民主法律時報

2021年4月号

生活保護費引下げは違法!!~社会保障裁判史に残る画期的勝訴~

弁護士 喜田 崇之

1 歴史的な判決

大阪地方裁判所は、2021年2月22日、平成25年から平成27年にかけて段階的になされた生活保護引下げが、生活保護法3条、同8条2項に反して違法であると判断する歴史的な判決を下した。

生活保護基準をめぐる裁判での原告側勝訴判決は、老齢加算廃止訴訟福岡高裁判決(2010年6月14日)以来であり、「加算」部分ではなく、生活扶助費本体についての勝訴判決となると、実に、朝日訴訟東京地裁判決(1960年10月19日)に遡ることになる。

同種裁判は全国29地裁で提訴されており、すでに2020年6月25日名古屋地裁判決が敗訴判決を下したが、それに続く全国で二番目の判決であった。本判決は、全国総勢1000名以上の原告団、300名以上の弁護団、支援者の努力が積み重なって実現した成果である。

本判決に至るまでの様々な運動の取り組み等は、大生連大口氏の原稿に任せることとし、本稿では、本判決の法廷での闘争内容、判決の意義等を中心に報告する。

2 政府の引下げの理由

政府が保護費を引き下げた根拠は、大きく二つである。

一つは、「デフレ調整」と呼ばれるもので、物価下落に合わせて、保護費を減額するというものである。このような発想自体は、年金制度で導入されている「物価スライド」と共通するものである(そのため一見すると合理的に見えなくもないが、その問題点は後述する。)。

もうひとつは、「ゆがみ調整」と呼ばれるもので、所得下位10%の消費実態と比較して、厚労省生活保護基準部会で検証した結果を踏まえて、保護費を減額するというものである(約90億円分)。要するに、所得下位10%の消費実態が落ち込んでいるので、それに合わせて生活保護利用世帯の保護費も減額するという発想である。

論点は極めて多岐にわたり、いずれも複雑であるため、本稿では詳細は説明できないが、極めて政治的かつ法的根拠に合理性のない削減であった。

なお、デフレ調整は約580億円の削減、ゆがみ調整は約90億円の削減となり、一世帯当たり平均6.5%もの削減を強いる、戦後最大の生活保護費削減であった。

3 大阪訴訟での法廷闘争

本裁判は、2014年12月に提訴して2019年12月に結審するまで約5年に渡って審理がなされ、原告らは、実に49通の準備書面(そのどれもが非常にボリュームのあるものである)とその主張に必要な膨大な書証を提出した。

期日では、原告の生活実態や保護費引下げによる影響を切実に訴える原告意見陳述を行い、また、大法廷にスクリーンを用意してPPを使うなどして主張内容を分かりやすく説明する代理人意見陳述をほぼ全ての期日で行った。原告意見陳述は、原告らの過酷な生活実態を裁判所に突き付けるとともに、原告らが裁判の当事者として直接訴えることで当事者としての闘う意識が高まる結果もおおいにもたらしたと思われる。また、代理人意見陳述は、とかく物価指数等に関する複雑な専門用語が飛び交う主張を展開する中で、素人でも理解できるようにわかりやすい例えを用いるなどして行い、論点に関する裁判官の理解に役立ったと思う。

また、証人尋問においても、厚労省が物価下落の根拠とした独自の計算方法が経済統計学上全く理解できないものになっていることについて、上藤一郎先生(静岡大学教授)にご証言頂き、貧困とは何かという点に関して歴史的・法制度的に整理し、絶対的貧困観が過去の遺物となり社会的排除概念という貧困概念をもって「最低限度の生活」を判断すべきとする点について、志賀信夫先生(県立広島大学准教授)にご証言頂いた。また、5名の原告らが引下げによって極めて厳しい生活実態を強いられていることを切実に訴えた。

4 大阪地裁判決の内容

判決は、生活保護の基準は、厚労大臣の専門技術的かつ政策的な見地からの裁量が認められることを前提に、判断の過程及び手続における過誤、欠落の有無等の観点から見て裁量権の逸脱又は濫用があると認められる場合に違法と判断する旨の一般論を述べた。

