民主法律時報

2021年6月号

建設アスベスト訴訟最高裁判決

弁護士 遠地 靖志

1 はじめに

2021年5月17日、最高裁判所第一小法廷(深山卓也裁判長)は、建設アスベスト訴訟の東京1陣、神奈川1陣、大阪1陣、京都1陣の4訴訟について、国及び建材メーカーらの責任を認める判決を言い渡した。2008(平成20)年5月16日に東京1陣訴訟を提起してから13年、やっと最高裁判決を勝ち取った。

2 国の責任

最高裁判決では、国は1975(昭和50)年10月1日(改正特化則施行日)から2004(平成16)年9月30日(改正安衛令施行日前日)までの間、事業主に対し、屋内作業者が石綿粉じん作業に従事する際、防じんマスクを着用させる義務を罰則を持って課すとともに、これを実効性のあるものとするために、建材に適切な警告表示を義務づけるべきであったにもかかわらず、これを怠ったことは著しく不合理であり、国賠法1条1項の適用上違法であるとした。

また、労働者のみならず、屋内建設現場において、石綿粉じん作業に従事して石綿粉じんにばく露した者との関係においても国賠法1条1項の適用上違法になるとして、解体作業に従事する者を含む一人親方等に対する国の責任を認めた。

今回の最高裁判決は、建設アスベスト被害において、労働者のみならず一人親方に対する国の責任を認めたものであり、画期的な意義を有するものである。

3 建材メーカーの責任

また、建材メーカーの責任についても、建材メーカーの警告義務違反を認めるとともに、民法719条1項後段を類推適用し、共同不法行為責任を認めた。

メーカー責任の追及において、最大の課題が因果関係の立証であった。建築作業従事者は、何百という建築現場を渡り歩く。したがって、どの現場の、どのメーカーの石綿建材が原因で発症したのかを特定するのは事実上不可能であった。当初は因果関係が立証できていないとして敗訴が続いた。そうしたなかで、全国の弁護団は建材ごとのシェアや確率論を駆使し、被害者ごとに病気発症の主要な原因となった建材(主要原因建材)をできる限り特定して、各地の地裁、高裁で勝利判決を重ねてきた。今回の最高裁判決は、因果関係が立証困難な本件の特質を正確に捉え、原告らの主張立証方法を正面から受け止めたものであり、高く評価できる。

4 屋外作業や責任期間で線引きしたのは不当

一方で、最高裁判決は、屋外作業従事者が石綿含有建材の切断作業に従事するのは限られた時間であり、また、屋外作業では風等により自然に換気され、石綿粉じん濃度が薄められるなどして屋内作業より危険性は低かったから、国や建材メーカーが屋外作業従事者に対する危険性を認識することはできなかったとして、屋外作業従事者に対する責任を否定した。

しかし、屋根材、サイディング材などの屋外で使う石綿建材は石綿含有量が高い。また、屋外で使用する建材であっても、屋内や養生シートで囲われた中で切断作業を行うこともあり、その場合は屋内での作業と何ら変わりない。最高裁判決はかかる実態を無視するものであり不当である。

また、国の責任期間の始期を1975(昭和50)年10月1日としたことにより、それ以前に就労が終了していた被害者は救済の範囲外となった。責任期間で救済に線引きをしたことも極めて不当である。

5 基本合意の成立、すべての建設アスベスト被害者の救済へ

最高裁判決を受けて、5月18日、全国の弁護団・原告団は、建設アスベスト訴訟に関して、国と基本合意を締結した。

基本合意では、国は、被害者に謝罪し、係属中の訴訟については和解で解決するとともに、未提訴の被害者については、訴訟によらない制度による補償を図るとした。これに基づき、「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律案」が国会に提出され、6月9日、可決成立した。2022年4月施行される予定である。

国はすでに約1万人の対象者がいると推計しており、また、今後毎年600人程度ずつ、30年後までに3万人を超えると見込んでいる。最高裁判決を契機に、多くの未提訴者・将来の被害者救済のしくみができたことは大きな成果である。

