民主法律時報

2020年11月号

均等待遇へ前進 ―― 日本郵政20条裁判勝利判決 ――

弁護士 河村  学

1 はじめに

2020年10月15日、日本郵政の期間雇用社員が起こした旧労契法20条裁判に関し、最高裁第一小法廷は、夏期冬期休暇、年末年始勤務手当、病気休暇、年始期間の勤務に対する祝日給、扶養手当、住宅手当につき、正社員と期間雇用社員との労働条件の相違を不合理とする判断をした(3つの事件に対する3つの判決があり、中には高裁段階で不合理とされた判断が上告不受理により確定したものもあるが、本稿ではすべて最高裁の判断とする)。この判断は、同条をめぐる他の最高裁判決(ハマキョウレックス事件(最二小判平30・6・1労判1179号20頁)、長澤運輸事件(最二小判平 30・6・1労判1179号34頁)、大阪医科薬科大学事件(最三小判令2・10・13判例集未登載)、メトロコマース事件(最三小判令2・10・13判例集未登載))の判断と併せ、戦後から繰り広げられてきた雇用区分による差別とのたたかいに関し、歴史的な画期をなすものである。

2 判断の内容

最高裁の判断は、簡単に言えば、①正社員に夏休み・冬休みが各3日有給で与えられているのに、期間雇用社員に与えられないのは不合理である。②年末年始の繁忙期(郵便事業だから一般の労働者が休んでいるときも働かなければならない)に正社員には特別な手当(年末年始手当、祝日給)が支給されるのに期間雇用社員に支給されないのはおかしい。③正社員には生活保障給(扶養手当、住宅手当)が支給され、病気になったときも有給で休むことができる(病気休暇)のに、期間雇用社員を別異に取り扱うのはおかしい、というものである。誰もが納得のいく、常識的な結論である。

日本郵政はこれらの相違について、正社員に長期雇用のインセンティブを与えるための手当、簡単にいえば、正社員に特別な処遇をすることで長く働いてもらうための手当だから、その必要のない期間雇用社員に支給しなくても不合理でないなどと主張していたが、そんな言い訳が通らないことを最高裁は明確に示したといえる(この言い訳は、正社員だから期間雇用社員と差別しても違法でないと言っているに等しく、この言い訳が通るなら、旧労契法20条は無いも同然になってしまうので、最高裁の判断はこの点でも常識的である)。

ただ、最高裁は、扶養手当、病気休暇に関しては、本件の期間雇用社員が「相応に継続的な勤務が見込まれる」者だから不合理になるのだという限定を付した。有期雇用ではあるが更新継続されることが見込まれるような労働者の場合にはこれらの手当は正社員と同様に支給されるべきと判断したのである(住宅手当については高裁が不合理と認めたものを最高裁が上告不受理にしているので、この限定が付くのかどうかは判らない。また、他の事件では、住宅手当は転勤可能性の有無に違いがある場合には非正規に支給しなくても不合理ではないと判断されている)。

3 判決の意義

不合理性を認めた最高裁の判断はきわめて常識的なものであるが、その判断がなぜ歴史的な画期になる重要性・重大性を有しているのか。それは、第1に、一連の最高裁判決は、長年にわたる非正規労働者や労働運動の主張、「非正規には不公正な処遇が行われている」「(正社員に比べ)不当な低処遇で働かされている」という主張を、最高裁という司法権力が戦後はじめて公式に認めたという意義を有しているからである。有期雇用に対する「不公正な処遇」が現に行われており、是正されなければならないものであることは、もはや公的事実・社会的な規範となった。

第2に、その不公正な処遇が広範かつ金額的にも巨額になることを社会に知らしめるとともに、実質的にその是正を図るという成果を得たという意義を有しているからである。たった5つの事件だけでも、不合理と認められた労働条件は広範なものであり、かつ、認められた損害賠償の額は多額に及ぶ。詳細は書けないが、1人の非正規労働者に対して月数万円の賠償が認められたり、年数日の特別有給休暇が認められたりしているのである(実質的な賃上げ・労働条件改善)。これは非正規の格差是正のたたかいにとってかつてない大規模なものである。非正規労働者が被っている著しい不公正処遇が具体的に可視化され、その是正が図られたのである。

