声明・アピール・決議
  ソマリア沖への海上自衛隊護衛艦派遣及び
  「海賊対策新法案」に反対する決議


  1.  政府は2009年1月28日、アフリカ東部ソマリア沖の海賊対策として海上自衛隊の護衛艦を派遣することを正式決定した。この派遣は、現行自衛隊法82条の海上警備行動に基づくものであるが、麻生首相は同時に、海賊対策のための新法案を3月に国会提出することを表明した。
     2008年12月に採択された国連安保理決議に基づき、米国を中心に海賊掃討司令部にあたる「コンタクトグループ」が組織され、ソマリア領海内・領土・領空で武装組織の制圧に当たることになっており、自衛隊もそこに参加することが予定されている。

  2.  ソマリア沖での海賊行為は、犯罪行為である。これに対処するのは、軍事力ではなく、警察権によるべきものであり、それは我が国においては本来海上保安庁の任務である。海上保安庁には、2000〜2004年にマラッカ・シンガポール海峡沿岸諸国と連携して海賊対策を行い成果を挙げた実績がある。
     海賊行為取り締まりのためには、現場海域の状況を熟知したソマリア周辺諸国の警備能力向上のため、海上保安庁が人材育成や技術指導を行ったり、警備艇購入のための財政支援をするなど、日本が行える、より効果的で非軍事の方策がある。

  3.  政府は当面の自衛艦派遣を自衛隊法の「海上警備行動」として行うとしている。だが、自衛隊の海上警備行動は海賊対策を予定したものではない。また、原則として日本の領海・近海での活動を予定したものであることは、2008年12月に河村官房長官も認めたところである。
     さらに、海上警備行動では武器使用基準は正当防衛と緊急避難に限定されているにもかかわらず、今回の自衛艦派遣においては、停止命令に応じない船舶への攻撃を含め大幅に武器使用要件を拡大し、しかも具体的基準は防衛省が作成し非公開とするとされている。 
     このように、「海上警備行動」としての自衛艦派遣は、自衛隊法にも反するものである。

  4.  政府は、日本から1万キロ以上離れたソマリア近海で自衛艦が海賊対策の名のもとに武力行使を行おうとしている。そのような海域で、外国船が襲撃された際に自衛艦がこれを助けるため応戦することとなれば、従来の内閣法制局の見解に照らしても、憲法が禁じる集団的自衛権の行使に当たる。自衛隊が直接武力行使を行わない場合でも、武装米兵の輸送など米軍の作戦行動の一環を担えば、「武力行使と一体化」したものとして、やはり憲法9条に違反する「武力の行使」となる。このような自衛艦派遣は、仮に新法を制定したとしても、憲法9条に違反するものであり許されない。
     政府がソマリア沖への自衛艦派遣に固執し、新法まで制定しようとしているのは、諸外国、特に米国と協力して軍事行動を担う実績を作り、自衛隊の「海外派兵」を恒常的なものにしていこうとの意図によるものにほかならない。

  5.  政府は、憲法に違反する自衛艦派遣と新法制定をとりやめ、海賊対策のために、憲法の平和主義に基づいた非軍事による対応に力を尽くすべきである。
     そもそも、ソマリア沖での海賊行為の増大は、ソマリアが1991年以降内戦状態で経済が壊滅し、無政府状態となり、沿岸警備隊も消滅しているという同国の事情によることが大である。したがって、根本的な対策は、ソマリアの内戦を終了させ、国内を復興し安定を取り戻すことであり、憲法9条を持つ日本政府がなすべきことは、そのための人道支援・経済支援・技術支援などの非軍事の国際協力である。

  6.  我々は政府のこのような企みを許さず、憲法違反・法律違反の自衛艦派遣に断固反対し、平和的・非軍事的な国際協力によってソマリア近海の海賊対策に尽力することを求めるものである。


2009年2月8日
 民主法律協会2009年権利討論集会
   
 
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