民主法律時報

2021年5月号

派遣労働者にも交通費の支給を ~派遣交通費訴訟(大阪地裁不当判決)~

弁護士 河村  学

1 はじめに

本件は、派遣労働者が、その雇用主である派遣元会社(株式会社リクルートスタッフィング)に対して、旧労働契約法20条を根拠に、同社の正社員に対しては支払われている通勤交通費について、派遣労働者に支給しないのは不合理な相違にあたるとして、通勤交通費相当額の損害賠償を請求した事案である(なお、労働者が就労していた事業所のうち一社とは雇用主が業務委託契約を締結していたため、全てについて正確な表記ではないが、本稿では便宜上、全て「派遣」として記述する)。

本件につき、2021年2月25日、大阪地裁は、労働者の請求を棄却した(裁判官は、中山誠一、上田賀代、大和隆之)。なお、事案の詳細については『民主法律』311号35頁で報告している。

2 前提として

通勤手当については、既にハマキョウレックス事件最高裁判決(最二小判平 30.6.1労判1179号20頁)が既に、通勤手当は「通勤に要する費用を補填する趣旨で支給されるものであるところ、労働契約に期間の定めがあるか否かによって通勤に要する費用が異なるものではない。」とし、また、両者の間に職務の内容及び配置の変更の範囲が異なることは「通勤に要する費用の多寡とは直接関連するものではない。」として、有期契約労働者との相違を不合理と判断している。

また、労働契約法立法時も、その後の厚生労働省の通知においても、派遣元の無期契約労働者と有期契約派遣労働者との間に労契法 条が適用されることは当然のこととして説明されており、かつ、厚生労働省は、通勤手当については、「特段の事情がない限り合理的とは認められない」と解釈している。

3 大阪地裁判決の内容と批判

(1) 上記の前提を素直に受け入れれば、本件通勤交通費支給の相違は不合理ということになる。しかし大阪地裁裁判官はそうはしなかった。  本判決は、おおまかにいうと、被告が支給している通勤交通費は「通勤に要する費用を補填する趣旨」で支給されているものであるが、その支給の実情をみると、被告が配転命令権を有する者と、遠隔地や労働負荷が高いなど求人に困難を来す労働を行う有期契約派遣労働者に支給されていた。

そうすると、それ以外の有期契約派遣労働者に支給しないのは不合理でないというものである。

(2) しかし、この説明は、実情がそうだから実情に合わない支給をしないことは不合理でないと言っているに等しい。有期契約労働者については「合理的な労働条件の決定が行われにくく、両者の労働条件の格差が問題となっていたこと等を踏まえ、有期契約労働者の公正な処遇を図る」(前掲最判)として設けられた旧労契法20条は、この判断の下では死んでしまうことになる。

なお、この「実情」というもの自身裁判官の全くの創作(被告主張から発案した創作)であり、実際の通勤手当の支給要件、通勤手当支給の歴史的経緯、労働者への説明等と異なるものである。

(3) 本判決は、最高裁判決と異なるではないかとの主張について、直接雇用と間接雇用では事案が異なると回答している。何が異なるのかの理由は示されていないが、判決文から読み込めるのは、派遣労働者は自由に仕事(労働条件)を選んでいるという現状認識である。つまり、派遣労働者は通勤交通費が支給される仕事かそうでない仕事か選んでいるのだから、支給されないといって後から不合理と争うのはおかしいという認識である。

この認識は、実際の派遣労働者が置かれた現実からほど遠いものであり、また、派遣労働者には「公正な処遇」が行われていることが前提とされている点で根本的に誤っている。

なお、本判決では、仕事を選んでいるから旧労契法20条の適用がなくなるのであれば派遣労働者に同条が適用される場面がなくなってしまうとの主張については、「労働契約を締結するか否かを決することと労働契約を締結する際に通勤交通費込みの契約と込みでない契約を選択することは別」と反論したり、別のところでは「通勤手当を含めて総額制にし、別途通勤手当を支給しないこと自体を禁ずる法律は存しない」などと反論している。

にわかに理解し難い判断であるが、被告が「派遣労働者には通勤交通費は支給しない」と明示的に説明している事実に真っ向から反する判断である。

 控訴審では、本判決の誤りを正していきたい。

(弁護団は、河村学、櫻井聡。控訴審から中島光孝弁護士にも加わっていただく)