一方で、最高裁判決では救済から外れた屋外作業従事者や責任期間外の被害者救済のしくみをつくるなど、まだまだ課題は残っている。また、建材メーカーは、裁判で認められた賠償金のみ支払うだけで、係属中の裁判での和解や被害救済制度の参加には背を向けるという許しがたい態度をとっている。建材メーカーは、危険であることを知りながら石綿建材を製造販売し、利益を上げ続けてきたのであり、国よりもその責任は重い。建材メーカーとの関係では、2陣訴訟はまだ続く。

みなさんのこれまでの大きな支援に感謝するとともに、全ての建設アスベスト被害者の救済のために、引き続き、ご支援をお願いしたい。

三星化学工業事件判決 原告らの膀胱がん発症につき会社の責任を認め損害賠償を命じる

弁護士 中筋 利朗

 三星化学工業事件は、化学工場の製造工程において化学物質にばく露したことにより膀胱がんを発症した労働者の事件―職業がんの事件―です。

三星化学工業福井工場では、2014年以降、製造工程で作業する労働者に膀胱がんの発症が相次ぎ、原告ら4名も2015年から2016年に膀胱がんを発症しました。原告らの労災申請により調査が行われ、2016年、オルトトルイジンという化学物質のばく露により膀胱がんを発症したとして労災が認められました。

原告らは労働組合を結成し、会社と団体交渉を行いましたが、会社側が責任を認めないため、2018年2月28日、福井地裁に損害賠償を求め提訴しました。

この事件について、本年202年年5月11日、福井地方裁判所(裁判長武宮英子、裁判官松井雅典、裁判官浅井翼)は、原告らが膀胱がんを発症したことについて会社の責任を認め、損害賠償の支払いを命じる判決を言い渡しました。

 本件では、原告らが、オルトトルイジンの曝露により膀胱がんを発症したことは争いがなく、会社の安全配慮義務違反が争点となりました。特に問題となったのは予見可能性です。

オルトトルイジンは昭和50年代から健康障害性が認識され、発がん性について2001年には国内の専門機関において「人間に対しておそらく発がん性がある物質」と位置付けられていましたが、発がん物質として法規制されるようになったのは2016年以降のことです。

会社は、抽象的な危惧では足りず具体的な予見可能性が必要である、本件の予見対象はオルトトルイジンの皮膚吸収による発がん可能性であり、2016年まで国や専門家も皮膚吸収による発がんは予見できていなかったなどと主張しましたが、本判決は、「生命・健康という被害法益の重大性に鑑み、化学物質による健康被害が発症し得る環境下において従業員を稼働させる使用者の予見可能性としては、安全性に疑念を抱かせる程度の抽象的な危惧であれば足り」るとして、会社の主張を排斥しました。そのうえで、2001年までに会社が入手していたオルトトルイジンのSDS(安全データシート:化学物質を譲渡等する際に相手方に提供する文書で化学物質の性質や危険性・有害性などの情報が記載されている)に、経皮的ばく露による健康障害(高濃度ばく露の場合死亡の可能性もある)や発がん性の記載がされていたことなどから、会社は遅くとも2001年当時、経皮的ばく露により健康障害が生じることを認識し得たとして、安全性に疑念を抱かせる程度の抽象的な危惧(予見可能性)を有していたと認めました。

そして、会社は予見可能性があった以上、オルトトルイジンに経皮ばく露しないようにすべきであったのに、従業員が半袖Tシャツで作業していたり、オルトトルイジンが作業服や身体に付着した際に直ちに着替えたり洗い流すという運用が徹底されていなかったなどとして会社の安全配慮義務違反を認めました。

世の中で使われている化学物質は数多くあり、危険性がすべて知られているわけではありません。法規制されていなければ一切責任を負わない、ということでは労働者の安全は守れません。本判決は、法規制される前でも、企業が有するSDSの情報から発がんのリスクを知りえたとして企業の責任を認めており、今後の労働者の安全にとり大きな力になる判決といえます。

 本件では、損害についても争点となりました。詳細は省きますが、判決は、3名について275万円、1名について330万円の損害を認めました。がんの発症に対する慰謝料として十分に納得のいく金額ではなく、損害については今後の課題といえます。

 本件については、双方が控訴せず福井地裁の判決が確定しました。
裁判は終わりましたが、それで本件がすべて解決したわけではありません。
現在も三星化学で働いている者もおり、今後は組合が中心となり、原因究明、再発防止、再発した時の補償などを求め取り組んでいきます。

