民主法律時報

2020年10月号

任天堂紹介予定派遣直接雇用拒否事件 提訴

弁護士 足立 敦史

第1 本件事案

1 請求内容

2020年9月8日、任天堂株式会社にて産業保健師として紹介予定派遣で就労してきた 代から 代の女性二人が、任天堂株式会社及び同社の産業医に対し、①労働者としての地位確認請求(直接雇用拒否等による)、②賃金請求(予備的に損害賠償請求)、③産業医のパワハラ及び任天堂の対応懈怠に基づく慰謝料としての損害賠償請求を求める訴えを提起しました。

2 事案の概要

原告らは、2018年4月に紹介予定派遣として採用され、任天堂で就労を開始しました。その採用過程において、原告らは、任天堂に履歴書及び職務経歴書を提出し、任天堂の人事担当に会って、正社員採用と変わらない採用面接を2度受け、任天堂から内定が出たとの連絡を派遣会社から受けました。これは任天堂による実質的な採用行為といえます。

原告らは、就労開始後、人事から産業医の指示を受けるよう言われて、産業医から指示を受けて業務を行っていました。ところが、同年6月15日の内々定時健康診断のチェックでの行き違いから産業医の態度が一変し、原告らは、①カルテ整理以外の業務内容について指示されない、②今まで担当していた業務についても担当しなくてよいと言われる、③声かけ、呼びかけを無視されるなどのパワーハラスメントを受けました。

原告らが任天堂の人事部に相談するも産業医に対する指導は行われず放置されました。その後、同年9月6日、13日に任天堂の人事担当者との面談で、原告らは、同担当者から、原告らの業務能力・態度に問題はないが、産業医と円滑な協力体制が構築できなかったことのみを理由に直接雇用ができない旨を告げられ、直接雇用を拒否されました。

3 提訴当日

当日は、京都地裁で入廷行動と司法記者クラブで記者会見が行われました。記者会見では、原告二人が、「納得のできない不当な理由で直接雇用を拒否された。パワハラや不当な扱いをされただけでなく履歴書にまで泥を塗られたことは絶対に許すことができない。」「任天堂はパワハラをした産業医を指導せずに、雇用を拒否された。採用する側は、人の人生をなんだと思っているのか。」と訴えました。紹介予定派遣での直接雇用拒否を争うことは、全国初ということでマスコミの関心は高く、記者会見にはNHK、民放各社及び新聞社各社が多数参加して、ニュースや新聞で幅広く報道されました。

第2 本件の理論的な問題点と提訴の意義

1 本件の理論的な問題点

紹介予定派遣では「特定」行為が許されますが、労働者派遣である以上、採用決定を行うのは派遣元であり、派遣先が採用決定を行うことは許されません。そして、任天堂は前述したように実質的な採用行為を行った以上、この時点で、原告らと任天堂の間に黙示の労働契約が成立しているのではないかを問題にしました。また、仮に黙示の労働契約が成立したとはいえなくても、原告らには直接雇用の合理的な期待が生じているため、解雇権濫用法理の趣旨が及ぶのではないか。そうであるならば、産業医との関係構築ができなかったという理由(原因は任天堂のパワハラ放置)のみで直接雇用を拒否することができないのではないか等が問題となります。

2 提訴の意義

紹介予定派遣は、当初、正規雇用を促進するための制度と言われていましたが、結局は本件のように労働者の不利に運用されています。本裁判は、いったん実質的な採用行為を行いながら、不当な理由で直接雇用を拒否した任天堂の責任を追及し、今後、紹介予定派遣制度を悪用した不当な労働者の切り捨てを防ぐ重要な意義を有します。

初回期日は、2020年12月15日となりました。この度、弁護団に豊川義明弁護士、京都の中村和雄弁護士に加入いただきました。先生方と議論を尽くして訴訟追行いたします。

(弁護団 岩城穣、豊川義明、中村和雄、冨田真平、佐久間ひろみ、足立敦史)

