民主法律時報

2021年3月号

2021年権利討論集会――コロナ禍だからこそ工夫して討論を実施 ――

事務局長・弁護士 谷  真介

2021年2月13日(土)、コロナ禍で2度目の緊急事態宣言の中、エル・おおさかの会場とオンライン併用にて2021年権利討論集会を開催しました。感染拡大防止のため、本集会は会場の席数の1/3に絞り、はじめてオンラインと併用で実施しました。そのため例年6~8程度設ける分科会は4つに絞り、その代わりはじめて事前(2月10日、2月11日)にプレ企画を実施しました。2月10日のプレ企画1(核兵器禁止条約)は約60名、2月11日のプレ企画2(雇用によらない働き方)は約90名の参加でした。本集会は会場参加95名、オンライン参加125名、合計220名の参加でした。

二つのプレ企画は、いずれも完全オンラインで行いました。今年1月に発効した核兵器禁止条約については民法協でははじめて取り上げるテーマでした。内容はもちろんですが、ICANが戦略的に取り組まれた運動は非常に示唆に富んだものでした。雇用によらない働き方については、欧州や韓国など諸外国での取組みを学び、視野を広げる機会になりました。新しい労働組合の結成・活動や労働者協同組合の取組みなど、参加者の工夫に満ちた報告も非常に刺激的でした。

そして迎えた本集会の午前の記念講演では、ソーシャルワーカーとして貧困の現場、メディアやSNSでも発信を続ける藤田孝典さん(NPO法人ほっとプラス理事)に「新型コロナが顕在化させた労働者の貧困と対抗する運動の必要性」というテーマでご講演いただきました。普段から困窮者支援の最前線で活動されている藤田さんのお話は、コロナが及ぼす貧困の実態について具体的に明らかにされただけでなく、豊富なデータを基にそれがコロナ以前から政府が進めてきた格差の拡大、社会保障の切下げに起因している構造について切り込まれました。それを打破する運動には、コロナ禍だからこそ、SNSを活用し、これまで全く拾うことのできなかった市民の声を掴み取り、社会問題化していく必要性を強調されました。一方、その当事者をいかに運動に定着させるかについては、やはり普段の対話や学習など、これまで労働組合や市民団体が実践してきた手法をとられていることにも興味深いものがありました。講演後の質疑応答では、ハイブリッド方式の利点を活かし、会場では質問カード、オンライン参加者からはチャットで多数の質問を出していただき、次々に藤田さんにお答えいただきました。双方向でのリアルな講演が実現できたのではないかと思います。

その後全体会では、2020年10月に5つの最高裁判決が出された旧労契法20条裁判と今後の均等待遇の取組みについて河村学弁護士よりご報告頂きました。また、2つのプレ企画について、各企画の実行委員(「核兵器禁止条約発効の意義と課題」愛須勝也弁護士、「諸外国に学ぶ『雇用によらない働き方』への取組み」加苅匠弁護士)から、企画の内容、成果、課題について報告いただき、参加者で共有しました。その後、「新型コロナ禍においてすべての働く者の権利擁護・生活保障のため連帯を呼びかける決議」を提案し、参加者一同で確認、採択されました(採択された決議は民法協のホームページに掲載しています)。

午後からは4つの分科会で討論しました。今年はコロナ問題一色となりました。詳しくは各分科会報告に譲りますが、第1分科会では今後ますます深刻化していくことが懸念されるコロナによる整理解雇について、第2分科会では2020年 10月に出された旧労契法20条裁判最高裁判決を受けた均等待遇の問題とコロナでしわ寄せを受ける非正規労働者の権利について、第3分科会では記念講演に引き続きコロナが影響を及ぼす労働者や市民の暮らしと社会保障のあり方について、第4分科会ではコロナがもたらした新しい働き方(ダブルワークやリモートワーク)の問題点と課題について、それぞれハイブリッド方式で討論しました。それぞれ新しい問題について現場での取組みや課題を共有し、討論することで、今後の活動のヒントが得られたのではないでしょうか。