その上で、「デフレ調整」の判断過程につき、主に次の2点の問題点を指摘した。

第一に、物価引下げの基準時の選択の問題である。近年の日本の物価は、平成20年に物価が急上昇してから平成23年まで下降したのだが、平成24年、25年と再び物価が急上昇して、平成20年時以上に物価が上昇した。この状況で、政府は、ちょうど物価が大きく上昇した平成20年時を基準時にして大きく物価下落した平成23年時をわざわざ選んだのだが、なぜこの時期を選択したのか全く合理的な理由がなく(そもそも平成25年以降、物価が上昇したのだから、物価下落を理由とする減額も合理的根拠を失っている。)、下落率が大きくなる結論を先取りした点を、判決は問題視した。

第二に、厚生労働省が算出した4.78%の物価下落の数字の合理性の問題である。もともと総務省が作成し公表している消費者物価指数に基づくと、平成20年から平成23年の間の物価下落は2.35%となるのだが、厚生労働省が独自に算定した生活保護相当CPIに基づくと同期間の物価下落は4.78%となる。

生活保護相当CPIの計算方法が統計学的に誤ったいい加減な内容であることは散々主張してきたことであるし、上藤教授にも論証して頂いたところであるが、判決ではその点については原告らの主張通りの認定まではしなかった。

ただ、生活保護相当CPIが大きく物価下落を示しているのは、テレビ、パソコン等の電化製品・耐久財の大幅な下落が大きな要因となっており、生活保護利用者がほとんど購入しない物の物価下落に大きく影響されている値であることを指摘し、「デフレ調整は、消費者物価指数の下落率よりも著しく大きい下落率を基に改定率を設定した点において、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性を欠くものというべきであるから……その判断の過程及び手続に過誤、欠落があるといわなければならない」と判断した。

なお、ゆがみ調整それ自体には様々な言及があったものの、ゆがみ調整の判断過程に関する裁量の逸脱・濫用については言及がなかった。

いずれにせよ、原告側の主張を概ね認める(当たり前のことを当たり前に認定しただけではあるが)画期的な判決である。特に、前述した名古屋地裁判決があまりに酷い判決であったため、本判決は、その流れを大きく一変させることとなった。

5 メディアの反応

メディアも反応し、判決は大きく報道された。

判決後の報告集会は、参加者の大きな熱気の中で行われた。その様子は大々的に報道され、各原告らの判決への思いや厳しい生活実態が新聞紙面に踊った。

また、全国各地の新聞が判決を肯定的にとらえる社説を掲載した。例えば、北海道新聞の社説では、厚労省が生活保護削減に都合の良い数値を利用するという不誠実さを指摘し、「物価偽装」という原告の主張をもっともだ、と評価した。また、朝日新聞や毎日新聞の社説では、政治的に削減する手段として、生活保護世帯では支出の少ない商品の物価変動を考慮するというデフレ調整に問題があると指摘し、判決が指摘した問題点に理解を示した。その他にも「自助」を強調する自民党の方針の批判(沖縄タイムス)、厚労省が意図的な算定をして政権与党への忖度をしたのではないかという懸念(中日新聞、北日本新聞等)などが述べられ、地方新聞も含めて、16の新聞において同様に国の姿勢を批判する社説が述べられた。

また、同年3月1日、判決を受けて、政府に対し少なくとも保護引下げ以前の基準を早急に求める内容の大阪弁護士会会長声明が出され、同月4日には、同様の内容の日弁連会長声明が出された。これらを皮切りに、各地の弁護士会でも会長声明が出されている(新潟県弁護士会会長声明、千葉県弁護士会会長声明等)。

筆者自身も、多くの弁護士から祝福の言葉を頂いた。原告ら・支援者ら・弁護士らもとても勇気づけられることとなった。

6 今後に向けて

敗訴した全自治体が控訴した。今後は、控訴審そして最高裁での闘いに挑むことになる。

また、全国各地の地裁判決もこれから続々下されることになるが、2021年3月29日には、札幌地裁判決で原告ら敗訴の判決が下された。各地での地裁判決の勝利を積み重ねることが、控訴審での闘いにとっては重要になる。全国弁護団では、大阪地裁判決の成果を全国で共有し、また、各地で下される判決のさらなる分析を行い、控訴審での闘いに備えている。

今回の画期的な判決により、多くの人々が勇気づけられ、原告らにも確信を与え、社会の雰囲気を変え、正論が正論として受け入れられ、理解が広がっていっているように感じる。そして、また次の画期的な判決へとつながり、さらなる社会全体の変革に繋がっていくのだと確信している。本判決は、そういった今後の大きな第一歩であると位置づけた上で、我々は、全国の仲間とともに、今後も控訴審以降の闘いに臨む次第である。

ぜひ、皆さんにも裁判にご支援をいただきたい。

生活保護基準引き下げ違憲訴訟大阪地裁で勝訴 ―「生活保護基準引き下げ違憲訴訟を 支援する大阪の会」の闘い ―

全大阪生活と健康を守る会連合会(大生連) 大口 耕吉郎

1 生活保護引き下げ違憲訴訟/大阪地裁での勝利!

