声明・アピール・決議
新仲裁法から労働契約の適用除外を求める意見書
 政府の司法制度改革推進本部事務局の仲裁検討会は、仲裁法制に関する中間とりまとめを発表した。その適用対象は原則としてすべての国際取引及び国内取引とされているため、労働契約もまたこれに含まれることとなる。
 仲裁とは、紛争発生時に裁判手続に依らずに特定の仲裁人に1発勝負の仲裁判断を求めることである。そして、この中間とりまとめによれば、紛争発生前に仲裁契約を締結することをひろく認めている。
 しかし、そもそも仲裁制度は、迅速な「紛争解決」のみを念頭に置いたものであり、「公正な裁判」を通じた、「正義による解決」を求めるものではない。したがって、それは対等な関係にある大企業間の商取引のような場合には妥当しうるとしても、労使関係のようにもともと社会的経済的力量に格差があるものの間には導入すべきではない。
 この仲裁法がそのまま実現すれば、労働者はあらかじめ(たとえば雇い入れ時に)一方的な仲裁合意を押しつけられ、いざ労使紛争が発生した場合には、経済界や業者団体などが選定する仲裁人ないし仲裁機関に紛争解決をすべて委ねさせられることになりかねない。そして、そこでどのような判断がなされようと、それが労働者の生活や権利を否定するものであろうと、労働者はそれに従わざるをえないことになるのである。それは正義に基づかない紛争解決の強制であり、公正な裁判を受ける権利の否定である。
 また、労働裁判の果たしてきた、事実解明機能や、法規範定立機能も失われることになる。解雇権濫用法理や整理解雇法理など、判例の積み重ねが果たしてきた役割を見れば、その重大な帰結は明らかである。
 中間とりまとめでは、消費者契約については消費者保護の観点から特則を設けることも検討しているが、その他の非対称契約については何らの考慮もしていない。これは社会の現実を無視するものであり、社会的経済的弱者から公正な裁判を受ける権利を根こそぎ奪いとるものにほかならない。
 現在でも、労働契約締結に際して専属合意管轄が契約書に盛り込まれ、労働裁判の提起が東京地裁などに限定されて、地方において勤務する労働者が労使紛争発生時に裁判に訴えることが困難となるケースがしばしばみられる。しかし、仲裁合意が、労働契約において、それも将来の労使紛争をも対象にしてなされることになれば、労働者は裁判を受ける権利すらあらかじめ剥奪されることになるのである。私たちはこのような事態は到底容認できない。
 よって私たちは、新仲裁法から労働契約(及び類似の請負契約等を含む)を一切除外することを求めるものである
2002年8月31日
                            民主法律協会
   
 
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