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2008年9月2日
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労働者派遣法改正に関する意見 |
民主法律協会派遣労働研究会
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- はじめに
(1) 派遣法をめぐる情勢
現行労働者派遣法は、派遣労働者の雇用の安定を目的に掲げているが、現実には、労働者派遣は、常用雇用に代替して、有期雇用、不安定雇用を拡大する手段とされている。その弊害の最たるものが、契約期間1日という不安定極まりにない「日雇い派遣」であり、いまや、派遣労働は、ワーキング・プアと呼ばれる自立できない低賃金・無権利労働者を必然的に生み出す就労形態となっている。
総務省が、本年5月30日に発表した「労働力調査」によると、2008年1月から3月期に、非正規雇用者の割合は労働者全体の34%、前年比11万人(0.3ポイント)増であった。いまでは労働者の3人に1人以上が非正規労働者であり、とくに、女性では正規雇用が半数を下回り、男性を含む15歳から34歳の若年層では正規雇用が5期連続減少し、非正規雇用が大きく増加している。
また、非正規労働者の中では、派遣労働者の割合が大きく増えている。派遣労働者数は、2007年12月発表の厚生労働省「労働者派遣事業の平成18年度事業報告の集計結果」によれば、登録型派遣労働者数で321万人(前年比26%増)となっている。構内請負労働者は、2006年の労働経済白書によれば、約86.56 万人(男性59.99 万人、女性26.57 万人)と推計されているが、偽装請負(違法派遣)など統計上把握されない労働者を含むと、実際には、派遣・請負で働く間接雇用労働者は、相当規模(約4〜500万人)に達すると考えられる。こうした数的にも急増してきた派遣労働者や偽装請負下で働く労働者の保護を図ることが、非正規労働者保護にとって緊急かつ中核的施策となるべきである。
昨今、労働者派遣が、貧困と格差を生み出す要因の一つであるという認識が広がり、労働者保護の視点から法規制を強めるべきであるという世論が国会内外で高まってきた。政府自身、日雇い派遣の制限など、何らかの規制の必要性を認めざるを得ない状況となっている。
(2) 民主法律協会派遣労働研究会の取り組み
民主法律協会派遣労働研究会は、1980年代初めに発足した。発足当時は、蔓延していた業務処理請負の多くが違法な労働者供給事業であったため、その摘発と雇用確保の取り組みを行ってきた。
1985年の労働者派遣法制定の動きに対しては、これに明確に反対するとともに、同法施行以降は、労働者派遣事業が同法によって創設された特別な就労形態であり、本来、禁止されている労働者供給事業の例外であることを指摘してきた。そして、直接雇用こそが原則であって、派遣労働者が、通常の労働者と比較して不利益を受けることがあってはならないという立場を繰り返し表明し、併せて相談、提言、訴訟支援等の活動を20年以上にわたって継続してきた。
具体的には、例えば、派遣労働者の有給休暇が通常の労働者と比較して、取得日数、取得手続き、繰越など多くの場面で不利益に扱われること等、現行労働者保護法制が派遣労働者については有効に機能していないことを指摘した。
また、こうした欠陥の多い派遣法すら遵守しない違法派遣(偽装請負)が労働行政の怠慢もあって広がっていることを指摘し、行政による改善、告発などの活動をするとともに、労働者に対する雇用責任は指揮命令を行う使用者にあるのが原則であって、労働者派遣という就労形態があくまで例外的な制度であることを強調してきた。