みなさん。ご支援ありがとうございます。

2013年、安倍政権は戦後最大(670億円)の生活保護基準の引き下げを強行しました(注1)。これに対し、全国1000人(大阪53人)の生活保護利用者が提訴しました。

7年におよぶ裁判の結果、2021年2月22日に大阪地裁は原告勝利の判決を下しました。判決内容は「統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性」を欠き生活保護法違反という画期的なものです。



2 大阪地裁で勝訴した要因

2021年2月27日の「大阪地方裁判所の判決に学び決起する集会」で、小久保哲郎弁護士は裁判に勝利した要因は、①勇気を持って立ち上がり声を上げた原告、②献身的な支援者の活動、③熱意のある弁護団、④全国の仲間の支援、⑤腹の座った裁判官の判断と述べました。

もう一つ付け加えるなら、コロナ感染拡大のもと貧困が拡大し、厚生労働省のホームページで「生活保護の申請は国民の権利〔略〕ためらわずに」と書くまでになった情勢の変化があります。

3 原告・弁護団・裁判を支える会の一体の闘い

裁判は大法廷で行われました。「生活保護基準引き下げ違憲訴訟を支える大阪の会」(以下・「支える会」)の各団体は公判期日の参加を呼びかけ、傍聴席を毎回満席にしました。

弁護団が重視したのは原告の生活実態です。陳述に立った原告は、生い立ち、生活保護を利用するに至った経過、保護費が引き下げられた苦しみを「自らの言葉」で訴えました。

法廷外の運動では、定期的な学習交流会、街頭での宣伝を定期的に行ってきました。

とくに2020年12月24日の結審から判決までの2ヵ月間、駅頭宣伝と裁判所前の早朝宣伝を強め、原告・弁護士・「支える会」がマイクで訴え、ビラを配布しました。裁判所前ではビラの受け取りは良く、熱心にビラを読む職員の姿が見られました。

宣伝内容は、厚労省のひどい引き下げのやり方と「生活保護はナショナルミニマムの岩盤、基準引き下げは、生活保護だけの問題ではない」ことを強調し、引き下げによって、各種減免制度や最低賃金(注2)などに影響がおよぶと訴えました。すでに就学援助は 万人の児童が認定除外になっています。

(注2)最低賃金法9条3項には「(最低賃金は)生活保護に係る施策と整合性に配慮」と明記しています。

結審後、「公正な判決を求める署名」を府下の多くの団体に要請し、短期間に約1万筆を集め、裁判所に届けました。またマスコミにも働きかけ、記者会見をして原告が苦しい実態を訴えました。

4 闘いは高裁へ

3月5日、敗訴した全自治体が控訴しました。闘いは高裁に移ります。生活保護基準引き下げを許さない闘いは続きます。原告・弁護団・「支援する会」は、大阪高裁で全力をあげて闘う所存です。今後ともご支援をよろしくお願いします。

組合員の昇格差別は不当労働行為

弁護士 西川 大史

1 はじめに

大阪府労働委員会は、2021年2月12日付で、株式会社コンステックが、同社で勤務する大阪・中央区地域労組こぶしの組合員の女性Aさんを昇格させなかったことが不当労働行為に該当するとの救済命令を交付しました。

2 事案の概要

株式会社コンステックは、大阪市中央区に本店を置き、鉄筋コンクリート建築物の調査・診断、補修・改修補強工事等を業とする会社です。Aさんは、2001年から同社で雇用され、主に、経理・事務などの仕事をしていました。Aさんは、2012年に組合に加入し、2014年には不当な賃金減額に対して労働審判を申し立てるなど、会社からの嫌がらせに抗してきました。

