民主法律時報

2020年7月号

ヘイトハラスメント裁判 ―― フジ住宅及び今井会長に対し110万円の 賠償命令! 職場において労働者の内心の自由が強く保障されることを明確に示した判決

弁護士 安原 邦博

 フジ住宅ヘイトハラスメント裁判の判決が、2020年7月2日に大阪地裁堺支部(中垣内健治裁判長)で言い渡された。2015年8月31日に提訴して、約5年を経ての原告勝訴判決である。

判決が違法性を認めたフジ住宅及び今井会長の行為は次の3点である。

 フジ住宅及び今井会長は、社内で全従業員に対し、ヘイトスピーチをはじめ人種民族差別的な記載あるいはこれらを助長する記載のある文書や今井会長の信奉する見解が記載された文書を大量かつ反復継続的に配布した。

この点、判決は、人は自己の欲しない他者の言動によって心の静穏を乱されないという利益を有するとし、就業場所において、国籍によって差別的取扱いを受けるおそれがないという労働者の内心の静穏はより一層保護されるべきとした。本件においては、原告のように韓国の国籍や民族的出自を有する者にとっては著しい侮辱と感じ、その名誉感情を害するものであり、韓国人に対する顕著な嫌悪感情を抱いているフジ住宅や今井会長から差別的取扱いを受けるのではないかとの現実的な危惧感を抱いてしかるべきものであるとした。

そして、文書を就業時間中に大量に配布しており、また随所に今井会長がアンダーライン等で強調した修飾をしていること等の行為態様から、思想教育にあたり、フジ住宅及び今井会長の行為は、労働者の国籍によって差別的取扱いを受けない人格的利益である内心の静隠な感情に対する介入として社会的に許容できる限度を超え、違法であるとした。

 また、フジ住宅及び今井会長は、地方自治体における中学校の教科書採択にあたって、全従業員に対し、特定の教科書が採択されるようアンケートの提出等の運動に従事するよう動員した。

この点について、判決は、業務と関連しない政治活動であって、労働者である原告の政治的な思想・信条の自由を侵害する差別的取扱いを伴うもので、その侵害の態様、程度が社会的に許容できる限度を超えるものといわざるを得ず、原告の人格的利益を侵害して違法であるとした。

 さらに、フジ住宅は、本件訴訟の提訴直後の2015年9月に、社内で、原告を含む全従業員に対し、原告について「温情を仇で返すバカ者」などと非難する内容の大量の従業員の感想文を配布した。

この点について、判決は、被告らが行った不法行為についての救済を求めて本件訴えを提起した原告を批判し報復するものであるとともに、原告を社内で孤立化させる危険の高いものであり、原告の裁判を受ける権利を抑圧するとともに、その職場において自由な人間関係を形成する自由や名誉感情を侵害したとして違法であるとした。

 判決は、公刊物を配布したに過ぎない、政治的論評に過ぎないなどとのフジ住宅及び今井会長による反論をしりぞけ、職場において労働者の内心の自由が強く保障されることを明確に示して、他の類型のハラスメント事案にも広く妥当しうる重要な規範を提示した。

他方で、判決は、フジ住宅及び今井会長の文書配布行為について、原告個人に向けられた差別的言動とは認めなかった。人種差別撤廃条約及びヘイトスピーチ解消法の趣旨に照らして不当であり、人種差別の本質・問題性を理解していないといわざるを得ない。その結果、人種差別による原告の深刻な被害を適切に捉えたとは言い難い賠償額になっている。

 闘いの舞台は大阪高等裁判所に移る。原告及び原告弁護団は、一審判決の不十分な点を控訴審で改めさせる所存である。

原告は、会社に変わって欲しい(働きやすかった元の会社に戻って欲しい)という思いで、提訴前にもフジ住宅に申入れをし、尋問でも今井会長らの前でその気持ちを述べ、判決後の記者会見でもそう述べた。しかし被告らは、申入れをした原告に対し逆に退職勧奨をして提訴を余儀なくなせ、さらに尋問でも原告に対し「あなたのやってることは間違っている」「フジ住宅や、うちの社員に対して傷つけているわけだから、それこそ大損害ですわ。だからそれをあなた方は、やってはるわけですから。こんな良心的な会社に対して」などと言い放ち、判決後も、報道によれば、「企業での社員教育の裁量や経営者の言論の自由の観点から到底承服し難い判決だ。すみやかに控訴し適正な判断をあおぎたい」などと述べて憚らない。