こうした派遣労働研究会の取組みが、最近になって大きく前進している。偽装請負の松下PDP事件、二重派遣の京都法務局事件など、大企業や官公庁による違法な間接雇用利用に対して、労働者個人、労働組合による告発、団体交渉、裁判闘争が広がってきた。その結果、労働局での派遣先・就労先に対する多くの行政指導例を生み出すとともに、2008年4月には、松下PDP事件で、就労先(派遣先)との直接雇用契約を認めさせるという画期的な判決を生み出した。その後も、多くの事例が告発され、提訴に至っている。
(3) 派遣法改正に関する意見
以上のような情勢、及び、派遣労働研究会が行ってきた長期間にわたる活動の経験と実績を踏まえ、実効性のある労働者保護を基本に、研究会として、労働者派遣法改正についての意見を公表することにしたい。
- 労働者派遣についての考え方
(1) 直接雇用の原則(間接雇用禁止)の意義
戦後、労働民主化の流れの中で、いわゆる間接雇用(雇用者(支配者)と指揮命令者とが異なる就労形態)は、労働組合が行うごく一部の場合の例外を除いて全面的に禁止された。すなわち、職業安定法(1947年制定)44条による労働者供給事業の全面的禁止、労働基準法(1947年制定)6条による中間搾取の禁止、同法24条による賃金の全額払義務などの規定により、間接雇用が禁止され、労働契約関係は労働者を使用する者との直接契約関係でなければならないという、直接雇用の原則が確認された。
この間接雇用禁止・直接雇用原則の確認の趣旨は、現象的には、戦前から行われていた封建的な就労関係の一掃を目指したものであったが、その根拠は、現実に労働者を使用しその労務の提供を受けて利益を挙げる者が、雇用の継続、賃金の支払、その他の労働条件の維持・改善(これによる労働者自身の生活の安定)に対して責任を持ちうるということ、逆にいえば、使用者と労働者との間に中間者が介在する場合には、その使用者責任があいまいになり、また、中間者が他人の労働を目的として不当な利益を得るなどの弊害を生じさせること、という点にあった。
その後、1985年、いわゆる労働者派遣法が制定され、間接雇用が一部合法化された。この法律制定の際には、労働者派遣の必要性は多く語られたが、前記直接雇用原則確認の趣旨を実現するため(間接雇用の弊害を除去するため)に、どのような対処が必要なのかについて、ほとんど議論がされなかった。
現在生じている労働者派遣の弊害は、前記の趣旨を十分に検討しないまま、制度設計
を行った結果である。
(2) 雇用形態の多様化及び労働者のニーズ論に対する批判
労働者派遣を行う使用者側の必要性・メリットは明確である。すなわち、それは使用者がその指揮命令する労働者に対して使用者としての責任を負担しなくて済むということであり、また、実際上、労働者派遣の導入は、直接雇用に比べ、現行法では同一待遇保障の規制がないので、人件費の抑制という点について、極めて大きな効果があるという点である(後述)。必要なときに必要なだけの労働者を安く使用することができ、かつ、労働者の生活や労働条件に対しては何らの責任も取らなくて済むという労働者派遣のメリットは極めて大きいといえる。
一方、労働者派遣を行う労働者側の必要性・メリットはほとんど存在しないといって
よい。この点、一般には労働者側にも雇用形態の多様化を求める要求があり、これに応える働き方を提供することは労働者側にとってもメリットであるという主張が喧伝されている。
しかしながら、まず、現在の雇用形態の多様化は、使用者側が使い勝手の良い形で労
働者を使用するために行ってきたものである。労働者が就労日や就労時間を自ら決定できるわけではなく、使用者が定めた「多様な」就労形態に、労働者は従わざるを得ないのである。また、雇用形態が多様化したこと(その要求があること)と、間接雇用を許容することとは論理的につながらない。パート労働など直接雇用の形態で多様化された労働条件を設定することは可能なのであり、これを労働者側のメリットと主張することは意図的な誤解である。
また、その他にもさまざまな俗説が流布されている。例えば、@求人と求職をうまく
取り結ぶため派遣は有益という主張(マッチング論)、A派遣によって雇用が創出されるという主張(雇用創出論)、B派遣就労して両者が働き続けたいと考えたときに正社員となるという道筋を作るうえで有益という主張(テンプ・トゥー・パーム論)、C気楽な働き方・スキルを生かした働き方・有名企業で働けるなどその他の俗論、などである。