第3に、有期雇用労働者に対する「不公正な処遇」の救済を裁判所が行うとした意義があるからである。司法権力は、戦後一貫して雇用区分による差別を違法と認めず、どのような差別があろうともそれは「契約自由の範疇」であるとして頑なに労働者の救済を拒否してきたが、これを違法として救済することとされたのである。今後、格差是正をめぐる運動の中で、裁判を提起するというのは一つの有効な選択肢となるし、またそういう選択肢があるということは使用者との団体交渉等においても有利な条件となる。本年4月1日から施行されている(中小事業主については来年4月1日から)パート・有期法に規定された説明義務等を駆使すれば、より広範にかつ勢いをもって格差是正を推し進める条件が広がったといえる。

この画期が生じたのは、決して司法権力に善意が生まれたわけでも、過去の過ちに気づいたわけでもない(むしろ、最高裁は、別事件では賞与・退職金の相違について不合理でないとの判断を行っており、格差是正に否定的な姿勢自体は変わっていない)。画期が生じたのは、かつての格差是正をめぐるたたかいの中で旧労契法20条を成立させたこと、かつ、今回の5事件の原告らのような同条を生かした先進的な取り組みがあったこと、これらの運動が、司法権力をして、このような判断をせざるを得ない状況に追い込んだからである。

次につづく大規模な運動と裁判が必要が必要であり、既に日本郵政の期間雇用社員が154人の原告団で集団訴訟を提訴するなどその取り組みは始まっている。

(弁護団は、森博行、斉藤真行、中島光孝、河村学、楠晋一、髙木佐知子、上田豊、小谷成美、西川大史)

非正規格差の実態をみない不当判決 ―― 大阪医科大20条裁判 ――

弁護士 西川 大史

1 はじめに

2020年10月13日、最高裁第三小法廷(宮崎裕子裁判長)は、大阪医科大労働契約法20条裁判について、正社員に支給される賞与をアルバイト職員に支給しないことを不合理と判断した大阪高裁判決を変更し、正社員との賞与の格差が不合理ではないとの不当判決を言い渡しました。

2 賞与に関する格差を不合理とした画期的な高裁判決

一審の大阪地裁(内藤裕之裁判長)は、賞与の趣旨を「長期雇用のインセンティブ」だとして、賞与に関する正社員との格差を不合理ではないとしました。

これに対し、大阪高裁(江口とし子裁判長)は、2019年2月15日、賞与の趣旨について、正職員には一律支給されており、大学に在籍して就労したことへの対価であると判断しました。同じく有期雇用の契約社員には正職員の8割の賞与が支給されていることから、長期雇用のインセンティブには疑問があるとして、アルバイト職員に賞与を一切支給しないことは不合理であり、正職員の6割の賞与の支給を命じました。正職員の6割とはいえ、賞与を支給すべきと命じたことは、賞与の有無が非正規労働者と正規労働者の所得格差の大きな要因になっている現状からすると大きな意義があり、社会的影響は大きいものでした。

3 最高裁判決の問題点

(1) 賞与の格差を不合理ではないとしたこと
本判決は、賞与の趣旨について、労務の対価の後払いや一律の功労報償、将来の労働意欲向上等の趣旨も含むものの、正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図る目的(=有為人材論)としました。そして、正職員とアルバイト職員の職務の内容等に一定の相違があるとして、アルバイト職員に賞与を支給しないことは不合理な格差ではないとしました。

しかし、賞与の趣旨は支給の実態から客観的に判断されるべきであり、有為人材論がまかり通れば、非正規労働者と正規労働者の格差はさらに広がることになり、使用者の言い逃れ、脱法を許すことになりかねず、労契法20条が骨抜きにされてしまうおそれがあります。しかも、最高裁は、本件特有の事情(①賞与が一律支給であったこと、②非正規労働者である契約社員にも賞与が支給されていること、③新規採用の正職員の年収の55%にとどまっていることなど)をまったく考慮していないのです。結論ありきの不当な判断というほかありません。

また、原告は研究室の秘書として勤務してきたのですが、正職員秘書と職務内容の核心部分に相違はなく、むしろ、原告の方が正職員秘書よりも業務量も多かったのです。大学側の証人も、第一審の証人尋問で、職務内容に大きな相違がないことを認めており、最高裁の事実認定はあまりに恣意的なものでした。

(2) ハマキョウレックス事件・最高裁判決よりも大きく後退したこと
ハマキョウレックス事件・最高裁判決は、労契法20条の趣旨が「職務の内容等の違いに応じた均衡のとれた処遇を求める規定」だと判示しましたが、本判決では、均衡待遇であるという点をあえて欠落させました。他方で、本判決は、ハマキョウレックス事件・最高裁判決が排斥した有為人材論を採用しました。

