民主法律時報

大阪教育集会2018 ―どうなる教育と教科書―

弁護士 楠  晋一

 2018年6月2日PLP会館にて、大阪教育集会2018が行われました。
基調講演では、元裁判官の森野俊彦弁護士に、「家庭教育支援法と憲法24条」についてお話しいただきました。
裁判官にとって教育の問題は近くて遠い問題で、行政訴訟で扱うのは教科書検定や教職員の懲戒処分等の訴訟であるため、関心を持っても関与する機会は多くないのだそうです(弁護士も同じです)。

森野先生は、普段法律家も関与する機会が乏しい家庭教育支援法について、細かい条文の内容に深入りするのではなく、憲法24条制定の意義(戦後の日本で女性と子どもの権利を保障するために必須であった家制度の解体)、憲法24条が教育関係法に与えた影響(個人の尊厳を重んじ、真理と平和を希求する人間の育成を期するとともに、普遍的、個性豊かな文化の創造を目指す教育を普及する)と、第1次安倍政権で実施された教育基本法の改悪(公共の精神の尊重と伝統の継承を強調し、真理と平和を希求する教育から真理と正義を希求する教育へ)、教育勅語を肯定しようとする企み、自民党憲法改正草案(24条1項に家族の尊重規定を盛り込む)という、家庭教育支援法が登場する背景から丁寧に説き起こしてお話しくださいました。そして家庭教育支援法については、本来自由で私的な事柄であるはずの教育が、「支援」の名前の下に行政が介入する口実を産む、また介入するために監視をする口実となると批判されました。

この後、教科書大阪ネット21の有志が中学校道徳教科書について検討した、各社の問題点を発表しました。8社申請した中で、安倍首相のブレーンである八木秀次麗澤大教授が設立し、「マンガ嫌韓流」等のヘイト本を多数出版する晋遊舎の代表取締役会長の武田義輝氏が代表取締役を務めている(現在は上間淳一氏に交替)日本教科書株式会社が一番問題が多いと紹介されました。特に問題があると指摘されたのは、2年の教科書148頁にある題材「白菊」の後の読み物「和解の力」です。これは、安倍首相が2016年12月27日に真珠湾で行ったスピーチを編集したもので、全体の趣旨は日米同盟の強化を唱える内容であるにもかかわらず、一部を編集することであたかも平和、和解を謳うスピーチであるかのように誤解させる読み物になっている点、また、現職の自民党総裁である安倍首相のスピーチを肯定的に取り上げる点で、特定の政党の主義、主張に偏ることなく適正かつ公正であることを求める義務教育諸学校教科用図書検定基準や政治教育を禁止する教育基本法14条2項に反する疑いがあることが紹介されました。

このニュースが発行される頃には、全国各地で中学校道徳教科書の採択が行われています。日本会議系の団体も、大量に動員をかけて日本教科書の採択に向けて行動すると予想されます。ぜひ、民法協会員の皆さんには教科書展示会に足を運んでアンケートを記載し、問題の多い日本教科書が採択されることのないように、皆さんの声を教育委員に届けることを強く呼びかけます。

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