 (弁護団は、池田直樹、高橋徹、中筋利朗です)

三星化学工業膀胱がん損害賠償請求裁判 いのちと健康守る取り組み推進させる判決、職場に活かすことが求められる

化学一般関西地方本部書記長 海老原  新

 三星化学工業(本社・東京)福井工場に勤務していた田中康博氏は、化学一般関西地方本部の大阪合同支部に個人加盟していた。以前から安全管理体制に危惧を覚えていたが、2015年9月大阪合同支部の定期大会において、「職場で膀胱がんが多発している」と訴えた。

調査を進めると、同工場では膀胱がん発生リスクがあるオルトトルイジン(以下OT)等の芳香族アミンを大量に取り扱っており、相当のばく露があることが判明した。労災申請をさせまいと様々な圧力をかける会社に対抗すべく年内に労組結成をめざして学習会等準備を進めるなか、田中氏本人もがんを発症。

労組結成は翌年1月に繰り越されることになるが、12月摘出手術を終えた田中氏から告発を受けた福井労基署が同日福井工場の立ち入り調査を実施。会社から5人の膀胱がん患者が発生していると連絡を受けた福井労働局が現地調査を実施したこと等を経て、厚労省が芳香族アミンの取り扱いがある工場での膀胱がん多発事案を報道発表し、田中氏らは記者会見をするに至った。

2016年より労組は三星化学工業本社及び厚労省等要請行動を強め、6月に発足した業務上外検討会は年内に報告をまとめ、労災申請者全員(7名)が労災認定された。

労組は会社での職場環境改善に取リ組み、設備の囲い込みや私服から作業服に着替える際の交差汚染の防止対策等、積極的に提案し実現していった。さらに労働安全衛生体制の確立および膀胱がんの発症・再発・検査等に伴う補償協約を会社に提案したが、会社が交渉テーブルにつかない状態が続き2018年2月福井地裁への提訴に至る。

裁判のなかで会社は、終始膀胱がん多発の責任を認めず、この裁判の公開を拒み続けた。判決では、「具体的な法規制等がなくとも、SDSの有害情報で健康被害の危惧が生じれば、使用者は適切な処置を講じる責任がある」と会社を断罪した。損害賠償額には課題は残るが、職場の労働環境改善に繋がる判決と大いに評価したい。

一方、厚労省がOTを取り扱った事業場の膀胱がん調査を進めるなかで、新たにMOCAという化学物質による膀胱がん多発も発覚、2017年4月に法改正された。ところが、MOCAによる17名もの発がん者がいながら労災申請者が一人もいないため、2018年9月厚労省を質し本年1月労災認定に繋がった。MOCA事案は労組らの取り組みがなければ、闇に埋もれたままだったであろう。

三星事案等を受け、国の化学物質管理のあり方は大きな改革を迫られ、「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会」において、「自律的管理」へと法改正が検討されている。本判決は、職場環境改善や安全対策の強化、それへの労働者の参画、労働安全衛生教育の徹底を大いに推進するものであり、今後の運動の拡大と強化へ繋げていきたい。

【本件に関する経過】
2014年2月 福井工場で1人目発症(50代・在職)
2015年2月 2人目発症(40代・退職)
同年8月 3人目発症(50代・在職)
同年9月 4人目発症(40代・在職)
同年11月 5人目(50代・在職)
同年12月 厚労省が膀胱がん多発を報道発表
2016年1月 本社・厚労省要請行動、労組結成
2016年6月 業務上外検討委員会発足
同年9月 厚労省がMOCAによる膀胱がん多発発表
同年12月 検討委員会が報告書をまとめ、申請者全員が労災認定される(この時点で7名)
2017年 労働安全衛生管理体制の確立および膀胱がんの補償協約案を会社に提出するも進展せず
2018年2月 会社に対し損害賠償請求を求め福井地裁に提訴
2020年12月 MOCAの業務上外検討委員会が報告書をまとめ2021年1月より労災認定がされる
2021年5月 福井地裁が三星化学工業の安全配慮義務違反を認め原告への損害賠償の支払いを命じ、互いに控訴せず判決確定。膀胱がん患者は福井工場のみで現在11名

りんくう総合医療センター 未払い賃金請求事件和解解決のご報告

弁護士 加苅  匠

1 勝利和解により解決!

