民主法律時報

2019年12月号

フジ住宅ヘイトハラスメント事件 尋問期日のご報告

弁護士 冨田 真平

 フジ住宅ヘイトハラスメント事件とは、「韓国人は嘘つき」などの民族差別的な文書を社内で全社員に配布したり、育鵬社の教科書を採用させるために従業員を教科書アンケートに動員するなどした会長及びフジ住宅の行為に対して従業員の在日コリアンの女性が損害賠償を求めた事件です(大阪地裁堺支部、中垣内健治裁判長)。詳しい事件の内容につきましては、民主法律時報2015年10月号をご参照ください。
同事件について、2019年10月31日に行われた尋問期日についてご報告いたします。

 尋問は当初10時開始予定でしたが、傍聴の抽選に並んだ人数が約750名(従前は120~130人程度)であったことから、抽選券の配布等に時間がかかり、開始が45分遅れることになりました。これは、フジ住宅が社内で傍聴を呼びかけたことにより、平日の朝の時間にもかかわらず、フジ住宅の社員・関連会社の社員と思われる人たちが大量に動員されたためと思われます。実際にフジ住宅の「支援者」を名乗る人物のブログでは、フジ住宅の社員が500名、その家族・友人が100名と記載されていました。これだけをとってみてもフジ住宅の異様さが感じられました。

そして、このようにフジ住宅側が大量に抽選に並んだことにより、会社側が多くの当選券を手に入れ、法廷は会社側の役職者や会長の「支援者」が傍聴席の多くを占める異様な雰囲気となりました。このようなフジ住宅がとった手法について、今後どのような対抗手段を講じるかについても検討が必要だと感じました。

 原告本人尋問では、原告がフジ住宅に入社してから資料配付が始まるまでの社内の状況、資料配付や従業員の感想文の配布などが始まり変わりゆく社内の状況、さら教科書動員や、提訴後の原告に対する攻撃などについて話し、これらの行為が行われる社内の中でどのような思いをして働いてきたのかを懇々と語りました。

原告の口からは、会社が配布した民族差別的な文書や慰安婦問題についての文書などを見てとてもつらい思いをしてきたこと、そのような文書配布に感謝を述べる従業員の感想文が配られ、さらには「在日特権」デマの文書が配布された後に同僚から「税金払ってないの?」と聞かれたり、上司が「韓国の国民性が嫌い」などと書いた感想文が配られるなど、回りの従業員が配布文書に影響を受けて変わっていった様子、退職後に会社に異議を述べた社員が攻撃されるなど異議を言えない状況であったことなどが詳細に話されました。

そして、そのような職場の中で韓国人は嘘つきだなどという配付資料に並ぶひどい言葉が、仕事をしている時も家に帰って家事をしているときも頭から離れない日々を過ごしてきたということが話されました。

最後に原告の口からこの裁判についての思いが語られましたが、その中でも「今回の件で会社や会長から受けた傷は裁判が終わっても一生治らないと思う」、「フジ住宅は自分にとっては大切な職場であり会社には変わって欲しい」という言葉が心に残りました。

 会長の尋問では、主尋問では長々と自分の考えを語り続け、反対尋問では、「在日特権」デマに関する文書やヘイトスピーチが含まれる文書について指摘されると、自分が配布させた文書であるにもかかわらず、ちゃんと見ていないなどと述べ、さらには今回の事件で問題になっている民族差別的な文書について、こちら側からの指摘を受けて内部で検討をしたのかという問いに対して、検討もしていないし反省もしていない旨述べました。さらには、「自分は正しい」、「フジ住宅は素晴らしい」、「こんな素晴らしい会社を訴えたことについて原告も弁護士も反省しろ」、などと述べ、今回の行為の問題性を全く理解せず反省もしていないことが明らかとなりました。

さらに、会長は、原告側からの反対尋問の際に不規則発言を何度も行い、質問に対してきちんと答えないことも多く、裁判長から何度も「ルールを守ってください」「質問に答えてください」と注意を受けてもその態度が変わることはありませんでした。

最後まで自分が正しいと言い続け、裁判所のルールすら守らない会長の態度を見て、このような会長に対して会社内で従業員が異議を述べることができない状況が容易に推測されました。

