声明・アピール・決議
住民基本台帳ネットワークの導入を白紙撤回し、国民的な議論を進めることを求める声明
 「全国どこからでも住民票が取れる」ということをうたい文句に,住民基本台帳のネットワーク化(住基ネット)が8月5日に実施されようとしている。
 それは、国民の一人一人に11桁の番号を付けて、住所・氏名などの6情報を登録し、全国的なネットワークでつなぐというものであるが、その番号で個人の情報を名寄せすれば、ただちに「国民総背番号制」につながるものとなる。それが思想信条の自由やプライバシー権の侵害を招くとの国民の猛反対で実現できなかったことは記憶に新しい。
 コンピューターの普及とインターネットの発展によって、大量の情報が安価かつ容易にしかも瞬時に集積され、その中から必要な情報を検索する能力も驚異的に向上した。そのことは民主主義の発展に新たな展望を開くものである半面、個人の行動や内面までをも迅速・安価に把握することが可能となり、極端な管理社会をつくりあげる危険もはらんでいる。しかも、そうした技術は日進月歩であり、今後さらに高度化、高速化していくことは明らかである。
 この間、防衛庁が情報公開請求をした国民の思想信条にかかわる情報(センシティブ情報)を収集・管理していたことが暴露され、大問題となったが、住基ネットはこのような行政権力による国民の個人情報の収集管理を著しく容易にするものである。これが進むならば、国民は権力機構の前には裸同然とされ、思想信条の自由もプライバシー権もまったくの画餅に帰してしまう。だからこそ、国民に一連の番号を付して情報を一元管理することは、一方での利便さにもかかわらず、最近でもほとんどの国においてその導入を断念してきたのである。
 また、その利便性はこれを悪用する犯罪者にとってもきわめて「有用」である。これに対するセキュリティー確保は技術的に困難であり、完璧な方法はコンピュータをつながないことであるとすら言われている。
 ところが、日弁連が2度にわたって実施した全国の全自治体に対するアンケート調査の結果をみても、専任の担当者がいない、担当者にコンピュータの専門知識が不十分である、民間会社に任さざるを得ないなどの現状が示されている。これほどの費用をかけてまでなぜこのようなシステムを採用するのか、費用対効果から見てきわめて疑問があるという声が多数寄せられ、施行に対する不安と不満がひろがっている。世界にも例を見ないほど巨大なデータベースが構築されることになるにしては、余りにお粗末な体制であると言わざるを得ない。このまま動き出すとすれば、みずほ銀行の轍をより大きな規模で踏むことは必至であり、ハッカーやストーカーの好餌となることが懸念される。
 このように、現在進められようとしている住基ネットは、得られる利便のささやかさに比べて、基本的人権に対する危険が余りにも大きすぎる。
 したがって、8月5日の導入はいったん白紙撤回するべきであり、その上で、以上のような危険を克服できるのか否かを再度検討し、その結果を国民の前に明らかにし、国民的論議を尽くして、導入の可否を判断すべきである。
2002年7月11日
                         民主法律協会
   
 
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