今年はコロナ禍の中、毎年継続してきた権利討論集会を実施できないかもしれないというところから実行委員会での議論が始まりました。そして完全オンラインのプレ企画やハイブリッド方式の本集会といずれもはじめての試みで実施しました。オンライン参加者への事前の資料の送付方法や、インターネット環境の問題で音声が途切れてしまったりと、オンラインならではのトラブルもありましたが、通常は家庭の事情や距離的な問題からなかなか参加できなかった方にも参加いただけたという利点もあったように思います。今後コロナが収束したらまた元の形態に戻すのか、今後もオンラインやハイブリッド方式を続けるのかについては、来年以降の大きな検討課題です。個人的にも残念だったのは、毎年楽しみにしている終了後の懇親会が実施できなかったことです。来年はぜひ実施したいと思います。

これからの1年、まだまだコロナによる影響から雇用と生活を守るたたかいが続きます。権利討論集会で得た成果をぜひ職場でのたたかいに活かし、また来年2月、皆様とお会いできるのを楽しみにしています。


分科会報告

第1分科会
 コロナ禍でのクビ切りに抗する――整理解雇・雇止めとの闘い (報告:大阪労連 藤原 邦昭)

1 今回の第1分科ではコロナ禍で行っている解雇事件をテーマにパネルディスカッションと意見交流を行った。最初に中西基弁護士より「コロナ禍における整理解雇」について講演。「コロナ禍の危機にあっても、企業には、事業を継続することと雇用を維持することが、この危機を乗り越えるために必要不可欠。日本社会の公序といえる。労働者と労働組合は決してあきらめずに不当な解雇に対して断固として闘い続けることが重要である」と述べた。

2 次に東京美々卯事件について。パネリストは、弁護団の佐々木亮弁護士(東京)と美々卯分会の昆野分会長。司会は、西川大史弁護士。表面上はコロナ感染拡大により今後経営不振になるという理由での昨年5月の法人解散だが、実際はグループ会社の社長(大阪本社社長・筆頭株主)による労働組合嫌悪。組合結成後すぐに組合と会社との間には会社解散及び事業縮小する場合は協議する協定(同意約款協定)が締結された。しかし、今回の会社解散までは労使協議がされていないため、法人解散後すぐに都労委へ救済申立て(その他にも組合脱退工作などがあった)。1カ月後に地位の確認の裁判と労働組合による損害賠償訴訟、さらに長時間労働の未払い賃金を求めた裁判を提訴して現在東京地裁で係争中。

3 次にコロナ整理解雇労働審判事件について。パネリストは加苅匠弁護士、司会は足立敦史弁護士。事案の内容は展示会などのイベント会社で従事する外国人3名がコロナ禍による売上減少で整理解雇された事件。争点になったのは雇調金などの支援金を使わないので整理解雇が有効か無効か。裁判所の判断は解雇無効の和解案が示された。

4 次に京都の御朱印帳の表紙などを製造している会社での「コロナ雇止め無効地位確認請求事件」について。パネリストは中村和雄弁護士(京都)、原告の山崎さん、全印総連京都地連の村上さん、司会は原野早知子弁護士。事案の内容は、労働組合と会社の交渉で雇調金制度を活用して休業中でも賃金補償されることになったが、昨年7月に有期パート社員である山崎さんをなんの説明もなしに一方的に解雇。昨年 月に第1回弁論が行われた。裁判が始まったばかりなので論点整理は出来ていないが、雇調金を支給されているにもかかわらず解雇が認められるかどうか? また、入社時の面接のときに定年まで働けると言ったにもかかわらず2年目で雇用契約が更新されないのが認められるのかが争点になる。また、原告の山崎さんは解雇される前に不安になって労働組合に加入。加入後すぐの団体交渉の場で雇止めを社長が告げた。最後に山崎さんは「コロナ禍を利用しての雇止め許さない」と力強く訴えた。
会場参加者34名、オンライン参加者20名であった。


第2分科会

 今こそ均等待遇の実現を! (報告:弁護士 中西 翔太郎)

第2分科会では「今こそ均等待遇の実現を!」というテーマで、事件の報告、現場での各労働組合の取組みについて、意見交換・議論を行いました。

まず、昨年立て続けに判決が言い渡された、旧労働契約法20条に関する最高裁判所判決(日本郵政事件、大阪医科薬科大学事件等)について、河村学弁護士から解説があり、詳細な資料をもとに各判決の概要と内容を比較しました。日本郵政事件では各種手当を非正規労働者に支給しないことを違法とした判決は画期的で高く評価できるとされました。他方、大阪医科薬科大学事件では賞与を支給しないことが違法として60%の支給を命じた高裁判決を破棄し、支給しないことも違法ではないという判断がなされた点については、格差是正に真っ向から取り組まず格差を放置する最高裁判所の歪んだ姿勢への疑問が呈されました。

