民主法律時報

2011年12月号

労働局の申告による指導を根拠に使用者性と団交応諾義務を認定~ブリヂストンケミテック事件の判断

弁護士 村田 浩治

  1. 事件の概要
     本件は、20年にわたる偽装請負職場(発注者はブリヂストンケミテック株式会社(以下「会社」という)。請負会社はトップワーク(以下「請負会社」という))で、2年ないし8年勤続してきた日系ブラジル人労働者らが、個人加盟組合である三重一般労働組合(ユニオンみえ)に加盟し、職場での人権侵害行為や職場の改善要求、会社への直接雇用要求を掲げ、団体交渉を求めたところ、会社が、「雇用主」でないことを理由に、これを拒否した事案である。
     労働者らが就労していた会社の職場環境は劣悪であった。自動車シートの加工業務で室温は極めて高く、二交代勤務(日本人だけ三交代)で、常に残業が予定されており、勤務中はトイレにも行けないという超過密労働であった。
     このような就労環境の中、ある女性労働者が生理のためトイレに行きたいと申し出たが、暫く待つように言われ、結果として衣服が汚れるという事件や、請負会社(トップワーク)による恣意的な解雇事件が起きた。
     これらが発端となって、10名以上もの労働者が組合に加盟し、会社に対して団体交渉を求めることとなったのである。
     この労働委員会への救済申立てについて、三重県労働委員会は、2010年11月25日(10月25日付)、会社への直接雇用を求める交渉事項について、労働者の「雇用の安定について団体交渉に応じなければならない」との命令を発した。
     なお、本件では、このほかに請負会社に対する地位確認訴訟、労働局に対する是正申告も行っている。
  2. 労働委員会の判断

    (1)使用者
     委員会は、労組法7条の使用者は、「労働契約上の使用者に限られるわけではなく、使用者に当たるか否かについては、労働者の団結等を侵害する一定の行為を不当労働行為として排除、是正して正常な労使関係を回復することを目的とする同条の趣旨に即して判断されるべき」であるとした上で、朝日放送事件の部分的使用者概念に則し、「団体交渉申入れ事項ごとに、実質的に見て、会社が、当該事項に係る派遣労働者の基本的な労働条件等に関して、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあるかどうかを検討し、これに当たる場合には、その限りにおいて、会社も労組法上の使用者に当たる」とした。
     使用者は、派遣法に規定のある苦情処理制度を設けているから団体交渉に応じる必要はないと主張したが、これについては、「苦情処理制度は労働者個人に苦情処理を申し出る道を開いたものであって、これが、派遣労働者の労働条件等に係る労働組合と派遣先の団体交渉に代替し、労働組合の団体交渉権を制約ないし排除するものであると解することはできない。」として明確に否定した。

    (2)組合員がすでに、職場にいない場合の救済の可否
     団体交渉拒否の救済については、人権侵害を訴えていた女性労働者は、帰国したため、交渉事項としては、4名の解雇事件に絞られた。
     会社側からは、現在、会社において就労する組合員が不存在であることを理由に申立人の適格を欠く旨の主張がされたが、この主張について、委員会は、まず、就労当時の組合員がいる以上、訴えの利益がないとはいえないとした。また、「本件のように、派遣可能期間を越える違法な派遣労働者の受入れ等の事実の発生により、会社は既に直接雇用の申し込みなど雇用の安定を図るための措置を講ずべき立場にあるとして、その措置を交渉事項とする団体交渉については、当該主張が認められる限り、当該組合員が会社で就労しなくなった後においても、なお、未解決、かつ、現在においても会社において対応可能な交渉事項に係るものとして、団体交渉の余地が残されている可能性がある」と判断した。妥当な判断である。また、結果として認めなかったが、ポストノーティスの命令の余地もある以上、組合員が職場にいなくなったとしても、申立の利益はあり、団体応諾義務の判断が不要ということはないとした。
     なお、委員会は、ここでも団体交渉事項ごとに、救済の必要性ないし救済の利益が失われたかどうかを判断することが相当であるとの判断を示した。

    (3)直接雇用要求に対する交渉拒否の不当労働行為性

     偽装請負の就労実態に関して、三重労働局は、ライン毎に派遣受入期間制限を超えていると認定し、期間制限違反のラインの契約中止を指導した。ラインのみに限定した不十分さはあるものの、請負契約が実質派遣であり、派遣期間の制限(派遣法40条の2)違反を認め、その上で、雇用の安定を図るよう指導したのである。ただ、派遣法40条の4違反は認定しなかった。
     本件において、委員会は、労働局の判断と同様、派遣法40条の4に基づく直接雇用申込義務は否定した。しかし、労働局の指導があることを一定の根拠として、直用を議題とする団体交渉に応じる義務を認めた。つまり労働局が指導した「雇用の安定を図る措置は、会社が自ら決定し、処分すべき事項であ」るから、この点については団体交渉応諾義務があると判断したのである。そして、組合員が形式上の雇用主から既に解雇されている場合でも、それ以前から期間制限違反の状態で就労させていたのであって、「雇用の安定を図る措置として、直接雇用そのたの措置をとることは、現在も可能であり、また、会社は、未だ、団体交渉の申入れに応じず、雇用の安定を図るための措置をなんら講じているわけではない以上、救済の必要性ないし救済の利益は失われて」いないとした。

    (4)その余の救済の棄却
     委員会はその他の、職場改善要求については、すでに組合員が職場にいなくなったことを理由に救済の必要性を否定し、ポストノーティスも認めなかった。しかし、雇用の安定を図る措置を求めて交渉している過程で職場に戻る可能性もあることを考えると、派遣先の使用者が団体交渉に応じる義務があると判断したことについてポストノーティスを認め、公的な判断を示す意義はあったといえる。この点で、委員会の判断は、個人加盟組合特有の利益についての考慮を欠いたものであった。

  3. 課題
     以上の通り、委員会の命令は、不十分な点や、個人加盟組合の交渉力を定着させるという点で問題点もあるものの、「雇用の安定をはかる」という抽象的な交渉事項ながら、派遣法違反で就労していた労働者が職場から追われた後であっても、また、派遣法上の明確な直接雇用義務まで認められなくても、団体交渉応諾義務を認めており、その意義は大きい。
     会社は即日、再審査請求を行い舞台は今後中労委へと移る。
     
(弁護団は、村田浩治、四方久寛、三重の出口崇)

NTT事件西日本の違法を高裁も免罪

弁護士 増 田   尚

 NTT西日本が60歳定年となる従業員を継続して雇用する制度を設けていないのは違法であるとして、従業員としての地位確認や賃金(相当額の損害)を請求していた訴訟で、大阪高裁(紙浦健二裁判長)は、12月21日、NTT西日本を免罪した一審大阪地裁判決を追認し、元従業員35名の控訴を棄却する判決を言い渡した。

 NTT西日本は、01年にリストラ策を強行し、新設子会社にて最大30%減の賃金水準で再雇用するため退職するよう強要し、これに応じず自社に残った従業員に対しては、遠隔地・異職種の配転を押しつけ、60歳以降の契約社員としての再雇用制度(キャリアスタッフ制度)も打ち切った。その後、高年齢者雇用安定法が改正され、60歳を超えた従業員につき、定年の廃止ないし延長もしくは継続雇用制度の導入が義務づけられたにもかかわらず、NTT西日本は、何らの措置も講じなかった。通信労組に所属する組合員らは、リストラに応じなかったことを理由に、遠隔地・異職種の配転を強いられたり、京阪神間での無意味なローテーション配転をさせられるなど、苦汁を飲まされた挙げ句、60歳定年を理由に会社から放逐されたのである。

 一審大阪地裁判決は、高年法9条1項に定める措置をとらなかったとしても、従業員が継続して雇用することを求めることはできないと述べ、その私法的効力を否定した。また、NTT西日本が何らの措置を講じていないにもかかわらず、前記のとおり、自社を51歳で退職させて、最大30%減の賃金水準で子会社に再雇用することに応じた従業員のみを当該子会社で60歳以降は契約社員として雇用する制度を設けていても、高年法9条1項にただちに違反しないと判断した。改正高年法の趣旨を踏まえない暴論である。しかも、判決は、退職再雇用に応じて子会社で65歳まで稼働したとしても、そのままNTT西日本で60歳定年で退職した場合に比して、約159万円も収入が低くなっており、不合理な制度設計となっているにもかかわらず、「事業主が実情に応じて柔軟な措置をとることが許容されている」とか、「NTT労組の合意が得られている」とかの理由を付けて、五年もただ働きをさせられた上、約159万円も賃金を減額させられるような措置も許されるとまでいってのけた。

 35名の元従業員らは、全員控訴し、控訴審では、このようなずさんな認定と判断の是正を求めた。高裁も、一審判決が争点について充分な審理をしていないとの心証を示し、NTT西日本に釈明を要求するなどの姿勢を見せた。しかし、控訴人らが請求した証拠調べをいずれも採用せず、充分な審理と検討をしたとは言い難いものであった。

 控訴審において組合側は、キャリアスタッフ制度が就業規則上の制度であり、その廃止は不利益処分であって無効であるとして、キャリアスタッフとしての地位確認及び賃金請求を新たに追加した。NTT西日本は、驚くべきことに、当該就業規則の廃止手続をしていないと認めた。キャリアスタッフ制度はなお生きているのである。ところが、控訴審判決は、NTT西日本が募集を停止し、控訴人らも申込をしていないから、就業規則の効力如何に関わらず、請求は理由がないとした。明らかに判断を回避したのである。その上、新請求のうち期待権侵害についても、キャリアスタッフとして採用されることが定年退職前の労働契約の内容になっていないとか、募集停止によって期待権の侵害はないなど述べて、NTT西日本の明らかな失態に目をつむる判断をした。

 高年法違反の点について、控訴審判決は、一審判決のようには解さず、同法の趣旨に沿った制度設計でなければならないとの見解は示したものの、リストラの一環としてなされたとのNTT西日本の主張をもとに、前述のような従業員の受ける不利益はやむを得ないと判断した。また、高年齢者、すなわち五五歳以上になってから、継続雇用の希望を聴取すべきとの控訴人らの主張を認めたものの、継続雇用とは無関係に実施した「再選択」(リストラ策の修正で)をもって足りると判断した。

 しかし、このような判断をするなら、なぜ当事者から、リストラや再雇用拒否によって受けた不利益や、「再選択」の経緯を聴かなかったのであろうか。尋問もせず、このような事実認定をするのは、訴訟上の信義にもとるとのそしりは免れないであろう。

 とはいえ、継続雇用制度のあり方について高年法の趣旨から一定の制約を課す判断を引き出したことは、今後60歳「定年」を迎える従業員の継続雇用を求めるたたかいにとって前進の足がかりをつくったといえる。

 控訴人らは上告及び上告受理を申し立てた。たたかいの場は最高裁に移ったが、引き続くご支援をお願いする。

(弁護団は、河村武信、出田健一、横山精一、城塚健之、増田尚、井上耕史)

