民主法律時報

2019年11月号

吹田市知的障害者公務員欠格条項雇止め事件の高裁和解について

弁護士 高橋 早苗

1 事案の概要

本件の当事者である知的障害及び自閉症を有する塩田和人さん(現在54歳)は、2006年から吹田市に臨時職員として任用され、吹田市職員の福利厚生等を担当する部署でデータ入力等の事務作業に従事してきた。2010年秋、塩田さんの唯一の家族である父親が癌で余命宣告を受けたことから、塩田さんは吹田市職員の助言を受け成年後見制度の申し立てを行い、2011年4月に保佐開始の審判が出た。すると、吹田市は地方公務員法16条1号の欠格条項に該当するとして、その後の任用を拒絶した(塩田さんは任用と任用の間に1か月の期間をあけ、3か月または6か月の期間の任用を繰り返していた)。欠格条項の存在を知らずに保佐開始審判を受けた塩田さんの支援者は、慌てて補助への切り替えの手続きを進め改めて欠格条項に該当しない補助開始の審判を受けると共に、吹田市に対し再度の任用を求めた。その結果、塩田さんは2011年12月から吹田市に戻ることになったが、この任用には期間は6か月、以後更新しないという条件が付されており、6か月後の2012年5月末をもって公務員の職を失ってしまった。この時点で任用更新は14回、通算期間は4年6か月に及んでいた。

吹田市役所でもう一度働きたいとの塩田さんの強い希望を受け、2015年7月、東奈央弁護士を中心とする弁護団を組み、吹田市職員の地位確認等を求め、公務員法の欠格条項の違憲性等を主張し大阪地裁に提訴した。

2 地裁での審理と全面敗訴判決

地裁では任用行為の性質、公務員関係への解雇権濫用法理の適用の可否、2度の不再任用が不法行為にあたるかといった点が争点となった。弁護団は通常の労働事件と異なり本件は障害者雇用が本質的な問題であること、欠格条項こそが雇止めの理由であり欠格条項は成年後見制度を利用する精神上の障害がある人を一律に排除するものであり違憲であること、障害者雇用にあたっては職場内での合理的配慮が重要であること等を障害者法制の変遷も踏まえ主張してきた。これに対し吹田市は、欠格条項に該当することに加え、塩田さんが勤務中に問題行動を起こしてきたために以後長期にわたる任用はできないと考えていた旨主張し、塩田さんの「問題行動」を事細かに列挙した。ところが、吹田市が述べる問題行動は、吹田市が障害者雇用を行う立場にあるものとして、なぜ塩田さんがそのような行動にでるのか考え、障害特性に見合った合理的配慮を行っていれば防げたようなものばかりであった。吹田市は塩田さんを任用したのは「知的障害者雇用の体制確立に向けての検証を行うため」であったとしているが、実態としては塩田さんが理解できる形での業務指示や注意をするよう配慮することもなく、それどころか、同じ部署の他の職員から見えない位置に机を配置し仕事を与えないなど、明らかに塩田さんを働く仲間として受け入れていなかった現状が表れてきた。

本年2月13日の大阪地裁第5民事部(内藤裕之裁判長)判決では、こうした吹田市の障害者雇用の不適切さや公務員法の欠格条項に触れることなく、塩田さんの任用は地公法 条5項の臨時的任用であり、公務員関係において解雇権濫用の適用はなく、期間満了によって任用は終了した、更新への期待も法的に保護されるものではないとして、原告の請求を全て棄却するものであった。

