民主法律時報

新人弁護士のための労働相談入門講座(民法協新人ガイダンス) 参加報告

弁護士 牛 尾 淳 志

1 はじめに
新人弁護士のための労働相談入門講座(民法協新人ガイダンス)が、2013年1月31日、大阪弁護士会館1110会議室にて開催されました。
出席者は、弁護士が14名(うち4名が65期の新人)、労働組合から4名、修習生が4名でした。新人弁護士は私を含めて4名であり、もう少し多くの新人の方が参加されるのかと思っていたため、少々残念に感じた部分はありましたが、出席者は熱心に説明に聞き入っていました。
講師は事務局長の増田尚弁護士(52期)であり、まず最初に、民主法律協会の概要の紹介がされた後、順次、労働問題の現状や民法協の具体的活動等についてのお話がありました。

2 労働問題の現状について
労働問題の現状の裁判手続きの面からの分析として、増田先生は判例タイムズに掲載された大阪地裁の労働事件に関する記事を参照された上で、労働事件数が依然増加していることを指摘しつつ、現在の労働者の置かれた苦しい状況を説明されました。増田先生ご自身が弁護士として具体的な事件に関わる中でも、大阪の労働者が経済的な空洞化に伴い厳しい状況に追いやられていることを感じると述べておられ、率直な実感に基づくものだけに強い説得力がありました。また、非正規雇用の広がりに伴い、働いていても生活を支えるだけの収入を得られないという状況が生まれつつあるとも述べておられ、どうにかしなければならないという思いが伝わってくるものでした。
また、電器産業を中心として、リストラを進める一環としての追い出し部屋(リストラの対象となった社員を隔離した部署に配置し、単純作業をさせ、自主退職に追い込むもの)の問題が顕在化しつつあることも取り挙げられました。
他にも、ブラック企業の問題や就活の問題などにも触れられ、私たちをとりまく労働環境がきわめて多くの問題に直面しているということを改めて感じる機会となりました。

3 日本の労働政策の推移
その後、労働の規制緩和にかかわる政策の推移についての解説がありました。1995年の日経連による「新時代の「日本的経営」」が発表されたことが、現在の非正規雇用の広がりにつながるターニングポイントであったというお話は、恥ずかしながら初耳でした。このような知識は労働者の現状を大局的な視点で理解するために必要であると思いますが、普段の事件処理の中では学ぶことのできないものなので、良い機会であったと思います。

4 近時の裁判例の動向
近時の裁判例の動向についても言及され、松下PDP最高裁判決等、最高裁のレベルでも問題のある判決がなされている他、近時、東京地裁でも問題な判決が出されているとのことでした。特に、有期労働契約に付された不更新条項の有効性の問題等、現在の労働事件においてまさに問題となっている事項についても簡単に解説がなされ、興味を刺激されました。

5 現在の日本法による労働者保護
さらに、労働組合による団結、使用者に対する対抗の重要性について言及され、憲法が労働基本権を保障していることの意味を問い直す必要があるとのお話がありました。特に、労働争議が、民事的には債務不履行、刑事的には業務妨害であるが、これを問わないとされていることの意味を考え直す必要があるとの問題提起には、あらためてはっとさせられるものがありました。

6 民法協の具体的活動について
その後、民法協の具体的活動についての紹介があり、民法協は、弁護士だけでなく、学者や労働組合の方と協働しており、この点が大きなメリットになっているとの紹介がありました。具体的な活動としては、毎週金曜日の夜に、電話相談(労働相談ホットライン)を行っており、毎週5、6本ほどの電話がかかってきていることや、労働審判支援センターを立ち上げ、労働審判のより良い活動を考えていることなどが紹介されました。

7 質疑応答
最後に、質疑応答の時間が設けられました。労働事件における証拠保全の際に、証拠を隠された場合にどう対応すべきかという質問がありました。また、現在、大阪地裁において、個別の労働事件の支援に携わっている労働組合の方が労働審判の場に同席できない運用について問題提起がされました。確かに、企業の従業員が特に問題とされないこととの関係では、均衡を欠いているのではないかと思いました。
このように、労働事件の現場で今まさに問題となっている事項について組合の方を交えて議論が交わされるというまさに民法協らしい質疑応答の場となっていました。

民主法律時報アーカイブ

アーカイブ
PAGE TOP