声明・アピール・決議
労働者の権利を弱める労働契約法の制定と労働時間法の適用除外制度に反対し、労働者の権利を前進させる労働契約法の制定と労働時間の厳格な規制を求める決議
  1.  厚生労働省は、2006年4月11日、労働政策審議会労働条件分科会に「労働契約法制及び労働時間法制に係る検討の視点」を提示し、同年6月13日、「労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(案)」(以下「素案」という。)を提示した。これは、労働契約法制、労働時間法制に関する中間とりまとめに向けて提出された文書と位置づけられる。
     しかし、この「素案」は、労働者の権利を弱め、その身分を脆弱にし、さらに過酷な労働を強制する危険を内包している。

  2. 労働契約法制について
     「素案」は、労働契約法制に関し、労働条件や労働者の身分に関わる重要な問題を含んだ制度の創設を掲げている。
    「素案」は、労基法を遵守した変更手続きにより、変更された就業規則の内容が合理的であるときは、変更後の就業規則に定める労働条件によるとの合意があるものと推定するとした上で、過半数組合との合意がある場合には、変更後の労働条件によるとの合意があったものと推定する、としている。
     これは、過半数組合の合意によって、就業規則の変更を可能とするものであり、就業規則の変更によっても既得の労働条件を不利益に変更することは原則として許されないとする判例法理にも反するものである。
     また、「素案」は、労働審判または労働裁判において解雇が争われ、労働者の原職復帰が困難な場合に、金銭を支払うことによる解決を可能にしている。
     しかし、これは違法な解雇であっても、金銭の支払いにより、労働者を職場から放逐することを可能にする制度であり、労働者の身分を著しく脆弱にするものである。
     あるべき労働契約法は、雇用の入り口から出口まで網羅した民事法かつ強行法とする必要がある。
     民主法律協会は、変更就業規則の合意推定について慎重な検討を求めるとともに、解雇の金銭解決制度の導入に断固反対し、真に労働者の権利を擁護し、これを前進させる労働契約法の制定を求める。

  3. 労働時間法制について
     「素案」は、産業構造が変化し、就業形態・就業意識の多様化が進む中、高付加価値の仕事を通じたより一層の自己実現や能力発揮を望み、緩やかな管理の下で自律的な働き方をすることがふさわしい仕事に就く者について、一層の能力を発揮できるようにすべきとして、「自律的労働にふさわしい制度」の創設を掲げる。
     「素案」は、その対象労働者として、@具体的な労働時間の配分の指示を受けず、追加指示に対し既存の業務との調節ができる者、A週休2日相当の休日があるなど相当程度の休日が確保されている者、B出勤日と休日が1年間を通じあらかじめ確定している者、C賃金が一定水準以上の者、という4要件を設定し、対象労働者には、労働時間規制、休憩・休日や各種割増賃金の規定の適用を除外するとしている。
     しかし、「素案」の掲げる要件は、いずれも有効な歯止めとなるものではなく、広く労働者全般に適用されるおそれがあるうえ、かえって就労日の長時間労働を増大させ、今以上にただ働きを強制する結果となる。ネーミングや要件が変わっても、アメリカの「ホワイトカラーエグゼンプション」の日本版にほかならない。
     労働者は、健康さえ確保されればよいというものではなく、人たるに値する生活の確保、ライフ・ワーク・バランスの確立を可能とすることこそ重要である。今、必要なのは、実労働時間の上限規制であり、休日労働の規制である。
     民主法律協会は、「素案」の掲げる「自律的労働にふさわしい制度」の創設に、断固反対するとともに、厳格な労働時間の規制を求める。

     以上決議する。

2006年8月26日
                       民主法律協会第51回定期総会
   
 
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