3 高裁での和解

こうして大阪地裁で全面敗訴の判決を受けたものの、控訴し本事件は大阪高裁第6民事部(中本敏嗣裁判長)に係属した。なお、塩田さん、支援者及び弁護団は、裁判と並行し欠格条項の削除を求める運動もしてきたところ、控訴後の2019年6月に各種法律の欠格条項を削除する法律が成立した。同じく6月に開かれた第1回期日では裁判所から和解勧告が出され、以後和解に向けての話合いが始まった。といっても、吹田市側は和解内容の提案もない段階で和解の打ち切りを求めてきた。和解期日には塩田さん本人はもちろん支援者も参加し、弁護団としてもなんとか吹田市を説得してくれるよう求め、裁判所も粘り強く吹田市側に再考を促した。そして、最終的には、「被控訴人は、これまでの障害者との共生社会の実現に向けて、数々の取組みを行ってきたものであるが、昨今の障害者立法の流れを踏まえ、今後一層その取組みを深め、障害者の就労支援を含む『障がい者計画』等の実現に向けた努力をする意向であり、控訴人は、被控訴人のその意向を理解するものとする」との文言で和解が成立した。

裁判所がこのように和解を積極的に推し進めたのは、弁護団が本件を判断する上で幾度となく強調してきた、障害者権利条約の署名・批准、障害者基本法制の改正、障害者雇用促進法の改正による合理的配慮の提供義務の新設等障害者法制が前進してきたこと、現に公務員の欠格条項を条例によって除外している自治体の存在、それらに加え、上記の欠格条項の撤廃といった障害者雇用を取り巻く社会情勢の変化に鑑みてのことと思われる。本件訴訟の1番の目的は塩田さんの復職であり、従来の非正規公務員裁判の壁を破ることができず復職が叶えられなかったことは大変悔しい。しかし、裁判所が障害者雇用を取り巻く社会情勢の変化に目を向け、全面敗訴という結論を覆し本件を和解すべき事案と捉えたことは、今後の障害者雇用を取り巻く問題や運動に一石を投じることができたのではないかと思う。和解成立の席で、裁判長からは塩田さんに対し、「これまでも皆さんの応援を受けて頑張ってきたと思うけれど、これからも頑張ってくださいね」と声が掛けられ、吹田市に対しても、「障害者雇用をぜひ頑張ってください」と声が掛けられた。障害者雇用は法制がある程度整えられ、次は実際に働く現場でそれを実践していく段階にあるといえる。吹田市に限らず自治体や民間の会社が障害者雇用をどのように頑張っていくか今後も注視していきたいと思う。

維新「教育改革」がもたらすもの ―教育・文化府民会議 秋の学習会に参加して―

弁護士 藤井 恭子

1 はじめに

2019年10月5日、子どもと教育・文化を守る大阪府民会議主催の「秋の学習会」に参加し、10年間に及ぶ維新府政の「教育改革」の内容を学ぶとともに、教育の現場でたたかう皆さんの声を聴くことができました。
チャレンジテストをはじめとする、維新による教育改革は、私が想像していた以上に、大阪府の公教育をゆがめ、子どもと保護者に大きな影響を及ぼしています。
学習会では、大阪府民会議事務局長の大瀬良篤さんが、維新による教育施策の内容を、チャレンジテストを中心に解説し、その後、教員の方々や保護者によるシンポジウムで、現場の声を聞き、さらに参加者との意見交換が行われました。