大阪地裁平成22年12月27日判決 NTTアセットプランニング事件報告

弁護士 長 瀬  信 明

  1. はじめに
     2008年12月号(No.438)でご紹介したNTT西日本アセットプランニング事件の判決が、年も押し迫った昨年2010年12月27日、大阪地裁第5民事部で下された。
     本件は、いわゆる専門業務偽装事件(実際は、派遣期間の制限(原則1年、最長3年)のある「通常の業務」での派遣であるにもかかわらず、契約上は派遣期間の制限のないいわゆる「専門26業務」として派遣し、派遣期間の制限を潜脱する手法)について、裁判上、はじめて正面から判断されるということもあり、注目を浴びていた。
     しかし、主文はたったの2行「1 原告の請求をいずれも棄却する。2 訴訟費用は原告の負担とする。」というもので、原告の全面敗訴であった。
     法を無視する企業の態度を是認する一方で、日々実直に働く労働者たちの心を挫く極めて不当な判断と言わざるを得ない。

  2. 事案の概要
     原告は、平成14年春、ハローワークにおいて、NTTドコモへの人材派遣業務等を主要業務とする株式会社KDC(旧「近畿データコム株式会社」、以下、「KDC」という)が出していた「職種;宅地建物取引主任者」、「仕事の内容;不動産現場立ち会い、監督、不動産物件のメンテ、不動産関係の資料作成事務等」という求人票を見て、同社に派遣登録し、その後、NTTグループが所有する不動産の仲介、管理業務等を行う株式会社NTT西日本アセット・プランニング(以下、「NTT西日本AP」という)に派遣された。
     就業条件明示書によれば、原告が従事することとされた業務は、派遣期間の制限のないいわゆる「専門26業務」(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(以下、「派遣法」という)40条の2第1項1号、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律施行令(以下、「施行令」という)4条)のうち5号「機器操作」及び9号「調査」であった。
     しかし、原告が実際に従事した業務内容は、専門的な「機器操作」や「調査」ではなく、KDCの求人票の内容どおり、契約の媒介・あっせん、立ち合い、不動産の管理、営業といったものであり、不動産業者が通常行うものであった。
     派遣契約はほぼ自動的に11回も更新され、原告は、派遣期間の制限のある通常の業務に5年9か月もの間、従事してきたのである。
     そもそも、不動産管理会社で不動産管理の仕事をする以上、「専門26業務」に当たらないのは明白である。
     したがって、こうした業務に派遣労働者として雇い入れる行為そのものが、期間制限を潜脱する意図があったと言わざるを得ず、極めて悪質である。
     仮に、派遣としての受入が可能な期間だけでも派遣労働者の実態がある以上、派遣法の適用があるとの立場に立ったとしても、派遣労働者として受入可能な期間は1年ないし3年であり、いずれにしてもすでに派遣労働者としての受入可能期間を過ぎていたことを十分認識していたはずなのである。
     平成19年10月、原告は、安定した身分を確保すべく派遣先であるNTT西日本APに平成20年4月以降、直接雇用をするよう求めたが、NTT西日本APはこれを拒否した。それどころか、原告には何の落ち度もないのにそれまで11回も更新してきた原告の派遣契約の更新を、業務量の減少等を理由に突如として拒否したのである。前年には、直接雇用できるかも知れないという直属の上司の話もあって期待をしていたほどであり、契約更新拒否の理由は全く不明であった。
     平成20年3月、原告は被告NTT西日本アセットプランニングでの就労実態につき疑問に感じて大阪労働局に単独で相談に赴いたが、そのとき大阪労働局は申告として受け付けず適切な対応を行わなかった。同年9月になって、原告は改めて代理人弁護士らと共に、大阪労働局に自らの派遣就労の違法状態について是正指導を求めて申告をした。これを受けて、同年10月2日、大阪労働局は、NTT西日本AP及びKDCの2社に対し、原告の就労のさせ方に違法がある旨認定し、10月30日、文書により違法状態を是正するよう是正指導を行った。

  3. 本件の争点
     本件の争点は、(1)原告と派遣先の被告APとの間の労働契約の成否(争点1)、(2)仮に原告と被告APとの間の労働契約が認められるとした場合、原告との間の同契約関係を終了させたこと(解雇ないし雇止め)の有効性並びに賃金請求権の有無及びその額(争点2)、(3)被告KDCに対する不当利得返還請求の成否及びその額(争点3)、(4)被告らの原告に対する共同不法行為の成否並びに損害の有無及びその額(争点4)、である。
     そして、争点1については、さらに、(ア)黙示の意思表示に基づく労働契約の成否、及び(イ)派遣法40条の4違反に基づく期間の定めのない労働契約の成否、が検討された。

  4. 判決内容

    (1)原告と被告APとの間の労働契約の成否(争点1)について

     結論として、裁判所は、原告と被告APとの間の労働契約を認めなかった。

    ア.原告と被告APとの間に黙示の労働契約の成否
     まず、被告APにおける原告の業務内容が、政令26業務(政令5号業務あるいは政令9号業務)に該当するかについては、「原告が政令26業務のうちの政令5号及び9号の各業務に従事していたことを窺わせる。」という表現をしつつも、結論としては、「原告が従事した貸付管理代行業務は、その一部においてデータの入力や賃貸借契約書の作成等、パソコンの操作等があるが、『電子計算機、タイプライター、テレックス、又はこれらに準ずる事務用機器の操作の業務及びその過程において一体的に行われる準備及び整備の業務』(政令5号業務)に該当するとは認め難い。」、「原告が貸付管理代行業務の中で、行っていた現地調査は、上記1(1)エ(イ)で認定したとおり同物件について、変更が施されていないかどうか確認し、現況を写真に撮影する等飽くまでも不動産の物件管理のための調査が中心であり、賃貸が可能か否かを調査する業務で、あって、それに賃貸借物件の適正賃料の調査業務を踏まえたとしても『顧客ニーズを的確につかんで製品計画を立て、最も有利な販売経路を選ぶ活動(マーケティング業務)』(政令9号業務)とは言い難い。」と判断している。
     また、補足的に、「本件全証拠によるも原告が従事していた貸付管理代行業務の中で、政令26業務の対象となる業務がほとんどで、それらに該当しない業務の割合が1日又は1週間当たりの就業時間数の1割以内で、あったとまでは認められず、かえって、上記(ア)で認定説示したことに証拠(甲21、34、原告)を総合すると、原告が同従事していた業務のうち政令26業務(政令5号及び9号の各業務)に該当しない業務の割合が1日又は1週間当たりの就業時間数の1割を超えていたことが認められる。」とも判断している。
     そして、「以上の(ア)(イ)で認定した事実に上記(1)クで認定した大阪労働局が被告らに対し、労働者派遣法26条1項違反(政令26業務に該当しない業務に従事させたこと)を指摘し、是正指導を行っていたことをも併せ踏まえると、被告らは、原告の従事した業務について、労働者派遣法26条1項に違反していたと解さざるを得ない。したがって、この点に関する被告らの上記主張は理由がない。」と判示している。
     しかし、派遣法26条1項違反を認めながらも、黙示の労働契約の成否については、松下PDP事件最高裁判決(最高裁平成21年12月18日第2小法廷判決民集63巻10号2754頁)を「参照」しつつ、規範を定立している。すなわち、「派遣元(本件では被告KDC)に企業としての独自性があるかどうか、派遣労働者と派遣先との間の事実上の使用従属関係、労務提供関係、賃金支払関係があるかどうかといった点を総合的に判断して決するのが相当であると解する。より具体的には、労働者が派遣元との派遣労働契約に基づき派遣元から派遣先に派遣された場合であっても、派遣元が形式的な存在にすぎず、派遣労働者の労務管理を行っていないのに対して、派遣先が実質的に派遣労働者の採用、賃金額その他の労働条件を決定し、配置、懲戒等を行い、派遣労働者の業務内容・派遣期間が労働者派遣法で定める範囲を超え、派遣先の正社員と区別し難い状況となっており、派遣先が、派遣労働者に対し、労務給付請求権を有し、賃金を支払っている等派遣先と派遣労働者間に事実上の使用従属関係があると認められるような特段の事情がある場合には、派遣先と派遣労働者との間において、黙示の労働契約が成立していると認められる場合があるというべきである。」と判示し、結論としては、黙示の労働契約の成立を否定した。
     本判決が定立した規範が、論文等から引用ないし参考にしたものなのか、まったくのオリジナルなものか調査中であるが、いずれにしても、あえて労働契約の成立を否定する要素をピックアップしているとしか思えない。派遣元の企業としての独自性を要求している点に端的に表れているが、偽装請負の事件と異なり、業務偽装の事件において、企業としての独自性が問題となることはほとんどないのではないだろうか。
     本来であれば、そもそも雇用契約というものがどういうものであるのか、派遣法の趣旨等を具体的に考察した上で、規範を導くべきであるが、そうした姿勢はまったく見えない。

    イ.派遣法40条の4違反に基づく労働契約の成否
     判決は、「派遣先である被告APについて、派遣労働者である原告に対する直接雇用の申込義務が認められるためには派遣先である被告APが派遣元である被告KDCから抵触日に関する通知を受けたことが要件となる(同法40条の4)。そこで、被告APであるが、同法40条の4に基づいて、派遣元である被告KDCから抵触日に関する通知を受領していない。したがって、被告APの原告に対する直接雇用申込義務の発生要件が欠いているといわざるを得ず、その限りにおいて、原告の上記主張は理由がない。」という極めて形式的な論理でこの争点についても、否定している。
     さらに、「上記の点をおいて、仮に派遣先が派遣社員に対する同法40条の4に基づく直接雇用申込義務を履行しなかったとしても、それはあくまで義務の不履行で、あって、それを超えて直ちに、派遣労働者との間で直接的な労働契約関係が発生するとは解し難い。」として、派遣法40条の4違反の効果について、判示しているが、労働契約の成立を認めるものではない。

    (2)原告と被告APとの間の労働契約が認められるとした場合、原告との間の同契約関係を終了させたこと(解雇ないし雇止め)の有効性並びに賃金請求権の有無及びその額(争点2)について
     この点については、上述のように原告と被告APとの労働契約を否定しているため、「原告と被告APとの間で労働契約が成立しているとは認め難く、原告の被告APに対する地位確認及び同地位を前提とする賃金請求は、いずれも理由がないといわざるを得ない。」と判示している。

    (3)被告KDCに対する不当利得返還請求の成否及びその額(争点3)について
     原告と被告KDC間の本件派遣労働契約及び被告ら間の本件労働者派遣契約がいずれも有効に成立していることを前提に、「被告KDCが被告APから受領した原告の派遣に係る派遣料金は、被告ら間の本件労働者派遣契約に基づいて受領したもので、あって、同受領は法律上の原因が存在するといわなければならない。したがって、原告の上記請求は、その余の点(原告の損失、利得と損失の間の因果関係等)について判断するまでもなく、理由がない。」と判示した。