中労委「共立メンテナンス不当労働行為再審査事件」で、共立の再審査申立を棄却

弁護士 愛須 勝也

1 はじめに

2021年4月26日、中央労働委員会は、「共立メンテナンス不当労働行為再審査事件」について、共立メンテナンス株式会社(東京都千代田区。以下、「共立」という)の再審査申立を棄却する命令書を交付し、共立に団交応諾、文書手交、掲示(ポストノーティス)を命じた府労委命令を維持した。

本件は、守口市学童保育指導員労働組合の団体交渉の申入れに対し、共立が組合規約等の提出を求め、提出された規約に不備があるとして団交に応じなかったことが不当労働行為に当たるとされたものである。

守口市の学童保育をめぐっては、2020年3月末に、組合四役をはじめとする13人の指導員(12人が組合員)が雇止めされ、うち10名が大阪地裁に地位確認等を求めて提訴し、この雇止めも不当労働行為であるとして救済命令を申し立てているが、団交拒否に引き続く雇止めも組合活動を嫌悪した不当労働行為であることが一層明らかになった。

2 守口市学童保育の民間委託

守口市は、市直営で運営してきた学童保育を民間委託し、2019年4月から共立により運営が開始された。民間委託まで、指導員は非常勤職員として1年ごとの雇用を繰り返してきたが、共立との間でも1年更新の有期雇用契約が締結された。指導員組合は、守口市職員労働組合の分会として組織されていたが、民間委託に際し組織変更し、守口市学童保育指導員労働組合としてスタートした。

3 共立の団交拒否

組合は、民間委託が開始された2019年4月1日、団交申入れを行った。当初、共立は、日程を調整していたが、学童保育連絡協議会(学保協)に指導員が関わることに介入した共立に対し、組合が批判する申入れを行ったことをきっかけに態度を変え、組合規約の提出を求めてきた。組合が、団交開催を優先して規約を提出したところ、共立は、規約が労組法に抵触するから団交に応じないという態度に転じた。組合が、共立の態度を批判しつつ、どこが抵触すると考えるのかを問うたところ、具体的な指摘をしないまま団交拒否を続けた。

4 初審命令

そこで、組合は2019年9月11日、府労委に救済命令を申し立てた。共立は、弁護士も選任せず、繰り返し資格審査を求めるだけで実質答弁をせず、その後の期日は欠席し、最終陳述書も出さなかった。府労委は、申立てから7か月余りで団交応諾命令と文書手交及び掲示(ポストノーテイス)を命じた。

5 中労委における共立の主張

共立は、中労委に再審査を申立て、弁護士を選任した上で、①組合は、労組法に適合しない規約に基づいて運営されているので、民主的に運営されず独裁に陥っているから同法2条の自主性の要件を満たさない、規約不備について会社に教示を求めているから自主的運営の意思がない、規約改正手続において重大な瑕疵がある、②団交申入れの時点において、労組法2条及び5条の要件を満たさないから、労組法の保護は一切及ばないなどと主張した。

6 中労委の判断

中労委は、①組合の自主性を認め、規約不備がただちに同法2条の要件を満たさない状態にならないこと、教示を求めた点は、申入書は会社の対応を非難する内容となっているから自主的運営の意思がないといえないこと、団交拒否の時点では、組合規約に不備があり、改正手続も十分ではなかったが、命令交付の時点までには改正がなされて改正規約が成立しているとして、会社の主張を排斥した。

②また、同法5条1項の規定は、団交に先立ち、組合が使用者に対して規約の適合性を立証しなければならないことを定めたものではないこと、5条2項の規定に適合することは、救済命令発令の要件であって、発令までに資格審査の決定がされていれば足り、再審査における救済命令発出時点で規約不備が是正されている以上、救済命令を発することは可能であって、行為時点で規約に不備があっても不当労働行為は成立するとして、会社の主張をすべて排斥して、初審命令を維持した。

7 本命令の意義

府労委における雇止め事件の審理においても、共立が組合を嫌悪して雇止めを行った実態が明らかになったが、後続事件の調査・審問期日にも出席しないなど、労働委員会無視の態度が顕著であり、本中労委命令に対しても訴訟提起する可能性が高い。

一方、現場では、不利益を恐れて多くの組合員が組合を脱退しており、少なくない児童が学童保育を辞めている。
会社は、労組法をはじめとする法令を遵守しなければならないにもかかわらず、中労委において不当労働行為とされたのであり、学童保育の実施主体である守口市の責任が厳しく問われる。地位確認訴訟の審理も近く個別立証の段階に入ることが予想され、指導員らが一日も早く子ども達のところへ戻れるように、引き続き奮闘する決意である。

(弁護団は、城塚健之、原野早知子、谷真介、佐久間ひろみと当職)