2 チャレンジテストによる競争の強制

維新府政は、行政が行う統一テストを子ども達の内申点に反映させ、そのことによって生徒間・学校間競争を強制させる教育施策を進めてきました。それが「チャレンジテスト」と呼ばれるものです。
チャレンジテストは、行政調査として、府内の全生徒・児童を対象に行われるものであるにもかかわらず、2016年から、中学生についてテスト結果を内申点に反映させる措置を行っています。内申点は、高校入試に影響を与える評価であることから、子ども達の学習に諸々の影響を及ぼしています。
例えば、過度のチャレンジテスト対策のために、あえて授業を早めに進めるなど、学校の教育課程に悪影響を与えているのです。一人一人の学習を見るのではなく、競争を重視した教育に変容させてしまっています。
さらに深刻なのは、学校間格差の拡大・固定化と、学校及び地域で生きる子ども達の人間関係が破壊されるという懸念です。
大阪では、チャレンジテストの結果により、「学校ごとの評定平均」が決められてしまうのです。それは、個人がどれだけ頑張ったとしても学校全体の平均点が低ければ、高い成績を付けられないということです(逆も又然り)。
そして、チャレンジテストにより影響を受けた成績は、高校入試のときに大きく働き、子ども達の進路にも影響を及ぼします。
そのために、チャレンジテストの結果がよく、評定平均の高い学校を選んで転校するケースが見られるようになったそうです。
この動きは、学校規模に差を生じさせ、将来、学校統廃合や学校選択制導入の理由に悪用される危険を孕んでいます。
なにより、地域で慣れ親しんだ友だちと離れて、あえて評定平均の高い中学校を選択せざるを得なくなるとしたら、子ども達が地域で人間関係を作ることを阻害することになってしまいます。
子ども達にとって大切なのは、学習面での競争だけではなく、地域で人間関係を作り、ともに様々なことを経験していくことなのではないでしょうか。

3 教育環境の破壊とこれがもたらすもの

維新府政が進めてきた教育施策は、チャレンジテストだけではありません。
教員に対する授業内の細かいルールの強制や、賃金に直結する相対評価システムなどにより、教員は疲弊していると言います。評価結果と賃金のリンクは、教員間の分断を招き、相互に相談しにくい職場環境につながっています。
さらに、この間府政は、高校再編整備計画の名の下に「高校つぶし」を進め、また、大阪市立高校の府への移管問題も出てきています。いずれも、子ども達から学校を奪い、各学校がはぐくんできた学校としての文化をないがしろにする動きです。

4 現場の声から感じたこと

維新による教育施策は、子ども達の学力向上だけを重視し、そのために「不合理・不要」と思われるものを容赦なく切り捨てていくものに思えます。そうやって切り捨てられていくものの中には、二度と戻らない文化や歴史など、子ども達の成長にとってかけがえのないものも含まれています。
教育現場で働く教員の皆さんは、子ども達のためによりよい学習を提供したい、そのために、例えば少人数学級の実現などを目指しています。
維新は、こういった現場の教員の声に、もっと耳を傾けるべきではないでしょうか。
今後、維新による教育破壊を止める運動を盛り上げていくためには、学校と地域、そこで生活し学習する人たちが、さらに連帯を強めなければならないとの思いを、強く感じた学習会となりました。

自治体で働く非正規労働者の実態を 社会的にアピール――なくそう! 官製ワーキングプア第7回大阪集会

吹田市関連職員労働組合 丹羽 博子

2019年10月14日、19号台風が吹き荒れ、開催も危ぶまれたところでしたが、 約150名の参加で盛況でした。
会計年度任用制度実施を半年後に控えて、各自治体が法改正の趣旨を活かした条例制定ができるのか、ギリギリの時点での開催です。

[分科会]

第1分科会〈入門講座〉

31 名参加、山下弘之氏(官製ワーキング研究会)の基礎編の講義。初めての参加の方には難しいの声もありましたが、法改正に至る経緯から法的位置づけ、問題点など明快な切り口で話されました。
第2分科会〈条例化への取り組み交流〉
37 名参加、できるだけたくさんの人に発言を求めました。非正規労働者の処遇改善が実現するはずが、労働基本権のはく奪、賃金の低下、1年ごとの新たな任用、5年あるいは3年毎の公募、新たな任用の厳しい欠格条項・人事評価・民間委託など、問題点が満載であることが共有できた場でした。参加者全員これからもやったるぞ!と意気込みました。
第3分科会〈公共サービスと公共労働〉
30 名の参加、大阪では非正規比率は4割を超え、改めて公共サービスの担い手の継続性・専門性が問題になっている。学童保育への営利企業参入が増え、委託時の解雇、企業の団交拒否、指導内容の継承、劣悪な労働環境による人手不足などの実態が明らかにされました。参加者も公営・民間・受託者など多彩で、諸問題の関連が見えた。今後も深めるべき課題が満載でした。