本件は、大阪府の泉州南部地域の拠点病院であり、コロナ禍では特定感染症指定医療機関として地域の感染症対策の拠点としての役割を果たしているりんくう総合医療センターの労働組合「りんくう労組」の組合員(全て医療従事者)155名が、労基法に基づく未払い賃金の支払いを求めて、大阪地方裁判所堺支部に集団提訴した事件です。

提訴から2年8カ月が経過しましたが、みなさまの支援を受けながら粘り強く闘い続け、2021年5月20日、和解により解決しました。

具体的な提訴に至る経過や裁判上の争点は、民主法律310号や民主法律時報2018年10月号で紹介しています。本稿では、提訴後の経過と和解の意義についてご報告します。

2 提訴後の経過と裁判上の争点

(1) りんくう労組は、2018年9月 日の第1次提訴(原告 名)以降も、裁判闘争と併行して、「法を守れない病院にいのちや健康は守れない」と訴え続け、職場環境の改善を求める取組みを続けました。

その結果、組合の取組みへの共感・支持が広がり、組織拡大につながりました。また、裁判闘争にも、4次にわたる提訴を経て、合計155名もの原告が立ち上がることとなりました。

(2) 裁判では、①就業規則上3交代と定められているのに2交代で働かされていた交代制勤務職員(看護師等)について、変形労働時間制の有効性や、4週155時間の所定労働時間を稼働し、その対価として基本給月額を支払うとの合意の有無ないし有効性、②監視断続的業務についての労基署長の許可なく働かされていた宿日直勤務職員(検査技師等)について、宿日直勤務後に付与される休日や半日休によって所定労働時間の勤務をしていないから、ノーワークノーペイの原則に基づいてその時間分の基本給相当額を控除するという被告の主張の正当性、③提訴より2年前の賃金の時効消滅などが争われていました。

3 勝利和解とその意義

(1) 2021年1月、新型コロナウイルス感染症が収束を見ない中で、職員が安全・安心に働くことができる職場環境の下で、一丸となって感染拡大の防止と治療体制の確保を図るべく、裁判所からの和解勧試もあり、裁判手続内外で協議を続けた結果、原告らの主張が認められることを前提に、病院が労基署から是正勧告を受けたことを重く受け止め職員が安全・安心な職場環境の下で働くことができるよう法令順守に努めることを約束し、一定の解決金を支払う旨の和解が成立しました。

和解の成立後、森木田裁判長は「コロナ感染拡大により医療に携わる方々の負担が大きく厳しい状況にあります。本件は、双方の主張が厳しく対立していましたが、(コロナ禍の状況の中で)原告被告ともに早期解決する意向を示し、和解で解決する決断をされたことに敬意を表します。」とコメントし、両者の決断を称えました。

(2) 本件和解により、病院が安心・安全な職場環境の確保や法令順守に努めることを誓約し、正当な経済的救済を受けることができたことは、コロナ禍の状況を含めて過酷な労働を強いられている職員にとって大きな励ましとなるものです。

また、医療の現場では、医療従事者の使命感や献身性に甘え、慢性的な長時間労働やサービス残業といった違法な働き方が横行しています。本件和解は、労基法など「法をまもってこそ患者のいのち・健康が守れるのだ」というメッセージを発信するものであり、職場改善を訴える全国の医療従事者を励ますものです。本件をきっかけに、コロナ対応に勤しむ全国の医療機関にて、法令順守・職場改善の機運が高まることを期待しています。

 (弁護団は、山﨑国満、増田尚、井上耕史、谷真介各弁護士と筆者)

ベトナム人技能実習生の解雇事案

弁護士 中峯 将文

1 はじめに

ベトナム国籍の元技能実習生であるX(依頼者)による、実習実施機関の代表者個人B及び監理団体Cに対する不当解雇等を理由とする損害賠償請求訴訟で、今般、B及びCがXに対しそれぞれ100万円ずつ支払う旨の和解が成立したので、報告します。

