声明・アピール・決議
(権利討論集会 第7分科会アピール)

情報の歪みと民主主義社会の危機に関するアピール

  1.  第7分科会は、民主主義社会必須の前提条件となる情報の持つ価値に焦点をあてました。
     2009年夏、私達は憲政史上初めて、総選挙という手段によって直接政権交代を実現させるという貴重な経験をすることになりました。政権交代後、長年にわたって続いた自民党政治の中で、如何に情報が隠され、歪められてきたか、が次々と明らかになってきました。
     
  2.  日米安全保障条約締結やその改訂協議の過程、さらには沖縄返還に際しての核配備密約等様々な密約、その全てにつき歴代自民党政府は長年にわたって、事実すら一切認めず、国民に嘘をつき続けて来ました。
     またイラク戦争時において自公政権は一貫して、「非戦闘地域」において「人道・復興支援」「後方支援」を行うために自衛隊をイラクに派遣すると説明してきました。しかしながら昨年政権交代後に情報開示された航空自衛隊輸送実績によれば、バグダット空港を起点として輸送していたものは、その大半が武器・弾薬、あるいは武装した兵士達でした。

  3.  時の権力にとって都合の悪い情報を秘匿し、都合の良い情報のみを与える、その結果私達国民が正しい判断をすることができなかったとして、それにより最も被害を受けるのは(戦時における空襲被害拡大にみられるように)当の国民自身です。適切な政治判断を行い、その選択に主体的責任を持つ。その意味で正しい情報の共有は何よりも大切です。それゆえ、私達はその情報の伝達・発表・受領の各過程における表現の自由を最大限尊重しなければなりません。権力者による不当な弾圧にはこれに断固抵抗して行かなければならないと考えます。
     その観点で、昨年11月末に出された葛飾ビラ配布住居侵入被告事件における最高裁判決には看過しがたい重大な問題点が含まれていると考えます。当分科会では、この事件における当事者である荒川さんの弁護団事務局長である西田譲弁護士(東京東部法律事務所)をお招きして、最高裁判決に含まれる問題点を深く学びました。最高裁判決を冷静に分析し、その射程距離や、背景にある「体感治安論」にも議論が及びました。安価で貴重な情報伝達手段であるビラ配布が不当に抑制されないよう、国連人権救済機関への個人通報制度導入等も含めあらゆる方策を尽くすことが確認されました。
     
  4.  民主主義社会の危機という点では、民意と国民代表機関との乖離(歪み)の問題も見逃すことはできません。今国会では「官から民へ」「政治主導」という大義名分のもとで、国会審議を形骸化し、憲法9条解釈改憲をもたらす「国会改革」が進行中です。そして、衆議院の比例定数を今より80議席削減し、限りなく単純小選挙区制に近づけて行こうとする策動があります。財界や新自由主義に連なる政治家たちが目論む同質的な保守2大政党制のもとでは、弱肉強食の構造改革による弊害をなくし、平和のうちに生存することを願う国民の意思は国の政策に正しく反映されなくなってしまいます。直ちに私たちはこの危険な策動に対し、反撃に打って出る必要があると思います。

  5.  分科会での学習・討論を通じて、改めて表現の自由、国民の知る権利の尊さが確認できました。例え思想・信条は異なっても、あるいは時の権力者・有力者にとって不愉快な事実であっても、さらには一時的・限定的な形で公的空間の静謐が損なわれたとしても、正確な情報を常に共有し、それを基に徹底して議論を尽くす。これが制度的に保障された社会こそが、真の意味で、永続的で安心できる平和な社会と言えるのだとの確信を深めました。

                                                  以   上

2010年2月14日
民主法律協会権利討論集会第7分科会
   
 
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