会社では組合員はAさんのみでした。Aさんが調査したところ、Aさんよりも以前に入社した事務職員は、少なくとも2014年時点で全員4等級に昇格しており、Aさんよりも後に入社した事務職員も大半がすでに4等級に昇格していたのですが、Aさんは3等級に留め置かれたままで、賃金が低く抑えられていました。Aさんの人事考課は低くなく、長年、3等級に留め置かれることは不自然であり、団体交渉での会社の説明も不合理な内容でした。

Aさんは、4等級に昇格できないのは、組合員であるが故の不利益取扱いであるとして、2018年9月に、府労委に救済申立てをしました。

3 府労委命令の判断・理由づけ

府労委は、Aさんを4等級に昇格させないことは、組合員であるが故の不利益取扱いであると判断しました。主な理由付けは、以下のとおりです。
① 会社の昇格制度の全貌が明らかではない。
② 会社は、各年度の昇格候補者や昇格者の人数を自主的に明らかにしてこなかった。
③ 組合が団体交渉で、Aさん同等程度の勤続年数の事務職員の等級の開示を求めたにもかかわらず、会社が開示を拒んだ。
④ 府労委の調査でも、申立人側が、Aさん以外の事務職員の等級を明らかにするよう求釈明を繰り返したにもかかわらず、会社はなかなか回答しようとしなかった(担当の審査委員(宮崎裕二会長)からも、会社に対して、申立人からの求釈明にできるだけ回答するよう求めていた)。
⑤ 会社は、昇格に関する情報をほとんど開示しておらず、昇格においていかなる点を重視しているのかも明らかではないため、公平性や客観性を担保した運用にはなっておらず、恣意的な決定が可能な状態だった。
⑥ 他の事務職員を4等級に昇格させる一方で、Aさんを3等級に留め置いた理由が明らかでなく、恣意的な評価がなされていたとの疑念が払拭できない。
⑦ 組合員はAさんのみであった。

4 本命令の意義

組合の主張をほぼすべて認めた完全勝利の命令であり、その理由付けが素晴らしい内容でした。Aさんは、長年、会社で誠実に勤務していました。不合理な昇格差別から、Aさんを救済してほしいという思いが府労委にも伝わったのではないかと思います。また、会社がAさん以外の事務職員の等級を明らかにせよとの求釈明を拒み続けたということも、会社の不誠実さを浮き彫りにし、府労委の心証に大きく影響したものと考えています。

府労委命令後、会社と組合で、Aさんを4等級に昇格させること、2018年度以降の差額賃金を支払うことなどの合意が成立し、勝利解決することができました。

不当な昇格差別に苦しむ組合員は多いことしょう。しかし、なかなか不当労働行為救済申立てをすることまでは躊躇してしまうことも多いのではないかと思います。本命令が、不当な昇格差別に苦しむ組合員の救済の後押しになることを強く願っています。

(弁護団は、馬越俊佑弁護士と西川大史)

マスク着用困難を理由に解雇された 男性が提訴―KDDIエボルバ解雇事件―

弁護士 西川 翔大

1 はじめに

KDDIエボルバで勤務していた40代の男性が、幼少期から罹患しているアトピー性皮膚炎のためマスクの着用が困難であることを理由に解雇されました。そこで、男性は、2021年3月31日、KDDIエボルバに対して、解雇が不当として大阪地裁へ地位確認等請求訴訟を提起したので、ご報告します。

2 執拗なマスク着用指示と雇用打切り

原告は、幼少期から両手に皮膚炎を発症しており、2011年頃にマスクを着用したことを原因として顔が大きく腫れあがるほど皮膚炎を発症し、それ以来マスクの着用を控えてきました。

その後、2015年10月から、原告は、時給制契約社員として被告のコールセンターで従事してきました。

ところが、2020年2月頃からの新型コロナウイルスの感染拡大によって、職場の状況は変化しました。当初マスクの着用は徹底されていませんでしたが、2020年10月頃から、原告は会社の上司からマスクの着用を指示されました。

原告が皮膚炎の悪化のリスクがあるためマスク着用が困難であることを説明すると、上司からマウスシールドの着用指示や、隣席と一つ席を空けて正面に誰も座らない固定席に座るように指示され、原告はそれらの指示に忠実に従っていました。