しかしながら、@については、本来公共職業安定所が行うべきことであり、その仲介により直接雇用で取り結べばよいものである。Aについては、統計的にも間接雇用が認められれば会社が雇用を増やすという相関関係は認められない。増えるとすれば、正社員を解雇して派遣労働者を2人いれるという日本型のワークシェアリングの考え方だが、生活破壊を引き起こすことはさておき、その場合でも間接雇用が必要になるわけではない。Bについては、実態上も、制度上もそのようなシステムは機能していない。またその場合でも、間接雇用が必要なわけではない(試用期間の設定などで従前から対応されてきたものである)。Cについては、俗受けする主張であるが、直接雇用が間接雇用より使用者に縛られるという関係には制度上なっていないし、スキルを生かす業務や有名企業での業務自体は存在するのであるから、間接雇用でなければならないという関係性はない。
総じて、派遣を利用する労働者側の必要性・メリットに関する主張には根拠がない。そのことは、これらの主張の多くが、労働者の側からではなく、使用者側の者から声高になされていることからも明らかである。
いずれにしても、労働者派遣ありきで制度設計を考えるのではなく、どうして間接雇用でなければならないのか、間接雇用の弊害は除去しうるのかという観点から、労働者派遣の可否を検討し、その規制が図られなければならない。
(3) 労働者派遣制度は本来廃止されるべきである
当研究会としては、労働者派遣は、その本質からして、使用者責任をあいまいにし、労働者に不安定で、劣悪な労働条件を押しつけるものであり、本来は廃止すべきものと考える。労働市場の円滑・適正化は、公共職業安定所の機能の充実及び職業訓練その他の雇用創出施策によるべきである。
仮に、労働者派遣を認めるときには、それが直接雇用原則に反する例外中の例外としてきわめて限定的に認めるべきである。すなわち、@労働者派遣が認められる例外的事由と例外的業務を法律または政令によって厳格に規制すること、A労働者派遣事業が民主的な労働関係成立に弊害をもたらさないように行政的監督を積極的に行う体制を確立すること、B派遣労働者の雇用の安定と保護を徹底することが必要である。とくに、最後の点については、派遣労働者と派遣先従業員との同一価値労働同一待遇の保障が絶対的な要件といえる。
- 労働者派遣法の改正案(骨子)
(1) 法律の目的に派遣労働者保護を明記すること
労働者派遣は、刑罰をもって禁止される労働者供給事業の重大な例外であり、例外を許容するのであれば、原則的関係、例外の範囲、例外を認めたことによる弊害の除去(労働者の保護)を図る法律を策定しなければならないのは当然である。
労働契約の原則的関係が直接雇用関係であることは明白であり、労働者派遣は、一時的・臨時的労働の必要のために認められるものであるから、その範囲は、一時的・臨時的労働と考えられる範囲に限られるべきであり、逆からいえば、常用雇用に代替するような派遣の禁止が基本原則とされるものである。
また、差別待遇の禁止は労働関係全般の基本原則であるが、労働者派遣の関係では、特に、日本では派遣労働者の差別的処遇が、諸外国と比較してときに深刻である。その理由としては、派遣労働者の労働条件が派遣元で決定されるとされるために、同一業務を担当する派遣先正社員との差別待遇が、同一使用者の下での差別待遇として扱われない点にある。この点で、ドイツ、フランス、イタリア、韓国の派遣法はいずれも派遣先従業員との同一待遇保障あるいは差別待遇の禁止を明記している。日本の労働者派遣制度だけが、この点の規制を何ら定めていない。この点を基本原則として盛り込むことが必要がある。
(意見の骨子)
・労働者保護を法の目的とすること。現行の事業法的性格との併存が困難であれば、新法を制定すること。法の名称も労働者保護法にふさわしいものにすること。