原告は今も、会社が変わってくれることを信じてフジ住宅で働き続けている。今後とも大きなご支援をお願いしたい。

片岡先生を偲んで ―― 片岡労働法学の継承と労働者の権利闘争

民法協副会長 豊川 義明

 片岡曻先生が本年(2020年)4月1日ご逝去されました。享年 歳でした。民法協の権利運動を支え、これを激励して戴いた先生に対して、これまでの民法協活動への寄与に対するお礼とともに、片岡先生が私達に残されたものを確認し本文といたします。

片岡先生は京都府出身であり、1948年京都大学法学部卒業後、助教授を経て1962年教授となられました。日本労働法学会代表理事も務められました。1989年定年退官後、龍谷大学法学部教授も務められ、民法協の権利運動の内容と拡がり、その影響力は、片岡先生とともにあったといっても過言ではありません。1970年前後の報知新聞争議事件の支援、国鉄問題の権利調査、自治労連の東大阪・羽曳野両市職労への市による不当労働行為調査、『自治体労働者の権利Q&A』の監修(1992年)、そしてひようご 世紀協会、川重近藤事件への鑑定意見も書いて戴きました。会長の萬井隆令、前田達男、西谷敏、脇田滋、大和田敢太、木下秀雄、名古道功、中島正雄、三井正信の各先生方はもとより、村中孝史京大教授も片岡先生の薫陶を受けられた先生方です。

片岡先生は、民法協創立50周年の創立記念講演(2006年)のなかで「民法協は1956年に設立され、ちょうどその頃から私は研究者として歩き始めまして、皆さんといっしょに実態調査をし、あるいは民法協の権利討論集会やいろんな研究会に参加させていただきました。民法協の半世紀の歴史というのは、私個人の研究者としての歴史とも重なっており、自分自身の研究を振り返ると同時に、民法協の活動の成果を考えてみたいと思い、今日の報告の課題とさせていただいたわけであります。」と述べられています。この時のテーマは、「戦後改革からグローバル資本主義へ」の副題があり、項目としては戦後改革の意識の再検討、高度経済成長と春闘、権利運動の発展、企業中心社会と経済大国への道、グローバル化と資本主義の構造変化とありますように、片岡先生は故岸本英太郎経済学(京大)からの学びもあり、日本の現状分析、世界との連関、資本主義の構造変化といったように視野が広く労働運動の方向を世界の流れから、経済構造の変化のなかから、また労働者の意識構造(社会学的)にも眼をむけられてきました。

先生の講演のなかで、「市場原理主義を絶対視するグローバル化は、人々や労働者をバラバラにして市場に解き放し、自由な競争によって自らの生活と幸福を確保することを求めるに等しいものであり、人間同士の結びつきや社会連帯の持つ意味や価値を無視、もしくは排除するものだ」と喝破されています。私達が、2020年のコロナ禍のなかで国民の生活や命のインフラが、国や自治体、産業界の政策のなかでつぶされてきたのかを確認し、新しい連帯の市民社会をつくらなければならないと考える時、 数年前に片岡先生の指摘されたことの正しさを認識させられます。

先生は、本当に学者のなかの学者であり、関西労働法研究会や民法協での研究会でたくさんのことを私も学ばせて戴きました。また先生は、お弟子さんの報告には厳しい問いを投げかけておられましたが、教え子の皆さんのことを考えておられる心の優しい方でした。

私は先生の『団結と労働契約の研究』(有斐閣1959)を読んで学問体系としての労働法とその解釈について、現在に至る強い関心を持つことができました。先生は、故沼田稲次郎先生の学問からの影響を受けつつ、これをふまえ、労働法学の「一般」理論として広く共有化されることを考えておられたと思います。これは、労働組合が「人間の尊厳に値する生存条件」を獲保することをめざすべきであるとのキーワードにも現れています。

