民主法律時報

2020年5月号

近畿大学における和解交渉について

弁護士 吉岡 孝太郎

1 法人の方針転換

これまで、学校法人近畿大学(以下「法人」)は、近畿大学教職員組合(以下「教職員組合」)を敵視する政策を取り続け、多数の集団的労使紛争や個別労働紛争が生じていた。2019年3月には、法人が過去の教職員組合の団体交渉における発言を謝罪しない限り団体交渉に応じないと通告していたことから、団体交渉の不開催が続いていた。

ところが、法人は、これまでの敵視政策を改めて労使関係を正常化する方針に転換し、これまで依頼していた弁護士とは別の弁護士を新たに選任して、団体交渉を実施したいと申し出てきた。昨年 月のことである。教職員組合は法人の申し出に応じることにし、昨年 月末より団体交渉や事務折衝を集中的に行ってきた。その結果、2020年3月 日に第1次包括協定が締結された。

2 第1次包括協定の内容

大阪府労働員会で団体交渉の実施要項をまとめたにもかかわらず、法人がこれを遵守していないこと等を踏まえて、第1次包括協定では、より詳細な団体交渉実施要領を策定された。

また、これまで法人が非民主的な方法により過半数代表選挙を強行していたことを踏まえて、第1次包括協定では、民主的な選挙により過半数代表者を選出することが約束された。具体的には、選挙管理委員会の設置、選挙活動の自由、無記名投票等である。第1次包括協定と同時に締結された労働協約では、教職員組合から選挙管理員会の委員に一定人数を推薦することも認められた。非民主的な選挙により選出されてきたこれまでの過半数代表者は教職員に意見聴取することなく職務を遂行し、その内容も全く不明であった。そのことを踏まえて、第1次包括協定では、過半数代表者がその責務を果たすに際しては労働組合との協議を含めて教職員に対して事前に意見聴取をしなければならないことが明記された。のみならず、過半数代表者がその職務を遂行するにつき使用者より交付された資料、自ら作成した意見書、並びに安全衛生委員会に推薦した者等を公示しなければならないことが明記された。

その他、第1次包括協定では、研究休暇の取得要件の大幅緩和や、手当(文芸学部の役職手当、附属高校の補習手当)の増額等を実現するとともに、教員評価制度の再検証、就業規則の改定案の事前告知、入試業務の平準化や負担軽減の検討等も確認された。互助会関係では、採用時に事実上強制加入とされていたことを改め、加入の任意性を明確化・周知化し、互助会費の賃金控除を規則化することも約束された。残された課題についても、包括和解交渉で順次解決すべき課題を明記し、2020年6月末、同年9月末、同年12月末までに全て解決するように努めることが確認された。

以上の和解を踏まえて、互助会の天引や過半数代表の選挙の有効性等を争っていた訴訟は取り下げることになった。

3 個別和解

第1次包括協定が締結された令和2年3月31日に、文芸学部の組合員が専攻主任の地位を解任された事件についても個別和解をした。これにより、当該組合員は、同年4月1日から専攻主任の職に復帰した。また、文芸学部の専攻主任は他の学部の学科長とほぼ同一の職にありながら、学科長と比べて手当の額が低く抑えられていた。そのため、個別和解により、復帰後の専攻主任の手当も学科長と同等の手当が支給されることになった(より一般化した規定は第1次包括協定で明記された)。

以上の和解を踏まえて、専攻主任の解任を争う訴訟や救済申し立て等は取り下げることになった。

4 評価と課題

法人が、組合敵視政策を改めて労使関係を正常化する方針に転じたことは評価できる。こうした法人の方針転換は、教職員組合の長年にわたる粘り強い闘争が結実したものである。法人は、組合敵視政策により労使紛争を多くかかることになり、かえって疲弊し、レピュテーションリスクを無視できなくなったと思われる。団体交渉は8時間を越える日もあり、3月に入ってからの法人交渉、組合内の意見集約及び和解条項の確定作業には膨大時間を要した。私から見ても、法人側が労使紛争を解決したいと本気で考えていると実感した。