賞与に関して、均衡待遇を捨てて、正社員を手厚く保障するという最高裁の態度が顕著に表れています。

(3) 正社員登用試験を「その他の事情」に含めたこと
本判決は、正社員登用試験があることを「その他の事情」に含めて、賞与の不支給が不合理ではない根拠に用いました。正社員登用試験制度の存在がなぜ格差の不合理性を否定する事情となるのか不明ですが、最高裁は、自力で正社員になって格差を是正せよという「自助」、「自己責任論」に依拠しました。格差に苦しむ非正規労働者を見捨てた判断でしかありません。

4 格差是正のための闘いはまだまだ続く

最高裁は、同日のメトロコマース事件判決において、非正規労働者への退職金の不支給が不合理ではないとしました。また、非正規労働者が大勝利した日本郵便事件でも、賞与の支給の不合理性について、上告不受理としました。基本給・賞与・退職金などの核となる賃金が、非正規労働者と正規労働者の所得格差の大きな要因となっている実態を無視して、企業の経営判断に配慮・忖度したのです。

本判決は、社会的に大きな注目を浴びました。本判決に落胆する非正規労働者の声も多いですが、他方で、ネット上では、「仕事の内容違うのだから」「非正規を自分で選んだのだから」「正社員は難しい試験を突破してきたのだ」などといった声が多いのも事実です。労働者の不当な格差を是正して、誰もが幸せに働き暮らせる社会を実現すべきという世論を広げていき、社会を変えて、司法を変えていくことが今後の大きな課題でしょう。最高裁判決は極めて不当であり失望しましたが、非正規労働者の格差是正のための闘いはまだまだ終わりません。

(弁護団は、鎌田幸夫、河村学、谷真介各弁護士と西川)

非正規労働者の格差是正・同一労働同一賃金ホットラインを実施

弁護士 西川 翔大

2020年10月24日(土)に10時から17時にかけて「非正規労働者の格差是正・同一労働同一賃金ホットライン」を実施しました。

今回のホットラインは、最高裁判所が10月13日に大阪医科薬科大学事件、メトロコマース事件、10月15日に日本郵便事件(東京、大阪、佐賀)の5つの事件について相次いで判決を言い渡し、世間的に非正規労働者(有期・パート・派遣労働者)の格差是正及び同一労働同一賃金に対する関心が高まっていたことから、民主法律協会が独自に開催しました。

新聞やテレビによる報道の影響もあり、非正規労働者と正社員の格差や均等待遇に関する相談やその他の労働相談を含めて合計27件の相談が寄せられました。

例えば、高齢者の嘱託職員が再雇用後には同一の業務であるにもかかわらず、単身赴任手当や月一度の帰省手当を受けることができなくなり、コロナ休暇は正社員だけに認められ、基本給が3分の1、賞与がなくなるという相談がありました。
また、正社員のみに通勤手当や有給休暇が認められているのに、派遣・契約社員である自分には認められていないといった相談もありました。

今回の非正規労働者の相談を受けてみて、非正規労働者には労働組合が存在しないため、職場内での非正規労働者特有の不満や不公平感を改善するためにどうすればよいか分からないといった声がありました。特に、雇用が不安定で弱い立場に置かれる非正規労働者が、会社に対して、個別に要求することは困難です。職場内の待遇を改善するために、社内労働組合や地域労働組合への加入をしたうえで、団結して要求することが重要です。

また、改正パート有期労働法や改正派遣法では正社員との待遇格差の有無や程度、格差の理由について、(派遣元)会社に対して説明義務が課されています。民法協でも説明義務を活用して、職場内での不合理な待遇格差を改善させるためのモデル要求書(民法協ホームページに掲載しています)も作成しています。今回のホットラインを通じて、これらを活用したうえで、非正規労働者の不合理な格差是正に取り組んでいくことがますます重要になっていくと感じました。

旧労契法20条裁判最高裁判決の成果と課題――均等均衡待遇問題学習会に参加して

東大阪労連 先山 進二

2020年11月4日、民法協・非正規全国会議共催企画である「均等均衡待遇問題学習会」が開催され、zoom参加させていただきました。

大阪市の住民投票運動の真っ最中の10月13日と15日に、旧労契法20条に関わる最高裁判決が出されたため、マスコミ報道の見出しやツイッター情報しか見ていなかったので、最高裁が財界に忖度して、非正規労働者への賞与・退職金支給にブレーキを踏みつつ、アクセルに右足を少しのせて手当・休暇改善でバランスを図ったのかな、と考えていました。