    (4)被告らの原告に対する共同不法行為の成否並びに損害の有無及びその額(争点4)について
     判決は、被告ら間の本件労働者派遣契約等を基礎とする原告の派遣就労が派遣法26条1項に違反していることを認めつつも、「①原告が被告APの下で従事していた業務の中には、政令26業務のうち、政令5号業務及び政令9号業務に該当する部分が含まれていること、②被告KDCは、原告の被告APへの派遣就労について、労務管理(勤務表の提出や有給休暇付与通知等による原告の労働時間管理等)や契約更新手続を適切に行っていたと認められること、③原告と被告KDCの派遣労働契約及び被告ら間の労働者派遣契約はいずれも有効である一方、原告と被告AP間に黙示の労働契約が成立しているとは認め難く、被告APが被告KDCとの本件労働者派遣契約を終了したこと自体、解雇あるいは雇止めには該当しないことがあるところ、以上の事実を踏まえると、上記違法派遣行為を前提として原告らの行為が違法行為であると主張する部分(直接雇用義務違反行為、本件解雇ないし本件雇止め行為)は、いずれも理由がないといわざるを得ない。」と判示してる。
     また、被告APの主張の不合理な点を指摘しつつも、「原告と被告APとの間に黙示も含めて労働契約が成立していたとは認められないこと、被告APのM課長及びI課長は原告に対し、契約社員に推薦する旨述べたものの、必ず原告が契約社員になれるといった発言をしたことはなかったこと、その他、本件全証拠を総合勘案しても、被告らが原告の雇用継続に関して、法的保護に値するに足りる期待権を生じさせるだけの行為があったとは認められない。」と判示した。

  5. 判決の検討
     本判決もまったく評価できる点がないわけではない。すなわち、大阪労働局が被告らに対し、派遣法26条1項違反(政令26業務に該当しない業務に従事させたこと)を指摘し、是正指導を行っていた事実、及び、原告の従事した業務について、被告らが派遣法26条1項に違反していたことを積極的に認めた点である。最低限、これらの事実を認定したのはせめてもの救いである。
     しかし、評価できる点に比べて圧倒的に問題点の方が多いといえる。今後、批判的検討がなされるであろうが、いくつか問題点を指摘しておく。
     まず、事実認定の誤りが多く認められる。例えば、上述のように被告APが原告の賃金額等の決定に一切関与していないと認定している点など枚挙にいとまがない。
     また、上述のように、黙示の労働契約の成否を検討する際の規範の定立及び事実のあてはめについても、黙示の労働契約の成立を否定するという結論ありきで、否定するために都合のよい事実を寄せ集めたと言わざるを得ない。
     さらに、最大の問題点ではないかと思われるのが、「原告は、上記(2)イ(ウ)で認定したとおり被告KDCとの間の本件派遣労働契約、被告ら間の本件労働者派遣契約に基づいて被告KDCから被告APに派遣された派遣労働者であって、仮に原告が主張するように原告の被告APへの派遣について、労働者派遣法違反の事実があったとしても、そのことをもって、原告に対する上記労働者派遣という実態に変更はなく、また、被告APの原告に対する指揮命令という事実も、労働者派遣であれば当然のことであって、直ちに同事実が原告と被告APとの間の労働契約関係を基礎づける事実になるものではない。」と判示している点である。これでは派遣法に違反する事実があり、これに対して労働局が違法を認定し、是正指導したとしても、それまでで、司法上の救済は何らなされないことになりかねない。こうした判断を目の当たりにすると、やはり、派遣法違反の事実があった場合、派遣先との間で雇用契約が締結されたと看做される旨の規定の創設が望まれる。
     また、原告が主張している派遣法40条の2違反について、判決文では全く触れられていない。
     なお、職安法44条、労基法6条、民法90条違反についても、同様である。
     さらに、派遣法40条の4違反の効果についても、何も認めておらず、労働者保護という視点が欠落していることが明白である。
     また 判決は「法的保護に値するに足りる期待権を生じさせるだけの行為があったとは認められない。」と判示するなかで、被告APのM課長及びI課長の発言等の個々の行為を検討しているが、我々が訴えていたのは、そうした個々の行為だけでなく、原告の就労実態を大局的に捉え、五年以上にわたって更新を繰り返してきたことそれ自体が、法的保護に値する期待権を生じさせたということであった。
     以上のように、本判決は、個々の労働者の就労実態や保護などお構いなしに、極めて形式的な論理で、簡単に結論を導こうとしているということが分かる。被告KDCに対する不当利得返還請求の成否及びその額(争点3)について、法律上の原因があるというだけで、その他の要件を検討するまでもなく、わずか七行で判示している点がそのあらわれである。

  6. おわりに
     判決文が読まれ、裁判官たちが逃げるように法廷を後にした後、原告のSさんは、しばらくは茫然自失の状態で、全身の力も抜け、何も考えられないようであった。その後、支援の方たちに挨拶をし、記者会見に備え、弁護団で会議をするうちに、徐々に怒りが込み上げてきたのであろう。意を新たにし、控訴することとなった。
     本件がどれほどの強度の違法性を有する事件であるかを裁判官に十分理解させることができなかった我々弁護団の責任でもある。控訴審にあたっては、本判決の問題点を十二分に検討し、リベンジを果たしたい。

(弁護団は、村田浩治、立野嘉英、谷真介、長瀬信明)

アストラゼネカ社の責任断罪! 国の不十分な対応指摘!

弁護士 諸 富   健

 

  1. 大阪地方裁判所判決
     2010年2月25日、大阪地方裁判所において、薬害イレッサ西日本訴訟の判決が言い渡され、イレッサに指示・警告上の欠陥があるとして、アストラゼネカ社に対して製造物責任法上の責任を認めました。一方、判決は国の法的責任を否定しましたが、国の行政指導が不十分だったことを指摘しました。
  2. イレッサとは
     肺がん治療薬イレッサは、2002年7月5日、わずか5か月余りのスピード審査で、世界で初めて日本で承認されました。アストラゼネカ社の広告戦略もあって、承認前には副作用の少ない「夢の新薬」として大々的に宣伝され、医師も患者もイレッサの承認を待ち望んでいる状況でした。
     ところが、承認直後からイレッサによる間質性肺炎等の副作用死亡報告が相次ぎ、市販後半年で180人、2年半で557人もの副作用死亡者が生じました。2010年9月末現在で、副作用死亡者数は819人も上っています。
     イレッサの副作用により致死的な間質性肺炎等が生じることについては、承認審査段階で既に分かっていたことでした。ところが、国は、イレッサの副作用報告について十分な検討をせずに、添付文書の重大な副作用欄に間質性肺炎を記載するよう指導するにとどまったのです。その結果、添付文書の重大な副作用欄の4番目、下痢や肝機能障害等の後に間質性肺炎が記載されましたが、致死的であることについて警告欄等に記載されませんでした。
     そのため、現場の医師はイレッサの危険性について十分認識することができず、経口剤という手軽さもあって、2002年8月30日に保険適用されて以降、イレッサは爆発的に使用されるようになりました。その結果、前述のとおり、間質性肺炎等の副作用死亡報告が相次ぎ、同年10月15日、添付文書が改定されて急性肺障害、間質性肺炎についての警告欄が設けられて重大な副作用欄の最初に急性肺障害、間質性肺炎が記載されるとともに、緊急安全性情報が配布されたのです。
  3. 訴訟の経緯
     薬害イレッサによる被害者遺族・患者は、国とアストラゼネカ社を相手として、2004年7月15日に大阪地方裁判所、同年11月25日に東京地方裁判所にそれぞれ提訴しました。そして、6年にもわたる審理を経て、2010年7月30日に大阪地裁で、同年8月25日に東京地裁で、それぞれ結審しました。
     原告・弁護団は、薬害イレッサ事件の早期全面解決を果たすためには裁判上の和解が必要だと考え、2010年11月26日に和解勧告を上申しました。その結果、2011年1月7日、大阪・東京の両裁判所から所見を伴う和解勧告がなされました。所見は、致死的な間質性肺炎について十分な注意喚起を行わなかった国とアストラゼネカ社の責任を明確に認めるもので、原告・弁護団は、この所見を高く評価し、いち早く和解協議に応じることを表明しました。
     ところが、国もアストラゼネカ社も和解勧告の受入れを拒否しました。これは、がん患者の知る権利と医薬品の安全性確保の重要性を否定することにほかなりません。
     しかも、国は、日本医学会の会長に和解勧告に対する見解についての下書き(文案)を手渡していました。その結果、この下書きをベースにした会長名の見解が発表されたのです。さらに、この見解発表と同じ日に、日本肺癌学会、日本臨床腫瘍学会、国立がん研究センター理事長からも類似の見解が出されたのです。産官学の癒着による世論誘導の可能性が高く、許し難い暴挙だと言わざるを得ません。
     そのような経緯を経て、2011年2月25日、大阪地方裁判所で判決が言い渡されました。判決は、イレッサ承認当時、副作用に関する警戒を十分しないまま広く用いられる危険がある一方、イレッサにより致死的な間質性肺炎が発症することの認識可能性があったのであり、少なくともイレッサの間質性肺炎について重大な副作用欄の最初に記載すると共に、致死的な転帰をたどる可能性について警告欄に記載して注意喚起をはかるべきなのに、それがないイレッサには製造物責任法上の指示・警告上の欠陥があるとして、アストラゼネカ社の責任を認めました。
     他方、国の法的責任は否定しましたが、「添付文書の重大な副作用欄に間質性肺炎を記載するよう行政指導をしたにとどまったことは、必ずしも万全な規制権限の行使であったとは言い難い。」と断じ、国についても薬害イレッサ事件の早期全面解決を図る社会的な責任があることを指摘しました。
     間質性肺炎の致死性を警告欄に記載しなかったアストラゼネカ社の責任を認めながら、警告欄への記載を指導しなかった国の責任を否定したのは全く説得力を欠くものであり不当です。しかし、国家賠償法上の違法性について紙一重で免れたとはいえ、不十分な行政指導については指摘されたのですから、国は、判決が提起した課題を真摯に受け止め、速やかに原告との協議の席につくべきです。
  4. 今後の展開
     2011年3月11日、原告・弁護団は控訴しました。それは、判決が国の法的責任を否定したこと、また、アストラゼネカ社の責任についても緊急安全性情報を配布した2002年10月15日以降の法的責任を否定したこと、さらに、原告・弁護団が国とアストラゼネカ社に対して直ちに全面解決のための話し合いの席につくことを求めてきたにもかかわらず、誠意ある対応をとらず真摯な反省を示さなかったこと、以上のことから訴訟を確定させることができないからです。
     同年3月23日には、東京地方裁判所で東日本訴訟の判決があります。国とアストラゼネカ社が薬害イレッサ事件の解決を先延ばしする理由は全くありません。原告・弁護団は、薬害イレッサ事件の早期全面解決に向けて全力を挙げる所存です。みなさまのご支援をよろしくお願い致します。

(2011年3月17日記)

