民主法律時報

北港観光バス・街宣禁止仮処分事件報告―会社周辺での街宣活動を禁止する前代未聞の不当決定―

弁護士 西 川  大 史

 

  1. はじめに
     大阪地裁第1民事部(横田典子裁判官)は、平成23年5月10日、建交労の街宣活動を禁止する仮処分決定を行った。本件街宣活動は、会社から組合員に対する違法不当な攻撃が相次ぐ中、組合が会社周辺で短時間の街宣を行ったというものである。それにもかかわらず、組合の街宣活動を禁止するという本件仮処分決定は、まさに前代未聞の決定と言わざるを得ない。
  2. 事案の概要
     本件の街宣禁止仮処分を申し立てた北港観光バス株式会社には、建交労の組合員4名が在籍しているところ、会社は組合を嫌悪し、組合員4名に対して、雇い止め、配車差別、不当配転、出勤停止処分、退職勧奨、残業代未払い、自然退職扱いなど、あらゆる違法不当な攻撃を行った。そのため、現在4件の訴訟が大阪地裁第5民事部に係属しており、新たに1件の訴訟提起と、労働委員会への救済申立をすべく準備中であった。
     こうした中、組合は、3月22日から4日間、各日15分ほど会社周辺を街宣車でまわり、「北港観光バスは、労働組合を敵視し、解雇や賃金差別、出勤停止処分、さらには配置転換など不当な攻撃を行っています・・・建交労北港観光バス分会は、会社の不法・不当な組合つぶしを許さず、働く者の生活や権利を守るため、裁判闘争を含め、粘り強い戦いをすすめています。みなさんのあたたかいご支援をよろしくお願いします。」とのテープを流した。
     これに対して、会社は、街宣活動及びビラ配りの禁止等を求めて、仮処分を申し立てたのである。そもそも、本件のような街宣活動に対して、仮処分を申し立てること自体が異常である。
  3. まさかの仮処分決定
     ところが、裁判所は、会社側の主張をほぼ全面的に認め、会社周辺500メートルの範囲において、「街頭宣伝車等の車両で徘徊し、街頭宣伝車等を利用して演説を行い、あるいは放送を流すなど、債権者の業務を妨害したり、債権者の名誉、信用を棄損する一切の行為」及び「債権者の名誉及び信用を棄損する内容を記載したビラを配布する行為」を禁止するとの仮処分決定を行った(なお、組合は、会社周辺を街宣車でまわったものの、ビラは配布していない。街宣活動を行うにあたって自治会長宅に挨拶に出向き、組合ニュースを渡しただけである。)。しかも、この仮処分決定には、一切の理由が示されておらず、本件街宣活動がなぜ正当な組合活動でないのか、なぜ会社の権利を侵害したことになるのかなど、裁判官の思考回路がまったく分からないのである。
     我々は、決定の前日に、組合活動の重要性などを詳細に記した主張書面や、組合員の陳述書などの書証を提出したが、このような何の理由も示されることなく不当な決定を出されたのでは、裁判官はこちらの提出書面を読んでいないのではないかとの疑念を抱かざるを得ない。
     また、この仮処分決定は、労働部の裁判官ではなく、第1民事部(保全部)の裁判官による判断である。労働部の裁判官が、必ずしも労働者の権利擁護に長けているとも思えないが、このような不当な仮処分決定を行われたのでは、組合活動の意義についての理解を欠いた保全部の裁判官に、組合活動の適法性を判断させること自体も問題視せざるを得ない。
  4. 今後の課題と展望
     近年、組合の街宣活動に対して、裁判所は組合活動に対する理解を欠いた判断を示しており、役員個人宅での街宣活動や、判決確定後の街宣活動に対しては、仮処分を認める不当決定や、損害賠償請求を認める不当判決も多く、組合活動が大きく制限されている。しかし、本件街宣活動は、組合員の権利関係が裁判所で係争中に、会社周辺で短時間の街宣をしただけであり、近年の決定を以てしても、本件仮処分決定は明らかな不当決定であり前代未聞と言わざるを得ない。
     このような不当決定がまかり通るのであれば、労働組合は、憲法で保障された組合活動すら行うことができないことになりかねず、まさに労働者、労働組合の根幹を揺るがす重大な問題である。
     組合は、5月20日付で仮処分に対して異議を申し立てた。今後は、弁護団、組合が一体となって、本件仮処分決定の不当性を明らかにすべく、さらなる理論武装をするとともに、抗議宣伝活動等の運動を進めていく所存である。どうか皆様方におかれましても、ご支援、ご協力を賜りますよう宜しくお願いします。

(弁護団は、梅田章二、杉島幸生、原啓一郎、吉岡孝太郎各弁護士と当職である。)

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