民主法律時報

テーエス運輸兵庫県労委命令取消訴訟 勝訴判決の報告

弁護士 杉島 幸生

1 事件の概要

テーエス運輸は、全国に六営業所をもつ高圧ガス配送会社です。会社は、定年となった倉敷営業所勤務の建交労テーエス支部の組合員を運転手ではなく内勤者として再雇用し収入を大幅減少させ(2012年12 月)、それによる人手不足を理由に、組合事務所のある尼崎営業所から書記長と、四日市営業所の分会長を倉敷営業所に配転しました(2013年1月)。その救済を求めた不当労働行為救済申立事件で兵庫県労委は、書記長の配転には救済命令を出したものの、定年後の内勤者としての再雇用、分会長の配転については棄却命令をだしました。その是非が争われたのが本件です。

2 兵庫県労働委員会と神戸地裁の判断

県労委の判断は、運転手として再雇用を求める権利がないから不当労働行為ではない、書記長の転勤は組合活動への影響が大きいから不当労働行為だが、分会長はそうではないとするものでした。民事上の権利性の有無、組合活動への影響の大小で判断するという不当労働行為制度の意義を理解しない不当な命令でした。組合は即座に行政訴訟を提起しましたが神戸地裁は、県労委の救済命令部分を取り消し、棄却命令部分を維持しました。労側の全面敗訴です。神戸地裁も権利性の有無、組合活動への影響力の大小を不当労働行為の判断基準としたのです。しかも神戸地裁は、倉敷と尼崎はそれほど遠距離でなく、通信技術の発達を考えれば組合活動に与える影響はそれほどではないとまで言い切ったのです。当時、再雇用された組合員と分会長は、事故の発生を理由とする下車勤務命令の効力を争う民事訴訟を提起して争っていました。本件再雇用と転勤はその最中に起こされました。この民事訴訟は、県労委での審理中に高裁で不当労働行為であったとの判決がだされています(神戸地裁では敗訴)。当然、不当労働行為意思の連続性を考慮すべきところですが、県労委も神戸地裁もこれを無視したのです。

3 高裁での逆転判決

しかし大阪高裁(2017年10月30日 判決)は違いました。建交労テーエス支部と会社の間に多数の労使紛争が生じていること、二名が訴訟の当事者であり、下車勤務命令の不当労働行為性が認定されていることから、本件でも使用者の不当労働行為意思を推認し、それを覆すに足る合理的な理由がなく、定年となった組合員を運転手として再雇用すれば倉敷営業所の人手不足も生じず配転の業務上の必要性も乏しいとして、組合員全員について不当労働行為性を認めたのです。労側の全面勝訴です。

4 本件判決の意義

本件判決の第一の意義は、権利性の有無、影響の大小で不当労働行為の成否を判断するという誤った判断枠組みを是正することができたことです。第二の意義は、実は、配転について民事訴訟(配転を無効とする仮処分決定がでたことにより配転が取り消され、損害賠償等請求として継続)で労働者側の敗訴が確定(神戸地裁の判断はこれをなぞったものでした)していたのですが、不当労働行為制度の枠組みでそれを覆すことが可能であることを示したことです。しかし、本件はこれで終わりではありません。まだ最高裁、県労委での再審理があります。労働者がその権利を守ることのなんと大変なことか。当事者組合員と建交労テーエス支部の奮闘には頭が下がります。最終的勝利までもう少し、弁護団としても組合とともに頑張っていきたいと思います。

(弁護団は、杉島幸生、中筋利朗、山室匡史)

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