民主法律時報

2020年9月号

民法協 第65回定期総会のご報告

事務局長・弁護士 谷  真介

8月29日、エル・おおさかにおいて、第65回定期総会を開きました。

新型コロナウイルス感染症が拡大する中で、総会の開催方法について幹事会においても議論がありましたが、今回はじめて実会場とweb会議(zoom)の併用で実施しました。参加者は実会場が53名、web参加が45名程度の合計約100名でした。

前日、安倍首相が体調の問題を理由に辞任を表明し、7年8か月続いた「安倍一強」体制が突然終わりを告げました。第一部は、この安倍首相辞任表明を受けた萬井隆令会長の開会の挨拶に始まり、基調講演として、立命館大学(政策科学部)の森裕之教授から「コロナ禍が暴く大阪都構想――11月住民投票は暴挙である」との演題でご講演頂きました。

森教授は、これまでも、専門である地方財政学の見地から、長い歴史があり政令都市として発展してきた大阪市を廃止・分割する「大阪都構想」について、市民にとって何のメリットもないことから批判されてきました。特に維新の会が強調する「二重行政廃止論」については、財政的な裏付けがまるでなく、大阪市を廃止・分割する論拠に全くなり得ないことを強調されてきました。また「都構想」では、大阪府、4つの特別区、167もの一部事務組合(これも地方自治体)、地域自治区という4層の奇怪な構造になることや、分割することそのもので経費が確実に増えること、そして都構想自体に241億円ものイニシャルコスト、毎年30億円ものランニングコストがかかること等から、住民サービスが確実に低下することを客観的な数字を元に丁寧に説明されてきました。それに加え、今回はコロナ禍の中で再度の住民投票が行われようとしています。住民税や固定資産税といった税収が軒並み下がり、逆に保健・医療体制の拡充や経済対策や生活保護の増大等で支出が爆発的に増えることが確実な中、維新の会はコロナの影響を「国から臨時交付金による相応な財政措置が想定される」という根拠もない理由で財政シミュレーションに盛り込まず、逆にコロナを理由に住民への十分な説明もせず、押し通そうとしています。この点について、森教授は「狂っているとしか言いようがない」、「笑うしかない」と強い口調で批判された上、住民投票では市民にとって何のメリットもないことを丁寧に伝え投票に行ってもらうことが大事だと訴えられました。質疑応答の後、大阪市をよくする会事務局次長の中山直和さん、自由法曹団大阪支部事務局長の岩佐賢次弁護士から、それぞれ都構想や住民投票に対峙する取組みについて報告と意見が述べられました。

第二部は、私から2020年度の活動報告と2021年度の活動方針を報告しました。2020年度の特に後半はコロナウイルス感染拡大や緊急事態宣言による国民、労働者が受けた深刻な影響と、これに対応してきた民法協の活動・課題について重点的に報告しました。その後、①コロナウイルス問題、②非正規雇用等の2つのテーマについて討論しました。①コロナウイルス問題では、大阪医労連の前原嘉人書記長から、コロナ禍における病院職場の過酷な状況、そしてコロナの影響で病院自体が経済的に逼迫している深刻な状況が報告されました。次いで自交総連関西地連の庭和田裕之書記長からは、観光バスやタクシー事業の逼迫した状況、そして労働組合で雇用調整助成金等を活用させ解雇を阻止し生活を守ってきた取組みが報告されました。②非正規雇用等の問題では、西川大史弁護士よりコロナ禍で注目されていないパート有期法を活用した均等待遇の取組みと秋に最高裁で弁論・判決が予定されている旧労契法 条に関する日本郵便事件や大阪医科薬科大学事件の状況について、また加苅匠弁護士からウーバーイーツやヤマハ、コンビニフランチャイズや楽天出品者など「雇用によらない働き方」が広がる中、個人ではなくユニオンを作って連帯して企業に対峙する取組みも広がっていることの報告がなされました。

その後、特別報告として村田浩治弁護士から今年7月に大阪地裁堺支部で判決のあったフジ住宅ヘイトハラスメント事件について、また守口学童労組雇止め事件の原告団より同事件の裁判・労働委員会闘争について報告がありました。

昨年から始まった本多賞の表彰では、今回は2団体が受賞しました。一つは使用者から労働者として扱われず、相談にいった労働局で「あなたは労働者じゃない」と言われたところから始まり、雇用化を方針に掲げて勉強会の末に労働組合を結成し、粘り強い取組みの中で会社の雇用化方針を勝ち取ったヤマハ英語講師ユニオン、もう一つは、労働組合結成後に整理解雇されたことに対し、裁判・労委闘争で勝ち続け、最後には中労委で「現実に就労させなければならない」という画期的な命令を勝ち取り、これを武器に解雇された3名全員の職場復帰を勝ち取ったエミレーツ航空事件の労働組合・弁護団が受賞しました。受賞者のいずれのスピーチも、粘り強い取組みで権利と成果を勝ち取られたことを参加者一同で共有し、また労働組合の力を確信することができた感動的なものでした(本多賞については10月号に詳細を掲載します)。

最後に、決算・予算及び会計監査報告、そして総会の特別決議として、①今こそすべての働く者の権利擁護・生活保障のため連帯を呼びかける決議、②真に必要な規制や対策をしないままの副業・兼業の普及・促進に反対する決議、③コロナ禍での「大阪都構想」住民投票実施に反対し、府民を守る施策を求める決議を、各採択しました。

また新役員の人事案も承認されました。退任は事務局次長の辰巳創史弁護士と事務局の加苅匠弁護士、新任は事務局次長の高橋早苗弁護士と事務局の川村遼平弁護士と中西翔太郎弁護士です。最後に大江洋一副会長から閉会の挨拶をいただき、定期総会は終わりました。