積水ハウス・リクルートスタッフィング業務偽装事件

弁護士 辰 巳  創 史
第1 事案の概要

  1. Aさんの就労実態
     平成10年ころ、Aさんは、派遣会社大手のリクルートスタッフィングに派遣労働者として登録した。
     平成16年12月9日、Aさんは、大手住宅販売会社の積水ハウスのカスタマーズセンターに派遣され、就労を開始した。Aさんが、派遣元リクルートスタッフィングから明示された業務内容は、いわゆる政令指定26業務の5号OA機器オペレーション業務及び8号ファイリング関係業務であった。しかし、Aさんが派遣先積水ハウスで行った実際の業務内容は、顧客からの販売家屋の修理依頼を受付け、その手配をするという電話応対業務と、会議資料の準備、荷物の受取といった一般事務が中心で、正社員の補助といった性格のものであった。
     Aさんは、リクルートスタッフィングから明示された業務内容と、実際に積水ハウスで行っている業務内容が異なるという点については、特に意識することなく、また、政令指定26業務に該当しない一般業務については、派遣可能期間が原則1年以内に制限されていることを知らずに、3ヶ月ごとに契約を更新して、平成20年8月31日まで約3年8ヶ月間同じ職場で同じ業務に従事した。Aさんは、同僚との人間関係もよく、仕事もてきぱきとこなしていたので、上司や同僚からの信頼が厚かった。
  2. 派遣先積水ハウスによる就労拒否
     平成20年4月17日、Aさんは、派遣先積水ハウスカスタマーズセンター所長から、8月31日での期間満了後、3ヶ月待機した後に12月から職場復帰することを打診された。Aさんは、積水ハウスカスタマーズセンターで勤務を継続することを望んでいたので、これを了承した。
     上記の3ヶ月間自宅待機して後の職場復帰については、所長とAさんから派遣元リクルートスタッフィングに伝えていたので、リクルートスタッフィングの担当者もこれを了承していた。
     同年8月31日、派遣期間が満了したが、Aさんは3ヶ月後に職場復帰する約束であったことから、雇用保険の申請もせず、私物もすべて事務所のロッカー等に置いたまま、自宅待機を開始した。
     ところが、待機から1ヶ月あまり経過した10月3日、派遣元リクルートスタッフィングの担当者から「積水ハウスカスタマーズセンターの所長から、Aさんの12月の再契約はしない旨の連絡がありました。」との電話があった。Aさんは、驚いて、翌日所長に電話をかけた。すると、所長は、「派遣社員を3年雇用した後、3ヶ月間休ませて職場復帰させることは今のところ違法ではないが、法の目をかいくぐった問題のある行為であり、本社の人事からこのようなことは止めて欲しいといわれた。」と、再契約をしない理由を淡々と述べた。
     Aさんは、派遣元のリクルートスタッフィングにも電話をかけたが、担当者は、「職場復帰を前提に待っておられたことは申し訳なく思う。近くの仕事があった場合は紹介します。」と言うのみであった。
     結局、Aさんは、職場で良好な関係を築いてきた同僚に挨拶もできず、職場においてあった私物も休日にひっそりと取りに行くという惨めな思いをして、12月からの職場復帰も叶わなかった。
  3. 提訴に至る経緯
     平成20年12月、派遣元リクルートスタッフィング・派遣先積水ハウスの対応に納得できなかったAさんは、当事務所に相談し、地域労組に加入した。
     平成21年1月20日、労働局に是正申告を行ったが、すでに派遣期間が満了しているので、申告としては受け付けられないが、調査をするとの回答であった。
     平成21年2月24日、労働局は、Aさんの業務内容は、電話応対などの一般事務が1割を超えていたとして、リクルートスタッフィング・積水ハウスの労働者派遣法26条1項1号違反、同法39条違反、同法40条の2第1項違反、同法26条7項違反、同法31条違反、及び同法35条の2第1項違反を認定し、両社に労働者の雇用の安定を図ることを前提として違法状態を是正するよう指導を行った。
     さらに、平成21年2月19日及び3月6日に派遣先積水ハウスに対して、同年3月4日及び3月26日に派遣先リクルートスタッフィングに対して団体交渉を申入れたが、両社はこれを拒否した。
     そこで、平成21年3月9日、Aさんは派遣先積水ハウスに地位確認、派遣元リクルートスタッフィングに損害賠償を求めて提訴した。
     また、平成21年6月、地域労組は、積水ハウス・リクルートスタッフィングの団体交渉拒否の不当労働行為救済申立を行った。

第2 大阪府労働委員会の命令

  1. 府労委による不当な命令
     平成22年9月10日、大阪府労働委員会は、団体交渉拒否の不当労働行為救済申立に対し、積水ハウスに対する申立てについては、積水ハウスの使用者性を否定して却下し、リクルートスタッフィングに対する申立てについては、義務的団交事項とはいえず棄却するという不当な命令を行った。
  2. 中央労働委員会への再審査申立
     府労委命令の結論は、派遣労働者に対し、派遣先・派遣元ともに団体交渉ができないとする不当なものであり、平成22年9月28日、地域労組は、中央労働委員会に再審査請求を申し立てた。


第3 大阪地方裁判所第5民事部の判決

  1. 被告積水ハウスに対し金30万円を支払えとの判決
     大阪地裁第5民事部(中村哲裁判長)は、平成23年1月26日、被告積水ハウス株式会社は、原告に対し、金30万円を支払えとの判決を言渡したが、その余の請求は棄却した。
     しかし、以下に述べるとおり、この判決は極めて不当なものである。
  2. 原告と被告積水ハウスとの間の黙示の労働契約の成否
     まず、判決は、原告の業務は、顧客のデータ管理が中心であって、政令5号業務に該当すると認定し、業務偽装を認めなかった(派遣法26条違反を否定)。
     しかし、原告の行っていた業務は、顧客からの修理依頼に対する電話応対が中心であり、顧客のデータ管理などはほとんど行っていなかった。裁判所の認定は被告側証人の証言を一方的に採用し、原告の証言を理由もなく切り捨てた上でなされた不当なものである。また、原告が申告を行ったことを契機に、労働局から被告らに対して是正指導もなされているが、本判決は、裁判所の判断に当たって労働局が行った判断内容に拘束されるものではないとまで言い放ってこれを無視している。
     そして、判決は、派遣法26条違反を否定しておきながら、わざわざ、派遣法26条違反等があったとしても、そのことだけで黙示の労働契約が成立するものではないと述べ、本件事案の下では黙示の労働契約は成立しないと判断した。
  3. 不法行為の成否
     判決は、被告積水ハウスカスタマーズセンター所長が、3ヶ月後の職場復帰を原告に打診したにもかかわらず、一方的に撤回した事実を認定し、原告の復職就労に対する期待を侵害したとして30万円の慰謝料を認めた。
     しかし、原告が求めていたのは、3年8ヶ月にわたって違法派遣をされたことにより、適法な労働者派遣契約関係で仕事をする地位が侵害されたことによる損害の賠償であり、被告リクルートスタッフィングに責任が認められなかったこと及び30万円という金額についても不十分な判決である。
  4. 控訴の提起
     大阪地方裁判所第5民事部による判決は、以上のように不当なものであり、原告は、平成23年2月9日、控訴を提起した。
     これからも皆様のご支援をお願いします。

(弁護団は、村田浩治、辰巳創史、高坂明奈)

戦後史の一大汚点レッド・パージ  -今こそ歴史をただす正義の判決を-

 弁護士 橋 本   敦
  1. 治安維持法の現代版レッド・パージ
    思想・信条の自由は人間の本源的権利と認める世界人権宣言(1948年)があり、そして、それを不可侵の基本的人権と定めている日本国憲法があるのに、わが国戦後史の最大汚点であるレッド・パージなる不法な国家的犯罪は、何故に今日に至るまでの60年、犠牲者の誰一人も名誉回復されなかったのか。戦前の治安維持法による許し難い弾圧、その人権侵害の負の歴史が戦後のレッド・パージに重なる。今こそ、この負の歴史の反省と清算・犠牲者に対する名誉回復が実現されねばならない。

    その正義のたたかいを敢然と立ち上げた神戸地裁でのレッド・パージ裁判は、来る5月26日に判決を迎える。

    その裁判所に意見書を提出された北海道教育大学の明神勲教授は、レッド・パージの不法を次のように論じられている。

    「レッド・パージは、到底日本国憲法の許容するところではなかった。なぜなら、レッド・パージは、外部的・具体的行為ではなく、内心が「アカ」であるという思想・信条そのものを処罰の対象として裁くものであったからである。その点でレッド・パージは、アメリカにおけるマッカーシズムと共通しており、さらに実質的には戦前治安維持法体制下における弾圧の復活に類似するので「戦後における治安維持法体制現象」というべきものであった。

    レッド・パージは、米ソの冷戦体制の進行とこれに伴うアメリカの占領政策の転換(「東洋のスイス日本」から「アジアにおける反共の砦」へ)を背景に、GHQの唱える「自由」、「民主主義」という言葉が「反軍国主義のシンボルから反共主義のそれへと変質」し転換させられた時点で、超憲法的占領権力を背景に、GHQと日本政府及び企業経営者の共同行為として強行されたものであった。」

    また、東京経済大学竹前榮治教授も次のように論述されている。

    「本来、思想・信条の自由は国家権力を持ってしても奪い得ない天賦の人権であり、特定の思想をもつ少数派と言えども解雇されたり社会の中から排除されてはならないのである。共産主義者はもちろん、使用者や上司の気に食わぬという理由だけで、『赤』のレッテルを貼られて便乗解雇された組合活動家、その家族たちは社会から白眼視され犠牲を払わされた。このようなことは二度と繰り返されるべきではあるまい、何人も人の幸福をこのように奪う権利はないのであるから。レッド・パージはまた侵略戦争とも不可分の関係があることも周知の事実である。1928年の『3・15』、1929年の『4・16』の共産党弾圧はのちに200万人の死者を出した『太平洋戦争』へと導き、1949年―1950年のレッド・パージは南北朝鮮人600万人の人的被害を出した朝鮮戦争と深い関連をもち、自由世界を守るためと称したベトナム戦争はベトナム人800万人の被害を出したことを考えると、このことはいくら強調しても強調しすぎることはあるまい」(『戦後労働改革』370頁、東京大学出版会、1982年)

    時は朝鮮戦争の前夜、レッド・パージの嵐が吹き荒れた。

    このようにレッド・パージは、まさしく思想・信条の自由を踏みにじり、戦争への道と時代の反動化をおしすすめたのであって、それは戦前の治安維持法弾圧の現代版と言えるのである。

  2. 今こそ歴史のあやまりをただす正義の判決をもはや90歳を超える老齢の原告ら3名が「生きているうちに名誉回復を」と立ち上げた神戸地裁のレッド・パージ裁判は、2年に近い審理の上、去る2月10日、最終の口頭弁論の日を迎えた。その日の法廷で、佐伯雄三弁護団長(原告代理人)は、「裁判所は憲法に従い人権擁護の司法本来の使命にもとづき、レッド・パージを強行した国の責任を認め、レッド・パージ犠牲者の名誉の回復をすべきであり、今こそ歴史の汚点をただす正義の判決を強く求める。それなくしては、日本の戦後史は終わらないのだ。」と強く裁判所に迫った。

