声明・アピール・決議
(権利討論集会 第4分科会アピール)

誰もが、仕事により心身の健康や命を奪われることがない社会を

  1.  近年、労働環境の劣悪化により労働者が精神障害を発症するケースが激増している。警察庁の統計によれば、自殺は平成20年には11年連続で3万人を大きく超え、うち勤務問題を理由とするものが2412人に達している。特にここ数年における仕事による精神障害発症の増加傾向は著しく、厚生労働省発表の精神障害等の労災補償状況を見ると、精神障害に係る労災請求件数は平成20年では900件を上回り(うち自殺事案は148件)、支給決定件数も269件(うち自殺事案は66件)となっている。
     当分科会では、このような深刻な仕事による精神障害発症の増加傾向を受け、精神科医として、日々臨床現場において精神疾患患者を診療され、過労自殺などの裁判でも多数の医学意見書を作成し、法廷でも証言をされてきた天笠崇医師をお招きし、精神疾患労働者の実情、「心理学的剖検」の具体的手法、改正された精神障害の判断指針などにつきご講演いただいた。その上で、増加する精神疾患労働者に労働組合はいかに対応するべきか、労災申請や裁判にあたって被災者や遺族、弁護士はいかに取り組むべきかを議論した。
     労働組合が企業のメンタルヘルス対策にどう関わるか、実際に精神障害を発症した労働者の就労や労災申請・裁判をどのように支援するか、そもそも心身ともに健康で働ける職場をどのように作っていくかは、必ずしも容易な問題ではない。しかし、困難な課題であることは避けてもよい課題であることを意味しない。私たちは、今後なお一層、予防・救済の両面にわたって、この課題に正面から継続して取り組む必要がある。

  2.  脳・心臓疾患及び精神障害等は、過酷な長時間労動に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積することにより引き起こされている(電通事件最高裁判決)。そこで、このような過重労働への対策を総合的に推進し、過労死・過労自殺をはじめとする労働者の健康被害の防止を図るためには、過重労働の防止に関する基本理念を定め、国・事業主等の責務を明らかにするとともに過重労働対策の基本事項を定めた基本法(過重労働対策基本法)が制定されるべきである。
     私たちは、権利討論集会での議論を踏まえ、その具体的内容を示した法案を積極的に提言し、その早期制定を国に強く求めるための活動を今後も進めていく。
     
  3.  また、労働者から最も尊い生命を奪う働かせ方をした企業は、再発防止策を講じる責務を負っているはずであるし、そのような責務を当該企業に確実に履行させるためには社会的監視が不可欠である。そこで、厚生労働省に全国で過労死認定をされた企業名を集約・把握させ、その企業名を公表させるための運動を今後も展開する。

  4.  以上のように、誰もが、仕事により心身の健康や命を奪われることがない社会にするための活動を、我々は力を結集して今後も行っていく決意である。

                                            以   上    

2010年2月14日
民主法律協会権利討論集会第4分科会
   
 
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