河村学弁護士の詳細な資料によるていねいな解説と見解をお聞きし、私たちのたたかいの到達点の一定の反映部分もあること、今後の手当・休暇改善の取り組みに多いに活用すべきであること、基本給・賞与・退職金についても運動高揚(法改正・判例変更等)が重要である、と受け止めました。

冨田真平弁護士からは、分かりやすい資料を提供いただき、今後に活用させていただきます。
東大阪では、小規模事業所勤務の未組織労働者が多く、正規でもまともで安定した賃金・労働条件が保障されていないケース(雇用契約書・就業規則・ 協定・年休・健診・タイムカード等は無し、不払い残業とパワハラは有り)の労働相談を受けての団交対応に忙殺され、そもそも正規との均等待遇を求めるところに意識がたどり着かない現状です。また均等待遇の法適用が中小企業は2021年4月のため、「まだ時間がある」と先送りしてぼんやりしている、というのも率直なところです。

予習をまったくしていなかったので、先生の解説や質疑応答を理解する基礎知識が欠けていて、ちょっと難しかったですが、今後、活用できるよう、勉強してまいります。

※学習会は、エル・おおさかに26名、zoomで40名の参加がありました。

二度目の「住民投票」 市民の力でもぎ取った再度の勝利

大阪市をよくする会事務局次長 中山 直和

はじめに

2020年11月1日の二度目の「住民投票」は、反対69万2996票(得票率:50.63 %)、賛成67万5829票(得票率:49.37%)、その差1万7167票で再び大阪市廃止案は否決・廃案をもぎ取ることができました。

前回と比べ、①公明党が賛成に転じ、②議会で賛成派が圧倒的多数に、③中立・公平であるべき副首都推進局を使って「市民を賛成に誘導する」広報が垂れ流すという圧倒的に不利な中でのたたかいでした。

市民の疑問に応え、真実を伝える草の根のとりくみ

私たちは「大阪都構想」の真実を市民に伝えきれば必ず勝利できるとの確信のもと、草の根の対話運動にとりくみました。コロナ禍で、住民説明会が前回より回数も規模も大幅に縮小され、市長や副首都推進局の説明内容はメリットしか言わないという状況のなか、市民からは「マルチ商法」のようだとの批判とともに、「説明不足」との声が世論調査でも7割以上に達する状況でした。

私たちは決めかねている人、賛成だが情報が欲しい人の疑問を聞き、情報提供によって真実を伝える対話運動を呼びかけました。

また、宣伝では「特別区」を設置すればムダなコストが1300億円( 年)も掛かる一方で、税収は大阪府に3分の2が吸い上げられ、府からの「お小遣い」でやり繰りせざるを得ず「住民サービス」は必ず下がると根拠を示してきました。

「住民サービス」の低下が最大の争点に浮上

その対話と宣伝が徐々に浸透しはじめ、確かな手応えを感じる中、維新は告示直前になり突如として「協定書」には書いていない、「住民サービス」の「拡充」「向上」を言い始めます。しかし、この「作戦」は私たちのとりくみで真実が浸透しはじめているなかで逆効果でしかありませんでした。

また、10月26日の毎日新聞(夕刊)が報じた「218億円コスト増」との財政局試算が、市民の「都構想」への疑念を増幅させる大きなインパクトとなりました。
市民が知るべき情報を維新市政の元で勇気を持って提供した財政局職員の決意は大いに評価されるべきです。

さらに、今回の「住民投票」では、テレビ討論が繰り返し企画され、市民の関心が高まるなかで、真実を伝える私たちのとりくみと財政局試算が維新のデマ宣伝を打ち破る大きな力となりました。

その結果はABCテレビ・JX通信社の共同の世論調査で、9月19・20日の13ポイント以上の差が、投票日直前の10月30・31日に賛成45%、反対 46.6%に逆転させるに至ります。

一市民の反対運動への参加が、勝利につながる!

マスコミは政党のとりくみを中心に報道しますが、勝利の最大の要因は大阪市を愛する大阪市民の奮闘にこそあります。私は、前回以上に市民の立ち上がりがすごかったこと、大阪市をよくする会と市民の方々との連帯が深まったことを強く感じています。

8月の初旬からよくする会が発行するビラを受け取り自宅周辺に配布する市民が何人も現れました。街頭での宣伝でもマイクを持って「大阪市廃止反対」を初めて訴える市民、宣伝に一緒に参加する市民がたくさん現れました。この市民の奮闘が公明党の裏切りによる反対票の減を補い、わずかではあっても反対・賛成の差を広げる力となったのです。