2021年度も、新体制の下で、コロナウイルスによりますます打撃を受ける労働者やフリーランス、市民等を守る取組み、「大阪都構想」の住民投票、安倍首相辞任後に国民による政治を取り戻すたたかいなど、課題が山積しています。コロナ収束の見通しがたたない中で、権利討論集会を含め新たな形での運動を模索する必要があります。引き続きよろしくお願いします。

奈良学園大学事件 勝訴判決報告

弁護士 西田 陽子

1 はじめに

2020年7月21日、奈良地方裁判所(裁判長島岡大雄、裁判官千葉沙織、裁判官佐々木健詞)は、奈良学園大学の教員ら7名(以下、「原告ら」といいます。)が2017年3月末で解雇・雇止めされた事件について、5名に対する解雇が違法・無効であったとして、学校法人奈良学園(以下、「被告法人」といいます。)に対して、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認するとともに、未払賃金・賞与等として総額1億2000万円余りを支払うよう命ずる判決を下しました。なお、定年後再雇用の2名については雇止めを有効としました。

2 本件整理解雇・雇止めに至る経緯

原告らは、被告法人が運営する奈良学園大学の教員でした。

被告法人は、2012年頃、学部の再編を計画し、人間教育学部、保健医療学部及び従来のビジネス学部・情報学部の後継学部の現代社会学部を新たに設置しようとしましたが、2013年8月に現代社会学部の設置申請が取り下げられると、ビジネス学部・情報学部教授会への事前の説明に反して、両学部について学生募集を停止し、2017年3月末までに所属の教員ら全員を転退職させようとしました。

この方針に反対した原告らは、2014年2月に労働組合を結成すると同時に関西私大教連の単組となり、奈労連一般労組にも加盟し、被告法人との団体交渉を重ねてきました。

しかし、被告法人は、現代社会学部に代わる社会科学系の学部(第3の学部)の設置検討を不合理な理由で凍結し、原告らに対し大学教員としての雇用を継続するための努力を一切しないまま、2017年3月末、原告らを解雇・雇止めにしました(以下、「本件解雇・雇止め」といいます。)。

3 判決の意義及び内容

本判決は、学校法人の学部再編を理由とする解雇に整理解雇法理を適用し、解雇を無効としたものであり、少子化等による経営悪化を口実に全国の大学で安易な統廃合が行われる中、学校法人に対して教員らの雇用継続について責任ある対応を迫るものとして、大きな意義があります。

すなわち、判決は、まず、被告法人による職種限定の合意の主張に対し、本件解雇・雇止めの有効性の判断に当たっては整理解雇法理に従うべきものとしました。

その上で、学生募集停止による人員削減の必要性については認めつつ、被告法人は資産超過であった上、社会科学系の「第3の学部」設置を計画していたこと等から、人員削減の必要性が高かったとはいえないとしました。

次に、解雇回避努力については、原告らが「大学教員であり、高度の専門性を有する者であるから、教育基本法9条2項の規定に照らしても、基本的に大学教員としての地位の保障を受けることができる」とし、原告らを人間教育学部又は保健医療学部に異動させるために、文部科学省によるAC教員審査を受けさせることは十分可能だったが、被告法人は原告らに対しAC教員審査を受けさせる努力をしていないとしました。また、総人件費の削減の努力もされていないとし、解雇回避努力がつくされていないと判示しました。

また、人選の合理性については、選考基準を公正に適用したものとはいえないと判示しました。

そして、手続の相当性についても、奈良県労働委員会において、原告ら組合と被告法人が受諾したあっせん案を踏まえた協議が十分に尽くされていないとしました。

なお、本判決は、原告らのうち定年後再雇用であった2名については、有期雇用更新の合理的期待があったものと認めつつも、有期雇用の労働者を優先的に雇止めすることも合理性があるとしています。この点は控訴審で争う予定です。

4 おわりに

本件は、双方が控訴し、舞台は大阪高等裁判所に移りました。
原告団及び弁護団は、勝訴部分を維持しつつ、敗訴部分についても勝利を勝ち取るべく、引き続き奮闘し、原告らの職場復帰と全面解決を目指します。支援者のみなさまには、変わらぬ温かいご支援をよろしくお願いいたします。

(弁護団:豊川義明、佐藤真理、鎌田幸夫、中西基、西田陽子)

日検事件――偽装請負でも直接雇用を認めない不当判決

弁護士 西川 大史

1 はじめに

全港湾名古屋支部及び阪神支部の日興サービス分会員の組合員16名が日本貨物検数協会(日検)に対して、労働者派遣法 条の6第1項5号に基づき直接雇用を求めた事件で、名古屋地裁(井上泰人裁判長)は、2020年7月20日、偽装請負や日検の脱法目的を認めたものの、原告らの直接雇用を認めないという不当判決を言い渡しました。

2 事案の概要

日検は、検数、検量、検査などを営む一般社団法人です。日検の指定事業体である日興サービス株式会社の従業員は、日検名古屋支部の職員から直接指揮命令され、日検名古屋支部受託の検数業務を行っていました。組合員らは、日検を派遣先とする派遣労働者であると疑いませんでした。