 4年以上続いた裁判もいよいよ大詰めを迎えています。今回の尋問で改めて原告の被害、そしてフジ住宅、会長の異常さ、さらにはまさに会長による会社の私物化の実態が浮き彫りになりました。原告が尋問の最後に述べた会社に変わって欲しいという願いを実現し、原告が安心して働ける職場にするため、法廷の内外で原告・弁護団・支える会が一体となって闘っていきますので、今後ともご支援いただきますようお願い申し上げます。

(担当弁護士は、村田浩治、河村学、南部秀一郎、金星姫、瓦井剛司、馬越俊祐、安原邦博、清水亮宏、冨田真平)

パワハラ指針素案の内容と問題点

弁護士 足立 敦史

1 はじめに

2019年5月29日、「ハラスメント防止法」(呼称)が成立しました。

同法は、我が国で初めてパワーハラスメントについて法文で規定し、その防止をするための措置を講じる義務を企業に課した点に特徴があります。

同法は、パワハラを、「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、その雇用する労働者の就業環境が害されること」と定義しています(第 条の2第1項)。

この定義は、実はこれまでの厚生労働省のパワハラの定義をほぼそのまま焼き直したもので抽象的であるため、同法がパワハラ規制として機能するかは、同法の解釈「指針」の内容次第になります。この点、パワハラ防止法には衆参両議院の附帯決議があり、パワハラ行為自体を禁止するILO条約への批准も目指された良いものでした。そこで、「指針」もパワハラ規制を進めるものになることが期待され、注目されていました。

2 パワハラ指針素案の内容と問題点

ところが、どうでしょう。2019年10月21日に労政審に指針素案が出されましたが、その内容はこれまでの厚生労働省のパワハラ規制をむしろ後退させるもので、パワハラ規制を弱めるものでした。例えば、これまで「優越的」(優位性)とは、職務上の地位に限らず、人間関係や専門知識など様々な優位性が含まれて広く解釈されてきました。しかし、指針素案では、「当該事業主の業務を遂行するに当たって、当該言動を受ける労働者が行為者に対して抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景として行われるもの」と解釈されており、大きな力の差が要求されています。被害者が少しでも反論等していれば、使用者に「拒絶できたじゃないか」との言い訳の余地を与えて、パワハラ規制を弱める結果となっているのです。

また、指針素案は、事案によっては十分パワハラに当たりうる例を「パワハラに該当しないと考えられる例」として明記しています。例えば、「経営上の理由により、一時的に、能力に見合わない簡易な業務に就かせること」がパワハラに当たらないと考えられるとされています。しかし、これは、これまで違法な降格・配転事件、追い出し部屋事件等が、「経営上の理由」から「一時的な」解雇回避措置でありやむを得ないと言い訳されてきたことを正当化しかねないものです。事案に応じてパワハラに当たり得る例を「該当しないと考えらえる」と明示することは、職場でのパワハラをむしろ促進してしまうことにもなりかねません。パワハラに該当しないと考えられる例は、全て削除されるべきものです。
指針素案の問題点は、詳しくは民法協のホームページに声明が出ていますのでご確認いただき、問題点を共有いただければと思います。
(http://www.minpokyo.org/release/2019/11/6715/)

3 おわりに

このパワハラ指針素案は、パブリックコメント手続に付されています。指針素案に対する国民の意見を考慮させる手続保障が図られているわけです。パブコメの締切は2019年 月 日までです。時間がないですが、民法協の声明をひな形にして、各団体は可能な限りパブコメを出し、問題だらけの指針素案を修正させましょう。

ILO訪問記

弁護士 喜田 崇之

1 はじめに

2019年10月27日~28日、年金引下違憲訴訟弁護団を代表して私が、全日本年金者組合の有志らと共に、スイス・ジュネーブにあるILO事務所に訪問しました。今回の訪問の目的は、大きく2つです。

①日本の年金制度の様々な問題点を伝えること、②日本の年金水準がILO102号条約の求める水準に到達していないことを伝えることです。

我々は、法的基準専門官のエマニュエル氏とマルコブ氏と面談し、その後、アクトラブ(労働者活動局)で従事する2名の方と面談することができました。私が面談で伝えてきた内容や、面談時の様子をご報告します。