その後、日本郵政事件、大阪医科薬科大学事件の原告からの報告がありました。日本郵政事件原告からは、たたかいを諦めずに続けていくことの重要性が報告された反面、大阪医科薬科大学事件原告からは、格差を据え置いた司法の姿勢が非常に残念であるとの指摘がありました。また、派遣労働者の偽装請負についての大田貨物運送事件の原告並びに脇山美春弁護士及び村田浩治弁護士からの報告、シフト削減の違法性を争った裁判について冨田真平弁護士からの報告がありました。他には、民放労連、金融ユニオン等の労働組合から非正規格差是正のための取組の報告がなされました。

分科会は、会場参加者16名、オンライン参加者約20名でした。事件報告及び今後の労働運動としての取組みについて、参加者から非正規格差是正の取組を進める方法について、様々な問題提起が行われました。
全体を通じて、今後の取組も含め充実した報告・議論がなされました。


第3分科会

 コロナ禍時代、求められる社会保障とは? (報告:弁護士 清水 亮宏)

第3分科会では、「コロナ禍時代、求められる社会保障とは?」というテーマで討論を行いました。当日は、学者・労働組合・弁護士・学生など、様々な立場から約40名(会場参加とZoom参加のハイブリッド形式)に参加いただきました。

分科会では、まず、小久保哲郎弁護士から、「コロナ禍で顕わになる“自己責任社会 ”の矛盾」と題して、コロナ禍における相談活動の取組みについてご報告をいただきました。

小久保弁護士からは、非正規労働者や生活困窮者を中心に多数の相談が寄せられていること、生活困窮が広がり生活保護の役割がより一層重要になっていることについて説明がありました。また、課題として、生活保護の利用に消極的な市民の意識改革(政府が市民に生活保護の利用を呼びかける、扶養照会を廃止するなど)、日本における生活保護制度の問題(水際作戦やケースワーカー不足など)についてご説明いただき、全国各地で闘われている生活保護基準引下げ違憲訴訟の経過や支援団体の取組みについてもご報告いただきました(訴訟については2月22日に大阪地裁で勝訴判決が出されました!)。
相談活動の実践を踏まえた具体的な報告・行動提起があり、コロナ禍における社会運動の役割を考える上で非常に示唆的な報告でした。

続いて、全大阪生活と健康を守る会連合会の大口耕吉郎さんから、コロナ禍に寄せられた相談の内容とその問題点(スムーズな申請ができていない実態や、餓死事件の報告など)、数度にわたる生活保護基準の引下げの状況などについてご報告いただきました。

その後、喜田崇之弁護士をコーディネーターに、2人の報告者、全体会でご報告いただいた藤田孝典さんらを交えて、コロナ禍における社会保障運動の在り方等について討論しました。会場やZoom参加者から意見が相次ぎ、活発な意見交換の場となりました。

プロジェクターの動作音をマイクが拾ってしまうなどのトラブルもあり、反省点もありましたが、全体として非常に意義のある分科会となりました。


第4分科会

 多様な働き方における命と健康を守る具体策を考える (報告:弁護士 上出 恭子)

コロナ感染予防の観点から、導入が急速に進んだテレワーク、そして、政府が多様な働き方としてプラス面を過度に強調している感が否めないダブルワークを取り上げて、下記3つの報告と、その後に討論を行いました。
参加者は会場参加が報告者含め12名、リモートでの参加が11名の合計23名でした。

◆「リモートワークの動向と適正化の課題」 岩城穣弁護士
2020年7月に実施された厚労省の委託調査では、従業員1000人以上の企業では75%が在宅勤務を導入しているとのことでした。過重労働防止の観点から、労働時間の適切な把握が重要であることの指摘等がされました。

◆「副業・兼業の促進に関するガイドライン」 西川翔大弁護士
2017年3月に発表された働き方改革実行計画を契機に、2018年1月に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が策定され、コロナ禍におけるテレワークの推進とともに、副業・兼業の普及・促進が加速化する中で、2020年9月1日、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が改訂されました。報告では過重労働の防止の観点から重要となる労働時間規制の考え方や簡便な労働時間管理の方法として「管理モデル」の紹介がされました。