    原告らも今日まで耐えてきた苦難の日々を振り返り、次のように気迫溢れる陳述をした。

    原告安原清次郎(1950.10..25 川崎製鉄解雇)

    「私自身は、ただ言えるのは、思想・信条・結社の自由、この基本的権利を守ってくれと、これだけです。守ってくれなかったから、私こんなになったんですから。」

    原告川崎義啓(1950.10.26 旭硝子解雇)

    「訴えたいことは、まじめに働く人間がまじめに生きていけるだけのちゃんとした秩序をもった社会をつくることが大事や。共産党員だからという理由だけで首にすることはもってのほか。ほかに言いたいことは、食べていけないから補償せよと。」

    原告大橋豊(1950.8.26 神戸中央電報局免職処分)

    「裁判官が一人一人独立して良心に従って、最高裁判決に従えじゃなしに、良心と日本国憲法に基づいて、真実に基づいて判決を頂きたい。3人が生きている間に。」

    今こそ裁判所は、憲法をまもり、司法の正義を具現する最後の人権擁護の砦として、本件レッド・パージ事件について、原告らに対して名誉を回復し、原告らの60年にわたる筆舌に尽くしがたい辛苦に対して、被害賠償を行う歴史的正義の判決を下すことをわれわれは強く要求する。

    そもそもレッド・パージは、わが国戦後史の最大の汚点であり、その犠牲者の人権回復なくして日本の戦後史は終わらない。

    今、特に重視すべきこと、それは、レッド・パージなるものが国民の不可侵の基本的人権を踏みにじる国家の犯罪なのであったと言うことである。

    明神教授も、前記の意見書で、レッド・パージの「国家犯罪」としての歴史的特質を次のとおり明確にされている。

    「思想・信条そのものを処罰の対象とするレッド・パージは、本来、憲法をはじめとする国内法の容認するところではなく、かつ最上位の占領法規範であるポツダム宣言の趣旨にも反するものであったが、占領下においては超憲法的権力であったGHQの督励と示唆により、それを後ろ盾とした日本政府、企業経営者の積極的な推進政策により強行された。レッド・パージという不法な措置を実施するにあたり、GHQ及び日本政府は、事前に裁判所、労働委員会、警察をこのために総動員する体制を整え、被追放者の『法の保護』の手段を全て剥奪した上でこれを強行したのであった。違憲・違法性を十分に認識し、法の正当な手続きを無視したレッド・パージは、『戦後史の汚点』とも呼ぶべき恥ずべき『国家の悪事』であった。」

    日本の司法の名誉にかけて、この「恥ずべき」歴史のあやまちは今こそ正されねばならない。

  3. 新たな歴史をひらく日弁連のレッド・パージ救済勧告本件裁判の提訴に先立つ2008年10月24日、わが国司法の一翼を担う公的団体であり、人権擁護を使命とする日本弁護士連合会は、本件原告らの申立をうけて慎重に審査した結果、原告らに対し、レッド・パージを重大な人権侵害と断じて、これに対する国の責任を認めた。そして、国と関係企業は原告らの名誉と損害回復の救済措置をとるようにとまさに画期的な勧告を行った。それは、レッド・パージは占領軍指令官の指示による超憲法的効力であるとするこれまでの最高裁判決の厚い壁をくずしたのである。この勧告が出たあと、原告大橋豊は、「まさに絶望の50年を経て天の岩戸が開いたようだ」と、その熱い思いをのべている(日弁連「人権ニュース」2009年3月1日号)。60年間の原告らをはじめ、すべてのレッド・パージ犠牲者の苦難の日々を思い、この言葉が身にしみる。

    そして、今、その「天の岩戸」を真に開いて、レッド・パージ犠牲者の人権救済と名誉回復を実現する歴史的課題は、本件裁判にかかっている。

    その点で、日弁連がこの輝かしい正義の勧告を出すにあたって自らの人権擁護の使命を次のように語るその真剣な姿勢と高い気概を、裁判所もくみ取るべきである。

    「当連合会は司法の一翼を担うものとして、人権の最後の砦たる役割を果たさなければならないと考える。さらに、レッド・パージは、憲法で保障された「思想良心の自由」と「結社の自由」という民主主義社会の根幹に関わる問題であり、(中略)どのような政治状況にあったとしても、一人一人の市民の「思想良心の自由」と「結社の自由」は、政治的党派的立場を超え、過去・現在・未来にわたって保障されるべきであることについて、関係者のみならず、広く社会の理解を求めるべく、人権擁護の視点に立って、この勧告に至ったものである。」

    この日弁連勧告に続いて、長崎、仙台、横浜などの各弁護士会でも相次いでレッド・パージ人権救済勧告が出された。それらは、憲法と国民の人権を守るわが国の歴史を今、大きく前へと進めたのである。

    今こそ、裁判所がレッド・パージを厳しく断罪し、わが国司法がになう人権擁護の使命を果たす時が来たと言えよう。

  4. レッド・パージを容認した最高裁決定の重大な誤りそのためには、これまでのすべてのレッド・パージ裁判を敗訴させたおおもととなった最高裁判所の1952年の共同通信事件と1960年の中外製薬事件の二つの大法廷決定は、今こそ否定されるべきである。この不当な最高裁決定については、すでに学界から厳しい批判がなされていた。本多淳亮大阪市立大学教授も、「思想・信条の自由と解雇」と題する論文で次のように厳しく批判されている。

    「思想・信条の自由は現代社会における人間存在の基底を形作るものである。重要な人権主体として人間の尊厳が保障されるためには、何をさておいてもまず確保されねばならない根源的な自由という性格を持つものである。思想・信条の自由の欠けているところでは必ず人権が蹂躙されることは否定できない。最高裁判決を初め日本の裁判はどうであったか。いやしくも裁判所が事件を扱う限り、厳密かつ明確に法的根拠を示さなければレッド・パージを肯認できないはずである。にもかかわらず最高裁判決を初め、下級裁判所の多くの裁判例は、あいまいな法的根拠のもとに解雇有効の結論を下した。この態度は占領軍当局の巨大な魔手におびえて自ら司法権の不羈独立を放棄した、と言われても仕方があるまい。」(『季刊労働法』別冊1号、124頁、1977年)

    また、明神教授も、その意見書で次のように厳しく二つの最高裁決定を批判されている。

    「公共的報道機関のレッド・パージについては、既に占領下に、共同通信社事件に対する最高裁決定(1950年4月2日)が、マッカーサー書簡の効力は公的報道機関にも及ぶと判示したことによって判例として確立していた感があった。残る問題は「その他の重要産業」に対する効力についてであったが、独立後にはこれを否定して国内法を適用し、レッド・パージ無効判決をくだす下級審判例が増加する傾向が強まった。しかし、「顕著な事実」論をもとに「その他の重要産業」にも及ぶと判示した中外製薬事件に対する1960年の最高裁決定を契機に、これを踏襲する下級判例が続出し、有効説が圧倒的多数となり判例の傾向は完全に逆転した。

    最高裁は二度にわたる決定によって数万人のレッド・パージ被追放者たちの法的救済を完全に断ち切り「職場からの追放」を合理化し、さらに彼らを「法の保護」という世界からも追放したのである。」

    以上で明らかなとおり、最高裁判所までもが占領軍当局の「巨大な魔手におびえて」自ら司法権の独立を放棄し、レッド・パージを容認して、被害者に重大な権利侵害を押しつけたのである。

    このような二つの最高裁大法廷の決定は、正当な規範的価値は無いものとして否定されねばならない。

    ここで注目すべき重大な問題は、本件裁判の審理で、この二つの最高裁大法廷決定が論拠としている「連合国最高指令官の解釈指示」なるものが存在しなかったことが、明神教授のGS(占領軍民政局)文書による検証の結果明らかになったことである。

    この文書にもとづく同教授の証言によれば、「問題となったのは、1950年8月7日のホイットニー・田中(最高裁長官)会談であったが、そこでホイットニーから言われたのは、最高指令官が出したのはレッド・パージの単なる助言あるいは、示唆にすぎないものであって、『指示』ではない。最高裁決定が判示しているような最高指令官の『解釈指示』はなかった。」のである。

    こうして、最高裁決定の根拠は崩れ去ったのである。

  5. レッド・パージの下手人になり下がった最高裁判所何故に最高裁は、このように人権擁護の正義の旗を投げ捨てたのか。レッド・パージの救済を拒否する不当な最高裁決定の背後には何があったのか。この事実を明らかににする上で、日弁連の最高裁判所に対する裁判所職員のレッド・パージ人権救済勧告(2010年8月31日)は、極めて重要である。

    最高裁判所はレッド・パージ事件について、占領権力に迎合して不当な判決をしただけではなかったのである。それどころか、自らも裁判所職員に対して不当なレッド・パージを強行したその下手人だったのである。

    この日弁連の勧告は、レッド・パージを受けた裁判所職員加藤栄一氏(元東京地方裁判所書記官補)の申立をうけて次のように最高裁判所の重大な責任を厳しく指摘した。

    「最高裁判所を頂点とする司法裁判所は、日本国憲法に基づき、法の支配の担い手として政治部門の権力濫用を防止し、一人ひとりの個人の人権を保障することこそが期待されるのである。(中略)

    最高裁は、裁判所職員に対する本件免職処分、すなわちレッド・パージにより、申立人の思想・信条の自由や結社の自由を侵害し、同人を処遇上差別したものといわねばならず、法の支配の担い手としてのその職責に照らし、その責任は極めて重い。(中略)

    占領下といえども、最高裁が毅然とした態度をとり、GHQの指示・命令に従わなければ、少なくとも、申立人が本件免職処分を受けることはなかったと思料される。(中略)

    仮に、最高裁がGHQ乃至連合国最高指令官の指示・命令に従いやむを得ず本件免職処分を行ったのだということが認められたとしても、平和条約が発効して占領が終了し主権回復に至った以後は、自主的にかかる処分を取り消すなどして申立人の地位と名誉の回復措置をとることは十分に可能であったし、行うべきであったといわねばならない。

    したがって、これを放置し、現在に至るまで何らの人権回復措置を行っていない最高裁の責任は極めて重いと言わざるを得ない。」

    これこそ、まさに、人権擁護と法の正義の実現に責任を担う日弁連の歴史的勧告である。なんと、自らの職員をレッド・パージしていた最高裁判所、その最高裁がレッド・パージ裁判でレッド・パージによる解雇を無効とする正義の判決をすることなどあり得る筈はなかったことが今日明らかとなったのである。

  6. 今究明すべきは、レッド・パージの国の責任戦後史におけるレッド・パージの一連の経過とその社会的状況を見るならば、それはGHQと政府、大企業、そして、最高裁までもが互いに意を通じ、協力し合ってあたかも「共同正犯」のように遂行したという歴史的社会的事実が明確なのである。レッド・パージについてのこのような認識に基づく国の責任の法的解明と追及こそが、今日のレッド・パージ反対闘争に新たな展望をひらくもので、極めて重要である。