徳島給与口座違法差押えに対する 国賠訴訟を提訴

弁護士 西川 裕也

1 はじめに

徳島県市町村総合事務組合(以下、「被告」とします。)が、徳島市内に在住する男性(以下、「原告」とします。)の給与が振り込まれた預貯金口座を全額差し押さえたことを受け、令和2年5月 日付で徳島地方裁判所に上記の被告の違法な給与口座差押えに対する国家賠償請求(及び不当利得返還請求)訴訟を提起しましたので、その内容をご報告します。

2 事案の概要

原告は、給与所得者であり、賃貸物件で生活しています。月額 万円程度の給与を得て、何とか生活を維持している状況で、給与以外に財産はありませんでした。

上記の給料は、被告に差し押さえられた預貯金口座への振込みにより支払われていました。

被告は、差押処分を行う前提に、原告の財産調査を行い、上記の口座には給与が振り込まれていることを認識していたにもかかわらず、令和2年2月21日付で原告に給与が支払われた同日に、預貯金全額の差押えを強行しました。

原告は、生活の糧である給料を被告が差押えしてしまい、このままでは生きていけないため、自身でインターネットにて調査したうえで、給料を全額差し押さえることは違法であると判断した大津事件大阪高裁判決を報じた記事を見つけ、すぐに被告に対して、上記の高裁判決によれば今回の差押処分は違法な差押えであるから給料を返して欲しいと求めました。

それに対して、被告の職員は、原告の指摘する判決は高等裁判所のものだから関係ない、自分たちは最高裁の判断にのっとっているから問題ない、給与ではなく口座を差し押さえているに過ぎないと言って、全く、原告の話を聞き入れることはなく、原告に返金をしないまま、同年3月2日に取り立てた全額を滞納税金に充当しました。

3 訴訟に至る経緯

原告は、給与を全額差し押さえられてしまい、一日一食、僅かなパンをかじったり、氷を食べて、飢えをしのぎました。ただでさえ、日々生きていくだけでも大変な状況でしたが、上記の違法な差押えが横行することは問題であると考え、何とか違法な差押えを是正すべきだと考えました。

そこで、原告は、上記の違法な差押えを是正すべく、滞納処分問題に詳しい弁護士を自ら調査し、大阪の勝俣彰仁弁護士に直接に電話を掛け、本件を依頼するに至りました。

その後、同弁護士を通じて、徳島市内に事務所を持つ堀金博弁護士や違法な滞納処分の問題に取り組む弁護士の協力を得たうえで、本件訴訟を提訴することになりました。

4 終わりに

給料は生活に欠かせない資金であるため、法は全額の差押えを禁止しており(国税徴収法76条1項、国税徴収法施行令 条)、その法の趣旨から、差押禁止債権が預貯金口座に入金された場合でも差押禁止の趣旨は及ぶとする判決が続けて出されています(広島高裁松江支部平成25年11月 27日判決、前橋地裁平成30年1月31日判決、大阪高裁令和元年9月26日判決)。

上記のような給与が入金された預貯金口座を差し押さえるべきではないとする判決の内容は、被告も十分に理解しているはずです。

本件では、徳島地方裁判所においても、上記の判決の流れを汲み、違法な差押えを行った被告の責任をきちんと認めさせ、国や自治体により行われる、違法な滞納処分、行き過ぎた滞納処分に歯止めをかけるためにも、大きな意義を有すると考えておりますので、どうぞ、ご支援のほどよろしくお願いいたします。

(弁護団は、勝俣彰仁、堀金博(徳島弁護士会所属)、尾﨑彰俊(京都弁護士会所属)、牧亮太、楠晋一、冨田真平及び当職)

羽衣国際大学事件 女性講師を支援する会を結成

弁護士 西川 翔大

1 はじめに

2020年9月 日(金)18時半から、社会福祉会館で、zoomと併用して「羽衣国際大学(女性講師)を支援する会」結成総会が開催されました。会場には、羽衣国際大学教職員組合、関西私大教連、堺労連、弁護団、羽衣国際大学卒業生(女性講師の教え子)などが集いました。

2 事案の概要

本件は、羽衣国際大学で有期雇用契約により非常勤講師、専任講師として、通算すると約9年間勤務した女性講師が、労働契約法18条1項に基づき無期転換権を行使しようとしたのに対して、大学側は大学教員等の任期に関する法律(以下「大学教員任期法」といいます。)第7条の適用により無期転換権の発生する期間が「5年」ではなく「10年」であると主張して、その行使を認めず、女性講師に対して2019年3月31日をもって雇止めを強行した事件です。