・直接雇用原則、常用代替禁止、同一業務を担当する派遣先正社員との差別待遇禁止を明記すること。
(2) 法規制の実効性を格段に強化すること
労働者派遣に関する規制にあたって、特に労働者保護に関する規定については、労働基準法等と同様に、労働者の労働条件の最低限を定めるものとして、強行法規とする。また、違反の多くについて罰則を設けることが必要である。行政取締法規としての性格に留めてしまえば、蔓延する偽装請負・違法派遣という現行法運用の現実から明らかなように、法的規制が効果的に働かないことになることは明らかである。
従来の労働者派遣法では、派遣元に対する罰則が中心であり、派遣先については行政指導、勧告、企業名公表などの微温的な規制に留まる例が少なくない。実際には派遣元が零細規模で実体がなかったり、派遣先に従属した「もっぱら派遣」会社の例も少なくない。そのため、派遣先が違法行為の主導的立場に立つのに責任追及を受けないという不公平が見られた。
派遣法施行22年間に、派遣先による派遣法無視・軽視に基づく「無法」「横暴」といえる状況が広がってきた。法改正では、こうした派遣法の規制を軽視する派遣先事業主に対して、その責任を厳しく問うことを基本に効果的な規制措置、連帯・共同責任などの措置を積極的に導入する。罰則については、違法派遣を利用する点で派遣先が主体となっている現実事例を念頭にして新たな犯罪類型(例:違法派遣利用罪など)を導入するべきである。
(意見の骨子)
・原則として強行的効力を持つものであること。
・違反については、現行法での規制が弱い派遣先事業主に対しても厳しい罰則の適用を定めること。
(3) 派遣対象業務縮小と臨時的・一時的事由と期間に派遣を限定すること
(ア) 派遣対象業務は、使用者において、臨時的・一時的な業務の必要のため専門的知識・技能を有する労働者を確保する必要があり、かつ、労働者において、当該派遣就業により安定的な生計の確保が図られると認められる業務に限定されるべきである。それ以外の臨時的・一時的な雇用については、直接雇用であるパートあるいは有期雇用によって行われるべきであり、その規制についてはパート労働法・労働基準法等によって図られるべきである。
具体的対象業務としては、現在の政令業務を基本とするが、なかでも、3号(放送機器操作)、5号(機器操作)、7号(秘書)、8号(ファイリング)、9号(調査)、建築物清掃(14号)、受付・案内、駐車場管理(16号)、テレマーケティングの営業(24号)、セールスエンジニアの営業・金融商品の営業(25号)、放送番組における大道具・小道具(26号)などについては対象業務から除外すべきである。
また、それ以外の政令業務についても、その範囲を前記の趣旨に従って厳格に限定すべきである。
(イ) 派遣については、その利用が許される要件(派遣利用要件)を、業務上の臨時的・一時的な事由に限定するべきである。そして、派遣利用要件を、派遣利用の事由及び期間によって制限するべきである。
従前のような派遣期間のみの制限は、労働者派遣導入の必要性が何ら考慮されず、その派遣期間内であれば労働者派遣が認められることになる。それでは、臨時的・一時的な業務の必要のためにのみ派遣が導入されるという、労働者派遣制度本来の趣旨から逸脱した派遣利用が可能となってしまう余地があった。
具体的には、派遣を利用可能な事由として、@臨時的なプロジェクト・イベント、A産前産後休暇・育児休業・介護休業・傷病休業取得者等の代替、B想定外の業務繁忙による一時的必要等に限定されるべきである。そして、派遣利用可能期間としては、@Bについては1年、Aについては休業終了までとすべきである。
なお、派遣終了後の同一業務に対する派遣、整理解雇後の同一業務に対する派遣は、脱法的取扱いを禁止するため、相当な期間の経過がなければこれを許容しないとすべきである。具体的には、大多数の企業の業務の周期(会計年度)が1年を基準としていることからすれば、@Bについては、1年の期間が経過しなければ同一業務での派遣が認められないとすべきである。
(意見の骨子)
