民主法律時報

田附興風会医学研究所北野病院事件の提訴報告

弁護士 佐久間 ひろみ

1 はじめに

2022年2月24日、被告の田附興風会医学研究所が設置する北野病院(以下、「北野病院」)に医療事務等として勤務している原告ら9名が、一方的な通知により賃金の一部(調整給)が減額されたことから、北野病院を相手取り大阪地裁に提訴した。原告らは、雇用契約に基づき、未払賃金を請求している。

被告の北野病院は、大阪市北区扇町にある総合病院であり、田附興風会が医学研究所として運営している。同病院は、有名な建築家である安藤忠雄氏らが理事を務め、ノーベル賞受賞者である本庶佑氏らが評議員を務めるなど、役員には錚々たるメンバーが名を連ねている。

原告らは、北野病院に長年勤務する職員であり、大阪医労連北野病院労働組合(以下「組合」)に加入する組合員でもある。

2 一方的な賃金(調整給)の減額通知

本件で減額された「調整給」は、北野病院が成果主義賃金体系を導入した際に支給がはじまった。

すなわち、北野病院は、2008年4月1日、職員の賃金体系を、人事評価に基づく賃金体系(成果主義賃金体系)に改定した。これにより賃金が減額する職員もいたことから、北野病院は減額分を「調整給」として支給することを提案し、原告らを含む職員らはこれに合意した。

その後、北野病院は、2008年4月以降、原告らに対し継続して調整給を支払ってきた。しかし、2021年3月、北野病院は同年6月から調整給を段階的(2021年6月から調整給の3分の1を減額、2022年6月からさらに3分の1を減額、2023年6月に廃止)に減額したうえで廃止すると原告らに対し一方的に通知したのである。

3 原告らが加入する大阪医労連北野病院労働組合との不誠実団交

上記通知を受け、組合は、北野病院に対し調整給廃止に関し団体交渉を申し入れた。

しかし、北野病院は、同年5月17日付申入れにより6月2日に開催された団体交渉の中で、調整給の減額・廃止について決定権限のない担当者(人事課長)を出席させ、職員らに対し賃金減額に関する個別同意を取っていないことを認めつつ、同意を取る必要がない等と強弁し、不誠実な説明に終始したのである。

そこで組合は、6月16日、大阪府労働委員会に対しあっせんを申請した。すると北野病院は、8月25日のあっせん期日において、それまでの主張を変遷させ、13年間にわたり支給してきた調整給は「誤支給」であったこと、調整給の減額を撤回するつもりはないという主張を繰り返したため、あっせんは打ち切られた。

その後組合は、2021年10月、大阪府労働委員会に対し6月2日に開催された団体交渉に関する不当労働行為救済申し立て(不誠実団交及び支配介入)を行っている。

4 本件の争点

結局、北野病院は、同年6月支給分の賃金より調整給を減額した。原告によっては、毎月5万円弱の減額になり、生活に大きな影響を与えている。その後、原告らのうち5名が新たに組合に加入し、今般大阪地裁に対し集団提訴するに至ったのである。

本件の争点はシンプルであり、調整給の支給が労働者との個別合意に基づくものであること、減額について個別合意を取得していないという点である(労働契約法8条)。

これに対し、北野病院は、あっせん期日にて主張した通り「誤支給」であったと反論することが考えられるが、現時点では答弁書が提出されておらず詳細は不明である。

5 まとめ

北野病院は、自ら職員に対し 年間にわたり支給してきた調整給を、職員の同意なく一方的に減額し、組合との団体交渉にも不誠実な態度を継続している。コロナ禍の中で、医療事務に携わる職員らの過酷な労働は続いており、そのような中で合理的な理由なく賃金を減額することは到底許されることではない。

弁護団一同、原告らに対し正当な賃金を支払わせ、組合との誠実な交渉がなされるよう、力を尽くす所存である。

(弁護団は須井康雄・西川大史・佐久間ひろみ)

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