ところが、別件の不当労働行為救済申立事件(日検の団交拒否、使用者性が争点となった事件)の調査期日で、府労委から日検に対し、日興サービスの従業員が労働者派遣法上の派遣労働者であることの確認や、日検と日興サービスとの契約内容を明らかにせよとの求釈明がなされました。ところが、日検は府労委からの求釈明になかなか応じようとしませんでした。日検の対応に不審を抱いた全港湾阪神支部が日興サービスとの団体交渉において、日検との契約形態を明らかにするよう求めたところ、業務委託契約の形式であり偽装請負であったことが発覚しました。しかも、日検と日興サービスは、2016年1月に、秘密裏にその業務委託契約を派遣契約に切り替えていました。日興サービスの従業員に派遣労働への切り替えにあたっての同意もとっていません。

3 裁判所による偽装請負、脱法目的の認定

判決は、日検から原告らへの業務指示、制服の着用、身分証の発行がなされていたことや、派遣契約への切替えの前後で就労実態が変わっていないことから、偽装請負であることを認定しました。なお、日検は、証人尋問において証人申請もせず、原告らへの反対尋問でも業務実態について追及することもありませんでした。判決は、原告らの就労実態について、被告が何ら反論を裏付ける証拠を提出していないとして、偽装請負の判断の根拠としています。

また、判決は、脱法目的の意義について、「労働者派遣法等による規制を回避する意図を示す客観的な事情の存在により認定されるべき」との見解を示し、日検が派遣ではなく業務委託契約を締結したこと、原告らに対して長期にわたって指揮命令をしていたことなどから、日検の脱法目的を認めました。

4 日検による偽装請負の隠ぺいを追認した不当判決

ところが、判決は、偽装請負が解消されてから1年以内に、原告らが承諾の意思表示をしていないとして、原告らの直接雇用を否定し、請求を棄却しました。

これまで、組合では、日検に対して、何度も組合員の直接雇用を求めてきました。しかし、判決は、組合による直接雇用の要求によって労働契約の成立を認めると、労働者の希望を的確に反映したことになるとは限らないとして、原告の主張を退けました。裁判所は、労働組合が組合員の希望や利益を実現するために活動することをご存知ないのでしょうかと言いたくなります。

また、判決は、日検が府労委からの求釈明に回答せず、秘密裏に派遣契約に切り替えたことを厳しく批判し、承諾の意思表示の機会を奪ったことは不法行為の余地ありとまで判断しました。ところが、判決は、なぜだかよく分からない理由をつけて、派遣契約に切り替えたことから、違法な労働者派遣が解消したとして、直接雇用を認める必要はないとの判断を示しました。結論として、日検による隠ぺいを司法が追認したのです。理論的根拠も薄弱というほかなく、到底受け入れることはできません。

5 今後の闘い

本判決は、労働者派遣法40条の6第1項5号について初めての判断を示したものです。偽装請負の認定や脱法目的の解釈などは、高く評価することができますし、今後の同種事件でも参考になる判断だと思います。他方で、日検による偽装請負の隠蔽を結論として追認して、組合員の直接雇用を認めなかったことは、派遣労働者の雇用の安定を図るという改正労働者派遣法の趣旨を没却するものであり、司法の責務を放棄したものというほかありません。

原告ら・組合・弁護団は、改正労働者派遣法の趣旨が実現され、原告らの直接雇用を勝ち取るべく、控訴審での逆転勝利のために全力を尽くします。今後ともご支援をお願い致します。

(弁護団は、坂田宗彦、増田尚、冨田真平各弁護士と西川大史)

年金引下げ違憲訴訟大阪事件 不当判決

弁護士 喜田 崇之

第1 はじめに

2020年7月9日、大阪地裁にて、年金引下げ違憲訴訟(大阪)の判決が下された。内容は、原告の請求をいずれも退ける不当判決であった。

我々は、この裁判で、平成24年法改正によっていわゆる「特例水準」を解消させて合計2.5%もの年金削減処分を行ったこと、平成16年法改正によって導入され平成27年度以降適用が始まったマクロ経済スライド(内容は後述する)が憲法25条1項、同条2項違反、憲法29条1項違反、社会権規約違反、ILO102号条約に違反して無効であると訴えている。

現在、全国の地裁で同様の訴訟が展開されている(ただし、マクロ経済スライド制度そのものの無効を主張する箇所は少ないのが現状である)が、すでに、札幌事件、岐阜事件、奈良事件、兵庫事件等で、同様の不当判決が下されている。

論点は多岐にわたるが、本稿では、主に、皆様にご理解いただきたい、下記の点に絞って、判決の不当性をまとめる。
争点①:マクロ経済スライド制度の合理性及び世代間格差是正論の問題点
争点②:生活保護制度があるがゆえに生存権違反とならないという問題点
争点③:社会権規約違反・ILO102号条約違反の主張に対する裁判所の無理解

第2 争点①について

1 マクロ経済スライドの合理性
マクロ経済スライドとは、社会情勢(現役人口の減少や平均余命の伸び)に合わせて年金の給付水準を自動的に調整する仕組みである。調整とは要するに、削減のことであり、マクロ経済スライドが適用されることによって年金は削減されることになる。

判決は、マクロ経済スライドによる年金削減は「調整(削減)の必要性は、将来の人口、経済動向等に影響を受けるものであって、その動向に応じた調整期間の見直しが必要であると考えられることに加え、5年ごとに行われる財政検証において、調整期間の終了年度の見通しを作成するものとされ、定期的に調整期間の終了年度の見通しを明らかにすることが予定されることに鑑みれば」、「マクロ経済スライド制を導入することが不合理であるということはできない」と述べた。