私事にはなりますが、学生時代に広渡清吾君と二人でご自宅を訪問させて戴き、当時の大学民主化問題について意見をお聞きしたことを想い出します。ご著作もお贈り戴き学んできました。

先生が、働く人々の権利読本として『自立と連帯の労働法入門』(法律文化社1997)を著わされた後、1999年には『労働法理論の継承と発展』(同書名、有斐閣2001)の論文のなかで、労働法上の法主体としての労働者につき「労働の場において自己実現を求め、自律的主体であるとともに互いに連帯して、労働条件及び社会的条件の改善のために積極的に働きかける能動的主体である」こと、すなわち労働者は、自律性と相互の連帯性の二つを統合した能動的な主体であるとされています。いずれも労働者、労働組合の連帯活動の不可欠性を提示されたものであり、新たな労働社会と市民社会を作るためにも、労働組合のみならず弁護士も確信としてしっかり受止め、引継いでいかねばならないものと考えています。

先生の永きにわたる労働法学、民主主義法学、そして労働者の権利運動への献身に感謝し、心からご冥福をお祈りいたします。

労働組合で勝ち取った雇用化への道 ―― ヤマハ英語講師ユニオン

弁護士 清水 亮宏

 ヤマハ英語講師ユニオンが、個人事業主として扱われていた英語講師の雇用化を勝ち取ることができましたので、ご報告いたします。

1 組合結成の経緯

ヤマハミュージックジャパン(以下、「ヤマハ」)は、いくつかの楽器店と契約し、音楽教室や英語教室の運営を委ねています。英語教室のレッスンを担当する英語講師は、ヤマハと契約を締結しており、形式上の契約形態は委任契約となっています。

しかし、教材やレッスンの内容をヤマハから具体的に指定されるほか、勤務時間や勤務場所も実質的に管理されていました。また、ヤマハは、契約形態を委任契約としているにもかかわらず、税務上は「給与所得者」として処理していました。働き方の実態はまさに「労働者」だったのです。

このような問題について疑問を抱いた講師の一人が、2018年4月に労働基準監督署に相談したところ「あなた方は労働者ではない」と門前払いされてしまいました。しかしその後、思いを同じくする英語講師が集まり、ヤマハに対し、税務上の扱いと契約形態が異なる理由などについて説明を求める行動を始めました。そのような中、講師の一人が故森岡孝二先生と繋がり、そこから、働き方ASU-NET代表理事の岩城穣弁護士、副代表理事の川西玲子さん、筆者(清水)と繋がりました。

講師の実際の働き方が労働者であった(使用従属性があった)ことや、既に集団で行動を始めていることから、“労働組合を結成してヤマハと団体交渉することがベストな選択肢”と確信し、労働組合結成に向けた準備を進めることになりました。

2018年10月に労働組合の役割や意義についての学習会を行った後、2018年12月に労働組合を結成しました。

2 雇用化に向けた交渉と成果

労働組合の結成後、ヤマハに対して、英語講師の雇用化を求める要求書を送付しました。その後、団体交渉を通じて、英語講師の働き方の実態が労働者であることの問題点、税務上給与所得者と扱っていることの問題点を説明し、英語講師全員を雇用化すべきであると訴え続けてきました。組合側の訴えにより、ヤマハ側から雇用化の方針が示され、英語講師の雇用化について概ね合意に至ったことから、雇用化に関する確認書を作成すべく交渉を重ねてきました。

確認書については、労働組合としてどうしても受容できない文言があり、調印には至りませんでしたが、2021年度中の英語講師の雇用化については概ね合意に至っており、英語講師の雇用化の道が開かれることになりました。

雇用化の道を勝ち取ることができた要因を説明するのは難しいですが、組合結成当初から雇用化を第一の目的として掲げていたこと、メディアの報道や労基署の是正申告を通じた雇用化へのプレッシャーがあったこと、現状のグレーな契約形態を改善すべきことを団交の早期の段階で労使間の共通認識とできたこと、多くの組合員や支援者が熱心に組合活動に関わったこと、などが挙げられると考えています。

ただし、今後の課題もあります。雇用化の対象(全員を雇用化するのか、委任契約の併存を許容するのか)、雇用化後の労働条件(正社員とするのか、給料はどのように計算するのか、労働時間をどのように考えるのか)など、労使間で意見の相違がある部分もあり、今後も粘り強く交渉していく必要があります。