2 年金制度の諸問題

日本の年金制度には様々な問題があります。年金を自動的に削減し続けるマクロ経済スライドがすでに導入され、その他にも物価スライド制度の例外を設けて年金削減をさらに進める法改正が相次ぎ、いわゆる老後2000万円足りない趣旨の報告書が無視されました。

また、2019年8月には、年金財政の将来見通しを検証する財政検証が発表されました。そこでは、6つのケースの将来見通しを想定しましたが、いずれのケースでも、老齢基礎年金が削減され続け、約25年後~30年後には、約30%もの削減がなされる見込みであることが明確に示されました。財政検証の試算は様々な問題があるのですが、その一つが、6つのケースのいずれも、実質賃金が毎年上昇し続けることを前提としていることです(最も悲観的な想定ですら、毎年0.4%ずつ実質賃金が上昇し続けることを前提としています)。しかしながら、ここ数年で実質賃金は下がっており、あまりにも現実離れした試算だと専門家から指摘されています。

3 ILO102号条約違反

ILO102号条約は、ごく単純に言えば、日本でいう厚生年金については、30年間保険料を納付した場合には、従前所得の40%以上を保障しなければならないことを求めています。

日本は、5年に1度、ILOに報告文書を提出しています。日本は、60歳まで勤務した夫と専業主婦を標準モデル世帯とし、モデル世帯が30年間の加入で得られる年金額は月額16万5000円(2012年報告)と算出し、他方で、平均賃金が月額31万5000円なので、所得代替率は52.4%としています。

しかし、報告書が前提としている平均賃金は、平均標準所得というものから算出されているもので、ここには賞与が含まれていません。賞与を含んだ賃金の統計は、毎月勤労統計、賃金センサス等がありますが、これらを利用すると全く違う割合が算出されます。例えば、製造業(従業員数5人以上)の平均賃金は月額42万円です(毎月勤労統計)。

そうすると、16万5000円÷42万円は、40%を若干下回ります。そして、上述したマクロ経済スライドが適用され続けることにより、この数字は、どんどん低下することになります。老齢基礎年金が30%削減されることになれれば、年金の所得割合は 30%を下回ることになります。

4 面談の様子

ILOは、今年創設100周年を迎え、私たちが訪問したときは、総会開催の真っ只中のとても忙しいときでした。そのような中、エマニュエル氏とマルコブ氏が応対してくれ、私の上記の説明に真摯に耳を傾けてくれました。また、裁判闘争や様々な運動面で尽力していることに大変感銘を受けておられました。また、今後にむけて、条約勧告適応専門家委員会への申立ての方法や、申立てまでに行うべきこと、準備すべきこと等など、具体的なアドバイスも受けました。

その後、アクトラブ(労働者活動局)との面談では、同趣旨の説明を行い、アクトラブの日常的な活動内容、我々の活動内容の意見交換などを行い、今後も連携して、協力体制を構築することを確認することができました。

5 最後に

私にとっては初めてのILO訪問で、貴重な機会となりました。日本の年金水準がILO条約違反であることを正式に申立てをするには、まだまだ越えなければならないハードルがありますが、ひとつずつクリアしていき、ILOを動かしたいとひそかに燃えています。

在阪改憲反対法律家5団体学習会――「日韓関係の歴史的経緯と北東アジアの平和構築」

弁護士 片山 直弥

2019年10月29日、在阪改憲反対法律家5団体(大阪弁護士会9条の会、大阪社会文化法律センター、自由法曹団大阪支部、青年法律家協会大阪支部、民主法律協会)による学習会がエル・おおさかで行われました。韓国問題研究所代表・康宗憲(カンジョンホン)さんから「日韓関係の歴史的経緯と北東アジアの平和構築 ~日韓関係解決の糸口を求めて~」というテーマでご講演いただきました。

韓国大法院(最高裁)の元徴用工判決をきっかけとして、日本政府による対輸出規制拡大(ホワイト国指定取消し)、韓国政府によるGSOMIA破棄通告(ただし、その後継続となりました)、従軍慰安婦像の展示をめぐる愛知トリエンナーレの開催中止など、日韓関係は戦後最悪と言われるような状態になっています。

元徴用工判決について、安倍首相は、「国際法に照らせば、あり得ない」と非難し、韓国政府に「前向きな対応」を要求しましたが、韓国政府に対して、大法院判決に反する対応を求めているとすれば、三権分立の原則(行政府は司法府の法解釈と判断を尊重しなければならないという原則)からして問題です。