    明神教授がその意見書で、次のようにこの日本政府の重大な責任を論述されているのは、まさに歴史の事実にもとづく正論である。

    「(一) 1950年6月6日マッカーサー書簡による共産党中央委員の追放、同年6月7日付マッカーサー書簡による「アカハタ」編集委員の追放および同年8月30日付マッカーサー書簡による全労連幹部の追放は、GHQの指令に基づくものでGHQの責任に属する。

    (二) それ以外の、1949年から1950年のレッド・パージは、GHQ、日本政府、裁判所、地労委および企業経営者の密接な協力と共同によって実施されたもので、GHQ、日本政府・裁判所、地労委および企業経営者は、それに対して「共同責任」を負うべきである。」

    さらに、前述の日弁連勧告書も次のとおり積極的にレッド・パージをすすめた国の責任を明確に指摘していることが重要である。

    「申立人大橋は国家公務員であり、日本政府はその人権侵害行為に対し直接責任を負っている。同時に、民間企業に勤めていた申立人川崎義啓及び同安原清次郎らに対する解雇についても、上記各会社等が自主的判断の形をとりながら実施したものではあったが、それらは連合国最高指令官マッカーサーの指示等に基づき、日本政府が支援したものであるから、日本政府にも責任がある。

    よって、当連合会は、国に対し、申立人らが既に高齢であることを鑑みて、可及的速やかに、申立人の被った被害の回復のために、名誉回復や補償を含めた適切な措置を講ずるよう勧告する。」

    このように、レッド・パージはまさしく国家の犯罪なのであった。

    レッド・パージという不法な人権侵害の暴挙について、GHQや関係企業、さらには裁判所とともに「共同正犯」である国の責任は、レッド・パージの歴史的事実に照らして、逃れようもない。

    本件レ・パ訴訟は、この国の責任追及という視点から国を被告として、レ・パ被害者の名誉回復と損害補償を求めるもので、従来の雇用主・経営者に対するレ・パ解雇無効の裁判とは根本的に異なる。新たな重大なたたかいである。

  7. 痛恨の歴史から正義の生きる明日の歴史へ今、世界の流れを見ても、スペインでは、フランコ独裁政権下の犠牲者を救済する「歴史の記憶に関する法律」、イタリアでは「犠牲者への年金補償法」、ドイツでは、ナチスによる弾圧に対し「包括的名誉回復法」が制定されるなど、今日では、過去の歴史の人権弾圧に対する名誉回復が進んでいる。反共マッカーシズムが荒れ狂った国アメリカでも、「赤狩り」の思想差別は違憲であるとする連邦最高裁判所の判決が出されるに至り、『世界週報』(1957年7月6日号)は、「マッカーサーシズムも臨終へ・米最高裁判所は、三つの重要な判決を下し、一つの主義(反共主義)に『墓標』をたてた」と書いた。

    明神教授もその意見書で、「過去に誠実に向き合うことにより、過去の誤りを見直し、その克服をめざす動向は世界における大きな潮流となっている。」と述べているとおりである。

    歴史は今、過去の不正不義を乗り越えて、正義の実現に向かって間違いなく進んでいるのである。

    まさに今や、日本の司法もゆるぎない正義を示す時ではないか。

    レッド・パージについて、法の支配がないがしろにされ、法の保護の枠外に置かれた反憲法的処置が是正されないはずはないと確信する。

    すべての裁判が全部敗訴とされたこれまでのレッド・パージ裁判の痛恨の歴史に、今こそ終止符を打って、歴史の正義とわが憲法が生きる画期的な判決が下される5月26日を迎えたい。

    皆さんの熱いご支援を心からお願いしてやまない。

「個人請負・個人委託も労働者」 INAXメンテナンス事件 最高裁逆転勝利!

弁護士 河村  学

  1. 最高裁で逆転勝訴

     本件は、INAXメンテナンス(以下「会社」という)から形式的に個人業務委託業者として扱われ、INAX製品の修理業務に従事している労働者ら(CEと呼ばれている。CEとはカスタマー・エンジニアのこと)が、組合に加入し、会社に団体交渉を申し入れたところ、会社がCEが個人事業主であり労組法上の労働者に当たらないとしてその団交申し出を拒否した事件である。
     4月12日、最高裁は、東京高裁判決を破棄し、CEの労働者性を認め、団交拒否を不当労働行為とする判決を言い渡した。東京高裁の裁判官は、組合側の主張を「社会の実情ないし経験則に照らしても合理的とは言い難い見解」と批判していたが、最高裁はこのよう原判決の判断は是認できないとし、組合側の主張を認めたのである。

  2. 労働者性を巡るこれまでの経緯

     労組法上の労働者性をめぐっては、以前から労働委員会・裁判で争われていたが、概ね使用従属性という概念をあいまいに使用しながら妥当な結論を導くという方法で判断されてきた。
     この問題に関する代表的な最高裁判決として中部放送事件判決(1976年5月6日)があったが、この判決も従来の流れに沿った事例判決と目されてきた。この判例解説として掲載されたいわゆる調査官解説には、同判決の内容を意図的に形式重視の方向に引きつける解釈がなされていたが、実務においてはあまり問題にされてこなかった。
     その後、労働契約上の使用者性・労働者性については形式を重視した厳しい判断が続き、労組法上の使用者性判断についても、朝日放送事件最高裁判決(1995年2月28日)が出されたものの、うまく活用できないまま、同判決の具体的「決定」という文言を悪用し、親子会社や雇用問題にかかわる派遣先の使用者性についてはこれを否定する判断が続いた。実質的判断の最後の砦が労組法上の労働者性概念という状況であった。
     ところが、平成20年7月~平成22年8月の間に、6件の東京地裁・高裁で労働委員会の救済命令を覆す判決が続いた(本件東京地裁判決のみ結論として救済命令を維持したが法的判断は他の裁判例と同様であった)。これらの判決に共通するのは、契約形式を重視し、労働契約と同様の法的権利義務がなければ労働者と認めないという判断であり、この判断枠組みには前記調査官解説が十二分に活用された。かつての整理解雇に関する東京地裁・高裁の「暴動」に類する動きであった。
     本件最高裁判決は、このような東京地裁・高裁の動き及び中部放送事件最高裁判例解説の立場を明確に否定し、就労実態から労働者性を判断する立場とその判断要素を示したものである。

  3. 最高裁判決の判断内容

    (1) 本件最高裁は、CEの就労実態を直視し、次のような判断要素と事実の摘示を行って、労働者性を認める判断をしている(田原睦夫裁判官の補足意見あり)。

    ①会社組織への組込み
     会社の主たる業務をCEが担っていたこと、会社が業務日・休日を指定し、日曜・祝日においても交替で業務を担当するよう要請していたことから、会社の組織に組み入れられていたとみるのが相当とした。

     ②会社による契約内容の一方的決定
     業務委託契約の内容は、会社の定めた「覚書」によって規律されており、CEの側で変更する余地がなかったことから、会社がCEとの間の契約を一方的に決定していたものというべきとした。

    ③報酬の労務対価性

     CEの報酬は、会社が予め決定していた顧客等に対する請求金額に、会社が決定した級ごとに定められた一定率を乗じ、これに時間外手当等に相当する金額を加算する方法で支払われていたのであるから、労務の提供の対価としての性質を有するとした。

    ④会社の依頼に応ずべき関係

     会社から修理依頼された場合、CEは業務を直ちに遂行するものとされていたこと、依頼を拒否する割合は1%弱であったこと、契約は会社に異議があれば更新されないものとされていたこと、報酬額は会社が決定する級によって差が生じ、担当地域も会社が決定していたことに照らすと、拒否を理由に債務不履行責任を追及されることがなかったとしても、会社の修理補修等の依頼に応ずべき関係にあったものとみるのが相当とした。

    ⑤ 指揮監督、場所的時間的拘束
     CEは、会社が指定した担当地域内において会社からの依頼にかかる修理業務を行うこと、原則として業務日の午前8時半から午後7時までは会社から発注連絡を受けることになっていたこと、顧客先では会社による作業であることを示すため、会社の制服を着用し、その名刺を携行し、業務終了時には業務内容等に関する報告書を会社に報告していたこと、全国的な技術水準確保のためCEとしての心構えや役割、接客態度等までが記載された各種マニュアルの配布を受け、これに基づく業務の遂行を求められていたことから、CEは会社の指定する業務遂行方法に従い、その指揮監督の下に労務の提供を行っており、かつ、その業務について場所的にも時間的にも一定の拘束を受けていたものということができる。

    (2) 本判決は、以上の要素から労働者性を認めた上で、組合側が団体交渉で求めた事項(①組合員の労働条件に関する組合との協議要求、②組合員の手当等の支払要求、③年収の最低保証の要求、④貸与機材の損傷等を会社の負担にすべきこと、④労災保険への加入要求)について、そのいずれも「CEの労働条件その他の待遇」、または会社との間の「団体的労使関係の運営に関する事項」であって、会社が決定することができるものと解されるとして、正当な理由なく団体交渉を拒否することは許されないとした。

  4. 最高裁判決の内容に対する若干のコメント

     判決の内容については、同日に出された新国立劇場事件最高裁判決と併せて十分な検討を要するが、ここではさしあたりいくつか指摘したい。

    ② 東京地裁・高裁の判断を明確に否定
     まず、本判決は、この間、東京地裁・高裁が行ってきた労働者性解釈を明確に否定している。すなわち、近時の判決では「法的な使用従属関係」を強調し、業務指示や指揮監督が契約上の権利義務に基づいて行われていない場合には労働者性を否定する判断を続けていたが、本判決は、このような立場をとらず、就労実態から労働者性を判断している。

    ③ 判断要素として上記五つを示した

     次に、本判決は、上記五つの判断要素から労働者性の有無を判断している。これは新国立劇場事件判決でも同じであり(ただ、同判決では指揮監督と場所的・時間的拘束を分けて六つの判断要素となっている)、今後の労働者性の判断要素を示したものといえる。

    ④ 「依頼に応ずべき関係」という要素を挙げる
     判断要素の中で重要なのは、従来「諾否の自由」の有無として議論されてきた要素について、「各当事者の認識や契約の実際の運用において…依頼に応ずべき関係にあった」か否かという判断を行っている点である(この点は新国立劇場事件判決も同じである)。
     これは、一つには、諾否の自由の有無を法的な権利義務の有無としては判断しないことを明確にした点(わざわざ「拒否を理由に債務不履行責任を追及されることがなかったとしても」と書き加えている)、また、二つには、契約解除(更新拒絶)を恐れるあまり依頼に応じざるを得ないことも、「応ずべき関係にある」ことの理由に加えている点において重要である。
     この判示は、前記調査官解説の誤謬を訂正し、裁判官をその呪縛から解き放つものである。