2 事実の経過

Xは、2016年6月12日、Aを実習実施機関、Cを監理団体として、技能実習の在留資格をもって入国したベトナム人技能実習生です。

Xは、同年7月22日からAで就労を開始しましたが、就業期間中3か月間の出勤日数は28日でその間の賃金支給額も合計で僅か3万4000円ほどでした。Xは、ベトナムで約100万円の借金をして来日してきており、借金返済のため毎月ベトナムに送金する必要がありましたが、それが出来ないどころか日本で生活をしていくことさえ儘ならず、AやCに対して何度も待遇の改善を求めましたが、一向に改善されないため、同年11月5日頃やむなくSNS等に投稿し助けを求めました。すると、Aは、同年11月7日、突如Xを呼び出して解雇を言い渡し、その日のうちに、Cに引き渡しました。

Cからは当初別の受入企業を探すと伝えられておりXはそれを信用していましたが、同月17日、XがCから新しい職場に行くと告げられて自動車に乗ると、そのまま岡山空港に連れて行かれました。Xは、意思に反して帰国させられることに納得が出来ず、出国ゲートに入りCの職員が離れたところで出入国審査官に助けをもとめ帰国を免れ、大阪にいる友人宅へ行きました。

その後、Xは、支援者の協力を得て2017年6月頃、Aを相手方とする調停を申し立て、同年11月30日、Aから解決金 万円が支払われました。

調停成立後、Xは、他の実習実施機関を探すために特定活動の在留資格で在留期間を更新しましたが、結局見つからず、2018年5月13日、やむなくベトナムへ帰国しました。

3 訴訟における論点

私が相談を受けたときには既にAとの間で調停が成立していたため、BやCに対して損害賠償を請求するためには、B等に不法行為(Bに関しては代表者の対第三者責任も主張)が成立しなければなりません。

この点、代表者個人に不法行為が成立するかという問題と、監理団体Cに不法行為が認められるかという問題があり、特に後者については、解雇への関与の程度について立証が困難と思われました。

しかし、①訴訟提起後、説得の甲斐あり、元従業員3名の方が、Xの働きぶりや解雇の経緯について証言してくれることになったこと、②A及びCの連名で作成された、虚偽内容の行方不明報告書が見つかったこと、③失踪賠償金として2000ドルが送出し機関からCに支払われたことを示す領収書が見つかったこと、及び、④A及びCの不正行為が認定されていたこと(理由は強制帰国が認定されたわけではなく、技能実習計画に基づく技能実習を実施しなかったこと及び隠ぺい目的で虚偽の文書等を提供したこと)が判明したこと等から、裁判所の有利な心証を得られました。

4 解決水準

解雇を不法行為と構成する損害賠償請求の場合、退職時給与の6か月分相当額が損害と認定されることが多いと思われます。Xは、B及びCの行為により日本での再就職の道を断たれていることからより長い期間損害が認められて然るべきと考えましたが、裁判所から当初示された和解案は100万円でした。

しかし、和解案が示された2021年3月時点で借金の合計金額は150万円まで増えており、100万円を受け取っても借金が全額返済できない状況にありました。そこで、Xの窮状を訴えて解決金の増額を求めたところ、裁判所も理解を示してくれ、200万円の支払いをB及びCに促した結果、和解に至ることが出来ました。

5 最後に

結果として、Xは借金を全額返済でき、後日、借金の担保として債権者に渡していた土地の権利証を取り戻すことが出来たと報告を受けました。まさに弁護士冥利に尽きるものでありました。

しかし、在職中に救済の手が差し伸べられていたら、Xは帰国しなくてよかったかもしれません。

マイグラント研究会では、外国人労働者のためのFacebook相談ページを作っています。多言語対応できるものにする予定ですので、支援者や当事者の方々には、このページを活用していただき、より早期の問題解決の助けになればと思っています。よろしくお願いいたします。

「行政デジタル関連法」に潜む危険 ~デジタル社会の実現はわれわれに何をもたらすのか?~

弁護士 佐久間 ひろみ

1 はじめに

2021年5月18日18時30分~「「行政デジタル関連法」に潜む危険~デジタル社会の実現はわれわれに何をもたらすのか?~」が開催されました。講師は龍谷大学政策学部教授の太田直弘先生、フロア発言者は坂本団弁護士 (マイナンバー違憲訴訟弁護団、日弁連情報問題対策委員会)、伊賀カズミ氏(国民救援会中央本部副会長)、仁木将氏(大阪自治労連書記次長)です。