3 最後に

現在、「雇用によらない働き方」が注目を集めていますが、実態が労働者であるにもかかわらず請負や委任と扱われる問題や、過重労働・低報酬の問題などが指摘されています。労働組合を通じた交渉は、これらの問題の解決手段として有効ですが、そのことが十分に社会に共有されていない状況にあります。

今回のヤマハ英語講師の皆さんの行動が共感を呼び、次の取組みに繋がることを期待します。

直接雇用申込みみなし制度に関する内部通達情報公開請求訴訟について

弁護士 冨田 真平

 2020年6月16日に、谷真介事務局長が自ら原告となり、大阪地裁に直接雇用申込みみなし制度に係る助言等(派遣法40条の8)に関する内部通達の情報公開請求訴訟を提起しました。

1 直接雇用申込みみなし制度の施行とこれに係る労働局の助言等の制度

2015年10月1日、いわゆる偽装請負等の派遣法違反があった場合に、派遣先(偽装請負の場合は発注者)が派遣労働者に直接雇用を申し込んだとみなす(したがって、派遣労働者が承諾すれば直接雇用が実現する)直接雇用申込みみなし制度(派遣法40条の6)が施行されました。

この制度は、リーマンショック時の大量の派遣切りなどを受けて、民主党政権時代に行われた2012年の派遣法改正の際にできた制度です。そして、この制度創設にあたっては、厚生労働大臣(都道府県労働局)が、労働者の求めに応じて、労働者に対し同制度の対象になるかどうか必要な助言を行い、さらに労働者が承諾を行った場合にこれを就労させない派遣先の企業に対し、指導・勧告を行うことができるとの規定も定められました(派遣法40条の8)。

一般の派遣労働者が、自身が直接雇用申込みみなし制度の対象となっているか把握することは極めて困難であり、また仮にその可能性を認識できたとしても、訴訟を提起することに躊躇する方は少なくありません。そこで、労働局がこのような助言、勧告・指導を積極的に行うことで直接雇用が実現されることが期待されました。

2 施行後の労働局の消極的な姿勢

しかし、直接雇用申込みみなし制度が施行された後、民法協や非正規労働者の権利実現全国会議(非正規会議)の弁護士が関与した事案(東リ事件、全港湾名古屋事件など)で、これまで積極的に調査や是正指導等がなされていた違法な偽装請負等について、従前と異なり、都道府県労働局が偽装請負の認定や指導について、指導を行わなかったり、あるいはそもそも調査自体を十分に行わないなど極めて消極的な態度をとることが続きました。

その後、当事者や弁護団から担当労働局への要請などを行い、また厚労省の担当課において、上記労働局の対応を踏まえた、都道府県労働局における偽装請負事案等の調査・指導のあり方についてのヒアリングの機会も設けられました。しかし、厚生労働省と各都道府県労働局の説明が食い違い、労働局の説明も同ヒアリングの前後などで二転三転するなどの事態となり、当事者及び弁護団と労働局のやりとりが繰り返されるも、結局上記のような消極的な姿勢が改めることはありませんでした。

3 情報公開請求と内部通達・マニュアルの存在の発覚

上記のような労働行政の変わりように触れ、すでに公開されている通達や取扱要領等の行政文書のほかに何か労働局を消極的にさせる文書があるのではないかと考え、2019年12月、厚生労働省及び大阪労働局に対し、谷弁護士が内部文書の情報公開請求をしたところ、厚労省内に大量・詳細な指導監督マニュアル(取扱厳重注意)や派遣法 条の8に関する直接雇用申込みみなし制度に関する内部通達(部内限)が存在することが判明しました。しかも内部通達については、上記東リ事件や全港湾名古屋事件での厚労省・労働局とのやりとり等の直後に改正されていたことがわかりました。

しかしながら、これらの開示文書は、ほとんどの部分が「開示されると監督対象となる事業者が対策をとり適正な監督が行われなく恐れがある」という理由で不開示(マスキング)とされました。

そこで、この内部通達の不開示部分について、その不開示決定は違法であるとして、大阪地裁に対し、情報公開を求める訴訟を提起することとなりました(なお指導監督マニュアルについても、行政不服手続である審査請求を行っています)。