◆「相談事例に見えるテレワークの現状と問題点」NPO法人POSSE代表今野晴貴氏
日常的に労働相談を受けているポッセには、2020年4月以降、5000件の相談があり、その中で、テレワークに関する相談は315件(2021年1月から2月9日現在では84件)、その多くが、「テレワークを認めてもらえない」というものでした。とりわけ、非正規の女性労働者からの相談が目立つという指摘は、全体会の藤田氏の記念講演の内容と共通すると感じました。
具体的な相談例としては、非正規労働であるがゆえに、テレワークが可能なのに認めてもらえない、正社員と同じ仕事をしているのに非正規だけ出社を命じられる等の「非正規差別」が顕著に現れたものでした。
また、コロナ禍におけるテレワークの問題点として、労働の「不可視化」によって長時間労働が増大するリスクが生じるという指摘は問題の本質を突いており、今後のテレワークがもたらす過重労働の実態を考える上で、重要なキーワードだと痛感しました。

◆ 討論
以上3つの報告を受けて、質疑、討論を行いました。参加された記者さんが「リモートワーク」の賛否を参加者に問うたところ大半の方が「否」であったことが印象的でした。

 

プレ企画報告

 プレ企画1
 核兵器禁止条約発効の意義と課題 (報告:弁護士 佐久間 ひろみ)

1 はじめに
2021年2月11日(水)18時30分~「プレ企画1 核兵器禁止条約発効の意義と課題」が開催されました。講師は、関西学院大学法学部教授の冨田宏治先生、ゲストスピーカーとしてICAN国際運営委員・ピースボート共同代表川崎哲氏が参加されました。
今回のプレ企画は、新型コロナの影響もあり、オンライン中心となりましたが、約60名と多数の参加となりました。

2 コロナ禍での核兵器禁止条約の発効
(1) 批准に至る経緯とアメリカ政府の圧力
核兵器禁止条約は、2020年10月24日、ホンジュラスから50カ国目の批准書が国連事務総長に寄託されたことで、2021年1月22日に発効しました。批准国の約4割は人口150万人以下の小国ですが、人口2億人以上のナイジェリアや、人口1億人以上のメキシコも批准していることから、決して小国だけが批准しているわけではありません。
実際、アメリカ政府も、条約発効に危機感を抱き、条約批准国に対し、批准書を撤回するよう書簡を送付して圧力をかけていました。しかし、批准書を撤回する国はひとつもなく、無事に発効するに至ったのです。

(2) コロナ禍での国民の気づき
冨田先生によると、コロナ禍の中での条約発効は決して無関係ではないとのことでした。
新型コロナウイルスが蔓延する中で、人間の命を守る医療費等ではなく、軍事費を拡大させることに対する批判、核抑止論に対する批判の目があったからこそ、条約の意義を理解する国民が増え、多くの国が批准していったとのことでした。

3 条約の内容~核兵器の非人道性を明示
条約は、核兵器の法的禁止すなわち非合法化を先行させ、完全廃絶に繋げるための条約という位置づけであり、直ちに核兵器の廃棄をもたらすものではありません。
ただし、条約の前文では、核兵器の非人道性を明確に示しており、人間の尊厳や個人の尊厳を傷つけるものであることを示しています。
さらに、条約1条では、核兵器に関わるほとんどすべての活動(開発、実験、生産、使用の威嚇など)を明確に禁止しています。そして、「使用の威嚇」を禁止するということは、「核抑止力」への明確な否定と禁止ということを意味しています。

4 まとめ
ゲストスピーカーとして、川崎哲さんから、批准国は決して小国ばかりではないこと、今後も批准国を増やしていくために運動が必要であること、唯一の被爆国である日本の批准に向けて今後も活動が必要であること等をご報告いただきました。
私は、新聞やニュースで核兵器禁止条約が発効されたことを知っていましたが、条約の内容(条文)を見たのは初めてでした。まだまだ勉強不足であることを痛感するとともに、批准国を増やすことが核廃絶につながると確信する機会になりました。今後も、勉強とともに運動を続けていきたいと思います。


プレ企画2
 諸外国に学ぶ「雇用によらない働き方」への取組み (報告:弁護士 西川 翔大)