しかしながら、5年ごとに見直しを行うとか、調整期間の終了の見通しを明らかにすると言っても、今後何十年もマクロ経済スライドが適用され続けることが想定されているのであって、実態として、マクロ経済スライド制度は、年金を削減し続けるだけの制度であるという認識が全く欠けていると言わざるを得ない。また、マクロ経済スライドの適用によって、年金額がどれだけ削減される見通しであり、例えば国民年金しか受給できない人の給付水準がどうなるのか、老後の生活を支えるのに十分な水準が確保できるのか等といった視点が全くない。

2 世代間格差を是正するという目的について
また、判決は、将来世代の給付水準が低下することを回避して、世代間の公平を図り、社会保障である国民年金制度の持続可能性を維持することを目的とすることが不合理であるということはできないなどと述べた。

しかしながら、このままマクロ経済スライドが適用され続けることになれば、まさに将来世代の給付水準が低下することに他ならない。我々は、裁判所のいう「将来世代の給付水準を低下することを回避」するためにマクロ経済スライドを廃止せよと主張していることを全く理解していないと言わざる得ない判決内容となっている。

第3 争点②について

判決は、年金受給世代の生活実態等の検討を行うことなく、生存権は年金制度それ自体でなく生活保護制度を含めた社会保障制度全体で確保すればよいという国の主張を全面的に採用した。

しかし、このような判断が許されるのであれば、年金制度がどうなったとしても(極端な話、年金制度がなくなったとしても)、生活保護制度が残っていれば、年金制度それ自体は生存権違反に問えないということになる。国民年金法1条には、憲法 条2項が言及されており、また立法者意思からも明確であるが、年金制度それ自体、我々の老後生活を支えるに十分なものでなければならないのだが、判決は、こういったことを全く無視している。

第4 争点③について

我々は、本件減額処分は、後退禁止原則を定めた社会権規約9条等に違反する旨を主張してきた。また、現在の年金水準は、ILO102号条約が要求する水準(30年間の保険料支払いにより、従前所得の40%の年金を確保する。)に違反し、マクロ経済スライドはさらにその水準を悪化させるものである旨を主張してきた。

これに対し判決は、結論として、社会権規約9条やILO102号条約の裁判規範性を明確に否定した。

しかしながら、ベルギー等の諸外国ではすでに裁判規範性が肯定されている裁判例があり、日本の裁判所が国際法を十分に理解できていない現状について、国際法学者の意見を持って主張しているが、裁判所が全く聞く耳を持たないというのが現状である。

また、ILO102号条約についても、要するに、「条約は国内的効力を有するものと解される。」としながら、個人の権利を定めていることが明らかではないことを理由に、裁判規範性を有さないということを述べた。

しかしながら、ILO102号条約が、締約国に対し、30年間の保険加入によって従前所得の40%の年金水準を確保することを明確に義務付けており、条約によって国が具体的な数字をもって年金水準を確保することを義務付けられているということは、逆に言えば、国民は当該水準以上の年金を要求する権利があることに他ならない。また、ILO102号条約違反であるのだとすれば、国が当該義務に違反していることは明らかである以上、少なくともILO102号条約に適合しているか否かを審理しなければならないはずである(審理を回避する理由にはならない)。

しかし、裁判所は、ILO102号条約違反に関する我々の詳細な主張や根拠(我々が最も力を入れて、かつ自信をもって主張していた点である)をことごとく無視し、ILO102号条約に違反しているか否かの判断を避けた。

社会権規約違反やILO102号条約違反の主張を裁判所が門前払いにしてしまえば、およそ国際条約違反というものが裁判で問えなくなる。そうなれば、一体何のための国際条約なのか、存在意義そのものが問われることになる。

第5 今後に向けて

判決後、我々は、すぐに控訴を決意した。全国の仲間とともに、控訴審を闘っていく決意である。特に、マクロ経済スライドの問題点をなんとか社会的に(とりわけ現役世代の方々に)認知させる必要があると痛感している。

ご承知のとおり、フランスでは、マクロン政権がフランス国内の42ある年金制度を一本化し、将来的に年金受給年齢を62歳から64歳に引き上げる内容の年金改革を打ち出した。これに反対した労働者を含む国民が怒りを示し、2019年12月には、フランス全土で80万人以上の労働者が抗議デモに参加した。

現役世代労働者が、年金問題を自己の問題としてとらえ、ストライキを打って反対し、高齢者世代と反目することなく、年金改革に反対している姿は、まさに、世代間の分断を乗り越え、その立場を超えて、連帯して理解を示し合いながら年金制度改悪反対で共闘しているといえる。

日本でも、そのような雰囲気を醸成する必要がある。現役世代のために年金を削減すると言われれば現役世代には聞こえがよいが、そうやって継続的な削減を容認することは、将来の自分たちの大幅な年金削減を招くことを意味しているだけである。そのことに多くに現役世代が問題意識を持ち、我々とともに反対の声を上げるようになっていけば、必ず社会や裁判所の雰囲気は変わってくると確信している。

大阪府猟友会雇止め事件提訴のご報告

弁護士 加苅  匠

1 はじめに

公益社団法人大阪府猟友会との間で有期雇用契約を締結し、関西国際空港で有害鳥獣類の防除業務に従事していた労働者が雇止めにあった事件について、2020年8月21日、雇止めが無効であるとして、雇用契約上の地位の確認を求めて大阪地方裁判所に訴訟を提起しました。

2 事案の概要と経過

大阪府猟友会は、野生鳥獣の保護や有害鳥獣の捕獲、狩猟の適正化を基本施策とし、大阪府域の自然環境の保全や府民の安全・財産の確保等を目的とする公益団体です。主な事業内容は、狩猟免許の交付や狩猟者登録・管理、有害鳥獣類の捕獲などです。浅田均参議院議員(維新)や岡沢賢治府議会議員(維新)らが顧問を務めています(2018年の会報より)。