・派遣対象業務は政令業務のうち、前記業務を除いたものとすべきである。いわゆる一般業務への派遣を廃止する。
・派遣利用要件は、派遣利用可能事由及び派遣利用可能期間によって制限する。
・派遣利用可能事由は、@臨時的なプロジェクト・イベント、A産前産後休暇・育児休業・介護休業・傷病休業等の代替、B想定外の業務の繁忙による一時的必要等に限定する。
・派遣利用可能期間については、@Bについては1年とする。Aについては当該事由が終了するまでとする。
・@Bについては、派遣終了後及び整理解雇後1年間は派遣導入を禁止する。
(4) 労働者保護の責任を負えない派遣元事業主を排除すること
(ア) 派遣元事業主は、派遣労働者と派遣労働契約を締結する使用者であり、派遣労働者に対して、派遣労働契約上の使用者として責任を負いうる実体を備える者でなければならない。使用者としての責任とは、労働者派遣を適法に行いうる経済的・法的基礎が存在すること、及び、派遣先との交渉の対等性が確保されること、派遣労働者を保護し雇用の安定に責任を負い得るものであること、などである。
例えば、派遣元事業主が、社会保険の事業主負担や休業手当・解雇予告手当等使用者が負うべき法的負担を負うことができないなど経済的基盤がないと認められる者、派遣労働者が労働基準法に基づく年次有給休暇を取得できるために最低限必要な代替要員さえ配置しない者、法に従った適切な書面管理・苦情処理・通知・報告等をなしえないと認められる者、特定の派遣先(グループ会社を含む)に経済的に依存している者、派遣労働者の就労によって過剰な利益を得たり、解雇・雇い止めを頻繁に行うなど派遣労働者の雇用の安定に反する行動をとる者は、派遣元事業者として認められないというべきである。
(イ) 派遣元事業主となるには、例外なく、厚生労働大臣の許可が必要とされるべきであり、前記派遣労働契約上の使用者としての責任を果たしうる実体を確保するために、具体的許可基準を設けるべきである。また許可基準に反する実体が生じた場合には、許可の取消をおこなうべきである。
(意見の骨子)
・派遣元事業主となるには厚生労働大臣の許可が必要である。
・許可の基準の中身として、相当な経済的基盤の存在(例えば保証金制度を設ける)、専ら派遣(親子関係にある会社を含む)の禁止、マージン率の上限規制に従うこと、その他法が要求する義務を履行し得る者であること等が盛り込まれるべきである。
(5) 派遣労働契約を期間の定めのない契約に限ること
派遣労働契約とは、本来的な労働契約関係の要素である「使用者による指揮命令」とそれに対する「労務提供の実体」が存在しないのに、雇用契約関係があるとする形式的契約であり、通常の労働契約とは異質のものである。
この契約の成立・存続・消滅は、実質的には労働者派遣契約の成否にかかっているが、派遣先は派遣元事業主との労働者派遣契約を一般の商取引関係に基づき自由に解除等を行うことができるのであるから、派遣先の解除と派遣労働者の解雇あるいは雇い止めとを結びつけることが正当化されてしまえば、結局は、派遣労働者の雇用の安定は図ることができず、その生活は害されてしまう。この点が、パートや有期雇用労働者など、派遣先に直接雇われている場合との比較においても、派遣労働者が不利な点である。
そのような派遣労働の本質的な不安定さの中で、労働者派遣制度を可能な限り合理的なものとして機能させるには、労働者派遣契約が終了しても、派遣労働契約は継続することを原則とし、派遣労働者の生活を保障する特別の枠組みが必要不可欠である。
現在行われている、いわゆる登録型派遣は、まさに、派遣労働契約と労働者派遣契約とを直結させる制度であり、派遣先の自由な契約解除による派遣労働者の自由な解雇(雇い止め)を事実上合法化しているのであり、労働者の雇用の安定と保護の観点からは到底容認できないというべきである。
また、いわゆる常用型派遣であっても、例えば、派遣労働契約が有期である場合には、短期に更新を繰り返すことにより、実質的に登録型と同様の機能を果たすことになってしまうのである。