私は、一法律家としてこのような問題意識を抱いていました。ただ、日韓関係の歴史的経緯については不勉強であると感じていましたので、本学習会に参加することにしました。

弁護士という仕事をしていますと、同じ「事実」を経験していても(意図せずしてか、意図してか、は分かりませんが)それを語る人(特に、その立場)によって全く違う内容になるのだな、と思うことがあります。そのため、裁判では感情を排し客観的な証拠に基づいて判断することが重視されるのです。

「歴史」についても同じことが言えるでしょう。康宗憲さんからは、国家間で締結された条約・協定の内容、吉田松陰の手紙などの資料を踏まえて、日韓で過去にどのようなことがあったか、をお話いただきました。紙幅の都合上その全てを紹介することはできませんが、とても分かりやすいご講演でした。

今の日本では、「空気を読む」という言葉もあるように、その場に集まった人たちの感情を察して合わせることが是とされる風潮があります。日韓関係についても空気を読んで語っている人が多いのではないでしょうか。

日韓関係の改善のためには、国民一人ひとりが「場の空気」という曖昧なものによるのではなく、資料に基づいて、どこでボタンの掛け違いが生じているのかを理解する必要があります。私も、本学習会をきっかけに一層の勉強の必要性を痛感した一人として、問題を理解しそれを分かりやすく伝えられるようになりたいと思います。そして、日韓関係が一日も早く改善に向かうことを願ってやみません。

日本労働弁護団第63回総会レポート

弁護士 加苅  匠

1 日本労働弁護団総会@岡山

2019年11月8日(金)から9日(土)にかけて、岡山県で日本労働弁護団第63回総会が開催されました。全国各地から労働問題に取り組む弁護士、労働組合など、総勢200名ほどが参加しました。

2 1日目~幹事長報告、記念講演、報告討議~

はじめに、棗一郎幹事長より、日本労働弁護団の活動方針が示されました。労働課題は山積みとなっている状況ですが、日本では民主的運動や労働運動になかなか関心がもたれない中で、これまで以上に積極的で市民を巻き込む取組みが求められている現状が報告されました。

記念講演は、橋本陽子学習院大学法学部教授より、「労働者性の判断要素と判断方法」というテーマでご講演いただきました。インターネットの普及により、会社に行かなくても仕事ができる環境が整備されたり、時間に拘束されない働き方が普及されたり、「雇用によらない働き方」の普及が図られている今、改めて「労働者性」の要素を見つめなおすことが重要です。講演では、労基法上の労働者性と労組法上の労働者性の違いは、判断要素ではなく判断方法の違いであるといった新しい視点での検討方法が紹介されました。

その後、昨今の労働課題(具体的には、①労働者性、②雇用によらない働き方、③解雇の金銭解決制度、④均等待遇、⑤副業・兼業、⑥賃金等請求権の消滅時効、⑦医師・教員の働き方、⑧ハラスメント)について報告・討論が行われました。

3 2日目~特別報告、労働弁護団賞授与式~

2日目は、特別報告として、大阪労働者弁護団より関生支部に対する刑事弾圧の概要について報告がありました。
そして、労働界のノーベル賞と言われている(?)労働弁護団賞授与式が行われました。今年は、民法協から「大阪医科薬科大学労契法 条裁判弁護団」に対して賞が贈られました(鎌田幸夫弁護士、河村学弁護士、谷真介弁護士、西川大史弁護士、おめでとうございます!)。また、「ベルコ事件弁護団」にも同賞が贈られました。

4 2020年の課題

来年度も取組むべき課題はたくさんあります。ひとつひとつの課題を、労働組合と弁護士と学者とが連帯して克服していかなければならないと、決意を新たにすることができた総会でした。私もいつか労働弁護団賞がもらえるよう、努力を積み重ねていきたいと思います。

裁判・府労委委員会例会報告 学童保育の先生の地位が、 こんなに不安定でよいのか? ―堺学童保育指導員労組への不当労働行為事件―

弁護士 下迫田 浩司

1 はじめに

2019年11月18日、裁判・府労委委員会の例会がエル・おおさかで開催されました。今回は、堺学童保育指導員労働組合への不当労働行為事件(以下、「本件」といいます。)の労働委員会における闘いについて検討しました。