結果が出た後、奮闘された市民の方々から大阪市をよくする会に素晴らしいメッセージが寄せられていることを最後に紹介します。

we saved our communityとのメッセージを添えた花が届けられました。また、一市民さんから丁寧な葉書が届き、喜びの言葉とともにお礼もいただきました。

そして、このレポートを書いている時に、天王寺区民の男性がわざわざ自転車で事務所まで来られて「大阪市を守れたことにお礼を言いに来ました」と言われたので、市民のみなさんの奮闘があっての勝利ですとお返しし、嬉しいエールの交換をしました。

大阪市を守るとりくみに参加されたすべてのみなさんのご奮闘に感謝とお礼を申し上げます。

堺学童指導員継続雇用拒否事件の 中労委不当命令について

弁護士 冨田 真平

 堺学童保育指導員労働組合が、学童保育の管理運営業務を新たに受託した株式会社CLCが、組合員である主任指導員について、組合員であることを理由に継続雇用を拒否したとして、不当労働行為救済申立を行った事件について、2020年10月9日、中央労働委員会第1部会は、不当にも再審査申立を棄却する命令を出した。

 長年公益財団法人であるスポーツ振興事業団に管理運営業務が委託されてきた堺市の放課後児童対策事業(のびのびルーム事業)について、2017年度からいわゆるプロポーザル制度が採用され、民間会社である株式会社CLC(以下「CLC」という)が堺市東区ののびのびルームの管理運営受託事業者に選定された。すると、当初から、のびのびルームで働く指導員については指導員が希望すれば継続雇用されることが前提になっていたにもかかわらず、組合の執行員でありかつその中のルーム(以下「本件ルーム」という)の一つで主任指導員として仕事をしていた指導員1名が継続雇用を拒否された。これについて、組合員であることを理由とする継続雇用拒否であり不利益取扱い(労組法7条1号)に該当するとして(また、この件について団交申し入れを行ったにもかかわらず「使用者でない」として団交を拒否したことが正当な理由のない団交拒否に該当するとして)、大阪府労働委員会に不当労働行為救済申立を行ったのが本件である。

 大阪府労委では、継続雇用拒否された組合員及びCLCの担当者の審問が行われたが、2019年1月8日に、団交拒否のみならず、不利益取扱いについても単に使用者性がないとして、その他の判断(不当労働行為意思の判断や採用拒否について労組法7条1号が適用されるか等についての判断)に全く立ち入らず、申立を棄却する不当な命令が出された。これに対し、組合は再審査申立を行い、中労委での審理が行われることとなった。

中労委では、CLCに継続雇用された他の指導員、CLCの代表者、堺市の担当者の審問の申請を行い、他の指導員の審問が行われ(代表者と堺市の担当者の申請は却下された)、CLCに雇用される経過として当該指導員については面談すらなく電話での意思確認のみで採用が決まっていた実態が明らかとなり、実質的な採用行為が無く指導員が希望すれば継続雇用されていたことがより一層明らかとなった。また、中労委は、労組法7条1号該当性については、使用者性を独立した論点から外す争点整理もなされ、一定の前進ある命令が期待された。

 しかし、冒頭でも述べたとおり、中労委は、CLCが指導員の雇用を承継することになっていたとはいえず、また継続雇用の拒否が組合員であることの故をもって行われたと認めるに足りる証拠もないとして、労組法7条1号該当性を否定し、また近い将来労働契約関係が成立する可能性が現実的、具体的に存しないとして使用者性も否定し、労組法7条2号該当性も否定した。

中労委命令は、不当労働行為意思について、府労委の最終盤で提出した、情報公開で入手した、CLCの代表者の「労働組合関係者を同席させるような人物なら面談しない」との労働組合への強い嫌悪を示す発言が記載されている堺市が作成した報告書について全く触れず、さらに代表者や堺市の担当者の証人申請を却下しながら、これを認めるに足りる証拠がないとして認定しなかった。この点は極めて不当であるといえる。

また、中労委命令は、実質的な雇用の承継についても、審問で明らかとなった、電話での意思確認のみで雇用されるなど指導員が希望すれば雇用されることが前提でありCLCの実質的な選考は予定されていなかったという実態などに触れず、単に他の指導員について形式的な面接が行われていること等を理由にCLCの選考行為があったとし、また雇用の承継についての契約がないことなどを理由に実質的な雇用の承継を否定した。この点も、実態に基づかない極めて形式的な判断であり、不当であると言わざるを得ない。