そんな大阪府猟友会の業務の1つに、空港に離着陸する航空機と鳥の衝突による航空機災害を未然に防止するために、銃器等を用いて有害鳥獣類の防除を行う業務があります。

本件訴訟の原告であるAさんは、2018年1月11日に大阪府猟友会と有期雇用契約を結び、関西国際空港にて上記防除業務に従事しました。2018年3月22日に1回目、2019年3月17日に2回目の更新がなされ、2019年10月1日には勤務態度が評価されてサブリーダー(副所長)への昇格も果たしました。Aさんは、サブリーダーとして職場環境を良くするために、同僚のパワハラや銃刀法違反のおそれがあるような行為などの職場の問題点を各種会議で報告しましたが、これを疎ましく思われたのか、2020年2月28日に同年3月31日をもって期間満了を理由に有期雇用契約を更新しないと通知されました。Aさんは納得がいかず、中央区地域労組こぶしに加入して雇止めの撤回を求めて団体交渉しましたが、撤回されることはありませんでした。

Aさんは、大阪府猟友会が、Aさんに有期雇用契約が更新されるものと合理的な期待をもたせながら、十分な理由も説明もなくなされた雇止めは無効であるとして、訴訟の提起を決意しました。

3 本件訴訟の争点

本件訴訟の主たる争点は、契約期間の満了時に有期雇用契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由が認められるか否かです(労働契約法19条2号)。契約更新についての合理的期待が認められる場合は、解雇と同様に、客観的合理的理由や社会通念上の相当性が認められない限り、雇止めは無効となります。

Aさんが従事する防除業務は、期間限定の業務などではなく、飛行機が空港に離着陸する限り行わなければならない恒常的な業務です。そのため、防除業務に従事する従業員は、健康上の問題など業務に支障が生じる状態でなければ、次年度も働き続けることができると考えるのは当然のことです。また、本件では、更新手続が形骸化され、従業員も銃刀法違反といった特段の問題が生じない限り契約更新されていましたし、Aさん自身も定年を越えても働き続けることができると言われて就職しました。加えて、大阪府猟友会が契約期間中にAさんをサブリーダーという責任ある役職に任命したことは、Aさんに契約更新の期待を持たせる使用者の言動と言えます。

これらの事情から、Aさんには契約更新の合理的期待が認められるところ、Aさんには雇止めされる合理的理由も十分な説明もなかったため、雇止めは無効であると考えます。

4 本件訴訟の意義

本来、事業の中核的・恒常的業務については、正社員(無期雇用労働者)を雇って継続的に業務にあたらせるべきです。しかし、安価な人件費や人員整理のしやすさを求めて、あえて有期雇用労働者を雇いそのような業務に従事させるケースが増えています。本件の防除業務も、大阪府猟友会の中核的・恒常的業務の1つであり、かつ危険性が高く一定の技術や知識を要する仕事ですが、担当する従業員は全員有期雇用労働者でした。このような業務に従事する有期雇用労働者の雇止めを安易に認めてしまっては、労働者の非正規化に歯止めをかけることはできませんし、有期雇用労働者の地位・生活はますます不安定なものとなってしまいます。

また、従業員に対して不当な雇止めを敢行しているような公益社団法人では、府民の安全・財産を守るという社会的責任を果たすことは不可能であり、狩猟免許の管理や射撃による有害鳥獣類の防除といった危険性の高い事業を任せることはできません。

原告及び弁護団は、不当な雇止めを阻止し、あわせて有期雇用労働者の地位の向上や大阪府猟友会の労務の改善を図るために闘っていく所存です。ご支援をよろしくお願いいたします。

(弁護団は、西川大史弁護士と加苅匠)

派遣法40条の6をめぐる 労働法研究会を開催

弁護士 須井 康雄

 2020年8月1日、派遣法40条の6による直接雇用申込みみなし制度をめぐる2つの判例を題材として労働法研究会が開かれた。新型コロナウィルス感染防止に配慮して、会議アプリzoomを利用した初の試みだった。報道機関関係者も含め、普段は参加できない人も参加できた。参加者は、遠隔参加者も含め30名程度だった。私もzoomを利用して遠隔参加した。

2015年10月、違法派遣や偽装請負の場合に、発注元・派遣先が労働者に対し直接雇用を申し込んだとみなす派遣法40条の6が施行された。同規定に基づく直接雇用関係の確認を求めた裁判がいくつか起こされ、そのうち、2020年3月13日には神戸地裁で東リ事件の判決が、2020年7月20日には名古屋地裁で日検事件の判決が出た。いずれも直接雇用申込みみなし制度の適用を否定した。

労働法研究会では、東リ事件を担当した村田浩治弁護士と日検事件を担当した増田尚弁護士から報告がなされたのち、萬井隆令教授に基調報告いただき、参加者による議論が行われた。

東リ事件は、東リ伊丹工場で巾木工程に就労していた労働者が偽装請負であるとして、東リに対し、直接雇用関係にあることの確認を求めた事案である。判決は、そもそも偽装請負を認めなかった。労働者派遣・偽装請負とはなにか、その判断要素の「指示命令」とは何かを突き詰めたうえで、実際の就労状況が偽装請負であったことを明確にさせる必要があるとされた。

 

日検事件は、使用者が偽装請負を労働者派遣契約に切り替える措置を採っていたが、先行する労働委員会の手続でもそのことを開示せず、後に開示した時点では、労働者派遣契約への切替時より1年が経過していたので、派遣法40条の6の2項により申込が撤回され、直接雇用契約は成立しなかったと主張された事案である。名古屋地裁は、偽装請負であったことや脱法目的は認めたが、1年の期間徒過により直接雇用契約は成立しないと判断した。

