしまった。
3 また、高市政権が掲げる「インテリジェンス改革」も重大な問題を含んでいる。最も重大な問題は、重要情報を首相周辺に集中させる一方で、市民監視やプライバシー侵害を防ぐ実効的な統制が制度上きわめて不十分な点である。司令塔となる「国家情報会議」と実務を担う「国家情報局」を新設する法案は、2026年5月27日に成立した。新設される国家情報会議は首相が議長を務め、官房長官や外相、防衛相らの閣僚で構成され、安全保障やテロ防止のための重要情報活動や、外国のスパイ活動に関する外国情報活動について調査・審議することになる。そして、国家情報局は、国家情報会議の事務局として官僚らで構成され、複数の省庁にまたがる情報をより強力に集約するための総合調整権が与えられることになる。このように、国家情報会議と国家情報局には多くの重要情報が集まることになるが、市民への監視強化やプライバシー侵害への歯止めとなるような第三者機関の設置や国会報告の義務化といった仕組みは盛り込まれていない。今後は、スパイ防止法制や対外情報庁の設置も目指されており、情報収集権限の拡大に対する民主的統制、プライバシー保護、監視機関の有無について、引き続き厳しく注視する必要がある。
4 さらに、皇室典範改正法案についても、与野党協議では皇族数の確保に限定して議論するという前提の下で進められ、皇位継承の在り方は論点になっていなかったにもかかわらず、政府の改正案では皇位継承権が明示されたため、だまし討ち的な議論の進め方がなされた。女性・女系天皇が認められるべきかといった論点もある中で、皇室典範改正法案は、わずか半日の審議で衆院を通過し、2026年7月17日に成立しており、あまりにも結論ありきの強引な進め方であった。
5 高市政権は、数の力によって自民党と日本維新の会の党利党略を優先する国会運営を改め、市民・野党議員らの意見を踏まえた誠実な国会審議を行うべきである。当会は、高市政権による立憲主義を軽視した一連の法案の強行成立に対して断固として抗議し、物価高や市民の生活に真摯に向き合うことを強く求める。とりわけ、違憲の疑いの強い国旗損壊罪については、労働組合や市民による政権批判を標的とし、社会運動全体を萎縮させる危険性をはらんでいることから、速やかな廃止を求めるものである。
2026年8月29日
民主法律協会 第71回定期総会