[全体会]

・闘いの現場から~一人だって黙ってられへん ~

労働契約法20条裁判で、「アルバイトに賞与を認める」初の司法判断(大阪高裁)をもぎ取った、大阪医科大学勤務Mさんのインタビューで始まりました、「私、裁判がこんなに大変って知らなかったんです。でも絶対おかしいって思って・・」と。また、ブラック職場でたった一人本の出版という形で反撃した県立K考古学研究所の非正規労働者高岡さやさんとのミニ対談と続きました。

・各地の会計年度任用職員制度条例化の攻防~まだまだ あきらめてへんよ ~

○京都市ユニオンらくだの組合の存亡をかけた、「ILO申し立て」をしました。○吹田市関連労組では、正職員の賃金の時間按分まで勝ち取ってきた非常勤職員の報酬が、維新政治の横やりで頭打ちになり条例化でも回復が図れませんでした。○大阪教育合同労組では、団体交渉拒否の大阪府の不当労働行為を労働委員会に申し立てました。○大阪市家庭児童相談員労組では、年収レベルでの現給保障は勝ち取ったものの、3年ごとの公募はつぶしきれていません。○京都市職労からは、介護保険認定業務の委託提案で130名の雇止めを許さない闘いの報告がされました。どの労組も、引き続きの交渉に立ち上がっています。

・住民の命と暮らしに寄り添う非正規相談員~ねえ、聞いてきいて~

自治体の非正規労働者現役あるいは元の、婦人・家庭児童・生活困窮者支援の相談員からの、赤裸々な現場の報告を受けて、ライター・竹内絢さんのコーディネートでトークセッションをしました。相談員とは、人に言えない困難を抱えながらも、最後の砦として駆け込んでくる人々の声を聴き、いろいろな支援のネットワークにつなげていく。そこには、絶対的な信頼感と専門性が必要になってくる、そこで手が離れればもう後がない業務。そんな真剣勝負を低賃金で不安定雇用の非正規労働者が担っている。参加者からは、相談員の実状がよくわかったという反面、闘いの方向とか、公共の仕事としてどう保障していくかが見えないという声もあり課題を残しました。

・総務省に物申す、「任期の定めのない短時間勤務職員」を認めなさい~倉田哲郎・箕面市長~

総務省の調査研究会において、4年前からこの議論はありながら先送りされてきた。民間では、「短時間正社員制度」があり、厚生労働省がその導入を推奨している。現状を伝えながら市長は「任期のない短時間勤務職員」が必要な具体的な現場の例を引きその必要性を説きました。また、これまで総務省に自治体の条例での制度実現を伝えてきましたが、総務省は思考停止状態で苦し紛れの見解で否定されました。実際の所、自治体の非正規問題は、国も労働組合でもそのレンジ外にあり、私の主張が広がらなくて困っている。と述べられました。

・倉田市長を応援します~上林陽治(官製ワーキングプア研究会)~
総務省は、自治体の非正規労働者の処遇改善などの課題について、その財源は、4年前は、消費税増税で1300億円を地方交付税としてあてにしていたが、その後経団連から働き方改革の論議が起き、また、保育所・年金問題解決が迫られ、当初にはなかった非正規労働者の任用の厳格化が加わり、最後には安倍政権の幼保無償化が出て、消費税増税分へのあてが外れた格好で法案実施となっている。と法案をめぐる経緯を簡単に紹介され、今後も業務の実態にみあった処遇の制度実現を目指しましょう。と話されました。

・終わりに パンドラの箱を開けてしまった国!~脇田滋(官製ワーキングプア研究会)~
来年の春には実施となる会計年度任用職員制度は、多くの矛盾をはらみながらのスタートとなった、団結権問題や労契法 条の非適用など矛盾が激化し鮮明になった、今後闘いの余地は大いにある、とコメントされました。
議会や、マスコミからの参加も頂きました。また、参加者から、闘いの糸口が見えた、闘いに女性の声もおおく、一瞬でも希望の光が見えた等の声も聴き、今後の励みにしていきます。