 今回のような継続雇用拒否がまかりとおれば、運営事業者の交代の度に指導員の雇用が不安定となり、そこで働く指導員のみならず、子どもや保護者へも大きな悪影響が出ることになる。組合・弁護団としては、今後東京地裁での取消訴訟の提起を検討しており、学童指導員の雇用の安定と充実した保育の実現のため、今後も一丸となって闘い抜く所存である。今後もより一層の支援をお願いしたい。

(弁護団は、豊川義明、村田浩治、中筋利朗各弁護士と冨田)

ABCラジオスタッフが朝日放送に 地位確認請求訴訟を提起

弁護士 村田 浩治

1 提訴の経緯

2020年2月3日付で大阪府労委が団体交渉拒否は不当労働行為であるとしたABCラジオスタッフユニオン事件は、現在、中労委で再審査の調査が進行している。

大阪府労委は、雑誌「労働判例」でも中労委雑誌でも紹介され注目されている。府労委命令は、派遣元会社が朝日放送グループホールディングス株式会社(以下、「朝日放送」という)の示唆の元で設立され、朝日放送が派遣制度の枠組みを超えて、派遣労働者一人一人を特定(採用)し、経験や能力の査定による派遣料金の決定等に関与し代金の決定賃金決定をしていたとして、派遣契約の解除により労働者の地位を失う結果についても、労働契約上の使用者と同視できる程度に現実的具体的に決定していた者であるとして「労働組合法上の使用者」であり団体交渉拒否が不当労働行為であると判断した。

これに対し、中央労働委員会に再審査を申し立てた朝日放送は、中労委からの和解の打診に真摯な対応をしない。本件が労働者派遣契約解除の形をとった解雇事件であるにも関わらず、和解においてそうした自覚がないことが明らかとなった。府労委の認定を踏まえれば、朝日放送が労働契約上も使用者であると考え、10月9日、大阪地方裁判所に提訴した。

2 黙示の労働契約関係の判例の死滅状態

本来労働契約は直接雇用が原則であり、労働者を指揮命令してその労務の提供の対価を支払うものが使用者である。労務提供を受けていないものが形式上「雇用者」であるという詭弁を弄し、労務で利益を上げている者が雇用責任を免れることがあってはならない。これを防止するため労働基準法6条及び職業安定法44条が定められた。

「黙示の労働契約」論は、こうした形式的な雇用責任回避を許さず、客観的な事実に基づいて指揮命令者と労務提供関係、賃金支払い関係がある者に労働契約上の使用者としての責任を負わせる法理である。

ところが、労働実態に応じて判断する黙示の労働契約論は、雇用関係が当初から分離している労働者派遣制度が出来たため、例外的に指揮命令者である派遣先が雇用主でないことが直ちに違法とならない。1985年に労働者派遣制度が成立し、雇用と指揮命令と労務提供関係が崩れる労働関係が登場した結果、黙示の労働契約は偽装請負関係も含め、ことごとく排斥される状態となっている。

違法派遣の場合も、派遣元と労働者の雇用関係が無効であるとして黙示の労働契約を認定した松下PDP大阪高裁判決(2008年4月25日)を最高裁(2009年12月18日)が覆した。偽装請負もまた違法派遣であるから派遣元事業者と労働者の雇用関係は有効である。最高裁は、派遣労働者の「派遣元との雇用は保護」されるべきだから、「特段の事情の無い限り」派遣元と労働者の雇用は有効とした。最高裁判決以後、派遣関係では雇用契約関係を否定する判決が蔓延し、黙示の労働契約論は死滅したかのようであった。

3 本件の特徴

本件は、敗訴が続く三面関係における就労先の使用者性が論点である。本件は、派遣元とされる合同会社DHは朝日放送の示唆によって設立され、その実態は5人の労働者のために、一人の労働者の配偶者が代表者として登記された形骸的な法人であり、大阪府労委も「派遣制度の枠を越えて」朝日放送が、労働者の特定(面接)採用、賃金の査定、料金の支払い、指揮命令を行っていたことが認定されている。大阪府労委が労働組合法上の使用者として認定した事実は、朝日放送が労働契約上の使用者でもあることも示している。

本件は三面関係ではなく朝日放送とニュースのリライターであるスタッフとの二面関係である。こうした実態に即して、法人格否認の法理(形骸化し濫用された合同会社DHという法人の否定)による労働者と朝日放送の契約関係の成立、さらに松下PDP最高裁判決が示した派遣元との雇用契約を無効と判断できる「特段の事情がある」との主張を行っている。派遣元との雇用契約が無効であれば、指揮命令関係、労務提供関係による労働契約成立を認めることは容易となるはずである。

