民主法律時報

2019年10月号

ひげ裁判・勝訴判決確定のご報告

弁護士 井上 将宏

1 はじめに

民主法律時報2016年4月号にて提訴報告を、その後2019年3月号にて第1審勝訴判決獲得のご報告をさせていただきました『大阪市地下鉄運転士のひげ裁判』ですが、2019年9月6日、大阪高等裁判所でも再び勝訴判決を獲得し、大阪市の上告断念により、ひげを理由に人事評価を低評価とする大阪市の行為を違法と断ずる判決が確定いたしました。
本稿では、控訴審判決の内容と評価に重点を置いてご報告いたします。

2 控訴審判決の内容

大阪高裁第3民事部(江口とし子裁判長)は、大要以下のとおり述べて、大阪市の控訴を棄却するとともに、一審原告らの附帯控訴についても棄却する判決を言渡しました。

(1) 勤勉手当の差額請求及び差額相当額の損害金について
大阪市の人事考課制度における相対評価の仕組みからすれば、一審原告らについて絶対評価で3点が付与されたとしても、それにより直ちに、相対評価で第3区分にされていたと認めることはできないとした。

(2) 本件身だしなみ基準制定の違法性について
本件身だしなみ基準は、職務上の命令として一切のひげを禁止しているものとまでは認められず、交通局の乗客サービスの理念を示し、職員の任意の協力を求める趣旨のものであるとして、本件身だしなみ基準の制定それ自体が違法とまではいえないとした。

(3) 上司らの指導等の違法性及び各人事考課の違法性について
上司らの指導等の違法性については、一部の上司の指導等の違法性のみを認めるにとどまり、本件各人事考課の違法性については、一審原告らがひげを生やしていることを主たる減点評価の事情として考慮したものであり、国賠法上違法であるとした。

(4) 損害の有無及び額について
1人当たり20万円の慰謝料を認めるにとどまり、一審原告のひとりが、心理的圧迫を受け続けたことにより身体症状が悪化したという点については、本件人事考課等に起因するものというより、原判決言渡し後の周囲の反応等が寄与したものであるとして、損害の発生を認めなかった。

3 控訴審判決の評価

上記のとおり、控訴審判決は、原審判決の判断を踏襲したものであり、その評価についても、基本的にはこれまで述べてきたこととと変わるところはありません。ただし、控訴審判決は、「本件身だしなみ基準におけるひげに関する規定を、交通局の乗客サービスの理念を示し、職員の任意の協力を求める趣旨のものとみる限り、ひげを生やしていいることを直ちにルール違反、ルール無視というのは当たらない。」という一文を付加しています。この点をどのように理解するかによって、控訴審判決の評価は違ってくるのではないでしょうか。一審判決の言渡し後、大阪市の吉村市長(当時)が「ルールが適法なのに、適法なルールーに基づいて処分したら違法になるのはおかしい」という趣旨の発言を行ったり、大阪市がホームページ上で「市民の声」(「ルール違反をしても処分されないのはおかしい」という類の意見)を公開して、一審原告らに対する人事考課の正当性や判決の不当性を広くアピールするような動きがありました。上記吉村氏の主張は、本件身だしなみ基準のひげに関する規定が職員に任意の協力を求める趣旨のものである限りにおいて適法であるとされたものであることを看過し、「任意の協力」に応じない職員を処分してもよいと言っているに等しいもので、原審判決の内容を正しく理解したものでないことは明らかでした。また、上記の「市民の声」についても、職務命令や服務規律に違反することと、任意の協力に応じないこととを混同するものであり、やはり判決を正しく理解したものとはいえません。

控訴審判決は、上記の一文を加えることにより、現に誤った判決の理解が拡散し、原告らが職場で働きにくいと感じたり、周囲の目や評価が気になって、身体症状を悪化させるような事態に歯止めをかけようとしたのかもしれません。

このように理解すれば、本件控訴審判決は、今後も同様の職場で働き続ける一審原告らに対し一定の配慮をみせたものともいえ、原審判決よりも積極的な意義を見出すことができるのではないでしょうか。

4 最後に

控訴審における和解勧告後の裁判所の対応及び判決の内容に照らしてみると、弁護団としては、一審原告らの置かれた状況についてそれなりに理解を示した上で、精神的苦痛から解放された職場環境作りに裁判所が一定程度尽力してくれたものと受け止めています。ただ、それだけに原審判決よりも踏み込んだ判断とならなかったことは残念でなりません。

とはいえ、本件控訴審判決が、労働者の市民的自由を抑圧し過ぎる職場環境を許さなかったことは事実ですので、その点を今後の活動に活かしていきたいと思います。

(弁護団は村田浩治、谷真介、井上将宏)

守口市学童保育労組 不当労働行為救済命令申立事件

弁護士 愛須 勝也

1 守口市における学童保育の歴史と民間委託

守口市の学童保育は、働く親たちの要望に基づいて「留守家庭児童会事業」として 年前に始まり、市の直営事業として、子どもたちの安心、安全な放課後の居場所を保障する役割を果たしてきた。

ところが、2011年8月に当選した西端勝樹市長(維新)は、民間委託の推進を打ち出し、2016年 月に発表した「第二期改革ビジョン案」では学童保育事業の民間委託が盛り込まれた。これに対して、学童保育の指導員が加入していた守口市職労や、保護者、地域住民が、学習会や宣伝、反対署名などの民間委託反対運動に取り組んだ。市が応募したパブリックコメントには854通もの応募があり、その多くが民間委託に不安の声を寄せ、4万筆を超える反対署名も集まった。