4 適正な労働行政実現のために

直接雇用申込みみなし制度については、施行後ほとんど活用されていない状態にあり、その大きな原因の一つに都道府県労働局による上記のような消極的な姿勢があります。

そして、その背景には、上記通達やマニュアルの存在があるのではないかとの疑いがあります。したがって、直接雇用申込みみなし制度に関する不適正な労働行政をただし、適正な労働行政を実現するためには、まずはこの厚生労働省の通達の内容を明らかにすることが極めて重要であると考えております。

皆様も引き続きこの訴訟にご注目いただければ幸いです。

(原告は谷真介弁護士、弁護団は村田浩治、河村学、大西克彦、安原邦博、佐久間ひろみ、西川翔大各弁護士と筆者)

コロナ対策Web学習会第2回「生活問題」―― コロナ禍の今、求められるフリーランスに対する社会保障制度

出版労連中央執行委員・出版ネッツ執行委員長 浜田 秀一

 2020年6月2日(火)、民主法律協会とおおさか労働相談センターによる共催で、Zoomを利用したコロナ対策Web学習会第2回「生活問題」が開催された。タイムリーな話題で、参加者は35名だった。

わたしがこの学習会のことを知ったのは、幹事を務めている関西MICを通じてだ。「持続化給付金」のことも話題に出るという。自分が執行委員長を務めている出版フリーランスの労働組合「出版ネッツ」で「持続化給付金」が大きな話題になっていたこともあり、すぐに申し込んだ。実際の会議の前に、メールで当日の資料が送られてきた。たいへん充実した資料でありがたかった。Web学習会への期待がますます高まった。

Web会議当日は、「生活保護」「持続化給付金を給付金関係の実態」「減免制度」「家賃減額交渉」と盛りだくさんの内容で、予定の約1時間はあっというまに過ぎていった。特に印象に残ったのは、「給付金関係の実態」についての話。持続化給付金以外にも活用できそうなさまざまな給付金制度があることを初めて知った。事前に資料をいただいていたこともあってお話もわかりやすく聴くことができ、とても充実した学習会だったと思う。講師の先生を初め、学習会の運営に携わったみなさまには心から感謝したい。

さて、出版ネッツでは、今年6月に広く出版フリーランスを対象とした「新型コロナウイルス感染拡大の影響に関するアンケート」を実施し、調査期間 日で369件の回答を得た。政府の「コロナ後」をにらんだ成長戦略素案でも「フリーランスの保護ルールをガイドラインで明確化」が掲げられているが、フリーランスに対する社会保障制度にはまだ問題点も多い。この点からもWeb学習会は勉強になった。出版ネッツでは、今回のアンケートを踏まえたアピール活動のほか、学習会の開催などにも積極的に取り組んでいきたい。

 

出版ネッツの「コロナウィルスアンケート調査」のキャラクターロゴ
(作画 カクイシシュンスケ/漫画家・出版ネッツ関東支部)
※アンケートの調査結果は、7月中旬頃に出版ネッツ公式HPにて公表の予定。
 http://union-nets.org/

「大阪教育集会2020~中学校教科書、ここが問題!」開催

弁護士 原野 早知子

 2020年は中学校教科書採択の年である。5年前、大阪府下では、大阪市を初め複数の自治体で育鵬社の歴史・公民の教科書が採択された。フジ住宅では、経営者が、従業員を大量動員し、教科書展示会で、育鵬社の採択を求める意見を書かせた(本年7月に原告勝訴判決が言い渡されたヘイトハラスメント事件にも大きく関わっている)。

教科書、特に、育鵬社の教科書にはどのような問題があるのだろうか。「子どもと教科書大阪ネット21」が6月6日に学習のための集会を開催した(エル・おおさか)。久々の「リアル」の集会に35人が集まった。

