民主法律時報

中労委で逆転救済命令!――吹田市不誠実団交事件

弁護士 喜 田 崇 之

1 はじめに

 吹田市職労現業評議会及び同現業合同支部(以下、単に組合という。)が、吹田市に対し、市立中学校・小学校・幼稚園に配置される学校校務員の各校あたりの配置人数に関して、後述する2002年協定書で定めた人員を配置しないことが労組法7条3号に(争点①)、人員配置減少に伴う労働条件等について団体交渉に応じないことが労組法7条2号に(争点②)該当するとして、不当労働行為の救済命令を申し立てていた事件で、中労委は、2013年4月3日付で、請求を棄却した府労委命令を一部取り消し、争点②について市の不当労働行為を認めて団交応諾を命じた。弁護団は、豊川義明、中西基、谷真介、喜田(敬称略)。

2 事案の概要

 吹田市では、学校校務員(校舎の営繕、清掃、植栽の管理などを行う)の各校あたりの配置人数に関して、任命権者である吹田市教育委員会と、現業職員らで構成する組合との間の労使協議によって決定されてきた。
 2001年、市教委当局から労働組合に対して、職員配置基準の変更について協議申入れがあり、複数回の団体交渉を経て、2002年に労使協定が締結された(2002年協定)。これによれば、小学校と中学校各校に1名ずつ、校地面積が上位の5校については2名の学校校務員を配置することとされた。
 しかし、その後、吹田市では、市長(阪口前市長)が推進する「職員体制再構築計画」によって職員の退職不補充がすすめられ、学校校務員についても、正規職員が補充されずに、労使協定で定められた配置基準が満たされない状態となった。
 退職不補充によって生じている欠員について、2007年以降、労使間で団体交渉が行われ、2002年協定を抜本的に改定する労使協議が整うまでの緊急避難措置として、2008年度限りの職員配置体制について労使間で合意しようとしたが、市教委当局は確認書の取り交わしを拒否し、結果的に2002年協定が無視されたまま欠員状態が続いている。

3 大阪府労委命令

 大阪府労委は、2011年8月2日付で、申立人の申立を棄却した。
 府労委命令は、人員配置の問題は管理運営事項であることから団体交渉事項ではないとする吹田市の主張に対し、管理運営事項そのものは団交の対象とはなり得ず、労働協約を締結することができないとしても、その処理の結果、職員の労働条件等に関連する事項に影響を及ぼす場合は、その範囲内において団交事項となり、また労働協約を締結することができるとの一般論を展開した。
 その上で、不当労働行為の成否については、本件協定で定めた人員配置がなされないことが不当労働行為に該当するものではなく、本件協定によって想定された公務員の労働条件との関係で、市が本件協定の遵守についてどのような対応をしたのかという観点から不当労働行為の成否を判断すべきであると述べ、吹田市としては、人員配置を減らさざるを得ない理由について説明を行ったとみることができ、市教委も、申立人らに説明を行い、校務員の労働条件を可能な限り維持できるよう対応を行ったということができるとして、不当労働行為の成立を否定した。
 しかし、府労委の判断は、本件協定で定めた人員配置につき不当労働行為が成立し得る場面を十分に検討していないばかりか、職員体制再構築計画や人員配置等について実質的な交渉権限を何ら有していない市教委が組合側に一定の説明をしたことをもって、不誠実な団体交渉ではないというものであり、不当であって、組合は再審査を申し立てた。

4 中労委命令

 中労委は、校務員の人員配置問題は管理運営事項にあたるが、これが労働条件に関連する限り、関連する労働条件については団体交渉の対象となり、かつ労働協約締結の対象となると解するとの一般論を述べた。
 その上で、争点①について、平成  年度の校務員の人員配置について、市の職員体制再構築計画等に関する取り組み状況に照らせば、本件協定の配置基準通りに行わなかったことそれ自体は、組合ら組織及び運営に対する妨害若しくは組合の弱体化の意図に基づくものと見ることまではできないため、労組法7条3号に該当しないと判断した。
 争点②については、まず、組合側は、市教委との交渉では不十分であるとして労働協約を履行できる権限を有する市長に対して団体交渉を申し入れており、交渉の当事者は市教委ではなく吹田市であると述べた。そして、吹田市が市教委の職員をして交渉を担当させていたわけではなく、また、正規職員の配置人数の変更に関連する校務員の業務態勢や職務内容等の具体的な労働条件等について協議がなされていたわけでもなく、市教委の対応は団体交渉と見ることができない旨を述べ、吹田市の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否であり、労組法7条2号に該当すると判断した。
 そして、「正規職員の配置人数の変更に関連する校務員の業務態勢や職務内容等の労働条件について、実質的な交渉権限を有し必要な説明を行うことができるものを出席させ、上記変更の理由や必要性を示す等して、誠実にこれに応じなければならない。」との救済命令を下したのである。
 かかる中労委の判断は、吹田市の形式的な対応では不十分であることを真正面から認定し、吹田市に、実質的な交渉権限を有する者と具体的な労働条件等についての協議をするように要請したものであり、十分に評価できるものである。

5 今後

 吹田市労連は、中労委命令を確定させるため、団体交渉を申し入れたり、議員要請をする等して訴訟提起をさせない取り組みを行ってきた。
 ところが、吹田市議会本会議採決の結果、18対16の賛成多数で、取消訴訟提訴が承認された。中労委は、吹田市に対して、実質的な交渉権限を有し必要な説明を行うことができるものを出席させて団体交渉に応じろと命じただけであるにもかかわらず、これを訴訟で争うとする吹田市の態度は、これまでの不当労行為に対する反省が全く見受けられず、もはや税金の無駄遣いという他ない。
 吹田市では、2011年4月の統一地方選挙で当選した大阪維新の会公認の市長が、「財政非常事態宣言」を行い、「吹田市行政の維新プロジェクト」を推進しており、2012年2月10日には、「吹田市アウトソーシング推進計画」が策定された。
 同推進計画は、「これからの公共サービスの担い手」に関して、「すべての公共サービスについて、国や地方公共団体などの公共機関が担うことは、財政、職員数、組織面から限界があります。」として、事業の廃止・縮小、民営化、業務委託、規定管理者制度を導入することとし、また、平成24年度から平成30年度を計画期間として、計画的かつ段階的にアウトソーシングすることとしている。
 小中学校校務員について言えば、「業務の効率化、人件費の削減」を目的として、新規職員採用を完全に凍結し、除草、樹木剪定、修繕、清掃等の一部業務について「業務委託」を拡大して活用し、また学校長が直接指示すべき業務については再任用職員や臨時雇用員を活用することとされている。現に、2012年4月から新規採用が凍結され、臨時雇用員(アルバイト)の配置が始まっており、毎年複数名の配置職員を毎年複数名減少させる計画となっている。
 組合としては、中労委命令を生かし、吹田市との誠実な団体交渉を通じて、吹田市が進める公務労働、公務職場環境の破壊をなんとか食い止めていきたい。
 弁護団としても、中労委の救済命令をいち早く確定させるべく、闘うつもりである。

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