他方で、法人と教職員組合との間で解決しなければならない課題は非常に多く、今回解決できたものはその一部にすぎない。不当な雇止めや解雇をされた組合員の救済は未だ実現しておらず、この点は大きな課題である。残された課題を順次解決していくことは必要であるが、彼らの救済なくして真の解決はないというスタンスで労使交渉に臨む必要がある。

大陽液送(下請労働者) 地位確認請求事件提訴報告

弁護士 脇山 美春

 2020年3月16日、大阪地裁堺支部に、件名の事件を提訴しましたので報告します。

第1 提訴に至る経過

1 格差の実態

大陽液送株式会社(以下、大陽とします)は、液化ガス(酸素・窒素)配送事業を営む会社です。
一方原告らは、大田貨物株式会社(以下、大田とします)の社員6名です。大田は、大陽から液化ガス配送事業を請け負っています。原告らは、この請負契約のもと、大陽の社員と一緒に、液化ガスをタンクローリーで配送する業務に従事しています。

大陽の社員と、大田の社員は、いずれも対外的には大陽の社員として、同じ仕事をしています。服まで一緒です。

しかし、大陽と大田の社員には、年収にして100万円以上の賃金格差があります。大田の社員が定年退職したのちに大陽に採用され、同じ仕事についてみると、現役大田社員よりも給料が高くなるという、意味不明な格差があります。

特に大きい格差は、賞与の有無です。大陽の社員には賞与が支給されるのに、大田の社員には賞与支給はありません。

原告らはこの格差是正に向け、労働組合を通じて大田に団体交渉を継続してきました。しかし大田は賞与の要求にも一切応ずることもなく、経費の内容も明らかにしないまま不誠実な交渉を継続してきました。

このままではらちが明かないので、何しか裁判を提起し、これをテコに賃金格差を是正したい。原告らはそんな思いで、相談にいらっしゃいました。

2 原告らの就労実態は、労働者派遣である

原告らの就労実態を検討していくと、下請けという形式でありながら、実際には大田は労務を提供する社員を供給しているにすぎず、大田として独立してローリー運送をしているとは言いがたい実態であることが明らかになってきました。

(1) 大田には専門性がない

大田はそもそも、平積みトラック輸送を目的とする会社であり、液化ガス配送事業は行っていない会社でした。液化ガス輸送に必要なノウハウ、車両、物品は何も持っていません。
大田は原告らを採用する際、あらかじめ大陽と面談させました。そのうえ大田は、試用期間を経て試験に合格したと大陽が判断したものしか、本採用しませんでした。
原告らは業務に従事する際、大陽の所有するタンクローリー車を使用しており、制服、長靴も大陽から支給を受けています。取引先にも、大陽から支給された、大陽の社員と登録された通行証をみせて業務を遂行しています。

(2) 大田が指揮命令していない
原告らの配車の決定権限は、大陽にあり、大陽が運転手ごとの配送指示書類を作っています。勤務時間中の急な指示も、大陽が直接原告らに行っています。
上記事情等をかんがみれば、大陽が原告らに指揮命令をしているものであり、大田と大陽の間の請負契約は、その実態からすれば労働者派遣契約であることが明らかです。

3 直用みなし規定の利用を決定

労働者派遣法は、請負形式をとりながら、実態は労働者派遣で就労させている事業者(派遣先事業者、請負の発注者等)が指揮命令を継続している場合は、派遣先(本件では大陽液送)事業者が当該労働者に対して派遣元(本件では大田)の労働条件と同じ内容で雇用の申込みをしたものとみなすとの規定を制定しています(労働者派遣法40条の6)。

原告らは、この規定を利用して、まずは大陽と原告らとの間に直接の雇用契約があることを確認し、そのうえで、同じ仕事をしている現大陽従業員との間の均等・均衡待遇を要求していくこととしました。

