民主法律時報

「人質事件から考える」――大阪弁護士9条の会・緊急学習会

弁護士 愛 須 勝 也

1 ムスリムの方もゲスト参加

大阪弁護士9条の会では、2015年3月6日、ジャーナリストの西谷文和さんを講師に「人質事件から考える」というテーマで、緊急学習会を開催した。当日は、シリア難民のユーセフさんもゲストで参加してくれ、西谷さんと一緒にシリアの情勢をお話ししていただいた。
ユーセフさんは、シリアのアレッポ出身。アレッポには世界遺産がたくさんあり、ユーセフさんは、そこの国立博物館の館長を務めていた著名な考古学者であるが、内戦から逃れて2年前に日本に来たという。シリアは、世界で一番難民(主にパレスチナ難民)を受け入れてきた国で、シリア第2の都市であるアレッポでは、100年前にアルメニア人が入ってきて、もともと居たクルド人、スンニ派、キリスト教等、多民族、多宗教が混在していたが、お互いに信頼関係があり、紛争もなかったという。
そんなシリアが内戦後、どうなったか。シリアは元々、教育が行き届いて、平和な国だったが、内戦後、アルカイダ、イスラム国などが外国から入り込み、深刻な貧困になった。生活状況は最も危険的な状況で、食料がないし、質も悪い。学校も破壊され、軍の拠点になっている。病院も破壊されている。しかし、人々は内戦に賛成している訳ではない。イスラム国は、コーランを曲解していると考えているし、内戦は早く終わってほしいと思っている。ほとんどのイスラム教徒は、イスラム国を受け入れがたい。支配下に入った人々は仕方なく従っているだけであるという。

2 解決のための方策

では、この状況を解決するためにはどうしたらいいのか。西谷さんは、シリアだけでこの紛争をストップすることは出来ない。国連等の支援が必要だという。紛争の原因は、イラン、アメリカ、トルコ、ロシアなどの周辺国から武器が入ってくること。石油利権も暗躍している。
西谷さん曰く、イスラム国は一つの結果でしかない。空襲すればするほどイスラム国に兵士が入っていく。被害が出れば出るほどイスラム国を支持する人が増える。どうすればよいか。西谷さんは、人々をしっかり教育すること、思想的なところでテロは許さないという方針でたたかうべきだという。ヨーロッパ、アメリカではイスラム教徒への差別がある。その差別が若者をイスラム国に追いやっている。
日本国内の世論は、今のままでは、「イスラム国は怖い、空爆は生ぬるい、9条甘すぎる。」ということになってしまう。戦争したい人や、テロとのたたかいをずっと続けたい人は、イスラム国を口実に戦争が出来る。メディアはイスラム国の生まれた原因を報道しない。9・11が起きて人々はビンラディンを知ることになるが、彼が元々、アメリカとつるんでいたことをメデイアは報道しない。人々の頭に刷り混みがなされている。

3 人質殺害事件

後藤さん救出の件で、交換条件に出されたルシャウイ死刑囚によるホテルでの自爆テロでは 人もの人が犠牲になり、ヨルダン人にとっても、イラクの難民にとってもやっかいな人であった。当初、後藤さん解放の合意が出来たが、ヨルダン人パイロットの解放が優先だという反対デモが起きた。ヨルダンの6割はパレスチナ難民。アメリカに追随する国王に反発している。日本政府は、なぜ、トルコではなく、ヨルダンに対策本部を置いたのか。西谷さんは、後藤さんは絶対に救えたはずだと強調。メデイアを使っての刷り込みが、あまりにも残忍な結論となってしまった。

4 空爆では絶対に解決しない

今の事態はアメリカが蒔いた種。無政府状態にして国、町を潰す。そして、石油を奪う。4年間も内戦が続いているで、人々の人心も荒れている。イスラム国へ人質を誘拐して転売するようなこともあるという。シリアには武器があふれている。すべての原因はイラク戦争。武器と石油。ロシアやアメリカなどの周辺国が武器と金の支援をやめることが重要。武器の流れを絶つこと。
最後に、西谷さんが強調された点。日本だけが平和的貢献ができる国。和平協定などを東京や大阪で開催できる。パリではできない。ドイツもクルドに武器を提供している。今なら東京で和平協定が出来る。それこそ、「積極的平和主義」ではないか。9条を使った平和主義、その方向に切り替えることが大事。宗教戦争で仕方がないという見方がマスコミを通じて流される。しかし、実際には、宗教を利用しているだけ。実は人々はそうではない。仲良く暮らしてきた。
マスコミの垂れ流す報道だけではなく、実際の現場の状況や、問題の背景や原因を深く追求していくジャーナリストの役割を再認識するとともに、憲法9条の精神こそ唯一の紛争解決の道だと確信した。ユーセフさんには懇親会にも参加していただき(もちろん、お酒はNG)、貴重な話を聞くことができた。

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