まず、弁護団の冨田真平弁護士が中心的な報告を行い、適宜、弁護団の村田浩治弁護士が補足説明をしました。その後、堺学童保育指導員労働組合の谷口文美執行委員長と石岡裕司書記長から報告があり、そして、当事者本人が話をして、最後に、これらを踏まえて、出席者との間で活発な議論がなされました。

2 本件の概要

堺市の放課後児童対策事業(学童保育)は、1966年に公立学童保育仲よしクラブとして始まりました。
1997年4月に全児童対象の「のびのびルーム」事業が発足し、堺市は、随意契約により、公益社団法人堺市教育スポーツ振興事業団に委託して運営することになりました。

ところが、2015年9月、堺市の竹山修身市長が市議会において「民間のノウハウを生かす方向で検討すべき」との意向を示し、2016年10月、のびのびルーム管理運営業務について「プロポーザル方式」をとることが発表され、同年11月、プロポーザル方式の審査の結果が発表され、堺市の東区と美原区では「株式会社CLC」が選定されました。そして、2017年4月から株式会社CLCがのびのびルームを管理運営することになりました。

2016年12月に学童保育指導員らに対する説明会が開かれ、「のびのびルームの指導員経験のある方に引き続き勤務をお願いしたい」との説明がなされました。2017年1月の保護者説明会においても、現在の学童保育指導員に残ってもらうことを最重要視している旨の説明がありました。

ところが、2017年2月1日に堺学童保育指導員労働組合が株式会社CLCに対し、労働条件が不明確であるため書面で労働条件を示すように求める手紙を送付し、2月2日に面談して労働条件の疑問点について確認したところ、2月3日、本件の当事者に対して採用拒否の通知がなされました。

3 大阪府労働委員会での闘い

2017年4月、不利益取扱い(組合員であることを理由に継続雇用を拒否)及び団体交渉拒否を理由として、大阪府労働委員会に救済申立てをしました。

府労委では、①株式会社CLCが当該組合員の労働組合法上の使用者に当たるか、②継続雇用を拒否したことが組合員の不利益取扱いに当たるか、③団体交渉申入れに対する拒否が正当な理由のない拒否に当たるか、が争点となりました。

2019年1月8日、府労委命令は、①に関し、株式会社CLCと当該組合員との間で労働契約は成立していないと認定したうえで、「近い将来において労働契約関係が成立する可能性が現実的・具体的に存していたか否か」という問題の立て方をしました。そして、組合員が承諾しさえすれば会社に雇用される状況にあったとみることはできず、また、保護者会や委託元が継続雇用を要望していたからといって、会社が雇用を義務付けられるものではなく、雇用関係の承継に等しいものということはできないとし、「近い将来において労働契約関係が成立する可能性が現実的・具体的に存していたということはできない」と認定し、株式会社CLCは当該組合員の労働組合法上の使用者に当たるとはいえない、と判断しました。その結果、②の不利益取扱いや③団交拒否の争点については「判断するまでもなく」申立てを棄却しました。

4 中央労働委員会での闘い

本件府労委命令に対し、中央労働委員会に再審査を申し立て、現在、中労委での闘いが進行中です。

5 最後に

本件を聞いて、のびのびルームの運営事業者が3年に1度交代するというプロポーザル方式そのものの問題点を非常に感じました。株式会社CLCが選定されてからもうすぐ3年が経ち、2020年4月には、のびのびルームの運営事業者が再度選定されます。

このままでは、労働者である学童保育指導員の地位が極めて不安定になると同時に、保護者や子どもから見ても3年に1度学童保育の先生が変わり、学童保育の継続性が失われ、保育の質の低下につながってしまうと思われます。

中労委での逆転を期待しています。

「労働者の」使用者に対する「制裁制度」の確立へ

島根大学名誉教授 遠藤 昇三

 労働者の様々な非違行為に対してあるいはそうしたものがあると称して、使用者は、労働者に対し懲戒処分を行います。使用者に懲戒権があることについては、法的な常識であるとともに、社会的にも当然の事態とされています。裁判上でも問題となるのは、使用者の懲戒権の存否、懲戒権の根拠レベルではなく、当該懲戒処分が有効か無効か、あるいは有効としていわゆる量刑的に過重か否かということでしかありません。