今回の講演は、新型コロナの影響もあり、オンライン中心となりましたが、約50名と多数の参加となりました。

2 急速な行政デジタル化の背景

行政のデジタル化の流れは、2019年頃からすでに始まっており、新型コロナウイルスの影響もあり急速に進みました。2020年12月25日には、総務省が「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」を策定し、この流れを受けて、結局本年5月21日デジタル改革関連6法が成立しました。

このような急速な行政デジタル化の背景には、経済界の危機感や人口減少化における地方行政の在り方があります。特に、経済界の危機感は顕著であり、2020年3月に経団連が行ったコロナに関連する緊急提言でも、「Society5.0(サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会)」を目指すべきであると述べています。

3 デジタル改革関連6法の問題点について

行政のデジタル化には様々な問題点があります。
標準化された基幹情報システムをガバメントクラウドで運用するため、民間企業が参入することになります。また、地方行政のデジタル化は、自治体毎に異なる行政事務の標準化を前提としているため、自治体独自の工夫の余地を制限することになります。さらに、個人情報のオープンデータ化を前提としているため自己情報コントロール権を侵害する可能性もあります。

地方自治体のデジタル化を避けることはできないとしても、上記関連法には様々な問題点が多く含まれていることは明らかです。

4 まとめ

新型コロナウイルスに便乗する形で、急速な行政のデジタル化が正当化され、よく審議もされないまま法案が通ってしまいました。一般にデジタル化が進むことで便利になった側面もありますが、行政は重要な個人情報を保有しており、安易なデジタル化は大変危険です。今回の講演をふまえ、今後も行政のデジタル化の動きを注視していく必要があると感じました。

大阪市立小学校校長に対する 不当な圧力に対して、大阪市教育委員会に申入れをしました

弁護士 藤井 恭子

2021年5月17日に、大阪市立木川南小学校の久保敬校長が、大阪市長と大阪市教育長に対して提言を行ったことから、市長と教育委員会が校長に対する懲戒処分を示唆し圧力を加えるという重大な問題が生じています。

校長が行った提言は、大阪市立小中学校における緊急事態宣言中の授業について、オンライン学習をさせるとの市教委の方針によって、現場が混乱しているという事実の指摘と、児童生徒と保護者・教職員に大きな負担がかかっているという訴えであり、正当な教育施策批判であることは明らかです。

この提言が、市長と教育長に対して送付され、ネット上でも共感とともに広がりを見せたことについて、一部の議員と教育委員会が問題視し、懲戒処分を示唆する動きを見せています。

また、松井市長は校長の提言について「ルールに従えないのであれば、組織を出るべきだと思う」と発言しました。

市長の発言と、一部議員・教育委員会による一連の動きは、現場の声に耳を傾けようとせず、批判をする者に対しては圧力をかけて従わせるという、維新政治の独断・高圧的な姿勢が極めて強く表れたものと言えます。

6月2日、民法協は、「大阪市立小学校長の『提言』を理由に懲戒処分を示唆する動向に抗議し、全ての子どもたちの学ぶ権利の保障及び安心・安全な教育の実現を求める声明」を発表し、自由法曹団大阪支部とともに、教育長に対して申入れを行いました。

また、市長に対しても、声明文を送付するとともに、子どもたちが安心・安全な教育を受けられる施策を実現するよう申入れをしました。

現場の声を無視して、トップダウンで教育施策を行い、従わない者に対してパワーハラスメントとも言うべき圧力を加える松井市長と、それに阿るような教育委員会の姿勢は、強く非難されるべきです。

今回の申入れは広く報道されており、大阪市の教育施策に対する問題意識が広がるきっかけとなったと思います。

今後も、本件及び大阪の教育施策に対して、注視していかなければなりません。

《書籍紹介》 『日本で働く 外国人労働者の視点から』伊藤泰郎・崔博憲 編書

弁護士 田中  俊

 本書は、人類学や社会学、アジアやラテンアメリカ、アフリカの地域研究などを専門とする研究者に、マイグラント研究会の事務局長として同会の運営を担っている四方久寛弁護士が加わった11人による共同研究の成果である。本書が発刊されたのは、2019年4月に、日本の外国人受け入れ政策の大きな転換とも言える「特定技能」が新たな在留資格として創設されたタイミングでの出版である。結果的に、コロナ禍以前の状況の総括とも言える充実した内容である。