平井美津子さん(大阪ネット 事務局長)が基調報告を行い、育鵬社の歴史教科書について、他社と比較しながら、問題点を解説した。
・大日本帝国憲法と天皇制を賛美する。
・植民地政策を正当化し、日本が近代化を進めたとする。
・ 年戦争をアジア解放の戦争と位置付ける。
・日本国憲法は「押し付けられた」ものと否定的。
(ちなみに、育鵬社は、公民では、憲法について、人権の保障より「公共の福祉による制限」を強調し、人権についての正しい知識・感覚を持ちにくい。また、憲法改正へ誘導する記述となっている。)
・最後は中国・北朝鮮への敵愾心を煽り、「日本クール」を謳って締める。
「わが国は、過去の歴史を通じて、国民が一体感を持ち続け、勤勉で礼節を大事にしてきたため、さまざまな困難を克服し、世界でもめずらしい安全で豊かな国になりました。世界の中の大国である日本は、これからもすぐれた国民性を発揮して、国内の問題を解決するとともに、世界中の人々が平和で幸せに暮らしていけるよう国際貢献していくいことが求められています。」

教科書がこのようでは、生徒は特に近現代について認識を歪められ、近隣他国と対等に尊重し合って関係を築いていくことが出来なくなってしまう。

教科書の採択は、3月に検定結果発表、6~7月に教科書展示会、7~8月に各教育委員会にて採択というスケジュールで行われる。採択の対象となる教科書を見て検討できる期間がそもそも限られる上、教科書展示会は自治体毎に1カ所で期間を区切って行われるのみで、インターネットでの開示等は行われていない。義務教育の教科書であるのに、その採択について、市民の意見を反映する手続が乏しく、非常に非民主的である。民法協の加盟組合・団体を含め、採択があることも知らないうちに進んでしまうのが実情ではないか。

本年の採択に向けて、時間の余裕は無いものの、民法協として、情報を広げるとともに、育鵬社等の教科書の採択阻止に向けた取組が必要ではないだろうか。また、教科書採択に関わる手続の民主化についても、採択の年以外の時期を通じ、教科書ネット等と連携した活動を行っていくべきと考える。

判例検討会、はじめました――裁判・府労委委員会

弁護士 足立 敦史

 裁判府労委委員会は、判例検討会をはじめましたのでご報告させていただきます。

初回は、2020年6月12日(金)18時30分から民法協事務所での実会議とZOOMの併用で、吉岡孝太郎弁護士に近畿大学事件(任期付き助教・雇止め事件)大阪地裁R1. 11.28 (労判1220号46頁以下)の裁判例をご報告いただきました。

吉岡先生に、事案の概要、判決内容につづいて、検討と反省をお話いただけたことで、裁判所が事実認定していない部分の主張・立証や相手方の主張の変遷、変造証拠の提出等ひどかったにもかかわらず認定された点など、今の大阪地裁労働部の事実認定の在り方について理解が深まりました。

その後、不更新条項を扱った近畿コカ・コーラボトリング事件(大阪地判平17.1.13 )についても意見交換をしたことで、近大事件と比較検討することができ、不更新条項の争い方についてイメージを持つことができました。

 少しだけ近大事件の内容に触れます。任期付き医学部助教授の方が、更新回数の上限を超えて更新されていました。6回目の期間満了の18日前に、大学が助教に何ら口頭で説明することなく「18日後には雇止めになり、希望すれば1年限りの更新を「検討」する」との通知書を交付しました。大学は助教に、同時に「1年に限り更新を希望するものの1年後には再度の更新がないことを理解した」等(不更新条項)が明記されている要望書を交付しました。そうしたところ、助教の方は、目の前の職を維持するために、いち早く要望書に署名押印をして提出してしまい、7回目の期間満了時に雇止めされてしまった事件です。

裁判所は、争点である労契法19条の適否について、要望書等の交付前には、契約更新への合理的期待を抱いていたといいうるとしつつも、①要望書の記載自体から雇用終了の意思表示が一義的に明確になっていること、②提出時になんら質問せず、特段の異議も述べずに提出していること、③その後も雇用継続の可能性について大学に問い合わせる等明確な行動に出ていないこと等を理由に提出後は更新への合理的期待は有していたとはいえないとして否定しました。

しかし、更新の合理的期待を喪失は、労働者にとって職を失う厳しい効果をもつ以上、山梨県信用組合事件の最高裁が示した慎重な態度は本件にも適用されてしかるべきです。事件は控訴されており、控訴審での逆転勝訴を願っております。

