声明・アピール・決議
「新しい歴史教科書をつくる会」の
    歴史・公民教科書から子どもとわが国の未来を守るために
  1. 1997年、自民党や財界の一部からの強力な支援を受け、産経新聞などのキャンペーン報道に呼応して、「戦後の歴史教育は自虐史観に塗りつぶされている」などと主張し、新しい歴史教科書を作ることを目的とする「新しい歴史教科書をつくる会」(会長西尾幹二)が結成されました。
     「つくる会」は、同会長著とされる「国民の歴史」などを大量配布するなどして、同会の歴史観を宣伝し、また他社の教科書に対する攻撃のキャンペーンを繰り広げました。
     そして昨年にいたって、同会は、中学校の歴史教科書と公民教科書の検定を申請しました。これらの教科書については、多くの検定意見に基づく修正が行われましたが、教科書としての「合格の可能性」があると報じられています。同会はこれらの教科書を採択させるために各地の教育委員会、議会等への働きかけを強めています。

  2. 「つくる会教科書」は、歴史教科書について言えば、歴史認識の基本的なありかたとして、「―歴史を学ぶとは―」との項を設けて、そこで「歴史は科学ではない。」、「歴史を学ぶのは、過去の事実について、過去の人がどう考えていたかを学ぶことなのである。」、「過去のそれぞれの時代には、それぞれの時代に特有の善悪があり、特有の幸福があった。」という考え方を述べています。
      これらの歴史認識のありかたは、科学としての歴史学を根本的に否定する特異な見解であるというだけでなく、歴史への具体的な適用においては、その時代の政府・財界などの支配的な見解をそのまま無批判に受け入れること、あるいは戦争の悲惨な実態に眼を閉じることを子どもたちに教えることにつながるのは見やすいところです。例えばわが国による「日韓併合」などの不法な植民地支配や「大東亜戦争」、「大東亜共栄圏」などの名目による太平洋戦争の遂行をも正当化する論理となるでしょう。
      「つくる会」歴史教科書の内容における基本的な特徴のひとつは、「神武天皇」の「東征」、「即位」などの神話を事実として描くことにはじまり、今日にいたるわが国の歴史を、一貫した天皇支配の歴史としてとらえ、これを擁護・賛美する露骨な皇国史観に依っていることです。
      もう一つの特徴は、これも一貫して太平洋戦争をはじめとしてわが国のこれまでの中国・朝鮮半島・東南アジア諸国に対する侵略戦争を正当化し、また戦争自体についてもその悲惨な実態を隠蔽し美化していることです。

  3. また「つくる会」の公民教科書は、明治憲法について、「国民には多くの権利や自由が保障され、」ており、「アジアで初の近代憲法として内外ともに高く評価された」として賛美しています。しかしそこで規定された国民の権利はそもそも天皇によって認められた「臣民の権利」に過ぎず、憲法上も基本的に法律の制約を受けいただけでなく、実際には形骸化し暗黒の時代に化していたことはまさに歴史的な事実です。
      一方「つくる会」教科書は、現行憲法については、「憲法の解釈によれば、わが国は集団的自衛権を行使できないという意見があり、それが国際協力の障害にもなっている。そのため、日本国憲法九条の表現そのものを改正する必要が強く唱えられている。」、「(国連平和維持軍や多国籍軍への自衛隊の参加にとって)日本国憲法がその障害になっている。」など、現行憲法の平和主義が敵視され、憲法改正論がことさらに強調されています。

  4. このように「つくる会」の教科書は、とりわけ中国・韓国などアジア諸国との歴史認識の共有ないしそのための努力に欠けるだけでなく、ひたすら皇国史観、民族的排外主義で貫かれ、植民地支配や侵略を正当化し、戦争責任を否定する点で、アジア諸国からの強い批判にさらされています。
      このような教科書が採択され、これらによって子どもたちが教育されることは、単に憲法や教育基本法の精神や諸規定に背くというだけでなく、ゆがめられた歴史認識をもたされた子どもらの不幸は、はかり知れず、あわせてわが国の将来をもそこなうことになるのは必至です。
     このような教科書は、言論表現の自由の名において、教科書として容認される資格を有するとすることには同意できません。
     私たちは、このような教科書が検定に合格し、教科書として使用されることを許すことはできません。
     私たちは、「つくる会」の歴史・公民教科書の危険な性格と内容について、広く父母・国民のみなさんの理解と行動を訴えるものです。

2001年3月28日
民主法律協会第7回幹事会
   
 
← BACK TOP↑