2021年2月11日(木)13時~権利討論集会プレ企画「諸外国に学ぶ『雇用によらない働き方』への取組み」が完全オンラインの形式で行われました。

1 まず、脇田滋先生から労働者性の概念に関する国際的基準と日本的非正規雇用についてご講演いただきました。
国際的には、ILOの「雇用関係勧告」(2006年)で、「偽装雇用」に対する保護を広げるため、①契約形式より雇用実態を優先し、②雇用関係存在判定の指標を明確化し、③指標に該当する場合、労働者性を推定するという3つの原則が提示されました。
これに基づき、諸外国では労働者性を推定し、使用者側に個人事業主であることを立証させる動きや、プラットフォーム労働の拡大とともにEU各国では①広い労働者概念、②第3の雇用上の地位、③特別保護法を定める方向性で保護する動き、韓国では「特殊雇用」労働者として保護する動きがあることを紹介し、諸外国で雇用形態の変化とともに労働者への保護の在り方が変化している実態についてご報告いただきました。

2 次に、日本の諸団体の取組みについて各団体からご報告いただきました。
(1) ヤマハ英語講師ユニオンからは雇用化に向けた会社との交渉経過と課題について、ヤマハ音楽講師ユニオンからはコロナをきっかけにSNSを通じたユニオン結成の動きについてご報告いただきました。

(2) また、2020年12月に労働者協同組合法が成立したことで注目を集める労働者協同組合の働き方について、労働者協同組合連合の田嶋さん、関西支部の田代さん、北摂ワーカーズコープの木澤さんからご報告いただきました。働く者や市民が出資して経営に参加、話合いを進め、生活と地域に貢献するという新たな働き方は、今後ますます広がることが期待できそうです。

(3) さらに、セブンイレブンの松本さんから、公正取引委員会を通じた取組みのご紹介と裁判での闘い、世論形成の重要性についてご発言をいただきました。

3 働き方が多様化する日本国内で、個人事業主やフリーランスの保護に向けて様々な取組みについて充実した報告があり、民法協としても今後、中小零細事業主のための独禁法研究会を中心に保護の取組を強めていく必要があると感じるプレ企画となりました。

マイナンバー違憲訴訟 大阪地裁判決の報告

弁護士 辰巳 創史

1 はじめに

大阪府内に居住する住民を中心とした145名の原告が提起したマイナンバー違憲訴訟につき、大阪地方裁判所第24民事部(池上尚子裁判長、山根良実裁判官、楠本康太裁判官)は、2021年2月4日、マイナンバー制度は憲法13条に保障される権利を侵害するものではないとして、原告らの請求を棄却する判決を言い渡しました。しかし、以下に述べるとおり極めて不当な判決です。

2 根拠となる憲法 13条の解釈について

原告らは、憲法13条によりプライバシー権が認められるとして、これを根拠に本請求を行いました。これに対し判決は、プライバシー権自体は認めなかったものの、住基ネット最高裁判決の「個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由」を踏襲したうえで、「個人に関する情報をみだりに収集、保有、管理又は利用されない自由を内容に含む」としました。その意味において、住基ネット最高裁判決より一歩踏み込んだ内容となっています。

また、プロファイリングについても、「個人情報が漏えいした場合に、漏えいした特定個人情報の名寄せにより、本人の関与しないところで、その意に反した個人像が勝手に作られるというプロファイリングの危険性」などとして、その危険性自体は認めています。

そして、これを前提として、判決は、①制度に法律・条例の根拠が存するか、②番号制度の目的が正当と言えるか、③番号制度がその目的に適合するといえるか、④個人番号及び特定個人情報の収集等により個人の人格的自律が脅かされる具体的危険性が生じているか、について「慎重に判断して決するべき」としています。しかし、その判断は慎重さからはほど遠いものです。

3 番号制度がその目的に適合するといえるか――手段の正当性について

判決は、原告が様々に指摘した行政手続における問題点などを具体的に検討することなく、番号制度が目的に資するとしています。

特に、原告らが具体的にその問題点を指摘した「費用対効果」についても、「その導入及び運営にかかる費用と番号制度による経済効果を比較した結果のみをもって目的適合性を否定することはできない」などとしており、まともな判断すらしませんでした。

4 個人番号及び特定個人情報の収集等により個人の人格的自律が脅かされる具体的危険性について

この点についても原告は具体的な事例を挙げてその危険性を多く指摘しましたが、判決はこれらを何ら考慮することなく具体的危険性はないとしています。

特に、「番号法」19条14号が「刑事事件の捜査」について個人情報保護委員会の監督も及ばないことを認めていることから、原告らは本訴訟において捜査機関による濫用の懸念を繰り返し主張しました。この点、判決は「令状審査や公判における証拠能力の判断の場面において、裁判所の審査が及ぶ」から具体的な危険は生じていないとして被告の主張を認めました。しかし、GPS捜査やイスラム教徒に対する情報収集にみられるように、そもそも捜査機関は司法機関に気付かれないように行うことも多いのであり、このような判断は、まさに司法の役割を放棄したものと言っても過言ではありません。