豊中郵便局パワハラ事件提訴~泣き寝入りしないための訴え提起~

弁護士 伊賀 友介

1 はじめに

2021年4月26日、非正規の郵便局職員が、日本郵便株式会社と当時の上司二人(局長、部長)を被告として、パワーハラスメント行為に対する損害賠償等を求めて大阪地裁に提訴した。本件は、正規労働者である上司の非正規労働者である部下に対するパワハラ事件である。職場における地位が不安定な非正規労働者は、理不尽な状況でも受け入れざるを得ないことも多いと思われるが、原告は、このような泣き寝入りは嫌だという気持ちで、本件訴えを提起した。

2 事案の概要

新型コロナによる緊急事態宣言が出されていた昨年5月頃、原告の職場である豊中郵便局においてもマスク着用が指示されていた。原告は、ひどい花粉症であるとの自覚があり(最近医師にぜんそくの可能性も指摘されている)、マスク着用による業務遂行が非常に息苦しいと感じていたことから、上司である被告部長にその旨伝えていた。しかし、被告部長は、何ら聞く耳を持たず、「マスクも付けられないなら、仕事を辞めろ。退職届を書け。」などと言うだけであった。このことから原告はマスクを着けて仕事をしていたが、約1週間後には、仕事中に倒れて2時間ほど意識を失うという事態が起きた(事後的に、医師から低酸素脳症と診断されマスク着用を禁止されている)。このような状況があっても、被告部長は、原告との話合いの場を設けるなどの対応をせず、ただ「マスクを着けろ」などとそれまでと同様の発言をし、原告の存在を無視するかのような態度をとり続けた。

同年11月には、原告の私物がなくなり、その後被告部長の机の引き出しから見つかるということがあった(当初被告部長は知らないと言っていた)。その時、原告は被告部長に対して「お前」という言葉を使ったところ、後日、被告部長は、「暴言」を理由に原告を減給にしたなどと脅した(実際は減給の事実はなかった)。

この間、被告局長は、原告から直接被告部長の問題行為を申告されていたにもかかわらず、何ら具体的な対応をしなかった。

その後、原告は、長期間にわたるストレスの蓄積により、同年12月から2か月間休職した。2021年1月末には復職可能の診断書が出たが、郵便局側はさらに休業の診断書をとれなどと言って、原告の復職を認めなかった。

3 パワハラ該当性

本件で、マスク着用の問題はパワハラ事件のきっかけに過ぎない。

被告部長は、原告からマスク着用による業務遂行が困難であることを伝えられていたのであるから、代替手段の有無等を話し合うなど、管理者として適切に対応すべきであった。それにもかかわらず、退職を求める発言を執拗に繰り返し、私物隠匿や虚偽を述べて脅すなどした。被告部長は、特に、原告の所属部署の労働者(非正規)に対しては、以前から存在を無視するかのような態度をとっていた。

このような一連の言動等は、非正規労働者に対して一方的に非があると決めつけ、長期間にわたって職場から排除しようと迫るものといえ、上司として、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動、行動であって、労働者に精神的苦痛を与えるものであることは明らかといえる。

4 被告会社(日本郵便株式会社)の 対応

被告会社は、現在もパワハラの存在を認めていない。そればかりか、原告の復職を遅らせ、自ら退職することで問題がうやむやになることを期待した(なお、原告は未払賃金請求も行っている)。この点は、原告所属の労働組合も強く抗議し、「~とくに、労働組合として看過できないことは、労働組合からのパワハラ謝罪要求に対して回答を引き延ばしたあげく、回答を履行せず郵便局長、郵便部長が転勤してしまったことである。パワハラを調査すらせず放置し、あげくは当事者が転勤しうやむやにせんとしていることを断じて容認することはできない。」との意思表明をしている。

5 おわりに

改正労働施策総合推進法では、パワハラ防止措置等を講ずる義務が定められた。本件訴訟が、被告会社における実効性のあるパワハラ防止措置等の実現に向けた一つの契機となればと考えている。

(担当弁護士は、藤木邦顕弁護士及び伊賀。本稿は私個人の所感である。)

裁判・府労委委員会 判決命令検討会の報告

弁護士 原野 早知子

 裁判・府労委委員会では、敗訴した判決や労働委員会命令について、当該弁護団から報告を受けての検討会を行っている。2021年4月は、6日にリクルートスタッフィング交通費事件の一審判決(報告は河村学弁護士)、20日に関西大学事件の府労委命令(報告は須井康雄弁護士)を取り上げた。(民法協事務所とZOOMのハイブリッドで開催)

