判例検討会、はじめました――裁判・府労委委員会

2020年07月15日

弁護士 足立 敦史

 裁判府労委委員会は、判例検討会をはじめましたのでご報告させていただきます。

初回は、2020年6月12日(金)18時30分から民法協事務所での実会議とZOOMの併用で、吉岡孝太郎弁護士に近畿大学事件(任期付き助教・雇止め事件)大阪地裁R1. 11.28 (労判1220号46頁以下)の裁判例をご報告いただきました。

吉岡先生に、事案の概要、判決内容につづいて、検討と反省をお話いただけたことで、裁判所が事実認定していない部分の主張・立証や相手方の主張の変遷、変造証拠の提出等ひどかったにもかかわらず認定された点など、今の大阪地裁労働部の事実認定の在り方について理解が深まりました。

その後、不更新条項を扱った近畿コカ・コーラボトリング事件(大阪地判平17.1.13 )についても意見交換をしたことで、近大事件と比較検討することができ、不更新条項の争い方についてイメージを持つことができました。

 少しだけ近大事件の内容に触れます。任期付き医学部助教授の方が、更新回数の上限を超えて更新されていました。6回目の期間満了の18日前に、大学が助教に何ら口頭で説明することなく「18日後には雇止めになり、希望すれば1年限りの更新を「検討」する」との通知書を交付しました。大学は助教に、同時に「1年に限り更新を希望するものの1年後には再度の更新がないことを理解した」等(不更新条項)が明記されている要望書を交付しました。そうしたところ、助教の方は、目の前の職を維持するために、いち早く要望書に署名押印をして提出してしまい、7回目の期間満了時に雇止めされてしまった事件です。

裁判所は、争点である労契法19条の適否について、要望書等の交付前には、契約更新への合理的期待を抱いていたといいうるとしつつも、①要望書の記載自体から雇用終了の意思表示が一義的に明確になっていること、②提出時になんら質問せず、特段の異議も述べずに提出していること、③その後も雇用継続の可能性について大学に問い合わせる等明確な行動に出ていないこと等を理由に提出後は更新への合理的期待は有していたとはいえないとして否定しました。

しかし、更新の合理的期待を喪失は、労働者にとって職を失う厳しい効果をもつ以上、山梨県信用組合事件の最高裁が示した慎重な態度は本件にも適用されてしかるべきです。事件は控訴されており、控訴審での逆転勝訴を願っております。

今回の検討を通じて、もし不更新条項について相談を受けた場合は、まだ署名押印していないなら決して署名押印をしてはいけないこと、仮にしてしまったとしても可能な限り早めに異議を出して真意に基づかずに署名押印してしまったことを裏付けることが重要であることも学びました。

 今回の判例検討会は、主に一つの裁判例を対象にして意見交換・議論をしたことで理解が深まり大変有意義でした。2回目も企画される予定です。2回目の検討会の持ち方は、今後、裁判府労委委員会の事務局会議で検討します。判例検討会への参加希望があればZOOM等でも対応できますので、ご一報いただければと存じます。よろしくお願いいたします。