5 具体的な危険性は生じていないとした不当性

判決は、上記のような理由付けをもって、マイナンバー制度により原告らの権利を侵害する具体的な危険は生じていないとしてその請求を棄却しました。

しかし、現代社会におけるプライバシー権の重要性、そして飛躍的に発達したデジタル化の技術がこれを大規模に侵害する可能性を省みない、極めて不当なものであると言わざるを得えません。

原告及び弁護団はこのような不当な判決に抗議すると共に控訴により大阪高裁に舞台を移し引き続き闘い続けます。

(弁護団は、大江洋一、坂本団、小林徹也、向井啓介、服部崇博、辰巳創史 外)

貫かれた「理念としてのプロレーバー」――片岡曻先生を偲んで

弁護士 大江 洋一

労働法律旬報1972号『特集片岡労働法理論の意義と継承』が発行され、久しぶりに労働法律旬報を開いた。巻頭論文は、当然筆頭弟子と目される西谷敏さんである。

以前お目にかかったとき、片岡さんの追悼文を執筆しているが、なかなか大変だ、ということを耳にしていたものの、簡単なものだろうとの予想に反し、「プロレーバー労働法学」というタームを素材としつつ片岡先生の生きられた戦後労働法学全体を鳥瞰して、その総括を試みたもので、質・量ともに歴とした大論文なのである。

プロレーバー労働法学といっても今の若い人には馴染みがないであろうが、労働弁護士の片割れであった私にとっては、労働者を擁護する立場を鮮明にした戦後労働法学の主流に対する、使用者側の利益を忖度しつつ「中立的」な立場を取り繕った立場からの揶揄・レッテルだという程度の認識しかなかった。

しかし、読み進む中で、戦後労働法学においては「プロレーバー」とは労働法学者の基本的な立場をあらわす意味をもっており、そのことを通じて、戦後労働法学全体を俯瞰した総括であることが分かってきた。そこでその梗概を紹介しようと試みたが、読み直してそれは諦めた。とても非才な門外漢の私にはこれを要約することなどできないので、直接読んでいただくしかない。

しかも、戦後労働法学を切り開き、発展させて来られた恩師に対する愛弟子からの挽歌であるとともに、西谷さん自身の学者人生の締めくくりという意味をもつ論文であると位置づけるべきものであろう。いつもの如く明快に労働法学の戦後史を学ばせてもらった。「理念としてのプロレーバー」に私も賛同する。

労働弁護士として実務についたころは、集団的労使関係事件に専ら取り組み、準備書面にも、「原告らは階級的・民主的な立場を貫き、労使協調路線に対抗して…」というようなことを誇らしげに書き連ねていた。しかし、しばらくして、イデオロギー過剰な独りよがりのこのような主張が果たして裁判官に訴える力をもっているのだろうか、という疑問を抱き始め、それからは、まず克明に証拠を示して事実を明らかにしたうえで、憲法と労働法に則りその是非の判断を裁判所に迫る、という姿勢を専らにしてきたこととつながる問題意識だといえよう。

大阪では民法協の労働法研究会には、いつも片岡、本多両先生以下、西谷さんら若手のお弟子さんたちが多く参加され、合宿では昼間のかんかんがくがくたる議論と、夜の宴会後には片岡・本多囲碁対決の傍らで無礼講を繰り広げた懇親など、実に身近にその謦咳に接することができたことは私たちにとって実に幸せな経験だったが、あれも片岡先生の「法形成的実践」の一環だったのだろう。

新米当時にかかわったユニオン・ショップ協定の効力が問われた事件(三菱製紙ユ・シ解雇事件)では、労働者が歴史的に勝ち取ってきた協定が自覚的労働者に向かって牙を剥くことを思い知る中で、「団結権優位」の思想にもなんとはなく疑問を感じ始めたこと、そういう中で西谷さんの『個人と集団』に思わず快哉を叫んだことが思い出される。