萬井教授は、偽装請負、労働者供給、違法派遣と適法な派遣などの関係を整理され、日検事件判決は、労働者の合意を不可欠の要素とする派遣の基本的構造についての理解を欠くとの考えを示された。また、罪刑法定主義との関係で認定が慎重になりがちな労働者供給と違法派遣とを区別する解釈についても示唆された。さらに、派遣法40条の6の解釈も示され、直接雇用申込みみなし制度の法的性質から、「承諾」の態様は、実情に即し労働契約締結の意思が就労先に伝わるようなものであれば足りるとの考えを示された。

派遣労働者の粘り強い運動の中から生まれた直接雇用申込みみなし規定は、多くの点が解釈に委ねられている。判例が初めて出たばかりのなかで、理論的な検討を深める貴重な良い機会になった。テレビ画面では議論を深めにくい面もあるとの声も出たが、参加しやすいとの声も多かった。遠隔会議システムの便利さと、対面と変わらぬ議論が両立するような研究会になるよう、引き続き楽しみにしている。

新型コロナウイルス労働問題 全国一斉ホットライン第2弾の ご報告

弁護士 藤井 恭子

 新型コロナウイルス感染拡大に伴って、休業や倒産など企業の活動が打撃を被る中、労働者にも休業や解雇などの問題が多発しています。
民法協は、2020年7月12日、日本労働弁護団の呼びかけに応じ、4月5日の第一弾に続いて、新型コロナ労働問題全国一斉ホットライン第2弾を開設しました。

全国で出された緊急事態宣言が6月末に解除された直後であり、また報道の影響もあって、10時から17時までの開設時間中は、電話が鳴りっぱなしの状態となりました。
結果的に、47件の労働相談に対応することができました。

多かった相談は、休業・休暇に関する相談と賃金に関する相談(26件)で、緊急事態宣言中の、休業中の賃金に関するトラブルが解決されずに残されていたものと思われます。
ホットライン直前に発表されたばかりの休業支援金制度に関する問い合わせも複数ありました。
労働契約終了に関する相談(正規・非正規両方、退職勧奨に関する相談も含む)も15件あり、7月の時点でも、コロナによる解雇が増えてきていたことが分かります。

相談者の雇用形態は、パート・アルバイト・派遣・契約社員といった非正規労働者が、49件中33件と最も多くありました。
今回の非常時にあたって、非正規労働者が雇用の調整弁として機能させられ、多くのしわ寄せを受けてしまっていることが明らかになりました。
フリーランスや個人事業者からの、生活に困窮しているという相談も多くあり、生活保護などの福祉につなげなければならない人もありました。

厚労省によれば、新型コロナウイルスの影響による解雇者数は、5月以降、主に非正規労働者を中心に、毎月約1万人のペースで増え続けており、9月1日時点で5万人を超えたと報道されています。8月21~28日の集計によれば、6割超が非正規であり、非正規労働者に対する影響の深刻さが浮き彫りになっています。

厚労省が把握している数字は一部であり、実数はもっと大きいと考えられ、労働問題が拡大していることが明らかになっています。
現在に至るまで、新型コロナウイルスの感染拡大が収束しておらず、休業・解雇など労働者への影響が、今後も持続していくことが予想されます。

民法協では、毎週金曜日に常設ホットラインを開設するほか、メールでも相談の受付を行っています。
これからも、コロナと社会の状況を見ながら、時期に即した相談体制を構築し、待ったなしの労働相談に対応していきたいと思います。

育鵬社教科書採択阻止活動報告

弁護士 脇山 美春

1 教科書採択とは

教科書の採択とは、学校で使用する教科書を決定することである。公立学校で使用される教科書の採択権限は、その学校を設置する市町村又は都道府県の教育委員会に委ねられている。大阪府下でも、各市町村が、教科書検定を通った複数の教科書の中から、各教科一種類の教科書を選んで採択する。今年2020年は、5年に1度の公立中学校教科書採択の年であった。

近年、この採択候補の中に、非常に問題のある歴史・公民の教科書が紛れ込み続けている。「育鵬社」の出版する歴史・公民教科書である。

2 育鵬社教科書採択阻止活動の経過

(1) メンバー集結
2020年7月頭、子どもと教科書大阪ネット21より、自由法曹団、民法協宛に、2020年度の中学校公立教科書採択の際、「育鵬社」の歴史・公民教科書が採択されないように活動する要員の募集がかかった。
要請に応じて集まったメンバーは、原野早知子弁護士、楠晋一弁護士、藤井恭子弁護士、遠地靖志弁護士、冨田真平弁護士、脇山の5名である。

(2) 要請書の作成
まず私たちは、各自治体に、育鵬社の歴史・公民教科書を採択しないように要請する文章を考えた。実際に育鵬社の歴史・公民教科書を読んで気になる点を指摘し、「フジ住宅ヘイトハラスメント事件」を通じて明らかになった、2015年教科書採択の際のフジ住宅の従業員動員問題も指摘して、要請書を完成させた。

(3) 申入活動
私たちは、完成した要請書を、大阪府下の全市町村の教育委員会に発送した。

そのうえで、2015年に育鵬社の歴史・公民教科書を採択している市町村、維新市長のいる市町村等、特に重要な市町村には、直接申し入れ行動に行くこととした。圧倒的にマンパワーが足りず、かつ、申入書が届く7月20日頃から、7月下旬から採択をスタートさせる各市町村の採択前にいく、という非常にタイトなスケジュールな中での申入活動だった。

