声明・アピール・決議
労働者の権利を前進させる労働契約法の制定を求める決議
  1.  2005年9月15日、「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会」(以下、「在り方研」という。)の最終報告(以下「報告」という。)が公表され、現在労働政策審議会で審議中であり、2007年には法案が国会に提出される予定といわれている。

  2.  本来、使用者と労働者が締結する労働契約の内容は対等の立場で決定されるべきであるが、現実には使用者が一方的に制定・変更する就業規則によって規制されているのが実情である。
     そのような状況のもとで、個人の尊重(憲法13条)、生存権の保障(同25条)、労働権の保障と労働条件の法定(同27条)を基本理念とし、労働者が「人たるに値する生活を営むため」の最低限の労働条件を刑罰をもって保障する労働基準法とともに、適正な労働条件を実現する民事法としての労働契約法が制定される必要がある。
     そして、あるべき労働契約法は、@労使関係の格差を直視し、当事者の意思いかんにかかわらず適用される強行法規が基本となること、Aこれまで労働者や労働組合が広範な闘いの中で勝ち取ってきた判例法理(整理解雇、雇止め、就業規則の不利益変更など)も取り入れた実体規制を中心として、労働契約上の権利義務の要件と効果を定めること、B対等決定にできるだけ近づけるシステムが定められること、が求められる。

  3.  ところが、「在り方研」の上記「報告」は、「労使自治の尊重」を基本理念として、労働契約法を「労働契約に関して労使当事者の対等な立場での自主的な決定を促進する公正・透明な民事ルールを定めるもの」と位置づけており、その基本的な考え方において、あるべき労働契約法と大きな乖離がある。
     また、その具体的な内容にも、以下のような重大な問題点を指摘しなければならない。
    (1) 「報告」は、労働者の交渉力を高める方策として「労使委員会」制度を導入すべきとしているが、例えば労使委員会決議に就業規則の不利益変更の合理性の推定効を与えるなど、労使対等の基盤を欠く労使委員会に広範かつ強大な権限を与えており、労働者の権利切り下げの制度になりかねない危険性をはらんでいる。
    (2) また、「報告」は、解雇が無効と裁判所が判断しても、使用者からの申立てで金銭により雇用契約を解消できる制度(解雇の金銭解決制度)の導入を事実上提案している。解雇からの保護は労働契約の根幹であり、解雇の不安の下では労働契約上の権利の行使は「絵に描いた餅」である。また、このような制度は、金で労働者を解雇できるとの風潮を生み、安易な解雇の助長を招くことは明らかである。
    (3) その他、「報告」には、@労働契約の変更の必要が生じた場合に、労働者が雇用を維持したまま労働契約の変更の合理性を争えるとする「雇用継続型契約変更制度」、A有期労働契約の締結の際に「更新なし」と明示したことを雇止めの有効性判断の考慮要素とする、B期間の上限を設けない試用を目的とする「試行雇用契約」を認めるなど、これまで確立されてきた判例法理を後退させ、労働条件や雇用の基盤を掘り崩す危険な制度の導入を提案している。

  4.  当協会は、上記のような「在り方研」が打ち出した方向・内容での労働契約法の制定は、労働者の権利を後退させるものであることから、強くこれに反対するとともに、真に労働者の権利を擁護し、これを前進させる労働契約法の制定を求めるものである。

2006年2月19日
                       民主法律協会2006年権利討論集会
   
 
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