働き方ASU-NET第30回つどい 「この働き方おかしくない!? ~雇用によらない働き方を考える」 報告

弁護士 西川 翔大

2019年10月30日、エルおおさかで、NPO法人働き方ASU-NET第30回つどい「この働き方おかしくない!?~雇用によらない働き方を考える~」が開催されました。会場には労働組合、弁護士、民主団体などから60名を超える方々が参加しました。

まず、出版労連書記次長でジャーナリストの北健一さんから「雇用によらない働き方の現状と課題」と題してご講演いただきました。北さんは、日本のアニメーターやコンビニオーナーが最低賃金以下の収入で長時間労働を余儀なくされる実態のご報告を受け、政府が委託・請負契約などの雇用によらない働き方を「自由な働き方」と推奨している根拠に疑問を投げかけました。また、世界的には労働者概念を拡張して保護を図っていく潮流がある一方で、日本では現時点で労働者性により解決することは困難であると結論づけており、十分な保護に向けて議論できていない現状を紹介されました。北さんは、「保護があってこそ自由が花開く」、労働者としての保護に向けて、雇用によらない働き方の問題の「見える化」を進めていくことが重要であると説明されました。

また、脇田滋共同代表からは「雇用によらない働き方」が古くて新しい問題であり、昔から議論されてきたことが近年形を変えて再度議論されることになったことや、労働者概念から外すことは「使用者の究極の責任逃れ」であるという問題提起がありました。

これを受けて、ヤマハ英語講師ユニオンや朝日放送ラジオ・スタッフユニオンの当事者の方々、また清水亮宏弁護士から、組合としての取組みをご報告いただきました。ヤマハ英語講師の方からは、講師の一人が労基署に相談に行った際に「あなたは労働者ではない」と門前払いにされたことに端を発して何度も学習会を重ねて労働組合を結成し、現在組合員が拡大していくとともに会社との団体交渉も重要な局面を迎えていることを報告していただきました。朝日放送ラジオ・スタッフユニオンからは、会社の都合で派遣労働者とされ、一方的に解雇された5人で組合を結成し、労働委員会を闘ってきた経験についてご報告を受けました。清水弁護士からは、業務委託契約となっている塾講師が補講を無料で行ったことで違約金を請求された事件や保険外交員の給与天引きの問題、東京でウーバーイーツが労働組合を結成したことについてご紹介いただきました。

現在、働き方の実態に注目すると、保護を及ぼすべき労働者と同様の働き方であるにもかかわらず、契約の形式上「労働者ではない」という一言で保護されない人々が大勢います。今回、労働組合を結成することで、団結して大企業と対峙することができたというご報告を受け、「雇用によらない働き方」の問題こそ労働組合として団結することがより重要な闘い方の一つであることを学びました。 回の節目となる今回のつどいも、雇用によらない働き方の問題点を「見える化」していき、今後もより一層労働運動を盛り上げ、組合として団結していく重要性を確認することができた有意義なものとなりました。

ココロちゃんのカウンセリング教室(第4回)―助言とコンサルテーション―

弁護士 西田 陽子

*当連載は、弁護士西田がカウンセリング教室で学んだエッセンスを、法律相談の妖精ココロちゃんとの対話形式でご紹介するものです。

●K先生(以下「K」):さて、今回は、問題を抱えている本人(対象者)ではなく、対象者と関係の深い人物に、カウンセラーの立場から助言・提案を行うコンサルテーションについて学びます。学校現場であれば、問題とされる生徒本人ではなく、担任教師や家族に助言・提案をする場合がコンサルテーションです。ここでの「相談者」は、担任教師や家族です。