今回の検討を通じて、もし不更新条項について相談を受けた場合は、まだ署名押印していないなら決して署名押印をしてはいけないこと、仮にしてしまったとしても可能な限り早めに異議を出して真意に基づかずに署名押印してしまったことを裏付けることが重要であることも学びました。

 今回の判例検討会は、主に一つの裁判例を対象にして意見交換・議論をしたことで理解が深まり大変有意義でした。2回目も企画される予定です。2回目の検討会の持ち方は、今後、裁判府労委委員会の事務局会議で検討します。判例検討会への参加希望があればZOOM等でも対応できますので、ご一報いただければと存じます。よろしくお願いいたします。

労働審判支援センター 「労働審判懇談・交流会」報告

弁護士 西川 翔大

2020年6月16日(火)に大阪労連会議室で、労働審判懇談・交流会が開催され、弁護士や労働組合より 11名が集まりました。
今回は、新型コロナウイルスの影響による緊急事態宣言下で、大阪地方裁判所労働部の裁判及び労働審判の4月・5月の期日が取り消された影響や今後の進行について意見交換を行いました。

労働審判を申し立てる労働者は迅速な紛争解決を目指しており、労働審判の第1回期日は、申立てがあった日から40日以内に指定されなければなりません(労働審判規則13条)。

しかし、4月・5月の期日が取り消され、6月以降に期日が再指定されている状況において、4月・5月に労働審判を申し立てたとしても、40日以内に指定することは難しいという連絡が裁判所からあったという報告がありました(参加した弁護士より)。特に新型コロナウイルス感染症の影響により、休業を余儀なくされた労働者が休業手当すら出されない場合には、労働者はその間一切の収入がなくなり、生活を維持することすら困難になります。確かに新型コロナウイルスの感染拡大は防止する必要がありますが、労働者にとっては死活問題であるため、迅速な労働審判の期日指定は不可欠であり、今後新型コロナウイルスの第2波が訪れた場合でも今回のような期日の取消しは避けなければならない、という意見がありました。

また、期日が延期された影響で、例えば飲食店など新型コロナウイルスの影響が直撃するような会社は経営を維持することすらできずに、倒産してしまう可能性も想定でき、労働者の救済が図れなくなることが懸念されるという意見もありました。

新型コロナウイルス感染症が労働裁判及び労働審判に与える影響は今後も引き続き注視して検討していく必要があります。

2020年度 第3回労働相談懇談会「コロナ関連学習:解雇・雇止め、退職強要、労働条件の不利益変更について」

おおさか労働相談センター事務局長 福地 祥夫

 おおさか労働相談センターに最近寄せられる労働相談では、新型コロナによる経営困難を理由にした解雇、退職強要、労働条件不利益変更などの相談が増えています。そこで、原野早知子弁護士を講師に「新型コロナに関わる解雇・雇止め、退職強要、労働条件の不利益変更などの相談にどう対応するか」をテーマにした第3回労働相談懇談会を2020年6月25日(木)に開催しました。当日は7産別・8地域の組合役員と弁護士など 40名が参加しました。

最初に労働相談センターの舛田相談員からコロナ関連の相談事例と相談の傾向についての報告が行われ、続いて学習会が行われました。学習会の冒頭、原野弁護士は「コロナによって法律が変わった訳ではない」とした上で、コロナによる経営不振が原因の解雇・雇止め、内定通り消しであっても、従来の整理解雇4要件を満たしているかどうかの検証が重要であると指摘されました。

そして4要件のひとつひとつについての具体的説明に加えて大日本印刷事件(最判昭54年7月20日)、インフォミックス内定取り消し事件(東京地決平7年 10月31日)などでの「会社の主張」と「裁判所の判断」を具体的に紹介しながら、解雇・雇止め、内定取り消しに客観的合理性や社会的相当性があるかの検証と、会社に経営状況に関する客観的資料を出させるなど会社を追及することが大事で、労働組合の力を発揮するときであると指摘されました。

退職強要・退職勧奨についても、文章で退職の意思がないことを明確にすることが大切。応じてしまうと、強要や脅迫をされたと、無効を争ってもハードルが高い。と指摘した上で、会社側の言動が、許容された退職勧奨の範囲を逸脱するとして、慰謝料の支払いを命じた日航雇止め事件の判例(東京地判平23年10月31日)を紹介され、退職強要・勧奨についても労働組合による申し入れなどの重要性を指摘されました。