したがって、派遣労働契約は、期間の定めのない雇用に限られなければならない。なお、この場合にも、派遣元事業主はその本質からして、派遣先の事業に寄りかかってしか利益を挙げることができず、自らが独力で収益を挙げうる存在ではないため、それ以外の特別な派遣労働者保護の枠組みが必要となるのである。
とくに、現状では、(1)で指摘した通り、派遣労働者の賃金や福利厚生の水準は、同等の業務を担当する派遣先従業員に比較して格段に低劣であり、差別的と言える状況にある。派遣労働契約で定める賃金・福利厚生は、派遣先従業員のそれと同等でなければならないことを義務づけることが必要である。派遣先従業員と比較して格段に低い待遇を定める派遣労働契約の部分は無効とし、無効となった部分は、同等業務を担当する派遣先従業員の待遇と同等とする。
(意見の骨子)
・派遣労働契約は期間の定めのない契約に限ること(登録型の廃止)。
・労働者派遣契約の解除を理由とする解雇を認めないこと。
・賃金・福利厚生についての派遣先従業員との均等待遇義務。
(6) 労働者保護の視点から労働者派遣契約に対する規制を強化すること
労働者派遣契約とは、本来は違法な労働者供給を例外的な労働者派遣法として適法とする契約である。したがって、通常の事業主間の契約のような契約の自由は存在せず、労働者派遣法の目的に従って規制されるべきである。
まず、適法な労働者派遣契約が締結された場合は、派遣労働者に対する派遣元の前項の責任を全うさせるために、合理的な理由のない労働者派遣契約の解除についても、これを規制すべきであり、具体的には派遣労働者の権利行使を理由とするなど合理的な理由のない労働者派遣契約の解除は無効とされるべきである。
また、派遣先・派遣元事業主間においては、派遣労働者の労働条件や派遣就業内容等について、相互に必要な情報が共有されなければならない。例えば、派遣先の正社員労働者の労働条件は、派遣労働契約における均等待遇のために派遣元事業主に開示される必要があり、逆に、派遣労働者の賃金額等については、未払賃金がある場合の連帯責任を派遣先に負わすためには開示が必要である。そこで、法が要求する責任を果たす上で必要な事項については、相互に情報の開示義務を負わすべきである。但し、開示を受けなかったことを理由に、当該責任を免れることはできない。
(意見の骨子)
・派遣労働者の権利行使を理由とする労働者派遣契約の解除禁止など合理的理由のない中途解除の禁止。
・法の要求する責任を果たす上で必要な事項の開示義務。
(7) 派遣先の派遣労働者に対する各種法的責任を大幅に強化・拡大すること
(ア) 派遣労働は、直接雇用原則の例外であり、派遣法に適合する適法な派遣である場合にのみ、派遣先は派遣労働者を指揮命令することができるのである。したがって、派遣法に適合しないにもかかわらず、派遣先が派遣労働者を指揮命令している場合、このような就労形態が合法といえるためには、派遣先と派遣労働者との間に直接の労働契約を認める以外にはない。逆にいえば、派遣法に適合しない派遣を受け容れている派遣先は、派遣法によらないで派遣労働者を合法的に指揮命令できる契約の締結を選択したとみることができるのであって、ここにみなし労働契約の基礎がある。
したがって、派遣法に適合しない派遣自体を禁止するとともに、これが行われた場合は、派遣先と派遣労働者の間に労働契約が成立していると見なす規制を置くべきである。
派遣法に適合しない派遣とは、本来の派遣の趣旨を逸脱し、あるいは脱法的な手段で派遣労働を利用し雇用責任を免れるような場合をいうと考える。
具体的には、まず、労働者を特定する手段として広く行われている事前面接が行われたり、試用期間まがいの短期間の派遣が行われたりすることにより、事実上、派遣先が労働者を選別している場合がある。このような行為は、派遣先の採用行為と評価しうる行為であり、かつ、業務の労働力を派遣するという派遣法の枠組みに反するものであるがゆえ、厳格に禁止されるべきである。