原告は、その後も会社からマスク着用を指示される度に診断書を提出しながらマスク着用が困難な理由を説明しました。また、マスク着用の条件として、皮膚炎悪化のリスクのため、①産業医の経過観察・継続面談を希望し、それが難しい場合には②悪化時の医療費負担、休業を要する場合の休業補償を提案しました。

しかし、会社はこの提案に応じず、頑なにマスクの着用を求め、マスクの着用をしないのであれば契約を更新することができない可能性があることを伝えました。そこで、原告は、会社に対して無期転換権を行使しました。

 にもかかわらず、その後も会社がマスクを着用しなければ契約を更新しないと述べたので、原告は、マスク非着用の条件として、①定期的なPCR検査の実施、②別室での業務遂行、③時短勤務、④在宅勤務での就労を提案しましたが、会社はいずれの提案も拒否しました。

そして、会社は、原告を安全管理および秩序維持の観点から就業規則を遵守することができない者として、2021年2月28日をもって雇用を打ち切りました。

3 求められる安全配慮のあり方

コロナ禍において、マスク着用が当然に求められる社会の風潮がありますが、再就職が困難な状況で一度雇用を打ち切られると極めて厳しい生活を余儀なくされることにも注目する必要があります。様々な就労形態が広がる中で、やむを得ない事情がある者に対してマスク着用に固執し雇用を打ち切ることだけが安全配慮ではありません。安易に雇用を打ち切らずに従業員の個別事情に配慮して就労環境を整備することこそが会社に求められる安全配慮のあり方といえ、今後の訴訟でも重要な争点となります。

(弁護団は、河村学弁護士、谷真介弁護士、青木克也弁護士、西川翔大です。)

労働法研究会「職場における人格権」の報告 ~被害の実態から労働者人格権の規範的意義を検討する~

弁護士 岸 朋弘(東京法律事務所)

1 報告

2021年2月27日、労働法研究会が実施され「職場における人格権」というテーマを学びました。山田省三先生(中央大学名誉教授)の講演の後、2つの事件の報告がありました。それぞれ簡単に報告します。

(1) 山田省三先生による講演
山田先生の講演内容は、「労働者人格権」の網羅的な説明と後述の2事件についての分析・検討結果の報告でした。労働者の人格権ないし人格的利益について、法律論、社会実態論、過去の裁判例との関係等、様々な観点から深く学ぶことのできるお話でした。大変勉強になりました。

(2) 事件報告
山田先生の講演の後、大阪市(旧交通局職員ら)事件(以下「ひげ裁判」)とフジ住宅事件の2事件について、弁護団から報告がありました。
ひげ裁判は、大阪市の地下鉄運転手である原告らが、ひげを生やして勤務していたことを理由として人事考課上の低評価を受けたこと等を争った事件です。フジ住宅事件は、使用者及びその代表者が、中国、韓国及び北朝鮮の国籍や民族的出自を有する者に対する人格攻撃の文言等が記載された文書を配布した行為等に対し、韓国籍を有する原告が損害賠償請求を求めて争った事件です。いずれも裁判所は労働者の「人格的利益」侵害を認めました。

両報告を聞き、ひげ及び国籍が人のアイデンティティを形作っていることを改めて認識し、職場において労働者の人格権等が侵害されることの深刻さを知ることができました。また、両事件はいずれも人格的利益の侵害を認めたものの、事実認定上または法律の解釈・適用上の課題を残すものであることも理解できました。

2 全体の感想

労働者による労務の提供は、労働者の人格と切り離せないうえに、労務提供の条件の決定において労働者は劣位に置かれているため、労働契約は、本質的に労働者の人格的利益を侵害する危険を内包するものといえます。この一般論は2事件の報告から強く理解できました。
だからこそ、労働法に固有の「職場における人格権」問題を議論し、職場での労働者に対する不当な扱いを人格権ないし人格的利益に対する侵害として構成しその内容を発展させることには意味があると考えられます。

この点、今回の研究会では、各弁護団から報告された各職場の労働者が受ける被害実態について、山田先生による丁寧な分析・検討、そして出席者による議論を通して「労働者人格権」の意義と機能をより深く学ぶことができました。