労働条件の不利益変更については、労働者に合意するよう迫り賃金などを不利益に変更するという事例として山梨県民信用金庫事件での最高裁判例(平成28年2月19日)を挙げて、合意書や同意書にサインした場合でも、不利益の程度が著しいのに説明が尽くされていないようなときは「合意」がないと主張すべきだと指摘されました。

参加者からは、「原野先生の話は判例もあってわかりやすかった」「整理解雇について、今後の団交に役立つ方法もあり参考になった」「法的確信を持って団交でがんばっていきます」などの声が寄せられています。

《書籍紹介》 西谷敏『労働法[第3版]』(日本評論社2020年5月)

弁護士 城塚 健之

 西谷敏先生(以下、著者)が『労働法[第3版]』を上梓された。第2版(2013年)の刊行から7年。第2版と比べて約80頁増と、ボリュームも大幅に増えた。

これは、一つには、「働き方改革」関連法などの新たな労働立法のラッシュに対応するためである。この点、著者は、「労働法分野で悪しき意味での「法化」(legalization)が進んでいる」と批判しつつ、「労使自治」の機能不全をふまえれば国家法はますます重要な役割を果たさざるをえないのであり、問題は「国民が理解しにくい法令の氾濫」にあるとされる(第3版はしがき)。

もう一つは、働き方の変化、とりわけ、個人請負、フリーランサー、クラウドワーカーなどの「雇用によらない働き方」への対応である。これをどう保護するかは労働法上の大きな課題であるが、そこでは「労働者」概念の再検討が求められる。この点、著者は、「人的従属性」より「経済的従属性」を強調する立場を鮮明にしたうえで、第2版よりも明確に、労基法上の解雇制限、賃金保障などに関する規定の私法的側面は広く適用されるべきとの見解を示されている。

さらに、第2版以後のあまたの労働裁判の到達点と課題も紹介されている。著者の自己決定論に深くかかわる山梨信金事件最高裁判決や、大阪でもたたかわれている労契法 条裁判への言及が目を引くが、小さな論点についてもまんべんなく目配りがされている。これは全国の労働弁護士からさまざまな相談を受け、ともに議論をする中で理論的解明にあたってこられた著者の長年の研究活動の成果でもある。巻末の判例索引も第2版の36頁から第3版の41頁へと増えた。

ちなみに、著者は、第2版と第3版の間に『労働法の基礎構造』(法律文化社 2016年)を著された。これは、「歴史的に形成されてきた労働法の基礎構造を解明し、……基本的な価値と原則を確認すること……によって「改革」論を測る座標軸を確立する」ために執筆されたものであり(同書「はしがき」より)、本書でも随所でそれが引用されている。その具体的な紹介は私の手に余るが、何が基本的な価値であり原則であるかを押さえておくことは、些末な解釈論の迷路にとらわれないためにも重要である。

これだけボリュームが増え、クオリティもさらに上がったのに、第2版と比べて定価が100円しかアップしていない。これは日本評論社の意気込みを示すものであろう。著者と出版社の意気に感じ、ぜひ手近な本棚に常備していただきたいものである。

なお、『労働法の基礎構造』についていえば、2016年の民法協 周年記念行事の際の「お茶会」での発案による連載「弁護士が読む西谷敏『労働法の基礎構造』」(労旬1879+1880号~1892号)、そして、これに著者が応答された「『労働法の基礎構造』再論―弁護士諸氏による書評その他を読んで」(上・下)(労旬1897号・1898号)が懐かしく思い出される。それは、どうしても場当たり的になりがちな弁護士にとって、物事を少し深く考えるための貴重な機会となった。この大胆な企画を快く受け止めてくれた著者と「労働法律旬報」編集長の古賀一志氏に、改めて謝辞をお伝えするとともに、こちらの方も、とりわけ若い方には読んでいただきたく思う。
【日本評論社のサイト】https://www.nippyo.co.jp/shop/book/8288.html

※民法協で少しお安くお求めいただけます。