女性講師は、2019年5月31日に学校法人羽衣学園に対して無期雇用契約を前提とした労働契約上の地位確認等を求めて大阪地裁に提訴しました。

3 訴訟の経過

提訴後に大きく報道された新聞記事を見て、理事長が女性講師には「気持ちよく戻ってもらう」と発言したため、女性講師の早期職場復帰を目指して、羽衣国際大学教職員組合と大学側の団体交渉を継続し、和解による解決が模索され、裁判所においても、計7回に及ぶ進行協議の中で和解の可能性が検討されました。しかし、大学側は無期雇用を受け入れることはできないと回答し、現時点で和解は困難と判断され、訴訟を進行しています。

4 大学教員任期法7条の適用がないこと

本件の主な争点は、女性講師に対して大学教員等任期法7条の適用があるのかという点です。

大学教員等任期法7条とは、大学等で先端的・総合的な研究や計画的な教育研究などを対象にして、多様な知識や経験を有する教員相互の学問的交流が行われる状況を創出することを目的に、労働契約法 条1項の特例として無期転換権の通算期間を5年ではなく10年とするものです。

大学側は任期を定めて雇用した女性講師について当然にこの法律の適用があるものと主張しています。

しかし、常に雇用の不安にさらされる有期雇用労働者にとって無期転換権は非常に重要な権限であり、無期転換権の通算期間を10年に延長する大学教員任期法7条の適用によって大学教員の身分保障は不安定なものになります。そのため、立法趣旨においても、任期制の適用が恣意的にならないように、任期制適用にかかる手続(学長の意見聴取手続、公表、本人に対する説明等)を経ることを前提とした限定的な適用が想定されています。

少なくとも大学側がこれらの手続を経たことは不明瞭であり、任期を定めた女性講師について当然に大学教員等任期法7条の適用があると主張する大学側の主張は認められません。女性講師には原則どおり労働契約法18条1項に基づき5年間での無期転換権行使が認められるべきです。

5 最後に

2013(平成 )年4月1日に労働契約法改正により無期転換権が導入されたことは有期雇用労働者にとって重要な意義を有しており、大学教員であってもそれは変わりません。大学教員の身分保障を蔑ろにする大学教員任期法は時代に逆行するものであり、関西圏の他の大学でも教員に対して当然に適用する事例が複数見られます。全国的に大学教員任期法の適用に関して正面から判断した事案はなく、今回判決までいけば全国でも大きな影響を与えることになります。今後も、結成した女性講師を支援する会を中心に、弁護団ともども女性講師の早期職場復帰を目指して取り組みたいと考えていますので、ご支援いただきますようよろしくお願いいたします。

(弁護団は鎌田幸夫、中西基、西川翔大)

イチから学ぶ!「労働組合」を活用して 職場を変える 学習会

弁護士 喜田 崇之

第1 はじめに

2020年9月16日午後7時から、『イチから学ぶ!「労働組合」を活用して職場を変える』と題して、民法協と労働社会保障研究会の共催で、学習会を開催したので報告する。

第2 学習会の趣旨・内容

1 労働組合の意義等について

本学習会では、ヤマハ英語講師ユニオンの結成や、その他の労働組合結成に携わる清水亮宏弁護士から、労働組合の意義・活用方法・作り方等について、解説をしてもらった。

本学習会の趣旨の一つ目は、昨今のヤマハ英語講師ユニオンの活躍に代表されるように、個人事業主とされている方々が労働組合を結成し、使用者側と団体交渉を重ねるなどして成果を勝ち取られている情勢に鑑み、個人事業主の方々や職場に労働組合がない方々等を念頭に、労働組合の意義・活用方法、労働組合の作り方の基本的な内容を学び、労働組合を活用して職場を変えることができるという認識を持っていただくということだった。

2 ヤマハ英語講師ユニオンの事例
次に、ヤマハ英語講師ユニオンの清水ひとみ執行委員長から、なぜユニオンを結成することを決めたのか、どのような活動を行ってきたのか等について、当事者の率直な気持ちを交えてお話してもらった。労基署で自分たちが労働者ではないと言われたことの疑問から出発し、現在、組合員数が約160名にまで成長した。