この研究会での学びが労働者人格権の保護につながることを期待し、また私自身が今後も労働者の職場での人格権保護のために精進することを決意し、感想とします。

第1回労働相談懇談会:コロナ関連学習会 「労働条件の不利益変更問題について」

おおさか労働相談センター相談員 舛田 佳代子

2021年3月23日(火)、国労会館で2021年度の第1回労働相談懇談会を開催しました。コロナ禍で正規から非正規への転換など「労働条件の不利益変更問題」について北大阪総合法律事務所の中西基弁護士を講師に学習しました。参加は5産別・7地域の組合員と弁護士など32名でした。

最初に、大阪法律事務所の加苅匠弁護士から昨年8月以降の裁判・労働委員会における情勢報告がありました。旧労働契約法20条に関する5つの最高裁判決について、民法協声明を基に解説。新設されたパート有期法が中小企業に適用される2021年度が大きな局面になると指摘、格差の大きな要因である基本給や賞与・退職金についてもあきらめずに闘おうと呼びかけられました。また労働問題の新しい課題として、ウーバーなどの「ギグワーカー」に対して英最高裁が「従業員」と認定したことや、国内の「ウーバーイーツユニオン」「ヤマハ音楽講師ユニオン」の結成と活動の紹介がありました。

学習会では中西基弁護士から、労働契約も民法522条1項で定める「契約」であることが大前提にあり、労働契約は使用者と労働者の間で合意が成立して初めて成り立つものであること。契約は口頭だけでも黙示の承諾でも成立すること。実際に労働契約書がない労働者が多くいるが、労基法や労契法・パート有期法では文書で明示するよう定められていることなどの指摘がありました。また、内容が合理的な就業規則は労働契約の内容となること、就業規則よりも低い待遇の労働契約は無効となる、上回る場合は有効となることについての説明がありました。

労働条件の変更では、労働者の合意なしに一方的に変更できないのが原則とした上で、山梨県民信用組合の裁判を例に「自由な意思に基づいた同意かどうか」が問われるとの指摘がありました。

一方で、コロナ禍を理由にした労働時間や出勤日数を減らすという問題は、労働契約の不利益変更というよりは休業ととらえるべきで、政府の制度活用を求めることが大切だとの指摘がありました。

質疑応答では、参加各組織が抱える労働相談についての質問が寄せられ、中西弁護士から問題整理のための丁寧なアドバイスや、十分争う余地はあるとの力強いアドバイスが行われ、参加者からは勉強になったとの感想が寄せられ有意義な学習会となりました。

次回は、2021年6月17日(木)18時30分~、国労大阪会館3階大会議室にて「退職強要と退職勧奨」をテーマに開催します。

コロナ被害の実態と切実な願いは、まともな政治への転換の緊急性を可視化~フードバンク&大相談会のとりくみより~

大阪労連 菅  義人

2021年3月24日・25日の午後、大阪社会保障推進協議会などの主催で「コロナ災害に負けへんで !! フードバンク&大相談会」が、大阪市役所南側の中之島公園女神像前で開催されました。コロナ禍で苦しむ国民・府民に冷淡な菅政権や維新政治に対し、コロナ被害を力を合わせて乗り越えようと、フードバンクでは団体や事業者の協力で食料品や日用品を、大相談会では労働・医療・歯科・生活・法律・女性専用の各相談ブースを準備し、各組織からのボランティアや相談員の協力で取り組みました。

 初日は春の陽気、2日目は雨まじりの中、94人が来場。大阪労連と加盟組織は、食料品などの運搬、設営、案内と労働相談コーナーを担当しました。コロナ禍での解雇や雇止め、収入減、廃業、支援金・給付金の不適用や給付期間の問題、家もなく食事もとれない中でフードバンクと相談会から医療につながるなど深刻です。公的支援策は全く足りていません。またコロナ禍は女性を直撃しています。相談者から「本当にありがとう」という言葉を聞くほど、菅政権や維新政治への怒りを禁じえません。

コロナ禍だからこそ声を上げ、拡げ、コロナ被害を乗り越える施策の実現と憲法に基づくまともな政治への転換は急務です。

《寄稿》《》「統一戦線」あるいは共闘のために留意するべきこと

島根大学名誉教授 遠藤 昇三

異なる理念・思想・考え方を持つ社会的団体・組織(ここでは個人は扱わないが、主張したいことは同じである)が、共同の目的を実現するために協力・協同する場合に留意すべきことを、歴史を踏まえつつ、論じたい。

