民主法律時報

泉佐野市職員らの一方的な一律給与カットに対し公平委員会が異例の「意見」

弁護士 谷   真 介

 本件は、平成23年4月24日に、前・泉佐野市長が大阪維新の会から府議会議員に立候補したことにより行われた泉佐野市長選挙において、マニフェストで職員給与を20%カットして年9億2000万円の財源を確保すると主張していた前市議会議員の千代松氏が当選したことに端を発する。

 千代松市長は当選後、早速、同年5月12日に職員給与の一律20%削減の協議を通告した。そして、大阪府知事時代の橋下徹氏が行っていたことに倣い、その協議にはなんと公開の団体交渉を要求し、非公開では団交をしないと強弁してきた。自治労連傘下の泉佐野市職労は、議論の末に1度、公開での団交を受ける方向で返答したが、その場は市長の後ろに「市民」が座るという異様な雰囲気であり、到底交渉ができるような場ではなかった。以後も公開での団体交渉にこだわる千代松市長に対し、泉佐野市職労は粘り強く非公開での交渉を求め、最終的には非公開での交渉が1度もたれたものの、そこに出席した千代松市長は「マニフェストを掲げて当選した」の一点を掲げるのみで、なぜ20%の一律削減が必要なのかについて説明すら行われなかった。また「二元代表制のもとで組合が入れば民主主義がいびつになる」と異常なまでの組合敵視の態度を隠そうとしなかった。このわずかの時間の交渉は、結局「平行線」として打ち切られ、同年6月13日には、千代松市長は、労使合意はもちろん、職員組合への説明すらないまま、職員給与の20%削減条例案を市議会に強行提出したのである。

 これまで、泉佐野市職労は、泉佐野市の財政難の現状を踏まえて交渉を重ね、過去11年間で定期昇給の先送りやマイナス人勧などを含め、実質20%のダウンに応じてきた。そのような過去の組合や職員の協力について全く顧みることなく、また泉佐野市の財政状況悪化の原因の分析や他の財政再建策の検討すらせず、マニフェストを唯一絶対なものと強弁し、また「このままでは早期健全化団体に転落する」と恫喝するやり方は、全くもって職員の納得を得られるものではなかった。

 何としても議会で可決されることを阻止しなければならないと、これまでは組合活動について傍観してきた若い組合員が中心となって奮起し、毎日遅くまで今行うべき運動は何かについて議論し、毎日のように機関紙を発行しては全職員に情報発信し、ときには街頭で住民に対して行政のあり方が問われている問題であることを訴え、直接的には議員に対して働きかけるなど、考えうる最大の運動を続けた。それにより市議会では市長が提案した一律20%カットは否決させることができた。しかし、結局、議員発議の形で一律8~13%カットの案が提案され、6月28日に賛成多数で可決がなされてしまった。


 この一方的な一律最低8%カットは、これまで過去11年で実質的に20%に及ぶ給与カットに協力してきた市職員の生活を直撃した。若い職員の中には、生活保護基準すら下回る者も出た。市民のために体をはって仕事をしてきたのは何だったのかという、喪失感に苛まれる職員もいた。

 泉佐野市職労は、現業職員を全面に出して労働委員会に不当労働行為救済申立を行うことや、市長や市を相手に損害賠償請求訴訟を行うことを検討したが、最終的には、公平委員会に対して、一律最低8%カットを撤回すること、15か月の昇給延伸措置について復元を図る措置を求める措置要求を行うことに決めた。そして、この措置要求に組合内外から圧倒的多数の申立人を募り、社会に迫っていくという運動方針をとることとした。泉佐野市職労の組合員たちは、他組合の組合員や非組合員を含む全ての市職員にいま立ち上がらなければいけないと訴え続け、最終的にはなんと7割の職員を、申立人とすることができ、この圧倒的多数をもって、平成23年9月8日に公平委員会に措置要求を申し立てた。

 その後、平成24年1月28日には、土曜日を用いて、職員側が求めた公開口頭審理が実現することとなった。わずか30分の意見陳述であったが、8名の職員(組合員)が、代わる代わる、これまで誇りをもって市民のために職務を行ってきたこと、過去の実質20%の賃金カットに協力してきたのに加え今回の8%カットで生活が困窮していること、仕事に誇りをもてなくなってしまうのではないかという葛藤など、一人、一人が、涙、涙の意見陳述を行った。一方、市の代表として出席した千代松市長は、自らの意見書を朗読し、職員の仕事への思いや職員の生活に配慮する言葉はなかった。
   

 平成24年4月10日、公平委員会の判定が出され、結論としては、給与条例主義のもとで議会で給与カットの議決がなされていることを根拠に、職員の措置要求は棄却された。
 しかし、判定は、「条例の改廃を求める職員給与の改定も勤務条件に該当するものと判断し、措置要求の判定対象となる」とした上で、「職員の給与は、勤労に対するモチベーションの維持・増進等の観点からは高水準であることが望ましく、今回の給料カットは、生活に直結する問題だけに、職員の勤務条件としては多大なマイナス要因となる」ということを前提とした上で、最後に異例ともいえる公平委員会の「意見」が付された。そこでは、「当局側が労使交渉に於いて十分な説明や誠実な交渉を行ったとは評価しがたい側面があり」、「法第55条の趣旨(職員団体に対する当局の交渉応諾義務等)から見て遺憾な面がないではない」「給与に関する案件は、職員の勤務条件の中でも生活に直結する重要な事項であり、まして、その給与を削減するという案件ならば、当局側は、誠意をもって職員団体との交渉に望むべきである」「しかしながら、今回の労使交渉を見ると、上述したように当局側が誠意をもって十分な説明責任を果たしたとは考えにくく、当委員会としては遺憾と言わざるを得ない」「当局側においては、今後は、十分に説明責任を果たした上で、職員団体と誠実な交渉を行い、円滑な行政運営に支障が出ることのないよう希望」する、という「注文」がついたのである。
 今後、棄却の結論に対してさらなる法的措置をとるかは現在検討中である。ただ少なくとも、公平委員会から、千代松市長や市当局のこれまでのような組合との交渉、協議を無視した一方的なやり方に、NOが突きつけられた。泉佐野市職労としても、この公平委員会意見を最大限生かし、引き続き、「住民のために働く職員の職務の対価である給与のあり方」を問う運動を模索していく。

(弁護団は、大江洋一、増田尚、半田みどり、谷真介)

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