第2 今後の流れ

以上の経過をふまえ、2020年3月16日に、大田を被告として、原告らの労働契約上の地位確認の訴えを提起しました。

なお、派遣法30条の3に基づき、大田を被告として、派遣先である大陽との均等・均衡待遇を求める訴訟を追加することも検討しています。

原告ら代理人は、村田浩治、脇山美春です。ご支援お願いいたします。

2020年4月5日新型コロナウイルス 労働問題ホットラインのご報告

弁護士 藤井 恭子

1 ホットラインの概要

新型コロナウイルスの感染拡大と、それに伴う活動自粛要請の影響が3月中旬頃から一気に高まり、労働者や個人事業主、中小企業事業者の生活が加速度的に脅かされています。

民主法律協会では、コロナ流行による社会不安の高まりに鑑み、日本労働弁護団の呼びかけに応じて、緊急の労働問題ホットラインを開設しました。

ホットラインは、2020年4月5日日曜日の午前10時から午後5時まで開設し、民法協事務所に3回線の電話を繋いで対応しました。

このホットラインは、前日の新聞記事や当日のテレビニュースでの報道の効果から、数多くの労働者から電話があり、7時間の開設時間で合計66件もの電話相談に対応しました。

また、このホットラインは全国一斉で実施されたところ、全国で417件もの電話相談が寄せられたとのことです。

2 主な相談内容

寄せられた相談の中で、最も多かったのは、活動自粛に伴う休業あるいは業務時間の短縮中の賃金に関する相談でした。

使用者の判断による休業や業務時間短縮であるにもかかわらず、「不可抗力だと言われて給料が払われない」「シフトを減らされて減給になる」という相談や、「有給休暇で対応するよう指示される」「現在有休消化中だが有休がなくなった後はどうしたらいいか」などといった相談が、たくさん寄せられました。

使用者の判断による休業の場合、100%の賃金を請求すべきであり、使用者は最低でも平均賃金の %の休業手当を支払わなければなりません。休業中の賃金については、緊急事態宣言が継続する現在、労働者にとって生命を繋ぐための最も重要なテーマとなっています。

また、4月初旬という日程から、解雇や雇い止め、派遣切りなどの相談も寄せられました。

コロナを理由とする違法な整理解雇と思われる相談も寄せられ、コロナ流行による活動自粛が、労働者の生活に甚大な影響を及ぼしていることが伺い知れます。

その他にも、内定取り消しや、勤務先の感染防止に関する不安、給付金の受け取りに関する生活相談など、コロナ流行に関する様々な相談を受けましたが、当日は受話器を置くと、すぐに電話が鳴るといった状態で、対応しきれなかった相談も多数に上ると思われます。

3 今後の相談体制について

現在もコロナ流行は収束しておらず、4月7日には大阪府等を対象に緊急事態宣言が発令され、その後全国に拡大されました。また、緊急事態宣言は、当初5月6日まででしたが、5月31日まで延長されることが決まりました。

緊急事態宣言発令以降、活動自粛の要請が強まり、国民全体が先の見えないトンネルの中を進んでいるような不安に陥っています。

民法協では、労働者からの相談に特化して、次のような相談体制を臨時に構築し対応することになりました。
・コロナウイルス労働問題臨時ホットライン 毎週水曜日12 時~16時
・無料の電話相談申込メール受付

現時点では5月末までの臨時体制としていますが、今後の情勢次第では、6月以降も継続して相談対応をしていく必要があります。詳細は民法協ホームページをご覧下さい。

活動の自粛に伴い、あらゆるイベントや活動に制限がかかる中ですが、このようなときだからこそ、労働者の相談に対して、電話やメールを使ってできる限り対応をしたいと思います。

全ての労働者が、この困難を乗り切れるよう、会員の皆さまのお力をお貸しください。
ご協力を、どうかよろしくお願いいたします。

非正規全国会議 アンケートに基づき 政府に「提言書」提出

「非正規全国会議」共同代表 脇田  滋(元龍谷大学)

 非正規労働者の権利実現全国会議(以下、「非正規会議」)は、新型コロナ関連のアンケートを実施し、その結果を基に政府に提言書(1次、2次)を渡しました。

まず、急速に広がるる感染症をめぐって、雇用と生活がどのような状況にあるかを把握することを目的に、2020年3月18日からホームページを通じて非正規雇用労働者とフリーランスの方を対象に回答を記入してもらうアンケート調査でした。3月31日までに予想を大きく越えて全国各地から272件の声が寄せられました。

