民主法律時報

過労死110番25周年シンポジウム&過労死・過労自殺110番の報告

弁護士 瓦 井 剛 司

1 過労死110番25周年記念シンポジウム

 平成25年6月11日、エルおおさかにて、過労死110番  周年記念シンポジウム「過労死社会は変革できるか ―過労死110番の四半世紀から考える―」が開催されました。約50名の皆様にご参加いただき、良いシンポとなりました。過労死防止基本法制定に向けた新しいパンフレットの完成が間に合い、ご参加いただいた皆様に配布できたことも個人的にとても嬉しく感じました。

 シンポジウムは、カン・ミンジョンさん(韓国中央大学、立命館大学大学院社会学修士課程)による「韓国における過労死・過労自殺問題」の報告で始まりました。カンさんの報告には、さらに立命館大学産業社会学部教授の櫻井純理先生からの補足・コメントがあり、両報告により韓国と日本との共通点と相違点を意識することができました。

 続いて、熊沢誠先生から、「過労死・過労自殺の四半世紀」と題して、この  年を、①日本経済の成功とバブル景気、企業内での日本的能力主義の定着などを背景とした前期Ⅰ(1980年代後半~1994年)、②平成不況と企業間競争の激化などを背景とした前期Ⅱ(1995年~2000年)及び③企業経営の環境悪化などを背景とした後期(2001年~現在)と、大きく3つの時期に分けて分析する分かりやすいお話しがありました。時代背景、労働環境及び労災認定の状況などとともに緻密に分析されたお話は、非常に興味深いものでした。

 そのお話に続いて、岩城弁護士の司会進行の下、「遺族が語る四半世紀」として、熊沢先生が整理された各時期を代表する3つの事案のご遺族(前期Ⅰ・平岡さん、前期Ⅱ・下中さん、後期・中村さん)をお迎えしてのリレートークがありました。平岡さんは、過労死110番の初回に相談をされた方とのことでした。どなたのお話もそれぞれの時代背景の中での悲しみと戦いがありありと伝わるものでした。

 さらに、全国過労死を考える家族の会代表の寺西笑子さんから、ジュネーブでの「国連・社会権規約第3回日本政府審査」に関する報告がありました。過労死を考える家族の会有志の皆さんの国連への直接の訴えなどの結果、国連から日本政府に対して、過労死・過労自殺を防止する立法・措置をとるようにとの異例の改善勧告が出されたのです。国連が過労死まで踏み込んだ勧告を日本に出すのは初めてであり、寺西さんからは、この勧告を生かすべく、①勧告を日本社会へ広く知らせ、運動に役立てる、②日本政府に対し、実施を迫ることが提案されました。
 最後に、過労死防止基本法制定実行委員会委員長の森岡孝二先生からの報告とまとめでシンポジウムは幕を閉じました。  周年にふさわしく、  年を振り返るとともに未来を見据える内容のシンポジウムとなったと思います。

2 過労死・過労自殺110番

 シンポジウムと連動して、6月15日は、過労死110番電話相談を実施しました。大阪では約10名の弁護士が参加し、総数26件の相談をお聞きしました。
 26件の相談の内訳は、労災補償相談が4件、過労死予防・過重労働相談(パワハラの相談含む)が16件、その他が6件でした。労災補償相談では死亡事案も2件ありました。早朝に出社し深夜まで仕事で帰宅できない日々が続く中で倒れられた方のご遺族など過労死に直面したからの御相談のほか、今回も、働き過ぎの労働実態をどうすればよいかという予防相談も多数寄せられる結果となりました。
 
 なお、これまで定期的に実施してきた「過労死・過労自殺110番」ですが、今回から、常設(平日9時半~5時半)の相談電話番号を設置することになりました。電話番号は06-6364-7272です。開設初日に既に3件ほどの相談が寄せられており、今の日本の過重労働の深刻な実態が窺えるものとなっています。

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