    ⑤ 一方的決定の要素を挙げる
     また、会社による契約内容の一方的決定の要素を重視している点も重要である(新国立劇場事件判決も同じ)。近時の東京地裁・高裁判決はこの要素を徹底して無視し、前記調査官解説はそう解釈する根拠を与えていたが、本判決はこれらの解釈を否定した。
     確かに契約は双方の合意により成立するが、その内容が実質的に押しつけられる経済的地位であるが故に団結権が必要とされるのであるから、この要件は経済的従属性を示す重要な徴表になるものである。

    ⑥ 専属性について

     本判決は、専属性については判断要素としていない。ただ、なお書きにおいて、CEは独自に営業活動を行って収益を挙げることも認められていたとの原判決の判断に対し、本件では独自の営業活動を行う時間的余裕は乏しかったと推認されること、CE自ら営業主体となって修理補修をした例はほとんどないことから、「そのような例外的な事象を重視することは相当とはいえない」としている。また、補足意見では、この点に関し、「CE制度の対象者がCEの求める業務以外に主たる業務を行っていたり」する場合は一般の外注契約関係と異ならないとしている。
     しかしながら、通常の労働者でもダブルワーク、トリプルワークをするのであり、他に業務があること自体が労働者性を緩める要素にはならないはずである。本判決では専属性は判断要素になっていない点を確認する必要がある。

    ⑦ 報酬額について

     本判決は、報酬の労務対価性判断において、報酬の額については何ら触れていない。一方、新国立劇場事件判決では報酬額が年間約300万円であったことを対価性の理由の一つに挙げている。これは後者が音楽家という特殊な芸術的技能を有する場合もあることから触れられたのだと思われる。少なくとも特別な免許・技能を要しない業務への労務提供の場合には報酬額の多寡は問題にならないというべきである。

  5. 今後の取り組みについて

     本判決は、労働者性に関する一般的な判断基準を定立はしなかったが、上記のような判断要素がくみ取れるので、今後の同種紛争にも大きく影響を与えるといえる。本判決が、法的な契約形式にとらわれず、就労実態から労働者性を判断するという姿勢を示した点は、当然のこととはいえ、評価できるし、契約形式を悪用し、さまざまな偽装を凝らす使用者が次々出ている昨今の状況に鑑みれば極めて重要な判断であるといえる。
     本判決が示した判断要素がすべて必要なのかなど疑問もあるが、今後、労働委員会・裁判の中ではこれらの要素にかかわる具体的な就労実態を示していくことが必要となる。
     現在、個人請負型就労者に関しては、公的な統計はないが、110万人とも125万人とも言われている。職種も運送員、外交員、技術者、建築作業員といった従来からあった職種に加えて、美容師、講師、配膳・調理補助、受付、ゴルフキャディなどさまざまな職種に広がりつつある。
     この判決を期に、労働法上何らの保護も受けない中で就労させられている「労働者」を大きく組織し、団結権・団体交渉権・団体行動権を行使して、要求実現を図る運動を起こす必要がある。
     なお、厚生労働省は、2010年4月に「個人請負型就業者に関する研究会」報告書を発表し、また、現在は「労使関係法研究会」を開いて本年6月にも中間報告を取りまとめる予定である。前者では、一定の業種について個々に労働者性に関する判断基準を設けるべきだとか、請負・委託で働くことの意味を募集の際に周知・徹底させるべきだなどと提案がされている。今後とも形式化の動きには警戒が必要である。

(弁護団は、村田浩治、河村学、愛須勝也、古本剛之、古川拓)

津田電気計器継続雇用裁判 大阪高裁でも勝訴

弁護士 谷  真介

  1. はじめに

     昨年9月30日に大阪地裁において勝訴したJMIU大阪地本傘下の津田電気計器支部書記長の岡田茂さんの高年法継続雇用裁判が、平成23年3月25日、大阪高裁でも原審の結論を維持して勝訴した(残念ながら会社より上告され確定せず)。この種の事案で高裁レベルで全国で初めて地位確認請求が認められたものであり、その意義は少なくないので、報告する。

  2. 制度及び事案の概要

     改正高年法9条は、年金支の給開始年齢が段階的に65歳まで引き上げられるに応じ、65歳未満の定年を定めている事業主に対して、①定年の延長、②継続雇用制度、③定年制の廃止のいずれかの措置を講じることを義務付けた。この改正の趣旨は、年金制度の改悪に伴って労働者の生活が破綻せぬよう、雇用生活と年金生活の間に空白を埋めることにある。本件は、岡田さんが改正高年法に基づいて会社が導入した「継続雇用制度」による雇用継続を申し入れたところ、会社が過去の組合活動を嫌悪して恣意的に低い査定をした上で、岡田さんが会社の継続雇用制度の基準をクリアしていないとして、継続雇用を拒否されたという事案である。
     裁判上の争点は、①本件継続雇用制度の導入手続が高年法9条2項、附則5条に違反しないか、②本件継続雇用制度の継続雇用者選定基準が高年法9条2項に違反しないか、③岡田さんが本件継続雇用の選別基準をクリアしていたか(会社の査定が正当か)、④③がクリアしていたとして岡田さんと会社との間に労働契約が成立しているといえるか、などであり、その中心的な争点は③及び④である。
     会社の継続雇用制度の選別基準は、(簡略化していうと)Cを0点とするA~Eまでの5段階査定によって、総合計点が0点以上であれば継続雇用するというものであった。岡田さんは直近1年の査定において、プラス査定であるB評価が3項目(+6点)あるものの、マイナス査定であるD評価が5項目(-10点)あり、懲戒実績としてさらに-2点され、総合計点は-4点(-6点となるはずであるかなぜか-4点)というものであった。

  3. 大阪地裁判決

     昨年9月30日の大阪地裁判決は、会社がD評価と査定した5項目のうち2項目は誤りでC評価とされるべきとし、また懲戒実績は存在せず-2点は0点とされるべきとした上で、さらに表彰実績があるにもかかわらずそれをプラスしていないのは誤りであるとして(表彰実績は+5点となる)、岡田さんは合計+7点であったとして会社の継続雇用制度の選別基準をクリアしていると判断した(なお原告は査定に関しては立証責任が会社に課されるべきだと主張したところ、地裁判決は、査定の立証については会社と労働者がそれぞれ行うものであるが、査定に関しては会社が独占しているため査定を濫用したものと解される場合が多いという一般的判断を示した)。
     その上で、法的構成としては、会社が就業規則により継続雇用制度を策定し労働者に周知したことが再雇用の申込にあたり、その継続雇用制度の選別基準をクリアした労働者が継続雇用の希望をしたことが再雇用契約の承諾にあたるとした。そして本件でも再雇用契約が成立しているとして岡田さんの地位確認及び賃金請求を認めたのである。

  4. 大阪高裁判決

     地裁判決を不服として会社が控訴したところ、大阪高裁では第1回期日で結審し、その後の和解でも会社が一歩も譲らなかったため判決がなされることとなった。
     判決では、まず法的構成について地裁判決の枠組みから変更する判断を行った。すなわち、会社が就業規則により継続雇用制度を策定し労働者に周知したとしても、その後の労働条件については交渉等が行われて決定されるのであるからこれをもって労働契約の申込とは考えられず申込の誘引にすぎない。そして、労働者の継続雇用の希望が申込にあたり、それに対して会社が継続雇用する旨の意思表示が承諾にあたるとした。もっとも、その会社の承諾は会社の完全な裁量によるものではなく、継続雇用制度の選別条件を満たした労働者が継続雇用を希望(申込)したのに対して会社が不承諾とした場合には、解雇権濫用法理を類推適用され、その不承諾は権利濫用となるという枠組みを示した。その上で、査定について会社の側で把握しているものであるから、労働者が選別基準を満たしていないことについては会社が主張立証責任を負うとした。この高裁判決が示した枠組みについては、地裁判決とは異なるものの、結論としては地裁判決と差異は出ないと考えられる。逆に選別基準をクリアしているかどうかについて査定の立証責任を使用者に課している点では、評価できるものと考える。
     しかし高裁判決は、実際の岡田さんの査定のあてはめにおいて、会社の査定を丸飲みするかのような事実認定を行った。すなわち、会社のなしたD評価のうち2項目をC評価と改めた地裁判決を覆し、会社の評価どおりすべてのD評価を維持した(B評価が3項目あるため合計-4点)。もっとも地裁判決と同様に懲戒実績(-2点)についてはこれを認めず、会社が評価からはずした表彰実績(+5点)を認めたため、合計+1点であるとして、結論としては岡田さんは選別基準をクリアしていると判断した。岡田さんは表彰実績があったためギリギリ救われた、という結論となったのである。いくら一般論として選別基準に関して会社に立証責任があるとされても、実際の査定についてこのように会社の行った査定を丸飲みした判断がなされれば、結局会社はいくらでも恣意的な査定や継続雇用拒否を行うことが可能となる。この点については、多いに問題のある判決であるといえる。

  5. 最後に

     本件裁判の意義は、高齢者の雇用の確保を図るという改正高年法の趣旨を使用者に守らせ組合活動その他を理由とする差別・選別を許さないことにあり、本件で高裁判決においても結論として達成できたことは大変嬉しいことであった。もっとも、本件は上告され、岡田さんの職場復帰は未だ達成できていない。さらに本件を提訴した後、他2名の組合員も岡田さん同様に継続雇用を拒否されて、労働委員会や裁判で争っている(予定含む)。会社に高齢者の雇用について責任を果たさせるためには、まだまだこれから正念場を迎える。最終解決まで組合員らとともに全力を尽くしたい。

(弁護団は鎌田幸夫、谷真介、中村里香)

ノーモア・ミナマタ近畿国賠訴訟 勝利和解

ノーモア・ミナマタ近畿国賠訴訟弁護団
団長 弁護士 徳井 義幸

  1. はじめに

     去る3月28日、大阪地方裁判所において、ノーモア・ミナマタ近畿訴訟の和解が成立した。これは、3月24日の東京訴訟、翌25日の熊本訴訟での和解に続くもので、これにより2005年10月の熊本地裁の第1陣提訴(原告50名)以来、2009年2月の近畿訴訟提訴、2010年2月の東京訴訟提訴と全国に広がったノーモア・ミナマタ訴訟の全原告について和解が成立したことになる。和解成立時の原告数は、三つの訴訟の合計で2,992名に達する。
      2004年の国・県の水俣病被害の拡大に対する責任を認めた最高裁判決以降も国が被害者救済を放置したことに対して、多くの被害者が行政認定や訴訟を提起する動きが拡大してきたが、この間の特措法の制定ともに今回のノーモア・ミナマタ訴訟の和解解決によって、水俣病被害者救済は大きく前進すると共に新たな局面に入ったことになる。なお、訴訟ではなく特措法による行政救済を求めている被害者は4万人に達している。
      水俣病の公式確認された1956年5月よりすれば、すでに55年近い歳月が経過したことになり、公害の原点とされた水俣病の被害者救済のこのような驚くべき歴史的遅延には、日本の公害行政の怠慢が集中的に表現されているということができよう。