大阪府労委の認定した事実を元に、松下PDP事件を乗り越える労働契約上の地位確認を求める訴訟は大きな可能性を秘めている。提訴した5名の原告に支援をお願いする。

(弁護団は、村田浩治、河村学、加苅匠)

派遣研究会と労働局との懇談会報告

弁護士 脇山 美春

1 懇談参加者・懇談時間

2020年10月7日、毎年恒例の、労働局需給調整事業部と民法協派遣研究会との懇談会を開催した。
懇談の時間について、事前に労働局から、新型コロナウイルスの感染予防のため、懇談時間は30分間で、と言われていたが、14時35分から15時15分までの合計約40分間、懇談をした。

2 懇談で得られた労働局の回答

(1) 派遣法31条の2第2、3項の説明義務違反を理由とする派遣労働者からの相談があれば、労働局は指導する。公示している職種と異なった職種に派遣労働者を就労させたとする相談があった場合には、派遣労働者からの聴き取りを行ったうえで、実態を調査し、実態が職種と異なる場合には、実態に沿った形に修正するよう指導する。職種の修正ではなく、経験年数やグレードの変更を指導する場合もある。

(2) 令和2年6月の事業所ごとにおける派遣先均等均衡処遇方式と労使協定方式の件数もしくは割合については、現時点では集計中で回答できない。担当者の体感として、労使協定方式が多い。

(3) 均等均衡処遇方式に関し、待遇格差の不合理性や、職務の内容、配置の変更の範囲の同一性についての判断を行う。短時間・有期雇用労働者および派遣労働者に対する不合理な待遇などの禁止に関する指針(ガイドライン)等に基づいて、その都度個別具体的に判断する。交通費などについても同様に、ガイドライン等にしたがって判断する。ガイドライン等に違反し、派遣法違法と判断できれば、指導を行う。均等均衡方式に関する指導があった場合には、他の事業主や派遣労働者に対し、指導例として説明をすることはある。

(4) 労使協定方式について、派遣法40条の4第1項の手続き上の不備があれば、同項の労使協定として認められない。労使協定方式の労使協定に不備があった場合、派遣先均等均衡方式に戻るはずだが、労使協定の一般基準に戻すように是正するよう指導する。

(5) 行政ADRは、形式としてはあっせんに近い。派遣労働者からの相談があった場合に、そのような制度があることを説明し、ADRを選択するかの判断を任せる。ハローワークと大阪の派遣元労働者に対しパンフレットを全て郵送しており、各ハローワークにはこれが設置されていて、周知がなされている。法制度周知のセミナーも開催しており、セミナーには派遣労働者であればだれでも参加できる。

 派遣研究会からは、派遣先均等均衡処遇方式と労使協定方式の件数もしくは割合・ADRについて、統計的な数字を公表してほしい、と要望を出した。

豊川義明弁護士出版記念会が 開催されました

弁護士 城塚 健之

 豊川義明副会長(以下、著者)が2019年9月に日本評論社から『労働における事実と法―基本権と法解釈の転回』を上梓されたことは、鎌田幸夫弁護士により民主法律時報2019年 月号で詳しく紹介されているとおりです。そのお祝いの会が、萬井隆令会長、西谷敏大阪市大名誉教授、菅義人大阪労連議長、大川真郎弁護士ほかの呼びかけにより、2020年9月 日、エル・おおさかにて、開催されました。

会の持ち方については、あらかじめ著者から、「単なるパーティでは心苦しいので若手弁護士のみなさんと議論をする場にしたい」という、(ありがたくもちょっと面倒くさい)リクエストがありましたので、著者から「この本で伝えたかったこと」と題するミニ講演をいただき、それをふまえて若手弁護士と質疑応答をしていただくという構成としました。

ところで、本来は4月開催を予定していたのですが、コロナ禍のため、何度も延期を繰り返す羽目となりました。それでも何とか出版から1年以内には、という思いから、第2波の推移を見定めつつ、この日の開催となった次第です。感染防止のため、懇親会の設定は見送らざるをえませんでしたが、その反面、著者の(面倒くさい)リクエストが生きてきたのでした。

当日は、本書を読んだ人もまだの人も含めて 名のご参加をいただきました。司会は、民法協 周年記念パネルディスカッションで著者と議論ができて嬉しかった、ぜひ恩返しがしたかったという清水亮宏弁護士。
開会のご挨拶は萬井会長。ここで萬井会長が“辛口評論 ”を始めるものですから、聞いている方はドキドキしたのですが、要は菅野教授の批判をもっと書いてほしかったし、若手弁護士も菅野説を信奉するのはたいがいにしろ、というのがその趣旨でした。