誠実であるからこそ時代の変遷の中で新たな矛盾に理論的にどう対応するか悩み抜かれていた片岡先生は、正面から投げかけてくる愛弟子からの自説に対する批判的な意見をも包み込むような態度を示されていたこと(それは、愛弟子の成長を喜ぶとともに、その若さゆえに自由に発想できる姿に対する羨望、憧憬をも含んでいたように感じられた)などが回顧される。そういえば、本多先生は何度か、『弁護士さんと違って学者は過去を背負っているから…』ということを口にしておられたことをふと思い出した。世代が違えば時代も変わるのであり、学説も変化せざるを得ないし、そうでなければ発展はないのであるが、片岡先生や本多先生らと西谷さんを通底しているのは、脈々たる憲法と労働法の体系への信念であり、労働者への暖かいまなざしであり、その点でしっかりとつながっていることがそこここに読み取れた。そこには、理想的な師弟関係が形成されていたと思うし、また片岡学説へのこのような「批判」は、西谷さんでなければ書けなかったのではないかと思えるのである。

「中立性」の議論における菅野さんらへの反論も、批判を正しく理解したうえで的確になされており、批判や再批判はこうあるべきとの感を改めて強くした。

片岡先生の「連帯への熱い思い」への共感を共にしたうえでの肯定的批判をしつつ、誤ったあるいは筋違いの批判には毅然とした反論も過不足なく示されており、締めくくりの言葉など、師弟関係の一つの理想形が示されており、そのことがなによりの片岡先生へのはなむけだと感じられた。暖かい追悼文であった。

《書籍紹介》和田肇 編著 『コロナ禍に立ち向かう働き方と法』

弁護士 西田 陽子

1 本書の特徴と意義

本書は、コロナ禍における雇用問題を多面的に取扱い、現状の理解や実務上の問題解決に役立つだけではなく、これからの雇用がどうあるべきかを考えさせてくれる一冊です。

編著者は和田肇先生であり、著者には、当会会員である塩見卓也弁護士(第2章)及び緒方桂子南山大学法学部教授(第8章)も名を連ねています。

本書の特徴は、「はしがき」にもあるとおり、「法律の仕組みの説明ではなく、その哲学と課題の分析にも力点を置いている」ことにあります。単なる知識の解説ではなく、コロナ禍を契機として、これからの働き方を読み手に考えさせるところに、本書の意義があります。

2 本書の構成

本書は、はしがきと序章で、和田肇先生が、コロナ禍を契機に、今までの働き方を考え直してみることを呼びかけることから始まります。

第1章は、現場(組合、労働弁護士)の声から、コロナ禍で働く人々がどのような問題に直面しているのかを浮き彫りにしています。

第2章は、解雇、雇止め、派遣切りがテーマであり、労働法や裁判例の到達点の解説をするとともに、コロナ禍の雇用終了に関する問題がどのように解決されるべきかについて論じています。

第3章は休業手当等、第4章はテレワーク、その後はセーフティーネットの問題(第5章は非正規雇用、第6章はフリーランス)と続き、第7章はジェンダーの問題を取り上げています。いずれもコロナ禍でいっそう顕在化した問題であるといえます。

第8章は、韓国の政策に関するもので、「幸福国家」の重要な要素としての「包容国家」、すなわち、家族ケアとの両立に向けての施策や、全国民雇用保険制度の試みについて紹介しています。

第9章は、ポスト・コロナにおいてワーク・ライフ・バランスの取れた働き方と、制度的なセーフティーネットの再構築が重要であることを指摘して締めくくられています。

3 私のおすすめポイント

私がとくに読んでよかったと思ったのは、第2章で、センバ流通事件決定(仙台地裁令和2年8月21日)の端的な解説とともに、雇用調整助成金の特例措置をコロナ禍収束の目処が立つまで継続すべきとの立場がはっきり書かれているところです( 頁以下)。「コロナ禍だから解雇されても仕方ないのかな」と考えていた一般の労働者の方々の大きな希望になると思います。

4 まとめ

コロナ禍において、いま、働く人々が直面している問題と、それらがどのような働き方や法により克服されてゆくべきか。ポスト・コロナには何が待っているのか。本書は、これらの難題について考えるための、確かなマイルストーン(標石)の役割を果たすものです。

約200頁とコンパクトながら中身のぎゅっと詰まった一冊であり、「今」読むことに多大な意義のある書籍です。ぜひお買い求めいただき、タイムリーにお読みいただくことをお勧めいたします。

日本評論社2021年1月発刊
A5判216頁
定価 2200円(税込)