結成までの過程で、労働組合に対する間違った誤解を持っていた仲間がいたが、弁護士や他の組合活動家の方々の説明等により、正しい認識を得ることができた話があった。また、組合活動の内容や議論状況が組合員全員に見えるように全て公表してきたことなどが、組合員数が増え、活動が充実している要因ではないかという話もあり、既存の労働組合の方からも参考になったという感想が聞かれた。

3 労働者性をめぐる世界情勢
最後に、脇田滋先生から、労働組合活動や、労働者性をめぐる世界情勢等を交えて、整理してもらった。

カリフォルニア州では、2019年「誤分類」防止法が制定され、企業側が使用する方が個人事業主と主張するためには、①労働提供者が会社の支配や指揮命令から自由であること、②労働提供者が会社の通常の業務過程とは別に仕事を完成すること、③労働提供者が取引・職業又は業務において独立していること、の3点を全て証明する必要があるという内容の法律が制定されたことが紹介された(立証ができなければ、当然、労働者として扱われる)。これは、2018年4月に、州最高裁で同趣旨の判決が下されたことによるものであった。

また、同州では、検察が、違法な誤分類をしている会社(労働者性があるにもかかわらず個人事業主として使用している会社)に対し、違法な誤分類の差し止めの仮処分申請が行われていることも紹介された。その趣旨は、「労働者を個人事業主に誤分類することは、使用者として負担すべき最低賃金、失業保険料などの費用を労働者や納税者全体に不当に負わせる」というもので、日本では考えられないことであるが、理屈はなるほどと思わせるものであった。

また、韓国でも、名ばかり個人事業主とされてきた方々が労働組合を結成し、様々な業界(映画業界等)で勤労基準法(日本の労基法に当たる法律)の適用があることを勝ち取っていることも紹介された。

脇田先生の報告から、世界では、産業別の労働組合が大きく躍進し、様々な成果を勝ち取る運動を展開していること、労働組合が業界を「代表」するものではなければならないこと、判例や法律に囚われることなく要求をぶつけていくことの重要性を痛感させられた。

第3 最後に

ヤマハ英語講師ユニオンの活動のように、弁護士が、労働組合を活用して職場を変えるという選択肢を提案できるようにしなければならない。本学習会を通じて、さらにその運動・呼びかけを強めていきたいと考えている。

なお、労働社会保障研究会(まだ、仮称)とは、労働問題・貧困問題・社会保障問題等を連帯して学び、運動を構築するためにどうすればよいのか等を議論し学ぶ弁護士・社会保障学者らの私的なグループのことで、今後も、学習会・研究会の企画等を行っていきたいと考えている。

コロナ禍から雇用を守れ!――ブラック企業対策! 労働判例研究ゼミ

弁護士 西田 陽子

1 コロナ禍でも元気な判例ゼミ

2020年9月17日、秋の「ブラック企業対策! 労働判例研究ゼミ」が民法協事務所とzoomの併用で開催されました。
今回は、コロナ禍における整理解雇がテーマでした。73期修習生から豊川義明弁護士まで、幅広い年代が参加しました。発表により与えられた素材をもとに、参加者のそれぞれがコロナ禍での新しい労働問題について自分の頭で考え議論する、大変刺激的なゼミとなりました。

2 ゼミの内容

①整理解雇の一般論
担当は加苅匠弁護士。基本書や判例に基づき、丁寧に整理解雇の一般論を紹介し、議論の土台を作りました。豊川弁護士からは、主張立証責任の所在や年齢差別の問題等について、どのように考えるかという投げかけがあり、参加者一同、基礎基本が奥深いものであることを学べました。

②日立メディコ事件(最判昭和61年12月4日 労判486号6頁)
担当は西川翔大弁護士。zoom開催にあわせて、パワーポイントで見やすく事実関係が整理されたレジュメ(力作!)を用いての発表でした。第1審と控訴審・最高裁の判断のポイントが良く分かり、当時の労判の解説が既に解雇制限の正当化根拠から本判決を批判していたことを知ることができ、大変勉強になりました。