なお、紹介予定派遣は、紹介先との雇用関係成立をあっ旋する職業紹介と、派遣元が雇用責任を負うことを基本とする労働者派遣という異質な二つの制度を混同するものであり、制度自体の整合性に欠けている。とくに、紹介予定派遣では、実質的な教育訓練などをしていない派遣元が高額紹介料を受けとるという不公正な実情があって、かえって派遣先による労働者採用の障害になるなど、弊害が少なくない。本来の民間職業紹介による就労機会を増やす政策を実施して、実質的に直接雇用労働者の就労機会を増やすべきであり、そのために労働者派遣法に基づく紹介予定派遣制度を廃止し、職業安定法に基づく職業紹介事業に一本化するべきである。
その他、具体的には、偽装請負、無許可派遣、多重派遣(労働者供給)、期間制限違反(政令指定業務を装って期間制限の逸脱をする場合を含む)、労働組合活動を理由に労働者派遣契約を解除した場合など派遣法の趣旨を逸脱し、間接雇用を悪用した場合がこれにあたるというべきである。
(イ) また、労働者派遣関係における派遣先の各種法的責任を大幅に強化・拡大して法律で明記するべきである。
まず、現行法上も、裁判例や、労働委員会命令などで、派遣労働者に対する派遣先の雇用責任や団体交渉応諾義務について認めている命令や裁判例は存在するが、派遣労働者にとっては派遣先事業主が団体交渉の応諾義務があると応じる事例は少ない。使用者性をめぐって未だに裁判例が集積され疑義が生じている以上、こうした疑義を払拭する法改正を行い、派遣先の団体交渉応諾義務や、組合活動を理由にした不利益取扱いの禁止など使用者としての責任を明記すべきである。
また、労働者派遣は、例外的に、派遣先の労働契約責任を負担させない制度とされているであるから、派遣元事業主がその責任を負えない事態が生じた場合にまで、労働者の犠牲において派遣先の負担を免除すべきでない。現行法は、労働基準法などの責任を単純に派遣先と派遣元に水平的に配分するに過ぎず、現実的には労働者保護という点からはきわめて不十分な結果を生み出している。こうした単純・水平的責任配分を改め、派遣元と派遣先の間で、連帯的・重畳的に使用者責任を配分することを基本とするべきである。
たとえば、賃金未払いが生じた場合、社会保険・雇用保険の未払いが生じた場合には、派遣先も連帯して支払義務を負担するとすべきである。
(意見の骨子)
・事前面接の禁止。
・紹介予定派遣の禁止
・賃金未払・社会保険・労災保険料未払いの場合の派遣先の責任。
・派遣労働者が加入する労働組合との一般的団交応諾義務。不利益取扱いの禁止。
・違反行為がある場合のみなし労働契約。具体的には、偽装請負・多重派遣の禁止、対象業務・期間違反、無許可派遣、権利行使を理由とする労働者派遣契約の解除、事前面接の禁止、紹介予定派遣の禁止等に違反した場合、派遣先と労働契約が成立したものとみなすこと。
・みなし労働契約の内容。派遣先正社員と同様のものとすること。
(8) 実効ある労働者保護のために、違反企業への罰則などを強化すること
従前の罰則は、主に派遣元事業主を対象とするものであり、派遣先事業主は教唆犯やほう助犯として処罰される可能性があったが、実際には罰則の対象とされなかった。しかし、労働者派遣が派遣元事業主と派遣先が両方存在して初めて成立するものであり、基本的には派遣元と派遣先の合意に基づいてなされていること、また、現実には派遣先事業主が経済的社会的に優位な立場から違法派遣や偽装請負導入にあたって主導的な立場に立つことが少ないことから、法違反の責任は派遣元に限るべきではなく、派遣元と派遣先の両方に罰則を適用するべきである。
また、実効ある労働者保護のために、@労働者派遣法違反を労働基準監督の対象にもすること、A罰則に加えて違反企業に「高額の過料」を課すことなど、違法行為が蔓延する労働者派遣制度を適正に実施するために強力な制裁制度を導入する必要がある。
(意見の骨子)
・派遣先の法違反について罰則を設けること。
・労働者派遣法違反も労働基準監督の対象にし、罰則の内容も強力な制裁措置を伴うものにすること。
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