声明・アピール・決議
家賃滞納者データベースの禁止等を求める声明

 国土交通大臣の諮問機関である社会資本整備審議会の住宅宅地分科会に設置された民間賃貸住宅部会は、1月14日、これまでの審議を踏まえ、「最終とりまとめ」において、「安心して暮らすことができる民間賃貸住宅政策のあり方」についての見解を明らかにした。その中では、家賃を滞納した賃借人に暴力的な取立てを行ったり、賃貸住宅の使用を阻害する「追い出し」被害が多発していることに鑑み、家賃債務保証業者の登録制や、家賃の取立てについての規制などを柱とする新規立法の必要性が指摘されている。
 「安心して暮らすことができる民間賃貸住宅政策」の実現のためには、このような「追い出し屋」による被害を防ぐ規制法が必要であり、その必要性を明らかにしたことは評価できる。
 他方で、「最終とりまとめ」では、家賃債務保証業者等が家賃滞納者の情報を共有し、保証委託契約を締結するかどうかの判断に供するデータベースが必要であるとも指摘されている。
 しかし、このようなデータベースは、もっぱら、賃貸人及び家賃債務保証業者が家賃滞納による未収リスクを回避するためのものであって、その結果、家賃を滞納しがちな不安定雇用の労働者、シングルマザー、生活保護受給者などの低所得者層が、賃貸住宅市場から排除されることになることは明らかであり、賃借人の居住の安定を損ない、住宅の確保に特に配慮を要する者の居住の安定の確保を図ろうとした住生活基本法6条の趣旨や、憲法13条・22条1項・25条に違反するといわざるを得ない。
 しかも、いったんデータベースが整備されれば、職業や国籍、障害の有無などによる入居差別につながるセンシティブ情報も登録されることになりかねないし、そうでなくても、他のデータとのマッチングの危険を常にはらむことになる。ヤミ金や債権回収に悪用されるなど、目的外使用や情報漏洩も懸念され、人権侵害のおそれがある。また、民間賃貸住宅の入居を拒否され住宅を確保できずに更なる住宅困窮者となり、住宅問題が深刻化することになりかねない。
 このように、家賃滞納履歴を基準として、保証委託契約の諾否を決するデータベースの整備は、公序良俗に反するものであり、これを禁止すべきである。
 「最終とりまとめ」においては、データベースの整備そのものを禁止することは困難で、個人情報の管理を厳格に行えば足りるかのような見解が示されている。しかし、生存権等を保障する観点から、特定の情報の共有を禁止すること(例えば、労基法22条4項)は、営業の自由に対する社会政策上必要かつ合理的な規制であって、何ら問題ではない。また、家賃滞納履歴は、もっぱら、民間賃貸住宅からの排除を目的とすることが想定されており、その取得・共有自体を規制しなければならず、取得・共有を認めた上で、管理を厳格にすればよいという問題ではない。
 また、「最終とりまとめ」は、共有される情報の範囲を「反復継続的に悪質な滞納を行う賃借人の弁済履歴等の一定の範囲のもの」に限ればよいとか、「反復継続的な滞納を行う賃借人以外の賃借人が保証を拒否されることは想定しがた」いなどの事業者側の意見を紹介している。しかし、そもそも、そのような「反復継続的な滞納を行う賃借人」などほとんど実在せず、そのような悪質な滞納者を排除するというデータベースの導入目的は、虚構というほかない。また、悪質かそうでないかを区別するには、滞納に至った事情を詳細に登録する必要が生じるが、そのようなデータベースは技術的にも複雑であるし、かえってプライバシーの侵害の程度も高くなるなどの弊害もあり、非現実的ですらある。結局、滞納に至った理由を問うことなく、家賃滞納の事実のみをもって保証を拒否するかどうかを決するよりほかないのである。
 国は、住生活基本法6条の理念にのっとって、住生活の安定の確保及び向上の促進に関する施策を策定し、これを実施する責務を有しおり(同法7条1項)、「安心して暮らすこと」を奪う家賃滞納者データベースの整備を禁止する立法を策定しなければならない。
 以上のことから、当会は、「追い出し屋」を規制する新規立法においては、家賃滞納者データベースを禁止すべきであり、少なくとも、これを容認するかのような条項を設けないよう求める。


2010年1月29日
 民 主 法 律 協 会
会 長 萬井 隆令
   
 
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