③コロナ禍における整理解雇法理の再構成
担当は筆者。コロナ禍の特徴を整理し、解雇制限の正当化根拠に遡り、コロナ禍における整理解雇法理を再構成しようという新しい試みでした。とくに、日立メディコ事件との関係では、コロナ禍において非正規が優先的に解雇されることに合理性があるのかという問題提起をしました。コロナ禍の整理解雇に関する参考文献は少なく、「道無き道を行く」発表でしたが、少なくとも議論の素材を提供することはできたようで、活発な議論が行われました。

④雇用調整助成金に着目した整理解雇の無効主張(弁護団事件報告)
担当は川村遼平弁護士。コロナ禍で整理解雇をされた弁護団事件につき、使用者が雇用調整助成金を利用しなかったことやその時期等に着目した主張について端的で分かりやすい報告がありました。中西基弁護士からは、「雇用調整助成金を利用しない解雇は、社会的相当性を欠き、整理解雇の4要件を検討するまでもなく無効ではないか?」との挑戦的な問題提起がありました。

3 次回ゼミ日程(ご参加お待ちしております!)

次回は11月27日(金)午後6時半からの開催を予定しています。引き続き、コロナ禍における労働問題を取り扱う予定であり、次回も挑戦的な問題提起と刺激的な議論がなされること、間違いありません。是非ご一緒に、新しい労働問題を考えてみませんか。みなさまのご参加をお待ちしております。

看板に偽りあり! これが大阪都構想 ~ 事実を隠し、夢を売る維新政治 ~ 在阪法律家団体オンライン学習会報告

弁護士 愛須 勝也

1 はじめに

2020年9月23日、民法協、自由法曹団大阪支部、青法協大阪支部、大阪弁護士9条の会が共催するオンライン学習会を開催。講師は、フリージャーナリストの幸田泉さん。以下、要点を報告する。

2 反対票対策のための法定協議会

維新は、前回住民投票の反対70万票の理由を、①市民的メリットが分からない、②住民サービス劣化に対する不安、③ムダ減らしにならない、④大阪市がなくなるの4つに分析。これを「賛成」にするため法定協議会を重ねたので、都合の悪いところを隠蔽する傾向が強く、市民をだます手口は前回より巧妙・悪質に。

3 市民的メリットはない

メリットを見せることが強調され、経済効果を数字で見せるため、嘉悦学園に1000万円かけ委託、10年で1兆円もの経済効果がはじきだされた。しかし、市民からの指摘で誤りが続々判明、 カ所近くも訂正に。報告書自体の信用性が怪しい上に、コロナによる経済状況の変化はまったく考慮されてない。

4 ムダ減らしにはならない

前回は新庁舎建設に600億円もかかる点が評判が悪かったので、現市役所を中之島庁舎として残し各区の職員を寄せ集めることに。協定書が想定する中核市モデルによると330人もの職員増員が必要に。

5 大阪都構想と市民サービス低下はセット

結局、「都構想」は予算の付け替えに過ぎず、構造的に何かを削らなければない。必然的に住民サービスが削除される。現在、全区24カ所にある市民プールも9カ所に。介護保険などの行政事務が巨大な一部事務組合によって担われることになるが、協議されないまま大混乱が危惧される。

6 区役所もなくなる(デマではない)

区役所がなくなることに対する不安も高かったので、「区役所がなくなるというのはデマ」と弁明に必死。現在の24の行政区を「地域自治区」という形で残し、「地域自治区」事務所を「区役所」と呼ぶというインチキぶり。

基準財政需要額が200億円足りないという試算が自民市議団から出たが、府市は不足分は夢洲カジノのカジノ税(350億円)をあてにしており、都構想とカジノ構想が連動。「都構想を支えるためにカジノをやらざるを得ない」関係。コロナでカジノ企業は相次いで撤退表明する中、残った業者に条件引き下げてでも思いとどまらせることに。

7 動けば変わる

世論調査では賛成、反対が拮抗。反対派は生活密着した具体的な判断、賛成派は漠然としたイメージで、都構想になれば成長するという夢。しかし、70%が説明不足と感じる状況。知れば知るほど反対派が増える。

ここに確信を持って、残された期間、どれだけの市民を投票所に足を運ばせることができるかにかかっている。

 