回答者は「関東」が58%と半数を超え、「年齢層」は30~50代に広がり、「性別」では女性が77%でした。「勤務形態」では、派遣、フリーランス、パート・アルバイト、有期雇用の順で、「業種」は飲食・小売、教育関連、イベント、医療・福祉、旅行・観光が目立ちました。「新型コロナの影響」は、自宅待機・勤務時間の減少(38%)、仕事のキャンセル、請負・委託の解除(20%)でした。

寄せられた声を踏まえて非正規会議として、4月6日、政府に「提言書(第1次)」を伝えました(表参照)。

しかし、4月7日、政府が「緊急事態宣言」を発出してから状況が大きく変わりました。休業や仕事の打切りが格段に広がったのです。切実な窮状を訴える回答が4月30日までに249件も寄せられ、総計521件に達しました。

回答内容は1次と2次でほぼ重なりますが、2次では「正社員は時差出勤やテレワークがあるが派遣社員は通常出勤」(21名)、「新規の仕事がない・客が来ない」(7名)などの声が目立ちました。自由記入欄では、①雇用・仕事を失い、家族を含めて生活が大きく脅かされている、②日々の業務で感染の危険にさらされる、③普段以上の過重労働があることが浮かび上がりました。とくに、「個人請負」で働く方の不安定性と無権利性が深刻であることが特徴です。

全体として、今回の「コロナ危機」は、雇用維持と緊急の生活保障について、弱い立場の労働者、就業者に対する特別な規制・措置の必要性があることが明らかになりました。これを受けて、5月7日、提言書(第2次)を政府に提出しました(表参照)。

なお、提言書、アンケート結果の詳細は、「非正規会議」ホームページ(https://www.hiseiki.jp/cronavirus.php)をご覧ください。

非正規労働者の新たな武器! 均等均衡待遇モデル要求書を活用しよう

弁護士 冨田 真平

 2020年4月1月から、非正規労働者(有期、パート、派遣)について、通常の労働者(正社員など)との均等・均衡待遇を義務づけるパート有期労働法、改正派遣法が施行されています(パート有期労働法は中小企業について1年間猶予)。

そして、これらの法律では、新たに使用者の説明義務が設けられました。すなわち、労働者が使用者に対して、正社員や派遣先社員との待遇差やその理由などについての説明を求めた場合に使用者がこれらの事項について説明しなければならないとされました。さらに厚生労働省の通達では、使用者がこの義務に反して説明をしなかった場合には、説明をしなかったこと自体が待遇差の不合理性を基礎づけるひとつの事情になるとされています。

そこで、有期・パート・非常勤問題研究会(パート研)及び派遣労働問題研究会(派遣研)が中心となり、説明義務を活かして使用者(会社)に待遇格差の内容・理由の説明をさせ、均等・均衡待遇を実現するためのモデル要求書及びマニュアルを作成いたしました。

モデル要求書及びマニュアルは、①有期・パート労働者用のもの②派遣労働者・派遣先均等均衡処遇方式用のものと③派遣労働者・労使協定方式用のものの3種類あります。

これらのモデル要求書・同マニュアルについて、民法協のホームページ(http://www.minpokyo.org/information/2020/03/6859/)ですでに公開しております。

これらのモデル要求書についてはPDF版だけでなくワード版もアップしておりますので、各職場に合わせて適宜修正して使用していただけるようになっております。また、マニュアルには、待遇格差の内容・理由を説明させ、均等・均衡待遇が実現されているかチェックする手順を簡単に記載しております。

使用者側は4月の施行にあわせて、すでに様々な対策を検討していると聞き及びますが、労働者側もとにかくまずは待遇格差の内容・理由をきちんと説明させ、書面化させることが重要になっております。

そのためのツールとして是非ご活用いただくとともに、幅広い非正規労働者の方にご活用いただけるように周知等にご協力いただければ幸いです。

非正規労働者の声はなかなか集まりにくく、非正規労働者の均等均衡待遇が実際どの程度進んでいるのかについて、パート研や派遣研でもなかなか把握できていません。つきましては、これらの実情や上記モデル要求書を使って使用者から得た回答などについて、ぜひパート研や派遣研にご報告いただきますようお願いいたします。

また、モデル要求書を実際に使ってみた感想や「こういうことを追加した方が良い」、「ここを変えた方が良い」などのご意見がありましたら、是非パート研や派遣研にお寄せいただきますようお願いいたします。