しかし、考えてみれば、対等の当事者・労使対等の法的関係の下で、懲戒権が認められるということは、市民法的常識に反します。市民法の一定の修正・変容として展開されている労働法の世界、即ち労働者の様々な権利が認められまたいろいろな労働者保護が成立している法的状況において、使用者の労働者に対する懲戒権が認められるのは、法的背理でしかありません。そうだからこそ、労働法学界は、懲戒権の根拠をめぐり。多様な見解を提示するとともに論争も展開されて来ましたが、今なお、十分説得的で通説なり多数説を形成するような学説が確立しているという状況ではありません。とりわけ大企業の独裁・専制を最終的に支えているのが、使用者の解雇権(なお、これに関する筆者の問題提起は、「民主法律時報」 月号参照)であり否それ以上に懲戒権であることは、言うまでもありません。使用者の懲戒権に対する徹底的な歯止めをかける法的努力が必要であり、現在の到達段階が、労働契約法第 条(判例法理であった懲戒権濫用法理の立法化)であることは、周知のところと思います。これらに関して、ここで述べるつもりはありません(筆者なりの法的歯止めに関する見解は、拙著『労働保護法論』日本評論社、2012年第5章参照)。

ところで、最近発覚した関西電力の資金環流事件等企業・使用者の様々な社会的不祥事が、多発しています。その際、使用者が採る対応は、一つは、コンプライアンス(=法令順守)の言葉だけの強調、もう一つは、役員の直ちの辞任ではなく事態を収拾するなり責任を採ると称しての役員の居座りであり、最後に、とりわけ第三者委員会による形ばかりの調査と対策の提示による事態の幕引きです。いずれにしても、たとえば(株主代表訴訟が提起されるか否かはともかく)株主による株主総会を通じた役員に対する責任追及(必ずしも効果的ではない)くらいです。そうした過程に、労働者が登場することはありません。極端であれば(とは言え実際に生じたことですが)、企業の倒産・解散そして労働者の全員解雇となりかねない事態に対して、労働者が何も発言出来ないことは、異常です。私は、そうした状況をも踏まえまた一般的にも、「労働者による使用者に対する懲戒権」の確立という法的課題を提起しました(上掲拙著第5章第1節4)。それに対する労働法学界の反応は、「ユニークな見解」とするごく一部の評価を除き、ありません。そういう状況ですので、ここで、ストレートに「労働者による使用者に対する懲戒権」の確立の努力を、皆様に訴えることは致しません。――それを長期的な課題として先送りしつつ――その代わり、表題にあるような、「労働者による使用者に対する」何らかの制裁制度(責任追及の制度)の確立を、訴えます。これは、多くの企業不祥事の発覚の契機となっている内部告発を、法的に保護する公益通報者保護法の延長上に、展望しうる制度です。その確立は、やはり立法的課題となります。進め方としては、いきなり立法を要求しても相手にされないでしょうから、まずは、労働組合が、団体交渉を通じて要求し、合意されれば協約化する、それを積み上げて社会的な関心を喚起し社会的に浸透させる、そうした努力を踏まえて立法化要求をするということになろうかと、思います。

大いに検討・議論されるよう、訴えます。

岩波ブックレット 最低賃金』ご購読のお願い

弁護士 中村 和雄

 岩波書店より、日弁連貧困本部編集による岩波ブックレット『最低賃金』(580円+税)が発売されました。https://www.iwanami.co.jp/book/b482302.html

貧困の解消と格差の是正のために今取り組むべき重要政策が「最低賃金」の大幅引き上げです。そして、若者の地方からの流出をくい止め、地方経済を活性化するためには、地域別最低賃金の東京と地方との格差を是正していくことが不可欠です。そのために「全国一律最低賃金」制度の導入が考えられます。