※「大阪市を廃止し特別区を設置することについての投票」は、10月13日から期日前投票・不在者投票 開始、投票期日は11月1日です。

《書籍紹介》木下秀雄・吉永純・嶋田佳広 編 『判例 生活保護 わかる解説と判決全データ』

弁護士 喜田 崇之

1 本書の特徴

本書は、生活保護の実務上の論点につき、体系的に整理し、論点の解説が判例の紹介とともになされています。生活保護判例研究の集大成ともいえる一冊です。

本書の著者・編者は、社会保障問題に精力的に携わってこられた学者・弁護士ら(木下秀雄先生、嶋田佳広先生、高木佳世子先生、舟木浩先生、村田悠輔先生、吉永純先生)です。本書の「はじめに」でも記載されているのですが(また、著者・編者のラインナップから見てもお判りいただけますが)、単に実務的な知識を網羅しているだけでなく、実務的な問題を批判的に整理している点も特徴的です。

生活保護行政の細かい点は、いわゆる内部通達で規定されていますが、必ずしもその通達等が適法とは限りません。当該通達の解釈をめぐって法的論争となることもあって、その意味で判例の調査は不可欠です。この点、本書は、実に詳細に、裁判例が整理されて掲載されていて、実務的に非常に役に立ちます。とりわけ、生活保護行政の実務と対峙するときに行政側の通達の壁が大きく立ちはだかっていると感じることがありますが、それを突破することを考えたときに、批判的な観点で実務上の論点が整理されてまとめられていることは、大変助かります。

本書で整理されている生活保護に関する判例は、多くの弁護士・当事者らが、目的意識をもって取り組んできたものですが、それらの判例が網羅的に解説されているので、現在の判例の到達点や、残されている課題をすぐに理解することができます。

2 本書は民法協会員必携の書籍である

生活保護分野に関する知識は、単に生活保護行政に取り組む弁護士だけでなく、全ての民法協会員に求められる知識です。

例えば、非正規労働者の相談を聞くとき等、生活保護の利用が常に選択肢として頭になければならない(特に、コロナ渦下においては、生活保護の役割は非常に重要です)場面がありますが、本書では、生活保護の補足性に関する論点(稼働能力の活用・収入認定等)も網羅的に整理されているので、生活保護の利用に関する基本的な知識を習得することも可能です。

また、特に弁護士にとって、生活保護を利用されている方が逮捕・勾留された場合に生活保護はどうなるのかといった論点や、保護費の返還(法63条)・不正受給(法78条)に関する論点は、いずれも、刑事事件や破産事件等を処理する上で、間違うことのできない必須知識ですが、本書では、そのあたりの論点も、判例を交えて整理されています。

3 まとめ

以上のことから、本書は必携だと思います。著者・編者も、おそらく大変な労力をかけてまとめられたと思いますので、ぜひ、ご購入いただければと思います。

 

B5判 272頁
定価 5,500円+税
発行 山吹書店 2020年8月31日
発売 JRC

《寄稿》「大企業労働者の主体形成」についての一試論

島根大学名誉教授 遠藤 昇三

 「大企業労働者の主体形成」というそのものずばりの元島邦夫氏の本(1982年、青木書店)によっても、大企業労働者の主体形成がどう出来るのか、不明であった。『民主法律時報』2020年6月号で私が紹介したように、新福祉国家目指す勢力において変革主体として大企業労働者が設定されていない状況にある。大企業労働者の主体形成という問題は、現代における焦眉の課題と思われる。それに関して考えていることを述べてみたい。但し、ここで問題とするのは、大企業労働者の「労働者の権利あるいは労働組合運動の主体」という側面に限定する。また、大企業労働者とは、特に現在では正規かつ基軸の労働者を指す。そして、主体形成の主として精神面を扱う。