この状況下でも、自由法曹団員・民法協会員弁護士の協力を得て、大阪市、東大阪市、河内長野市、枚方市、和泉市、泉佐野市、泉大津市、貝塚市、堺市、守口市、箕面市、羽曳野市、柏原市の合計 市町村に申し入れに行くことができた。

3 申入れの内容

実際の申し入れは、弁護士と、教科書ネットに所属する方とで行うことが多かった。弁護士は、要請書に基づく説明をし、教科書ネットから、歴史教科書のファクトチェックについて説明をした。

4 採択結果

結果として、大阪府下では、泉佐野市の公民教科書を除き、育鵬社の採択を阻止することができた。2015年に育鵬社の歴史、公民教科書を採択した大阪市、四条畷市、公民教科書を採択した東大阪市、河内長野市で採択を阻止したこと、及び泉佐野市についても、歴史教科書については採択を阻止したことは、大きな成果であるように思う。

生徒数でみても、2015年採択によって約22600名もの生徒が育鵬社の教科書で勉強することとなっていたが、2020年採択では、約800名に抑え込むことができた。

全国的にも、これまで採択が続いていた横浜市、愛媛県松山市等で不採択が続いており、運動の成果が出ている。

5 雑感

今回、確かに自由法曹団・民法協による申入活動が、今回の大幅な採択阻止に寄与したことは否定しない。ただ、この成果を生んだ大きな要因は、日ごろから教科書を研究し、何度も何度も各市町村に足を運んで採択阻止を呼びかけていた市民の活動であり、「子どもたちによりよい教科書で勉強させてあげたい」という市民の声が届いた結果に他ならないと私は思う。こういった市民と、自由法曹団、民法協との連携を今後も絶やさず続けていくべきである。

また、今回の活動の反省点と言えば、採択間際にスピード勝負をしかけたため、採択日までに申入れをすることができなかった市町村や、申入れ内容が採択にかかわる委員の耳に届かない市町村も存在したことである。5年後の教科書採択の際には、余裕をもった行動ができる体制づくりをしていきたい。

そして、採択阻止の大きな成果が出たとはいえ、今まで育鵬社の教科書で勉強させられてしまった子供たち、そしてこれから育鵬社の公民教科書で勉強させられる泉佐野の子供たちが存在する。この子たちに、育鵬社教科書の誤りに気付いてもらい、事実に基づいた教育を届け、人権感覚を養ってもらえるよう、私たちにできることをしていかなければならない。

以上のような種々の感想があるが、自由法曹団、及び民法協の皆様におかれましては、人員及び費用負担の面でご協力いただき、大変ありがとうございました。今後ともご支援をよろしくお願いいたします。

第4回労働相談懇談会報告 コロナ関連学習:会社倒産と労働者の権利保護

おおさか労働相談センター事務局次長 宮崎  徹

第4回労働相談懇談会を2020年8月25日(火)午後6時30分より、国労大阪会館3階大会議室で開催しました。猛暑とコロナ禍の中、4産別・5地域から22名の参加がありました。

主催者あいさつに立った、おおさか労働相談センターの川辺和宏所長は「コロナ禍によって中小企業の倒産と労働者の解雇・失業問題が増加し、深刻化する可能性は大きい。そのことに対応できる相談活動を展開するために学習の強化と経験交流を活発に行おう。」と挨拶。

またこの間の労働相談で、コロナ休業に関わる相談に対する行政機関(労基署、労働局)の窓口の対応が非常におざなりで不親切だとの訴え、特に休業支援金についての苦情が多く寄せられていることを踏まえ、おおさか労働相談センターとして大阪労働局に対して、①休業手当の支給と雇用調整助成金制度活用に関する行政指導、②労働者個人による休業対応支援金制度に関する窓口対応の改善、③休業手当に関わる正規・非正規の均衡・均等対応に向けた行政指導の徹底などを求め、労働局に要請を行う(9月8日)と報告が行われました。

この間の情勢報告では、加苅匠弁護士(大阪法律事務所)から、民主法律協会が行ったコロナ関係労働相談と労働審判におけるコロナ整理解雇事件についての報告がありました。

労働相談内容では「休業手当・賃金の未払い」に関する相談、「解雇・雇止め・派遣切り」に関する相談、「生活相談、感染防止等」に関する相談が多く、傾向としては、「休業手当・賃金の未払い」に関しては、緊急事態宣言が開けてからも継続している点、「解雇・雇止め・派遣切り」に関しては徐々に増加している点、「生活相談、感染防止等」に関しては、医療関係職場から多い点、職場における労働組合が有っても相談してくる点などが報告されました。

一連の労働相談を通じて、生活が困窮するなかで、無料で相談できる機会を探す人が多いため、マスコミ報道やHP等を見ての相談が多い一方、弁護士費用の問題から事件に繋がる件数が少なかったのではと加苅弁護士は分析されていました。

労働審判におけるコロナ整理解雇事件の報告では、コロナ不況による整理解雇を主張する会社側に対して、裁判官が整理解雇の4要件に即して雇用調整助成金等の検討(利用)状況や業務の具体的見通しについての質問が行われ、会社側もたじろぐ有様だったとの報告がありました。

労働組合としては、会社に対して休業手当を求めると同時に雇用の維持を図るためにも、雇用調整助成金等、国や自治体が行う制度の活用を企業側に求める運動を強めると同時に、制度の拡充を求める運動を国や自治体に対して行っていくことの重要性を再確認した情勢報告でした。