今、世界の流れは「全国一律最低賃金」です。アメリカやブラジルなど国土のきわめて広い地域を除けば、ほとんどの国は最低賃金は全国共通です。わが国でも全国一律最低賃金をもとめる運動が高まっています。自民党の中にも「最低賃金の全国一元化推進議員連盟」が設置され活発に活動しています。全国一律最賃制を実現するためには、中小企業への支援策の充実が決定的に重要です。政府は最低賃金引き上げに伴う中小企業の賃金引き上げの支援策として、業務改善助成金制度を創設しました。しかし、支給要件とされる「生産性向上のための設備投資」などが達成困難であるために利用企業は少なく、全国で年間200件程度だけです。韓国では雇用者 人未満の事業主に対し、労災保険料、国民年金等の事業者負担部分を80%以上減額する制度を採用しています。韓国では、最低賃金の大幅な引上げによって月給15万円未満の若者が大幅に減少しました。

本書では「最低賃金」制度とはどのようなものなのか、なぜ、今、最低賃金の引き上げが必要なのか、世界各国の最低賃金制度はどうなっているのか、最低賃金引き上げのためには何が必要なのか、とりわけ中小零細企業に対してどのような支援策を講ずべきなのか、最低賃金引き上げや全国一律の実現のための運動はどうすれば良いのか、など最低賃金に関する重要な課題について、簡潔でわかりやすい本にしたつもりです。
多くの皆さんが購入頂き、最低賃金の大幅引き上げと全国一律最低賃金制度実現の運動にご理解・ご協力・ご支援をいただければ幸いです。

※民法協で少しお安くお買い求めいただけます。

2020年権利討論集会にご参加を!

実行委員長 須井 康雄

 2020年2月15日(土)に権利討論集会を開催します。午前 時からエルおおさか南館5階南ホールで全体会を開き、午後からは8つの分科会を開きます。分科会終了後、懇親会も行います。会員外の方の参加も大歓迎です。

全体会では、京都精華大学専任講師の白井聡さんに、「『戦後の国体』の終焉」と題してご講演いただきます。白井聡さんは政治学、社会思想の研究家で、我が国が対米従属的政治体制のもと戦争責任を否定し、政治的正当性を維持させてきたという永続的敗戦論を提唱されています。竹島問題では猛烈な感情をあらわにする人が沖縄基地や横田空域の問題では沈黙する――こういった私たちの社会に無意識のうちに浸透し、さらには、安倍政権の支えとなっているであろう一見ねじくれた思想背景を理解し、新たな対抗軸を打ち出す契機にしたいと思います。ぜひ多くの方にお聞きいただきたく存じます。

分科会は、①裁判・労働委員会闘争、②均等待遇、③雇用によらない働き方、④過労死・ハラスメント、⑤外国人労働問題、⑥大阪府市問題、⑦貧困・社会保障、⑧憲法です。

①裁判・労働委員会闘争の分科会では、現在闘っている労働委員会闘争を通じて、前半は地労委、後半は中労委での闘い方を討議します。今回は初めて中労委の労働委員経験者をお招きし、中労委での闘いの在り方も議論する予定です。

②均等待遇分科会は、これまでの派遣分科会とパート分科会を統合し、格差是正につながる実践的な取組を学びます。

③第3分科会では、ウーバーイーツやコンビニ経営者、ヤマハ英語教室、楽天出店者など雇用によらない就労者の組織化に携わった方をお招きし、実践的な取組を討議します。

④過労死・ハラスメント分科会では、過労死防止行政の在り方を長年にわたりチェックしてきた方をお招きし、パワハラ防止法を踏まえた過労死、ハラスメント防止の取組を共有します。

⑤外国人労働問題分科会では、昨年に引き続き外国人労働問題に取り組む方をお招きし、初心者でも分かる実践的な取組を学びます。

⑥大阪府市分科会は、来るべき「都構想」の住民投票に備え、ジャーナリスト(元NHK)の相澤冬樹さんをお招きし維新政治に対する対抗策を討議します。

⑦貧困・社会保障分科会では、反貧困に取り組む研究者や、貧困救済の制度化を実現した元地方議員をお招きし、反貧困運動と労働運動の協働実現などを学びます。

⑧憲法分科会では、愛知トリエンナーレでの表現の不自由展を巡る問題の弁護団をお招きし、表現の自由の意義について学習します。

いずれの分科会も過去、例をみないほど充実しています。どの分科会に参加しようか迷うのも無理はないでしょう。各組合からも多くの方に分科会を分けて参加いただき、今後の取組に活かしていただきたいと思います。託児所も用意しています。多くの方のご参加を呼びかけます。