  2. 今回の和解とその成果と評価について
     ところで今回の和解では、熊本・近畿・東京の全原告2,992名のうち、一時金210万円の他療養費支給等の対象者が2,772名の92.6%、医療費のみの対象者が0.7%、あわせて93.4%の原告が救済対象となり、近畿訴訟では原告306名のうち、282名(92.2%)が一時金等対象者、1名が医療費のみの対象者となり、多くの原告が救済対象(92.5%)となった。従来の行政認定では到底達成することのできなかった高率の救済率である。
     これは、従来の加害者(国・県)が被害者を選別するという不合理なシステムを打破し、被害者切り捨てを許さないための判定機関として、被害者側の医師も参加する「第三者委員会」という公正・公平な判定の仕組みが実現した成果である。また、従来の行政認定が、複数の症状の組合せを要求してきたのを変えて、四肢抹消優位のみならず全身性の感覚障害のみで水俣病と認めるという判断条件の変更も大きい。
     さらに大きな成果としては、行政が水俣病の発生を否定してきた「指定地域外」の居住者や「昭和44年12月以降」の出生の被害者についても一定割合の救済者を出したことがあげられる。そもそも、水俣湾や不知火海の魚は当然のことながら回遊しているのであり、行政的な線引きによって、同じ汚染された魚を食べたのにある地域では水俣病になりある地域では水俣病にならないなどと言うことがありえないことは歴然としているのである。また加害企業チッソは昭和43年5月に水銀の排出を停止したが、行政はそれ以降は水俣病は発生しないとの論理に立ってきた。汚染された海や魚がある日突然無害になるなど、これほど非論理的な被害者切り捨ての論理もなかろう。
     今回の和解に基づく「第三者委員会」の判定は、不十分ながらも従前のこのような行政の論理を打破することになったものである。
     まさに、被害者救済の枠組を量的にも質的にも拡大したものであった。
     また、水俣病に関する情報の欠如と適切な医療機会の欠如という障害をかかえるなかで被害者救済が放置されてきた近畿・東京等の県外居住者についても、平等の救済が実現できたことは、県外居住者の被害救済にも改めて光を当てたものである。
  3. 今後の課題

     前記の如く、今回の和解は、大きな成果を生み出したが、しかし未だ救済されていない水俣病被害者の存在をも浮かび上がらせている。全ての水俣病被害者の救済のためには、「指定地域外」の居住者や「昭和44年12月以降の出生者」を含めて、不知火海沿岸住民の健康調査の実施に基づく被害の全貌の把握が必要不可欠であるが、国は未だにこの健康調査の実施には消極的である。
     私たちは、和解で定められた原告ら関係者も参加した下での「メチル水銀と健康影響との関係を客観的に明らかにする」「調査研究」「そのための手法開発」や県外居住者の水俣病関係の情報不足、適切な検診の機会の欠如等の「障害を極力克服する措置」の早期の実現を国に対して求めていくものである。
     そしてすべての被害者救済が終わるまで、加害企業チッソが分社化による責任逃れをしないよう引続き監視していく必要がある。
     また、特措法による行政救済を求めている4万人の被害者のフォローも今後の大きな課題である。特措法による行政救済が、従前の行政認定と同様の被害者切り捨ての運用となれば、またまた多数の被害者が未救済になるおそれがあるのであり、特措法はその運用を3年を目途に終了するとされている点も被害者救済を狭いものとするおそれがある。
     全ての被害者の救済とノーモア・ミナマタの声は、被害が未救済である限り続かざるを得ないのである。

  4.  最後に、この戦いを支援されてきた全ての人々に感謝を申し上げ、ノーモア・ミナマタ近畿国賠訴訟の勝利和解の報告とします。         

大学における非正規労働の問題~京都大学時間雇用職員雇止め事件

弁護士 塩見 卓也

2011年3月31日、京都地裁にて、京都大学時間雇用職員雇止め事件につき判決が言い渡された。

 現在、日本の多くの大学で、任期付雇用や、3年ないし5年を上限とする不更新条項を設けるなどにより、いとも簡単に非正規事務職や非常勤講師が使い捨てられることが問題となっている。京都は「大学の街」である。私も、この間このような問題に関する相談を沢山受けてきた。

 3月31日という日は、有期雇用で働く者にとって特別な日である。有期雇用で働く者は、毎年この日が近づくにつれ、自分は来年度もこの職場で働き続けられるのか、不安な日々を送る。そして、やっとその更新に対する不安が解消されたとしても、この日、大学、行政、民間のいかんを問わず、日本中の職場で、自分の倍以上の報酬をもらっている正規雇用の者がやれ異動だ、昇進だとばたばたしている光景を、複雑な気持ちで見ることになるのである。京都大学においても、かつては有期雇用の更新に連続性を持たせないために、契約期間の満了日を3月30日、4月1日から再雇用とし、この日1日を「失業」している日にするという不当な運用が行われていたという、有期雇用で働く者にとって象徴的な日なのである。

 この日の判決は、このような象徴的な日に、実際にこの日をもって雇止めされることを通告された他大学の非正規職の方々たちも傍聴している前で言い渡された。結論は、全部棄却である。

 この判決、端的に言えば、従来の日本的職業観・家族観では、現在我が国に蔓延している数多くの諸問題に対処できなくなっているという社会的現実を全く理解せず、逆にそれら諸問題の根源となっている従来の価値観に基づく差別意識が前面に出た不当判決である。

 唯一評価できる部分としては、「有期労働契約という雇用形態は、原則として期間を定めなければならばない理由がある場合に採用されるべきであり、本来こうした有期労働契約にはなじまない労働であるのに、必要以上に短い雇用期間を設定し、その期間を反復更新するという法的なテクニックを用いることによって労働者を不安定な地位に置き、自らはいつでも雇用を切ることができるというアンフェアーな契約関係を設定することが信義則に反する」と判示されたところが挙げられる。この判示部分は、労働契約は期間の定めがないのが原則であることを宣言したと読める。判決で無期雇用原則が述べられたというのは、おそらく初めてではないかと思われる。この判決、ここから先の判断がより精緻で社会通念に沿ったものになっていたならば、たとえ敗訴判決であったとしても、「いい判決」であったといえたかもしれない。

 しかし、その先が明らかに差別観に満ちた問題のある判決なのである。判決は、「原告らの労働契約は、1週間あたりの労働時間が30時間を超えないことを想定したものであり、時給も補助的な職務内容であることを考慮した金額」であるとし、そのようなパートタイム労働については「家計補助的労働」と位置づける。そして、そのような労働は「労働契約が更新されなかった場合に労働者の生活そのものが崩壊するというようなことを想定しなければならない類型の労働とはいい難い」、「一つの事業所における労働のみで生活を維持する必要があると考える労働者であれば、このような類型の労働契約を締結するということは通常想定し難く、こうした労働契約に応募する者の多くは、基本的には配偶者の収入を主たる財源として生計を維持することを想定」していると述べ、それ故に契約更新に対する合理的期待がないと切り捨てるのである。

 いうまでもなく、この判断はどう考えても論理破綻があり、かつ非常識である。まず一つの問題点は、短時間労働であったからといって、それに就労する労働者が「家計補助的に」収入を得るために働いていると論理的にいえるはずがない点である。シングルマザーの例を挙げるだけで破綻が明らかな論理である。

 二つ目には、今の社会の現実では、短時間・低賃金の労働であったとしても、それを選択せざるを得ない若者や女性が数多くいるということを全く理解していないという点である。若者や女性の非正規率は過半となっていることは統計上も明らかなことである。特に大学においては、旧文部省の旗振りで90年代から始まった大学院重点化計画の失敗により正規職の就職口からあぶれた大学院過程修了者が毎年大量に溢れるという、いわゆる「ポストドクター問題」により、学内の非正規職や非常勤講師の仕事を掛け持ちしながら生活せざるを得ない者が沢山いるということも明白な事実である。それらの点で、この判決の示す社会観は、明らかに社会の現実に沿わない非常識な社会観であるといえる。

 さらに、この判決は、「京都大学を卒業した原告らが、家計補助的労働力にしか従事できない客観的かつ合理的な事情があることを窺わせるような証拠は全くなく、原告らが、どのような世界観、人生観のもとに、こうした就労形態を選択したのかは明らかではない。社会一般から見れば、生活を維持するために必要な労働をするというのであれば、それだけで生活を営むことが可能な収入が得られ、逆に言えば、そうした収入に見合う責任・職責を果たすべき職業に就くべきものであり、客観的かつ合理的理由がないのに、家計補助的労働に従事しておきながら、家計補助的労働とは質の異なる労働形態に係る労働契約の場合における解雇権濫用の類推適用の基準と同一の基準による解決を求めることはできないというほかない。」とまで言い切ってしまうのである。つまり、暗に「京大出てるんだったら、もっといい仕事に就けたでしょう。なのにこんな仕事を選んだお前らが悪い」という意味のことを述べているのである。まさしく、裁判官の時代錯誤的価値観、非正規労働者や女性、学歴などについての差別観がにじみ出た判決というべきである。

 この事件の当事者2名は、「京都大学時間雇用職員組合ユニオン・エクスタシー」という労働組合を結成し、この2年間、京都大学の非正規事務職に対する更新上限条項、いわゆる「5年条項」に反対し、大学の時計台前でテントを張った座り込み活動を行ってきたことで、関西の報道では話題を呼んだ人達である(うち1名は私の学生時代の友人でもある)。そのような目立つ活動が話題を呼び、彼らの周りには、大阪大学、関西大学、京都精華大学、龍谷大学など、数々の大学で同様に非正規労働者の立場からたたかっている当事者が集まるようになり、注目を集めるようになっていた。今回の判決は、最初にも述べたように、この判決言い渡し日に雇止めされる方たちを含む、大学非正規労働問題の当事者たちの目の前で言い渡された。判決後の報告集会では、これらの方々は、一様に大きなショックを受けていた。「自己責任」では如何ともし難い社会状況の中、非正規の立場で働いてきた人達がこの判決に対し、「私達を馬鹿にしている」ものと受け取るのも当然のことであろう。残酷な話である。

 私は、京都地裁では、NTT3重偽装請負事件においても、「職安法違反の事実があるかどうかは判断する必要がない」、「本人も派遣労働のようなつもりで働いていたのだから受入事業者が責任を負わなくてよい」という趣旨の判決をもらっている。NTTの事件は合議事件だったが、その合議体には今回の判決を書いた和久田斉裁判官も所属していた。いずれの判決も、非正規労働に対する理解が足りなさすぎるといわざるを得ない。

 私はこれまで、偽装請負、違法派遣、細切れ有期雇用と、数多くの非正規労働問題の事件をやってきたが、この深刻な社会問題に対する裁判官の無理解には、ほんとに絶望的な気持ちにさせられる。しかし、絶望してしまっては決して世の中は変わらない。だから、逆にこのような判決の酷さをもっと社会にアピールし、今後もたたかいの手を止めない所存である。