コロナ関連学習会では「会社倒産と労働者の権利保護」をテーマに愛須勝也弁護士(京橋共同法律事務所)より講演が行われました。

まず、会社が倒産・廃業した場合の法的手続きとして債務整理・破産・民事再生・会社更生があること、それぞれの制度内容や特徴、メリット、デメリットについて詳しい説明が行われました。

続いて倒産等により労働債権(未払い賃金・未払いボーナス・退職金など)を回収するに当たって留意する事項として、債権は民法、商法、国税徴収法などの定めを参考に優先順位が決められること。先取特権を活かして労働債権を仮差押えしても破産開始が決定された場合は無効になること。労働組合としては、破産管財人との面談・交渉を通じて理解を求めるとともに「労働者健康福祉機構」による未払い賃金等の立替払制度(賃金の支払いの確保等に関する法律)を活用し、当面の生活を確保することが重要であることなどが、建交労アクアライン分会の経験などを踏まえて説明されました。

倒産に対する対応(偽装倒産含む)では、これまでの労働組合の闘いや判例などから教訓が紹介され、労働組合が日常から経営監視活動(経営分析や労使経営懇談会など)によって会社の状態と動きを迅速かつ正確に把握し、状況によって法的整理に向けた準備をしておくことが大切だとの指摘がありました。

参加者からは、偽装倒産への対応についての質問・意見が寄せられ、建交労からはアクアライン分会の争議経験をもとにした発言もあり、法律や理論と併せて経験交流なども含めた充実した学習になりました。

最後に労働相談センターの福地事務局長による「倒産・廃業の労働相談の多くは、未組織職場から寄せられるケースが多いことを考えると、職場の団結を訴えることが1番。その上で、弁護士との連携を1日も早く行うことが大事になってくるのではないか」とのまとめの挨拶で労働相談懇談会を終えました。

《書籍紹介》脇田滋 編著 『ディスガイズド・エンプロイメント 名ばかり個人事業主』

弁護士 清水 亮宏

 脇田滋先生の編著『ディスガイズド・エンプロイメント 名ばかり個人事業主』が学習の友社から出版されました。「ディスガイズド・エンプロイメント」は、直訳すると「偽装雇用」であり、現在話題になっている「名ばかり個人事業主」の問題を指す言葉です。

本書は、「名ばかり事業主」の問題に関する12の現場からの報告(第1部)と、脇田先生の論考「『雇用によらない働き方』に国際基準で立ち向かう」(第2部)の2部構成となっています。現場報告・論考ともに読み応えのある内容であることは間違いありませんが、現場報告から理論的検討・提言に繋げられている点で、脇田先生ならではの書籍であると感じました。

第1部の現場報告では、料理配達(ウーバーイーツ)・布団販売・電気計器工事・ホテル支配人・俳優など、様々な業種における「名ばかり個人事業主」問題について、12もの団体からの現場報告があります。ほとんどは労働組合からの報告ですが、NPOや協同組合からの報告もあり、大変興味深く読ませていただきました。いずれの報告も、名ばかり個人事業主の現状を切実に訴える内容でした。

不合理な報酬の計算方法、報酬の一方的減額(計算方法の変更)、一方的な経費負担、拘束時間に見合わない低報酬、報酬の不安定さ、事故等に対する不十分な補償など、個人事業主が直面する問題が具体的事例として挙げられており、改めて「雇用によらない働き方」の負の側面について考えさせられました。一方で、具体的な指揮命令を受けており裁量がなかったり、時間的・場所的な拘束を受けているなど、働き方の実態が労働者であるにもかかわらず、労働基準法等の労働関係法が適用されず(適用されない扱いを受け)、労働基準監督署に相談しても労働者でないことを理由にまともに対応してもらえないなど、「名ばかり」であるが故の問題も浮き彫りにされています。12もの報告を通じて、個人事業主としても労働者としても保護されない、法のはざまに置かれた労働者たちの実態が明らかにされています。

一方で、これに対抗するための労働組合・NPO・協同組合の取組みも多々報告されています。ウーバーイーツユニオン、ヤマハ英語講師ユニオン、ヨギーインストラクターユニオンなど、「雇用によらない働き方」が社会問題になる中で、自己の働き方に疑問を持ち、労働組合を結成して使用者と交渉を始めている労働組合の報告もあり、当事者たちがどのような思いで立ち上がったのか、どのような取組みを経て改善に繋げることができたのかを知ることができます。労働組合等を通じたアクションの重要性を再認識させられます。

第2部は、これらの現場報告を受けた脇田先生の論考です。日本での「労働者」概念を巡る議論の状況や、「雇用によらない働き方」が拡大した経緯などについて整理された上で、ILOの勧告を紹介され、脱法行為を許さない実態に即した「労働者」性の判断枠組みを取り入れるよう提言されています。また、ウーバーに代表されるプラットフォーム労働の拡大や構造的問題について整理され、諸外国において条例や法律での規制が広がっていることも指摘されています。アメリカでのプラットフォーム労働者の闘いや、韓国における「特殊雇用従事者」(日本での名ばかり個人事業主)の闘いについても触れられており、この問題を考える上で必要な要素が詰まっています。

脇田先生が最後に指摘されている「労働者が広く団結して、その集団的活動を通じて初めて、問題の正しく根本的な解決に通ずる道を切り開くことができる」という点については、強く共感します。この本をきっかけに、名ばかり個人事業主の団結・連帯が広がることを期待します。

「名ばかり事業主」問題は、「雇用によらない働き方」の一つの側面として知っておかなければならない問題です。日々労働相談を受ける労働組合や弁護士にはぜひ手に取っていただきたい一冊です。

※民法協にて割引きでお求めいた だけます。