本書では、第1部で「近年の外国人労働者をめぐる状況」が、統計的に、また入管法制の変遷、食料品製造業と建設業における実態を中心に論じられ、第2部では、外国人労働者のなかで最も大きな割合を占める「技能実習生」について、ベトナム人労働者とタイ人労働者の事例について紹介されている。第3部では「日系人」について触れ、滋賀県近江市甲津畑町にて地域社会と共生しながら運営がなされているブラジル人学校「ラチーノ学院」、広島で牡蠣の養殖に従事する日系3世のフィリピン人一家の事例を挙げている。第4部「さらなる周縁へ」では、外国人労働者が登場する前には、誰がどのようにして働いていたのかを輸送園芸(大都市消費市場への出荷を目的としてなされる地方での生鮮野菜の商業的生産)を題材に解明する、またガーナ、ナイジェリア、カメルーンなど在日アフリカ人の労働実態についての報告がなされている。

本書の最大の特徴は、受け入れ側である日本の状況の分析のみならず、外国人労働者の視点から、外国人労働者の問題を明らかにしようとしていることである、彼らが、なぜ日本を選び、日本に行くことになったのか、背景にある所属国の経済事情を明らかにし、来日の動機付けを明らかにしていることである。

2019年10月時点で、約166万人の外国人が日本国内で働いており、その大半を占めているのが日系人や技能実習生、留学生、日本人の配偶者をもつ女性たちである。国別に見ると、従前は、中国人、ブラジル人やフィリピン人が外国人労働者の主流を占めていたが、現在、主流はベトナム人に移行しており(全体の24.2%)、昨今飛躍的に増大したのがネパール人(5.5%)である。彼らの来日の究極の目的は、お金を稼ぐことに尽きる。にもかかわらず、受け入れる側の日本では、高齢化社会、少子化による深刻なまでの働き手の不足という事情があるのにもかかわらず、いまだ移民政策を頑なに拒否し、技能実習生を技能の習得、国際貢献という本来の制度の趣旨から離れて、もっぱら低賃金の労働力として彼ら/彼女らを利用してきた。しかも低賃金や時間外労働、労災隠しなど劣悪な労働環境のもとで、在留期間限定で家族滞在を認めないという建付である。

外国人も馬鹿ではない。このままでは、今後は、海外に出稼ぎに行く外国人労働者も、労働環境が劣悪で、外国人を管理の対象としてしか見ない日本でなく、海外からの移住労働者にとって環境と条件の良い他の外国での労働を選択することになることは目に見えている。

初めて日本政府が国内の人手不足を認め実態に即した外国人労働者の受け入れ政策として期待されて新設された在留資格である「特定技能」も期待は裏切られ、現在のところ申請数は少ない。今後は、日本が外国人の労働力に依拠するのであれば、移民の拒否など排外主義的政策を改め、外国人を管理の客体ではなく一人の人間として捉え、劣悪な労働環境を是正し、労働分野だけでなく子どもの教育、社会保障等についても充実させ、外国人労働者が日本で働くことに魅力を覚えるような社会にしていくことが重要であると改めて認識させられた。

松籟社 2021年3月25日発行
定価2860円

《寄稿》 社会変革(社会主義を含む)について

島根大学名誉教授 遠藤 昇三

 私は、『民主法律時報』565号(2020年6月)「将来社会を論じる際の留意点」において、将来社会を(さしあたり)福祉国家と設定したが、この将来社会について、民法協における一層の論議の手掛かりを示したいということで、以下の文章を作成した。