リクルートスタッフィング事件は、派遣労働者に交通費が支給されないのは、労契約法20条違反であると訴えた事案である。最高裁を含めたこれまでの裁判例では、交通費支給の趣旨は通勤費の補填であり、この点は有期労働者も無期労働者も変わるところはないので、勝利すべき事案と思われる。ところが、大阪地裁(中山裁判長)は、「交通費支給は正社員には居所の変更を伴う配転があるから」という使用者側の主張を追認して請求を棄却してしまった(判決は2021年2月25日)。検討会では、河村弁護士から詳細な解説があり、事実認定・法律論双方について、判決の問題点をよく理解することが出来た。

関西大学事件は、系列の中高一貫校で、積極的に組合活動を行っていた教諭が、生徒への対応を理由に普通解雇された事案である。団交拒否や組合役員を懲戒委員会の委員から解任したことが不当労働行為とされる一方、解雇自体は不当労働行為に当たらないとされた(府労委命令は2020年8月31日)。解雇の理由が組合嫌悪であることを、どのように主張立証するかが課題である。並行して提訴した訴訟が、一審の尋問を控えているということもあり、事実関係や今後の争い方について、活発な質問・意見が出た。

判決命令検討会は、比較的少人数で疑問や意見を出し合い、当該弁護団と一緒に怒ったり落ち込んだりするとともに、時には、当該弁護団に色々言ってしまうという取組であり、参加者にとっては自分の担当する事件の参考にもなる。大阪地裁の中山コートでは、労働者勝訴の判決が極めて少ないのが実態であり、判決の批判的検討が引き続き必要と考えている。今後も定期的に開催するので、興味を持たれた方はぜひご参加ください。

「4・4なんでも相談会&フードバンク(食材提供)、商店街実態・要望アンケート」~コロナ禍だからこそ、公務公共職場の労働組合が地域に一歩足を踏み出す運動を~


大阪自治労連書 記次長 仁木  将

 大阪自治労連は、21春闘の中で、コロナ禍だからこそ、公務公共職場の労働組合が地元商店街に一歩足を踏み出し、くらしの実情と願いを受止め、住民の本位の行政の具体化をめざす運動として「なんでも相談会と商店街実態・要望アンケート」に取り組みました。

大阪グリーン会館を拠点に天神橋筋商店街1~3丁目の商店と周辺の住民を対象にし、事前に商店街振興組合の会長へ申し入れをしたところ、「良い取り組み。ぜひやってもらいたい。」と非常に好意的に受け止めていただきました。また、1週間前には商店と住宅約2600戸へポスティングし、南森町駅にて宣伝も実施しました。

好意的な対応と切実な実態・要望

2021年4月4日(日)当日の商店街アンケートは、昼間の忙しい時間でしたが、多くの商店に協力いただきWebや返送による回答ふくめ、現在68件の回答が寄せられています。取り組みは好意的に受け止められましたが、その回答は切実なものでした。

「売上がどうなったか」の質問には64%が「売上げが減っている」との回答(別表1)、売上減と答えた商店の4割が「売上が半分以下」になっているという結果でした(別表2)

国や大阪市に望むことを選ぶ質問では、一番が「厳しい現状をきいてほしい」約60%でした(別表3)。自由記入欄には、度重なる緊急事態宣言に振り回されていること、給付金・支援金の給付の遅さなど多くの意見が寄せられています。「ぜひ私の思いを反映してほしい」と、後日事務所に来られた方もいました。

改めて感じたことは、国も大阪市も、コロナ対策で、住民や商店の願いに寄り添う行政運営ができていないことです。何よりも、実情を把握しないまま(あるいは無視して)、一方的に「お願いする」ばかりの政策になっていることは、要望の一番が「厳しい現状を見てほしい」となっていることに表れています。

加えて、政策と住民の間の大きなギャップは、その狭間で苦労と悩みを抱え仕事をせざるを得ない職員や公共関係労働者を生み出すこととなり、大阪府職労が保健所などの現場の声を連日SNSで発信している内容がまさにその実態となっています。
だからこそ、私たち労働組合が職場や地域に働きかけ、声を聞き、運動につなげることが求められていると感じました。

(別表1)

 

 

 

 

 

(別表2)

 

 

 

 

 

(別表3)

 

 

 


 

多くの団体の協力で実施できたことの成果と、必要な人に届けられる工夫が課題に

食材提供コーナーでは、「仕事を失い、まもなく雇用保険が切れる今後の生活が不安…」という 代の女性、「仕事が見つかり働きはじめたが、今日明日の食べ物が無くて…」と年配の男性、「SNSを見て…」という学生もいました。どなたも、当座の食材を手に、ホッとした表情をされていたのが印象的でした。