○ココロちゃん(以下「コ」):なるほど。助言・提案をするということは、今までに習った用語を使うと、積極的に「介入」するということかしら。

●K:そうです。傾聴や問いかけを行いながら、①相談者と対象者が抱える問題は何か、②その対象者にどのようになってもらいたいか、③その目的を実現する方法を模索する、という3つの段階において、コンサルテーションを行うことになります。

○コ:ご本人ではなくご家族や組合の方が相談にいらっしゃって、彼らに対してアドバイスすることもあるのですが、そういうときにも使えますか。

●K:もちろんです。例えば、①の段階では、問題の捉え方について情緒的観点から理性的観点にシフトするための助言や、問題を分類するサポートをしたりして、問題を明確化し、捉えやすくすることができます。次に、②の段階では、目的を設定するコツをアドバイスします。目標設定のタイプとしては、対象者に対し直接行動するか、周囲への間接行動をするか、相談者の認知や思考を変えるかなどがありえます。また、行動により刺激を受けて目的は変わっていくので、それにあわせて短期目標や中長期目標を立てることも状況を変える助けになります。

○コ:へえ、マラソンのペースメーカみたいですね。

●K:そうですね。これらの段階を踏んで、相談者は、自発性を発揮する力を身につけていきます。そして、③の段階になると、カウンセラーと相談者には、一緒に協力し合う同盟・協働関係が定着していることが求められます。実現を阻んでいる障壁について検討の俎上に乗せ、相談者の自発的な方策を尊重しつつ、より効果をあげるためにはどうすればいいかを考えます。

○コ:ご家族や組合の自主性を尊重しつつ、アドバイスにより、問題状況を変えていくときの参考になりそうです。

●K:自主性の尊重というお話がでましたが、表現によりコンサルテーションの効果が変わるので、注意してください。普段の言葉遣いや、ノンバーバルコミュニケーションが反映されるので、表現を振り返ることが必要です。また、相談の経緯や文脈によって、表現が大きく変わることにも気をつけてください。相談者が不満を持っているケースなどで、無理な介入をしていることがあります。

○コ:表現に気を配って、介入の度合いをコントロールすべきだということですね。

●K:そうです。もう一つ。カウンセラーの心理状態が、表現を大きく変えてしまうということです。相手に対して理解してほしい気持ちが強すぎると、口調や語気が強くなり、押し付けがましくなることがあります。また、専門家として教えてあげたいという気持ちがあると、法則や理論をレクチャーする構造になり、相談者の心情がないがしろになることがあります。

○コ:自分の心理状態と表現の関連性には、あまり気を配ってなかったように思うので、これから気をつけます。

●K:相談の度に振り返りを忘れなければ、相談技術は徐々に向上していきますので、是非やってみてください。次回からは、趣向を変えて、家族の問題を取り上げたいと思います。

(第5回へ続く)

《書籍紹介》豊川義明著『労働における事実と法 ――基本権と法解釈の転回』(日本評論社)をどう読むか

弁護士 鎌田 幸夫

1 本書の特徴はどこにあるか

本書は、実務家の執筆した数少ない理論書である。学者の理論書との違いは、著者が自ら担当した数多くの事件を素材に、実務家の視点から労働法の基礎理論、解釈論、権利運動の課題を幅広く展開しているところにある。本書は、2つの特徴がある。

第1は、時代を反映した裁判闘争史という性格を持つことである。判決の字面だけでなく、どのような時代背景のもとに、当事者のどのような攻防を経て判決が導かれたのか、また、判決は雇用社会にどのような影響を与えたのかという観点も含めて洞察しなければ、その判決を本当に理解したとものはいえない。関電人権訴訟、東亜ペイント事件、朝日放送事件、松下PDP事件、ビクター・サービスエンジニアリング事件など著名な最高裁判決の意義と克服すべき課題、方向性を筆者は明瞭に提示している。事件を担当した著者だけに説得力がある。