次いで著者からのミニ講演、そして西田陽子、藤原航、佐々木章各弁護士からの質問とこれに対する著者の応答が続きました。質問には私自身が聞きたいなと思っていたものも含まれており、さすが若手のみなさんが一生懸命準備してこられたことが分かりました。

また、関学ロースクールの同僚である池田直樹弁護士から、著者が学内で学生を励ますためにバナナを配ってまわっているという、まさに著者のお人柄が伝わってくるエピソードを紹介。併せてロースクールの現状及び将来についての質疑がなされました。このほか、著者と付き合いの長い吹田市職労の坂田俊之委員長、大阪市労組の井脇和枝委員長からもお祝いの言葉をいただくなど、著者の多方面にわたるご活躍ぶりを改めて浮き彫りにする場となりました。

最後は、大川弁護士から、労働法を極めてこられた著者への敬意の込められた閉会のご挨拶をいただき、充実の1時間半が瞬く間に終了となりました。

本書については、民主法律時報だけでなく、自由法曹団通信(城塚)、季刊労働法(宮里邦雄弁護士)、季刊・労働者の権利(鴨田哲郎弁護士)、労働法律旬報(三井正信広島大教授)、法の科学(塩見卓也弁護士)など、さまざまな媒体で紹介がなされています。
未読の方はぜひこれを機会にお読み下さい。

《書籍紹介》野口啓暁 編著 西谷敏 監修 『モデル条文でつくる 就業規則 作成マニュアル』

弁護士 足立 敦史

1 本書の特徴

就業規則は、使用者が統一的な労務管理のために作成されるものであるため、その内容は、使用者の利益に寄ったものになりがちです。他方、労働者の権利や利益に寄りすぎても、使用者は採用してくれません。そこで、本書は、就業規則の策定方法につき、労使の垣根を越えて、双方に有益なモデル条項を提示し解説することで、労働者の権利・利益を実現しながらも使用者、特に中小企業経営者に実際に採用してもらえる就業規則のモデルを目指していることが最大の特徴です。

そのような特徴を実現するために、著者の方々は、2014年春に神戸就業規則研究会を立ち上げて、労働者側弁護士、使用者側弁護士、労使双方を扱う弁護士ら5名、社会保険労務士ら7名と労働問題に携わる多様な実務家が集まり、6年間もの間、議論を尽くされました。

また、西谷敏大阪市立大学名誉教授が、同会の顧問を務められて「人間の尊厳」と「ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)」の理念を尊重する観点から、本書を監修されました。

本書は、長期間をかけて作成されながらも、働き方改革、新型コロナ禍といった直近の社会情勢にまで対応しており、コロナ禍での休業対応やテレワーク規程を備えていることも大きな特徴です。

働き方改革への対応の一例として、年休の時季指定義務化に関する規定では、社員の事前申出による時季変更を認める工夫をするなど、労使のバランスを考慮したモデル規定が提案されています。

テレワーク規程では、厚労省のテレワークガイドラインが詳述していない、テレワークを実施するための具体的な手続きを規定し、テレワーク特有の「中抜け時間」(休憩時間以外で業務から離れる時間)の取り扱い、勤務内外の区別がつきにくく結果的に長時間勤務となってしまうリスクに対応する規定、在宅勤務手当の在り方等にも配慮されています。

具体的なモデル規程を見ていただきたいところですが、それは是非本書を手に取ってご覧ください。

2 書籍紹介の経緯

本書の編著者は、神戸の野口法律事務所の野口啓暁弁護士(元・北大阪総合法律事務所所属)です。私が野口法律事務所にて弁護修習中にお声がけいただき、神戸就業規則研究会にオブザーバーとして参加しました。私が参加した時は、本書の無期転換の規定を見直し作業中で、参加者の先生方が忌憚なく活発に議論されており、それを野口弁護士がその場でモデル条項にまとめ上げておられた過程を見ているため、本書の内容が質を伴うことを体感しております。

また、本書の著者には、民法協とも協力関係にある兵庫民法協の現会員で前事務局の今西雄介弁護士と現事務局の大田悠記弁護士が参加されています。
そんなご縁もあってご紹介させていただきます。

本書のモデル規程を多くの中小企業経営者に採用してもらい、労働者の働きやすい環境を整えることで、ディーセント・ワークを実現できるよう、是非手に取っていただき、多くの方にご紹介いただきたく存じます。

旬報社2020年 月9日発刊
A5版 576頁
定価 6000円+税