民主法律時報

北港観光バス・配車差別事件 勝訴判決

弁護士 吉 岡 孝太郎

1 はじめに

 北港観光バス㈱(以下、「会社」という)は、IKEAのシャトルバス等を運行している会社である。会社には4名の建交労の組合員が在籍していたところ、会社は、分会長に対して雇止め、副分会長に対して配車差別、書記長に対して休職期間満了を理由とする自然退職扱いにするとともに、他の分会員に対して懲戒、配転を行うなど、組合員に対して続けて不当な攻撃を続けてきた。そのため、組合員らが、大阪地裁に個別労働事件計5件を提訴していた。大阪地裁は、平成24年1月18日、本件を除く4件について、会社の不当な行為を断罪する判決を言い渡したが(その詳細については、本ニュース2月号にて西川大史弁護士より報告があった)、平成25年4月19日、残りの副分会長に関する訴訟においても、会社による不当な配車差別を断罪する画期的な判決を言い渡した。


2 事案の概要

 O氏は、平成21 年5月に会社に入社し、以後、バスの運転業務に従事してきた。O氏は、入社前に、会社の当時の舞洲営業所長より、給与は時給制だが、月収は月額30万円を下ることはない旨説明されていた。会社は、平成22年1月末賃金減額案を提示したが、O氏はこれに同意しなかった。O氏は、会社に入社以後平成22年6月までの間は概ね月30万円の賃金を受け取っていたが、会社は、平成22年7月以降、O氏への配車を減少させ、平成22年9月以降はいずれも賃金が20万円を下回るように配車を固定化させるという不当な差別を行った。

 そのため、平成23年1月25日、O氏は、副分会長と会社との間には少なくとも賃金月額が30万円を下らない金額となるよう仕事を与える合意があったにもかかわらず、副分会長が組合活動を行ったことから、何ら合理的理由なく、副分会長に対する仕事を減らしたことが債務不履行及び不法行為に当たるとして、差額賃金、慰謝料を請求するとともに、法定割増賃金及び付加金等の支払を求める訴えを提起した。

 これに対して、会社は、配車差別の点について、30万円を下らない月額保証の合意の存在を否定するとともに、O氏が所属していた舞洲営業所全体の業務量が減少していたことやO氏の勤務態度が悪かったこと等によるものであって、配車を減らしたことにつき合理的な理由があると主張し、割増賃金の点についても、無苦情・無事故手当、職務手当は、いずれも時間外労働に対する賃金であり基礎賃金に含まれない等と反論した。


3 裁判所の判断

 大阪地裁(中島崇裁判官)の判決は、30万円を下回らない月額保証の合意を認めず、債務不履行(労働契約に基づく賃金請求)との構成は採用しなかったものの、「被告のバス従業員の給与は時給制であり、労働時間の多寡が各従業員の収入の多寡に直結するという本件事情の下においては、被告が合理的な理由なく特定の従業員の業務の割り当てを減らすことによってその労働時間を削減することは、不法行為に当たりうる」との見解を示した。その上で、会社側の主張するO氏に対する配車の減少の理由について検討し、平成22年7月にIKEAバスの所管を別の営業所に移したことによる舞洲営業所全体の労働時間の減少は、証拠上、600時間しか認められず舞洲営業所に所属するバス運転手1人当たりの平均の労働時間が減少したことを認めるに足りる証拠はないとした。

 さらに、同判決は、O氏の勤務態度の原因があるという主張に対しても、賃金月額で30万円から20万円もの「大幅な減少を長期にわたり続けることに合理的理由があるかは疑問である」として、苦情等の内容と減額の程度、期間が均衡を失すると認識を示し、O氏に対する配車を減らしたことについて合理的理由は認められないとした。

 この点に関し、証人となった会社役員が従業員の苦情については一覧表を作成している旨の証言をしたが、会社は、弁論終結後に、尋問終了後に作成した(会社自身も認めている)他の従業員の苦情等を記した一覧表を提出し、O氏が他の従業員と比較して苦情等が多かったと主張してきた(そのため弁論が再開された)。判決は、尋問作成後に作成された一覧表の信用性を否定し、「苦情等勤務上の問題があった場合に、当該運転手に対する配車を減らすという運用をしていたとの事実を認めることができ」ず、「被告は、他の運転手に対する苦情等に関する資料及び苦情等があった場合にどの程度配車が減らされているかについて証拠を提出することができる立場にあるにもかかわらず、これらを提出していないのであるから、原告に対する配車の減少は、平成22年7月当初から、他の運転手に対する対応との均衡を欠いていたものと認めるのが相当である」として、会社の対応を断罪した。

 判決は、平成22年7月以降、会社がO氏に対する配車を減らしたことにつき、不法行為の成立を認め、平成22年6月までのO氏の月収でもっとも少なかった月の月収と実際に支払われた賃金月額の差額の計約236万円と弁護士費用24万円の合計約260万円の損害賠償請求を認容した(慰謝料については棄却)。

 また、割増賃金等の請求について、判決は、無苦情・無事故手当及び職務手当が時間外業務を行ったか否かに関わらず支給されており、時間外労働の対価としての実質を有しないとして、これらの手当は全て基礎賃金に含まれると判示し、合計  万を超える割増賃金と、同額の付加金請求を認容した。


4 本件判決の意義

 本判決は、不当労働行為性を明確に認めなかったものの、会社のバス従業員の給与が時間制であり、労働時間の多寡が各従業員の収入の多寡に直結するという重大性を十分に考慮し、O氏に対する配車差別を明確に不法行為と認め、差額賃金をほぼすべて損害と認めた点で、大勝利の判決といえる。

 会社は、些細な出来事から配車差別後の事情まで、O氏の配車差別をとても正当化できない事情を縷々述べ、また、証拠調べ後に作成した一覧表を提出する等して、O氏の勤務態度に問題があったと躍起になって主張したが、裁判所は、こうした会社の主張に流されることなく、営業所全体の業務量、営業所に属するバス運転手の業務量、苦情等があった場合の他の従業員に対する対応等を具に検討し、証拠がないとして、会社の主張を全て排斥した点で大きく評価できるものである。


5 最後に

 北港観光の一連の訴訟は、この判決をもって、ようやく全て一審判決が出揃った。5つの判決の全てが組合員側の勝訴判決という内容であり、画期的である。そのうち、会社は、書記長に対する休職期間満了を理由とする自然退職扱いが無効とされた判決と本判決を不服として、控訴した。引き続き控訴審でも勝利を目指したい。

(弁護団は、梅田章二、杉島幸生、原啓一郎、西川大史各弁護士、当職)

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