この取り組みは、大阪公務共闘主催で、大阪労連や民主団体などに呼びかけ実行委員会形式で開催しました。現場の組合員は、商店街アンケートや宣伝行動など表に出る取り組みに参加するなど、コロナ対策を図りながら全体で70名のスタッフが集まりました。

子どもの貧困問題大阪ネットワークなどの協力で、大生連や民医連、教育相談研究所や社会福祉施設同友会など、また、大阪自治労連弁護団も含め、生活・健康・子育て・教育・労働など多様な相談対応できる体制が組めました。相談件数は5件と少なかったため、本当に必要な人に届けるための宣伝ややり方を探っていくことが次回以降に求められています。

引き続き、取り組みへのご協力をお願いします。

《寄稿》 「連帯」について考える

島根大学名誉教授 遠藤 昇三

 私はかつて、団結(=労働組合)の基盤について、検討したことがある(拙著『「戦後労働法学」の理論転換』法律文化社、2008年)。そこで得られた結論として団結の基盤は、今日においては、(「階級」は現実性がなく)せいぜい「労働者としての利害の共通性」であり、職種は限定的で 産業も消極的であり、より現実的なのは「地域」ではあるが、最も強固には「企業」そして職場・職場集団である。ただ、身分・地位の同質性(広い意味であり、例えばパートタイマーや女性)も、想定される。しかし、ここで考えたいのは、そうした団結の基盤を超えて出現しうるあるいはさせるべき「連帯」(協力でも共同でも良いが、ここでは「連帯」という用語を使用する)である。その理由は、第一に、労働組合の組織率の向上が、現実性を持ちえないからである。団結の基盤を探ることにより、組織率の向上に結びつけるという道筋が、見えて来ていないのである。第二は、(言わば、団結にまでは至らない)「連帯」の形成により、労働者の権利・利益の増進を、少しでも実現したいためである(本稿は、『民主法律時報』2020年12月号掲載の「平等と能力・競争主義について考える」の、次の課題という意味も持つ)。

予め確認しておくべきは、日本においては(例えばフランスでは、日本よりさらに低い組織率に拘わらず、ストライキには90%以上の労働者が参加するといったことと対比して)、組合員が組合員以外の者と「連帯」することが、殆どないことである。他方、労働者として(組合員であれば、組合員としてではなく一個人として)、労働者や市民と「連帯」することは、それなりに行なわれて来ていることである。従って、ここで主として念頭にあるのは、組合員とそれ以外の人々との連帯である。

「連帯」を志向する場合、二つの側面を区別(相対的区別でしかないが)して、論ずべきである。一つは、「連帯」の範囲、言わば連帯の量的側面である。即ち、どの範囲の労働者なり市民と、連帯するのかである。それは、事実問題であるとともに、規範的問題でもある。何らかの理不尽な事態に対する抵抗(例えば、不当な理由による労働者の解雇への反対・批判や撤回のための取組み)にせよ、より積極的な労働者の利益・権利の増進を目指す取組みにせよ、求められる「連帯」は、最も幅広いものであることが望ましい以上に、そうでなければならない。何らかの理由により、「彼・彼女とは連帯しない」という選択肢は、除外されねばならない。そうだとすれば、「連帯」の対象は、思想や政治的立場あるいは意見が大きく異なる人々にも、広げなければならない。何しろ、思想・政治的立場・意見等が同じ人々との「連帯」の構築は、容易いことであって、一番努力すべきなのは、自分から遠い人々との「連帯」である筈である。そうした人々を予め排除しての「連帯」であっては、ならないのである。結果として「連帯」が出来なかったとすれば、それにはいろいろ要因があろうが、この面での努力不足として捉えるべきである。

もう一つは、「連帯」の言わば質的側面(但し、ここでその全ては論じない)である。強調したいのは、(浅い「連帯」か深い「連帯」かと言うよりは)「連帯」の閉鎖性・開放性という問題であり、勿論開放性が求められる。何故なら、当面「連帯」すべき課題が何であれ、それが解決すれば、次の課題に取り組むべきことになるが、そこにおける「連帯」は、全く新たな一からの構築ではない筈である。もし一からの構築にならざるをえないとすれば、それは、その「連帯」が閉鎖的であるためである。開放性があれば、それを継承して、次の「連帯」が構築出来る筈である。言わば多段階的・多層的に「連帯」を構築することが、求められるのであるが故に、「連帯」は開放的でなければならない。

こうした「連帯」が現実化し、それが団結につながるのであれば、幸いである。