私はかつて、表題の課題・問題につき、社会主義理論学会の会報(75号、2018年10月)に「社会主義理論学会会員への一会員からの問題提起」と題して、投稿したことがある。そこで主張したことは、第一に、社会主義を目指す人々の「社会主義像・社会主義論」に関する合意形成がなく、また抽象的に過ぎるあるいは具体的な内容がない、従って社会主義という目標の実現性に欠ける。第二は、社会主義を革命により実現することは、不可能である、社会変革路線が未確立・未成熟ではないかということである。第三は、(社会主義ではなく)言わば「よりましな資本主義」という社会変革が目標として、「福祉国家」については上記『時報』で論じたような問題があること、(「福祉国家」ではない将来社会を目指すとしても)日本においては「企業社会」の克服が、避けて通れない課題であるが、そのためには「戦闘的労働組合運動の再生・再構築」(『2019年権利討論集会特集号』で論じた)、「大企業労働者の主体形成」(『時報』568号、2020年10月で論じた)が必要である(第四の日本共産党に対する批判や要望については、省略する。ちなみに、この投稿への学会員からの反応は、全く問題提起の意味を理解していない一件を除き、皆無であったが)。

以上を踏まえて、第一に主張したいのは、社会主義革命や社会主義的変革の道は、放棄し、「よりましな資本主義」を目指した社会変革に、本格的に取り組むべきことである。民法協の中で社会主義を目指す人々や団体がいるかどうかについては知らないが、たとえいたとしても少数派であろう。それらの人々・団体と社会主義的変革や社会主義それ自体のあり方等を論ずることは、無用なエネルギーと時間の消費であり、それを避け、議論の焦点を「よりましな資本主義」を目指した社会変革に、合わせるべきである。資本主義から社会主義への直接の移行は、想定しがたく、言わば「よりましな資本主義」への移行の結果としてある段階が、社会主義と捉えられるということになろう。その程度の構え方で、十分と思われる。

第二は、その社会変革路線の意味・内容である。どのような将来社会を描くとしても、その変革過程は、徹底して民主主義的なものでなければならない(民主主義の意義・内容が多岐にわたり、必ずしも大方の一致があるわけでないことについては、別に論述したい)。「よりましな資本主義」像についての多数の人々による合意が形成され、その実現を目指して社会のあらゆるレベルでの民主化の取組み(企業とりわけ大企業がその焦点であることは、言うまでもない)がなされ、その集大成として国家の民主的変形がなされる、それらによって 「よりましな資本主義」が実現されるのである。

第三は、「企業社会」の克服の問題である。ここでの問題は、将来社会を福祉国家と想定した場合、社会(市民社会)が既に一定水準にありそれを土台として、現在の非福祉国家を福祉国家に変革するという筋道は、日本においては直接的には想定しがたい。何故なら、社会(市民社会)は企業社会に包囲されそれに取り込まれているからである。即ち、将来社会としての福祉国家は、企業社会の変革の結果としてあるいはその上に構築されるか、(より可能性としては低いが)福祉国家の構築がなされた上でそれにより企業社会が克服されるか、言わば二重の課題の解決が、求められるのである。

いずれにしても、日本における社会変革は、困難な課題であるが、それだけにやりがいのあるものである。真摯なかつ粘り強い取組みを進めて行ければと思う。

民法協がTwitterをはじめました!

事務局長・弁護士 谷  真介

会員のみなさま、こんにちは。事務局長の残り任期もあとわずかとなり、思い残すことのないようコロナ禍でもできる取組みを日々模索しています。昨年はみなさまのご厚意のカンパで、民法協事務所にWi-Fiと立派なweb会議システムが導入されました。しかし、実は活動の発信の大きなツールであるホームページ(https://www.minpokyo.org/)がなんとスマホ未対応だった(!)ということで、これはいかんと着手をはじめています。

そして実は先月、重い腰を上げ、Twitterアカウント(https://twitter.com/minpokyo)を取得し、SNSでの発信にも手を出すことになりました。Twitterアカウントをもっている会員・会員団体の皆様は、すでに分かる範囲でフォローをさせていただいていますのでご存じのことと思います(こっそりされている方は、こっそり教えてください)。フォロワーも瞬く間に200名を超えましたが、1,000名を超えないと影響力はもたないという有力な説があるようです。今年の権利討論集会にお越しの方はご存じですね。ぜひ、フォローやリツイートをして、民法協の存在、活動をもっと世に広めていただければ嬉しいです。中の人は秘密です!