第2は、根源的な視点から最高裁判例や通説に批判的なアプローチを展開していることである。実務家の書物は、判例、通説を整理し、事件をどう処理するか、最高裁判決があれば、その射程距離や考慮要素の分析を中心とするものが多い。目の前の裁判に勝つためには必要なことである。しかし、手軽なマニュアル本に頼らず、最高裁判決の前に思考停止にならず、基礎理論から自らの頭で批判的なアプローチを試みてこそ、個々の実務家の力量は上がり、トータルとして我が国の裁判理論、労働運動の進歩があると著者は考えているのである。

本書が取り上げるテーマは個別的労働関係から集団的労働関係法まで多岐にわたる。個々のテーマに立ち入る余裕はないので、本書のバックボーンである①基本権と法解釈の転回、②裁判における事実と法という根本問題に絞って本書の問うていることを紹介し、若干の私見を述べることをお許しいただきたい。

2 「基本権と法解釈の転回」とは何か

著者は基本権を「類的存在としての人間社会がよき社会の実現に向けて」「自らも他者とその集団である社会も、相互に歴史的に確認し合ってきたもの」とし、その土台に自由・平等・連帯という法原理と「人間の尊厳」という根本理念を据える。そして「自己決定論」は、他者との関係において価値ある内容を含むことはないと批判し、人間の尊厳を指導理念とした「対等共同決定論」を提示する。また、著者は、労働基本権を団交権中心に狭く捉える立場(菅野説等)を批判し、企業内の正規労働組合中心主義から脱却し、企業・産業の労働者全体の労働条件向上を実現する団体交渉権確立を説く。

そして、労働者の地位・待遇に影響を及ぼす地位にある産業別使用者団体も「当該要求に影響を及ぼすことができる地位にある」として団交応諾義務を肯定する。この見解は、労組法上の使用者概念の支配力説の発想に立って、産別使用者団体にまで使用者概念を拡張すると同時に義務的団交事項の概念も広げる試みである。本書のいう「基本権と法解釈の転回」とは、企業内組合の団交を中心とする企業内労使関係を、労働者(労働組合)集団と産業別使用者集団の共同対等決定の労使関係に180度転回させて、それに相応しい労働基本権を再構築しようとする試みとして理解できる。

わが国の企業内組合の組織率と役割の低下、存在意義の希薄化と、団体行動権(労働三権)を企業の所有権、施設管理権の劣位におくような最高裁判例の流れに鑑みると、著者の大胆な問題提起、構想は共感できる。もっとも、著者の法解釈が幅広く現実の基盤を持つためには、それに見合う産業別の運動の拡大と労働組合運動の活性化による労使関係の大転換が不可欠のように思われる。これは労働組合運動に向けられた提起でもある。

なお、西谷敏大阪市立大学名誉教授の自己決定論は、裸の自己決定ではなく、国家法や労働協約などの規制に支えられた自己決定を説く。また、自己のみに関わることに限らず自己にも他者にも関わることの決定も肯定し、連帯を媒介する労働者の関与権として労働基本権を構成する。他者とのかかわりのなかで真の自己決定を目指すものといえ、著者の立場と方向性は共通するようにも思える。