最初に、大企業労働者の状況を、歴史的に大まかに振り返っておく。第一段階は、戦闘的労働組合運動が支配的な時代(戦後から1960年まで)であるが、当初は、その戦闘的労働組合運動の担い手として、大企業労働者が存在していた。しかし、それが取り組んだ大争議(例えば、全自動車日産分会)の敗北、それは、企業側の総力を挙げた争議・組合潰しと、それに迎合した企業意識の強い管理職及び労働者による第二組合の形成とその多数派化によるものであったが、それにより大企業における戦闘的労働組合運動は、衰退して行く(その最後が、1960年の炭坑労働組合三井三池労組の敗北である)。そして、第二段階である企業社会が成立(確立段階を含めて、1980年代半ばまでの時期である)する。大企業においては、協調的(単に労使協調的と言うより、企業協調的な)労働組合が支配的となり、大企業労働者は、労使共同の抑圧の下、企業社会を基本的に受容する、強力な企業意識(従属・依存的)に浸されて行く。そこでは、大企業正規労働者は、企業の利益を何よりも優先し、自らの労働者性を否定ないしは希薄化させ、他方では非正規労働者に対する差別・優越意識を進化させて行く(非正規労働者を組合員としないということが、その端的な表現である)。第三段階は、それ以降今日までだが、大企業の多国籍(グローバル)企業化に、労働者は自らを適合させて行く、単なる従属・依存を超えた労使一体化とさえ言える。企業社会の解体を含めた日本的労使関係の再編は、賃金を初めとした労働条件の低下どころか雇用さえ守れない、雇用形態の多様化とりわけ非正規労働者の多様化と増大、正規労働者の多様化・不安定化・縮小という状況を、作り出している。そうした状況にあるからこそ、大企業労働者の中心である企画・研究・管理的労働者層は、多国籍企業の動向を支持しその海外展開と他方での国内的再編を一層進めるべく、国家・政府・財界の新自由主義的改革を支えているのである。

では、第二に、大企業労働者の性格・意識・心性は、どう捉えられるであろうか。一つは、強弱なり中身の差異はあれ、企業意識が強いことである。勿論、企業意識のない大企業労働者は存在しないであろうが、他の意識(例えば組合意識や市民意識)と両立しうる意識であるかどうかという点で、大変心許ない。過労死・過労自殺した大企業労働者の大半が、企業批判なり敵対的な心情・気持ちを示すどころか、企業に謝罪しているのが、実態である。また、過度に企業尊重的であり、他の労働者をリストラした自分自身がリストラされても抵抗しないのが、その証である。もう一つは、大企業労働者性への固執である。長期雇用を含めた大企業労働者であることの利益を享受しかつ享受し続けようとする、その利益の喪失に脅える、すなわちエゴイストである。非正規労働者への差別意識、逆の優越意識(自ら非正規労働者に落ち込むことへの恐怖に裏打ちされた)は、それに基づく。それらを根底において支えるのが、労働者間の過度の競争でありその受容である。そして第三に、現代において特に留意すべきなのは、帝国主義的市民性である。市民であれば、他民族抑圧を本質とする帝国主義に反対するとは、限らない。帝国主義を擁護し積極的に推進する、少なくともその政策展開を黙認するとすれば、彼らは、帝国主義的市民である。多国籍企業の労働者は、自らの企業の利潤特に海外からの利潤の獲得に積極的・消極的に協力する限り、この帝国主義的市民であると言わざるをえない。彼らは、必然的に、国内的な(企業内も含む)自由と民主主義を否定しがちである。

では第三に、大企業労働者は、如何にして主体となりうるのであろうか。私は、大企業労働者の主体形成は大変に難しく決定打はないし、主体形成の道筋も明確になっていないと思っている。ただ、ここまでの展開を前提とすると、企業外からの市民運動からの批判や国家的規制(現状では非常に不十分だが)が必要であることは、言うまでもないが、大企業労働者の内側からの変革に、(絶望的見通しを持ちつつ)期待したい。即ち、上述の否定的なあるいは消極的な性格・意識・心性の自己否定・自己変革を、大企業労働者自身の努力により、獲得することである(要は、池井戸潤原作の「やられらたやりかえす。倍返しだ」と不正・不当に立ち向かう半沢直樹くらいになれということ)。大企業と対立し大企業及びその労働者から敵として捉えられている少数派労働者・労働組合が依拠し共同すべきなのは、この自己否定・自己変革であり、かつその点において自らとの違いがないという捉え方・構え方が、不可欠である。両者を異質なものとしている限り、依拠・共同は、ありえない。