まず、こうしたことをその戦略的ないしは戦術的路線として提起し追求した共産党の「統一戦線」論の消長を、見ておく。1960年代以降において、共産党は、あらゆる機会を捉えて、「統一戦線」の形成を、他の政党や政治勢力、労働組合、市民団体等に提起していた。例えば、自民党一党政権が強固に継続する中、その政権を打倒し新たな政権を構築するためには、一つの政党では全く不可能だから、「統一戦線」の形成という訴えは、理の当然であり、誰でもが否定できない筋のものであった。ところが、その訴えに賛同するのは、少数派であって、多数派をしめる勢力(例えば、今は存在しない当時野党第1党の社会党、それを支える労働組合=総評)は、共産党との共闘までは否定しないに拘わらず、強烈に反発していた。地方自治体レベルでは、いわゆる革新自治体・首長が、社会党・共産党や労働組合・市民団体等の共闘により、実現されたにも拘わらず、その共闘に参加した団体全てが、それを「統一戦線」と称した訳ではない。それは何故であったろうか。それは、共産党が唱える「統一戦線」とは、共産党支配下の共同「戦線」と理解されていたからであろう。即ち、その結成においては、その構成団体は、対等平等なものであろうが、将来においては共産党の支配が貫徹する、「統一戦線」とはその手段でしかない、従って容易には賛同されないということであったように思われる。あるいは、共産党の側にそこまでの意図はなかったとしても、共産党の組織としての強大さ(社会党を初めとする政党に比較して)またそれが指導していると捉えられる大衆運動の強大さから、「統一戦線」に参加すれば、そのヘゲモニーを掌握される(いわゆる「庇を貸して母屋を取られる」)ことへの危惧があったためであろう。いわゆる革新自治体・首長づくりの共闘の場合、そうした危惧がなかったのであり、従ってそれを「統一戦線」とは称しなかったのである。次に、今「統一戦線」が強調されないことの評価が問題となる。それが、上記のような共産党の「統一戦線」論の問題性の自覚からのその路線の(正面からのではないが)放棄と評価出来るのであれば、それはそれで、(後記する)共闘路線への転換と言える。しかし、そうではない言わばなし崩しの路線転換であるとすると、それまでの路線の反省的総括がないのであるから、その無責任性は、将来の共産党への信頼性を失わせることになる。いずれであるか、共産党は、責任を持って明確にすべきである。

では、現在の課題となっている政権共闘(ここではそれに限定して論ずる)には、どのような問題点なり克服すべき点があるであろうか。まずは、様々な課題による政策共闘と政権共闘との区別を行うことである。政策共闘とは、個別の(あるいは包括的であっても)政策の実現を目的・目標とした一時的共闘であり、現行の政権を前提としている。それに対して、政権共闘とは、現行の政権に取って代わる政権を構築することである。従って、さしあたり衆議院選挙(出来れば参議院も)でその共闘の候補者が、議席の最低限過半数を占めなければならない。それには、政権共闘に参加する政党・政治勢力が、それぞれ言わば勝手に議席を目指し、それらの結果として過半数を占めるということは、ありえない。小選挙区で一人の候補者に絞り、その当選のために政権共闘参加政党等が、最大限努力しなければならない。その上に、比例区についても統一候補者名簿で戦うということも、必要とされよう。そうしたことについての合意を、政権共闘参加政党等で形成しなければならない。

次に、政権共闘における政策的合意の形成である。ここで必要なのは、政権共闘参加政党等のそれぞれの理念・綱領等に固執するのではなく、一致した政権政策を練り上げかつ合意することである(現在においては、「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」の例えば2020年9月 日の要望書を、出発点にして良いと思われる)。 その上で、政権掌握以後の課題となるが、その政策的合意の実現に向けての誠実な対応が、必要とされる。とりわけ必要とされるのは、実現出来ない政策についての説明責任である。政権政策の全てが実現出来るとは限らないから、実現出来ない要因、責任を明らかにして、今後どうするのかについての明確な説明が、なされる必要がある。その点で、隠蔽・ごまかしといった対応をしてはならないのである。

最後に求められるのは、共闘責任である。即ち、共闘への誠実な対応、(異論を棚上げしているから当然生じうる)対立に基づく共闘解消の危機の克服の努力、そして(やむをえず)共闘から離脱する場合の説明責任及び復帰の条件の明示といったことが、要請される。
いずれにしても、菅政権を打倒する野党政権が早期に実現されることを、期待している。