民主法律時報

大阪市労組・組合事務所事件―中労委で勝利命令! 最高裁で反転攻勢へ

弁護士 谷  真 介

 今年6月大阪高裁(志田博文裁判長)において逆転実質敗訴(最高裁に上告中)、明け渡しを命じられた大阪市労組・組合事務所事件で、中央労働委員会は、11月26日(命令は10月21 日付け)、大阪市・市労組双方の再審査を棄却し、昨年2月の市労組を救済する府労委命令を維持した。
高裁敗訴で逆風が吹く中(大阪市側は、結審している中労委に高裁判決をわざわざ提出していた)、橋下市長による団結権侵害が吹き荒れた大阪市の実態を直視し、これを労働委員会として明快に断罪をした命令であった。

 平成23 年12月に大阪市長に就任した橋下氏は、「組合適正化」の御旗を掲げ、その「いの一番」として、市労組を含む各労働組合が長年市庁舎地下1階に構えてきた組合事務所について、平成24年4月以降の使用を不許可とし、明け渡しを迫った。連合傘下の市労連は早々に退去したが、市労組・市労組連(市労組や市教職員組合等5労組の連合団体)は、一歩も引かず、占有を継続したまま、平成24年3月に使用不許可処分取消訴訟を提起(その後、市から明渡し訴訟も提起)、また府労委に不当労働行為救済申立てを行った。大阪市は、裁判・労働委員会で、①市庁舎の行政事務スペース不足、②労働組合の市庁舎における違法・不適切な政治活動をするおそれの払拭という2つの明渡し理由を主張し、さらにその後、平成24年8月に施行された労働組合への便宜供与を禁止する労使関係条例を、理由に追加した。

平成26年2月の府労委命令は、橋下市長の団結権侵害(不当労働行為)意思については言及を避けつつ、市の主張する①②は理由にならず、これらを組合に提示して協議するなどの解決も図ろうとしていないことから支配介入の不当労働行為にあたるとし、大阪市に誓約文の手交を命じた。同判断は、その後橋下市長の組合嫌悪意思について明確に認めた地裁判決(平成  年9月)からは若干見劣りするものであった。さらにその後の高裁判決では、橋下市長の目的は労使関係を市民感覚に是正するところにあり専ら組合嫌悪の意思によってなしたものではない、仮に不当労働行為があっても直ちに市長の裁量権の逸脱の違法があるとはいえない、組合には組合事務所を求める権利はないため労使関係条例が団結権を侵害することはない、市庁舎の行政事務スペースも最初から狭かった等、実態から乖離した耳を疑うべき判決が出されていた。

 市労組は不退転の決意で不当な高裁判決に上告、また平成27年9月には平成  年度の不許可処分について追加で大阪地裁に提訴する中、中労委から命令交付の連絡を受けた。これで負けたらトドメをさされるのではないか、と不安の中で出された命令でもあった。

まず中労委は、そもそも市労組は労使癒着を指摘される問題とは一線を画する活動をしていたにもかかわらず、橋下市長が自らと異なる労働組合の政治活動を問題視して組合事務所の退去要求を主導しており、その意図は労働組合が市長選挙で対立候補を支援したとの事情があったとみざるをえないとした。また行政事務スペースの必要性についても、大阪高裁の認定とは真逆で、大阪市の行政事務スペースについての検討は極めて不十分と断罪、明け渡しの主たる理由は前記②にあると断罪した。そして、大阪市は「市労組の不利益を認識しながらあえて無視又は殊更に軽視して本件退去通告及び本件不許可処分を行ったといわざるを得」ないとして、いわば「故意」の不当労働行為意思を認めた。不当労働行為意思を否定した高裁判決はもちろんのこと、この点の判断を避けた府労委命令よりも相当に前進し、実態を直視したものであった。

さらに労使関係条例については、「労使関係条例を前提としてもその個別の適用において将来にわたり不当労働行為が成立する余地がなくなるとはいえず、そのような場合でも労使関係条例故に不当労働行為の救済がおよそなしえなくなるとも解し難い」、「本件の経緯に鑑みれば、市が同種の支配介入行為に及ぶ可能性は存在する」とし、条例施行をもって救済の利益は失われないとした。これは労使関係条例を絶対視し、条例のみを理由に使用不許可処分を行うことをすべからく適法とした高裁判決への批判が含まれているとみることができる。

一方で中労委は、組合事務所を使用させなければならない命令を出すべきという市労組の再審査申立も棄却した。しかし、これは単に市労組が、労働委員会では裁判とは異なり、最初の退去通告と平成  年度の不許可処分のみを対象として申し立てていたからにすぎない。そのような中でも、中労委は、「労働委員会の命令により、市に対して  年度における本件スペースの使用不許可について同様の対応を繰り返さないように表明させることにより、今後の市の施設管理に係る権限の行使において、判断の慎重さの要求がより高まることが期待できる」とし、平成  年度以降も大阪市が慎重に判断せずこれまで同様に不許可処分が出された場合(実際そうであった)は、(労使関係条例があっても)やはり同様に不当労働行為になることを認めたものである。

中労委において、(部会ではなく)全員で協議し一致した中で、これだけの内容が示された本命令の意義は極めて大きい。維新流手法を肯定した高裁判決を厳しく批判し、不当労働行為救済を目的とする労働委員会の使命を果たそうという意地と信念を感じさせる素晴らしい命令であった。

 命令交付直前に行われたダブル選では残念ながら維新の市長が当選し、労使関係の混乱はまだ続くことが予想される。明け渡しを命じた不当な高裁判決があるため、決着は最高裁、となる可能性が高い。しかし、大阪市側は、橋下市長も入った協議において、中労委命令に対して取消訴訟を提起することはせず、この命令を受け入れて誓約文を市労組に手交することを明らかにしている。橋下市政が誕生して4年、逆風の市庁舎の中で市民と共同して闘ってきた市労組に対し、市が不当労働行為を認めたことは大きな成果である。引き続き、最高裁と2次訴訟での組合事務所闘争、また市役所内での維新大阪市政との対峙は続く。不当な高裁判決を最高裁で絶対に跳ね返す、反転攻勢の第一歩としたい。

(常任弁護団は、豊川義明、大江洋一、城塚健之、河村学、増田尚、中西基、谷真介、喜田崇之、宮本亜紀。最高裁では全国から262名の弁護士に就任していただき大弁護団で闘っている。)

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