3 「労働における事実と法」の関係とは何か

著者は、法が第一に存在し、続いて事実があり、事実に対して法が適用されるという

法的三段論法をとらず、「法と事実の相互媒介」による法の選択・確定と事実の選択・確定を提起する。その意味するところは、当該事案において、複数の法規範のなかから適切なものを選択し、同時に多数の事実のなかから意味のあるものを選び出し、両者を照合し、適切な事実の認定・評価とそれに適する法の適用、解釈、さらには法創造をするということであろうか。そうであれば、大切なことは、事案の実態と正義に適った結論に導くために、裁判官の「法的三段論法」に我々としてどのように働きかけるのか、ということに帰着するのではないか。著者は、適用すべき法律の選択や権利義務の存否の確定にあたり、法曹としての経験と人間性を背景にした直感力を支える法解釈の基本原則に「人間の尊厳」があるとする。わかりやすく言えば、差別され、解雇された労働者の人格権や生存権、ひいては人間の尊厳が侵害されている実態を自ら感じ取り、それを具体的な事実として余すことなく裁判官に伝え、その良心を動かして、労働者を救済するための法適用、法解釈さらには法創造に至らせるということである。例えば、思想信条を理由とする人権無視の孤立化策による労働者の人格権侵害の実態を法廷に出しつくすことで「職場における自由な人間関係を形成する自由」が認められた関電人権訴訟、使用者の法適用を回避する脱法目的を許さず、法の趣旨と実態を重視した労働者概念が認められたビクター・サービスエンジニアリング事件などにおける闘いは、そのような文脈で理解できる。

4 さいごに

本書はこれから裁判闘争や労働組合運動を担う若い弁護士、組合活動家にとって是非一読すべき書といえる。本書と格闘することで、今後の裁判闘争や労働組合運動の糧にしていただきたい。

日本評論社2019年9月発行
A5版364頁
定価 5800円+税

《書籍紹介》岩波ブックレット 『過労死110番  働かせ方を問い続けて30年』森岡孝二・大阪過労死問題連絡会 編

弁護士 上出 恭子

1988年4月に全国にさきがけて大阪で初めて実施をされた、弁護士による過労死に関する無料相談「過労死110番」は、過労死救済に向けて大きな取組みとなりました。2018年4月に大阪過労死問題連絡会が行った「過労死110番30周年記念シンポジウム」の内容を一部加筆してまとめたものを、この度、岩波ブックレットとして発刊しました。

本ブックレット発行の発案者である、大阪過労死問題連絡会の会長であった森岡孝二先生は2018年8月1日に急逝しました。亡くなる当日も、本書の執筆を担当された方々に「なんとか実現をしたい」とブックレット発行に向けての強い思いが現れたメールを送られていました。折から国会で審議されていた働き方改革関連法案が出される中、その内容は過労死防止の流れに逆行するということへの切実な危機感が森岡先生を突き動かしていたように思われます。

そのような経緯でしたので、亡くなる直前まで森岡先生が手がけたこのブックレットの発行は、森岡先生から我々に託された「過労死をなくすための大切な取組」、いわば森岡先生からの遺言だと受け止めて、作業を進めてきました。

シンポジウムは、(1)大阪過労死問題連絡会森岡孝二会長(当時)による冒頭の挨拶、(2)過労死110番活動に当初から関わってきた松丸正弁護士による30年の歩みを振り返る基調報告、(3)過労死110番が1988年開始をした当時に製作された、「NHKドキュメンタリー『過労死・妻は告発する』のディレクターの織田柳太郎氏による講演、(4)3人の過労死・過労自殺遺族の報告、そして、岩城穣弁護士の司会によるこの3名の遺族によるリレートークで構成をされています。

過労死救済の30年の歩みが、過労死遺族の肉声とともにコンパクトに整理をされていることに加えて、織田さんのご講演の中では、過労死による被災者は、命を失った先にあった未来だけでなく、「亡くなった人、倒れた人、そしてその家族が死の前に、倒れる前にすでに人間らしい生き方、豊かな暮らしを奪われている」という過労死問題の本質が指摘されています。

過労死遺族が中心となって立法制定に向けて活動をした結果、2014年6月に過労死等防止対策推進法(通称「過労死防止法」)が、衆参両院の全会一致で可決され、その後、啓発事業等が進められています。しかし、その後も、過労死・過労自殺が減る兆しは見えません。そのような中、改めて過労死をなくすために、どういった取り組みが真に必要となるのか。

民法協にて、定価520円(消費税別途)のところ、税込み500円「ワンコイン」というお手頃価格で販売をしていますので、過労死防止の具体策を考える出発点として、是非、お買い求め下さい。