民主法律時報

福住コンクリート面談禁止等仮処分事件

弁護士 喜 田 崇 之

  1. はじめに
     ご承知のとおり、今般、北港観光バス仮処分事件において、何らの理由を示すことなく労働組合の街宣活動を禁ずる旨の仮処分命令が下された。そのような中で、再び労働組合及びその組合員に対する街宣活動を禁止する仮処分命令が出たので、報告する。
     組合は、建交労関西支部、弁護団は、徳井義幸、谷真介、喜田の3名である。
  2. 事案の概要
     事案は複雑であるが、ごくごく大雑把にまとめると以下の通りである。
    (1)当事者
     被申立人は、生コンクリートの製造販売を営む福住コンクリート株式会社(以下、単に「福住」という)に勤務していた従業員6名と、建交労関西支部である。申立人は、福住の元代表取締役である個人とその妻である。福住は、奈良の山奥にある会社である。
    (2)事実経過
     福住は、平成21年当初から経営が困難となり、賃金切下げ・従業員解雇等の経営合理化を組合と交渉していたが、福住は不誠実団交を繰り返していたところ、平成22年12月、突如として、生コン業の製造部門と輸送部門を切り分け、製造部門を宝永産業株式会社という会社に新設分割し、その後、福住の事業を停止したのである。このとき、福住の代表取締役は、申立人から別の人物へと変わった。
     被申立人らは、突如、事業閉鎖となり勤務場所を奪われ給与も全く支給されなくなった。さらに、もともと利用していた組合事務所等も、宝永産業株式会社のものとなったということで、執拗な追い出し行為にあった。
     被申立人らは、かかる会社分割が、組合に対する不当労働行為であると同時に、法人格を濫用したものであると主張し、団体交渉も申し入れたが、会社側は一切これに応じなかった。
     このような状況下で、被申立人らは、宝永産業に対する(予備的に福住)地位確認訴訟、福住、宝永産業に対する不労働行為救済申立て、元代表取締役に対する損害賠償請求訴訟提起等を行った。
     そして、そのような中で、下記の街宣活動を行ったものである。
    (3)街宣活動
     被申立人らは、主に、奈良市内を中心に、一連の会社の不当な行為を訴える街宣活動を行った。街宣内容も決して虚偽の内容ではなかったし申立人らを誹謗中傷するような内容でもなかったし、街宣行為の方法も相当なものであった。
     ただし、下記のような事情もあった。
     福住の事業所のすぐ隣に申立人の居宅があり、組合事務所からも歩いてすぐのところであった。したがって、組合事務所のすぐ側の駐車場に駐車している街宣車を出発させる際、申立人らの居宅の前を街宣して通過していた。(ただし、殊更申立人らの居宅の前を狙って停止して街宣行為をしたことはない。)
     また、被申立人らは、街宣活動中、申立人らの運転する車を見つけるとそれを追尾するということが二回あった。また、被申立人らは、事情の説明を求めて申立人らの家のインターホンを押し、申立人らが出てこないので申立人らの家の前にパイプ椅子を並べて座り込んだということが一度だけあった。
  3. 裁判所の判断
     裁判所は、結論として、申立人らに対する面談強要の禁止、申立人らの自宅前の道路の立入禁止、申立人らの監視の禁止、申立人らのつきまといの禁止、申立人らの住居から300メートル以内において、「申立人を特定する形で福住に対し主張する労働者の地位に関連させて」という宣伝内容に限定を付した上ではあるが、宣伝活動を行うことの禁止を命じた。
     その理由についてであるが、紛争発生の経緯や、被申立人らの追尾行為、自宅前での座り込み行為等の事実を認定し、それらが申立人らの生活の平穏、プライバシー等の人格権侵害に該当することが明白であると述べ、したがって、申立人らは、面談禁止、監視、付きまとい等の禁止を求めることができるとした。
     また、街宣行動についても、申立人らの住居の近辺で行われたものは、申立人らの私生活の平穏及び名誉を侵害するものであり、申立人が福住の代表取締役を退任していることや、同人の住居近辺において街宣行為を行ったことから、相当な労働運動と評価できないと判断したものである。
     なお、被申立人らの街宣内容については、一切違法の評価を与えておらず、申立人らの自宅から300メートル以外の街宣活動は一切禁止していないし、自宅前の街宣活動についても、申立人を特定する形で福住に対し主張する労働者の地位に関連させての宣伝活動以外の街宣活動については禁止していないとも言える。
  4. 現在の状況
     現在は、保全異議申立てを行った。
     ただ、福住は事業が停止したままの状態であり、宝永産業株式会社もここにきて事業が全く停止してしまった状況になったようである。また、代表取締役の申立人も破産の準備中である旨の通知が弁護士から来る等、解決に向けて膠着状態に陥っている。
  5. 今後に向けて
     本件は、北港観光バス事件に続いて、労働組合の街宣活動等の仮処分が部分的にせよ認められた事例である。本件の評価は様々であろうが、今後の街宣活動の在り方を考える上で参考になる事例であることは間違いないであろう。

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