しかしながら、守口市は、2018年7月5日、プロポーザル(公募型企画競争方式)により共立メンテナンス(以下、「会社」という)に優先交渉権を与え、同年8月21日に業務委託契約を締結してしまった(受託期間は5年)。市職労としては、指導員の雇用の確保がされるよう求め、指導員も民間での雇用に大きな不安を抱きながらも、指導員募集に応募して、希望する指導員全員が同社との雇用契約を締結することができた。

2 団体交渉申入れと規約不備を理由とする団交拒否

学童保育で働く指導員は、守口市職労の学童保育指導員分会として組織されていたが、本年3月、臨時総会を開いて規約を改正し、新たに「守口市学童保育指導員労働組合」を結成し、本年4月1日付で団体交渉の申入れを行った。

その後、交渉日程の調整をしていたところ、本年6月になり会社は、日程を白紙撤回し、組合が労働組合として認められるかどうかわからないので、組合規約を送るようにという文書を送付してきた。

組合としては、提出の必要はないと考えたものの、労働条件等に対する組合員の大きな不安もあり、早期に団体交渉を開始することを優先して組合規約を会社に送付した。

これに対して、会社は、同年7月、組合規約が労働組合法に抵触し、適法な労働組合ではないので労組法に基づく規約を検討するようにと回答した。組合は、会社に対して抗議するとともに、早期の団交開催を実現するために、具体的に規約のどこが労組法に抵触するのか明らかにするように求めた。ところが、会社は、「規約の不備については、貴殿においてご検討ください」、「規約の不備を改正されましたら、改めて会社にご提出ください」と回答するのみであった。

3 不当労働行為救済命令申立て

このように、共立メンテナンスとの新たな雇用関係がスタートして5か月経過しても団交が開催されないという異常事態が続いた。この間、組合員の抱く不安は解消されないまま、会社により、自主的な活動に対する干渉や、年度途中の異常な配転の強行など問題が噴出していた。

そこで、組合は、2019年9月11日、大阪府労働委員会に、団交応諾とポストノーティスを求めて救済命令の申立を行った(第1回調査期日は10月17日)。

共立メンテナンスは、2016年にも、当時、東大阪市で受託した学童保育事業に関して、組合(東大阪労連、東大阪市職労、東大阪市ちびっ子クラブ指導員労働組合)から団交を申入れられたのに対して、組合側の出席者を3名以内とする等の不当な条件を提示するなどしたことで救済命令の申立を受け、同年11月に府労委において和解が成立しているが、今回も、懲りずに不当労働行為を行っており、同社のコンプライアンス、さらには同社と業務委託契約を締結した守口市の責任が問われる。

4 全国に蔓延する民間委託

共立メンテナンスは、「PKP事業」(Public Kyoritu Partnership)と称する行政事務の包括的民間委託の手法を全国の自治体に売り込んでいる。同社のホームページを見ると、全国120の地方公共団体から受託を受け、その業務は、図書館、給食調理、保育業務、学校内業務など広範囲に及ぶ。また、臨時・嘱託等の非正規職員の雇用問題の解決と行政サービスの質の向上とコスト削減などが掲げられており、政府・総務省が推進する会計年度任用職員への移行に乗じて事業への参入を狙っている。そこには住民福祉や住民サービスの視点はなく、自治体も公的責任を放棄して、住民サービスを根こそぎ丸投げしている。ただ、東大阪では共立メンテナンスは1年で撤退しているし、また他社の事例になるが、静岡県島田市でも、市の嘱託員・臨時職員が担っている業務を対象に段階的に民間会社に包括委託する方針が打ち出されていたが、自治労連、自治労連弁護団の現地調査等の結果、阻止したという例もある。本件でも早期に団体交渉を実現させ、民間委託による公的責任の放棄に歯止めをかけるたたかいとしなければならない。

(弁護団は、谷真介、佐久間ひろみと当職)

はじめての労働委員会 実効確保の措置勧告の申立――大阪市食肉市場事件

弁護士 脇山 美春

弁護士になって半年たった6月上旬。尊敬してやまない村田浩治先生と共同でやっている事件の期日を終え、次の予定までゆっくりしようと思っていた私に、村田先生は声をかけた。
「今から打ち合わせなんだけど脇山さんも同席しない?」
まあ暇だからいいか。そんな軽い気持ちで同席した打ち合わせ、これが私と大阪市食肉市場労働組合との出会いだった。
「組合員35名全員、7月 日で解雇されるんです。数日前に、組合員だけに、解雇が告げられたんです」組合の執行委員長は言った。

今時そんな典型的な支配介入があるのか。教科書でしか見たことがないぞ。
そして7月15日って、あと1か月じゃないですか。そんな短期間の間に 人も路頭に迷うんですか。でも何をすれば間に合うんだ。労働委員会に申し立てても、1回目の期日までに解雇されてしまうのでは…?
私は軽い気持ちを吹っ飛ばすほどの衝撃を受けると同時に、パニックになった。

そんな中、村田先生は言った。「とにかく急いで労働委員会に申し立てるしかないなぁ。実効確保の措置勧告の申立てもしたらええかもしれん。」
実効確保の、措置勧告。なんだそれは。
実効確保の措置勧告とは、労働委員会規則第 条に定められているもので「委員会は、当事者から申立てがあったとき…当事者に対し、審理中であっても、審査の実効を確保するため必要な措置を執ることを勧告すること」らしい。
なるほど、つまり労働委員会は、期日に先立って解雇を止めることを勧告することができるということか。それなら解雇を阻止できるかもしれない。

そういった経過で、私の「はじめての労働委員会」は、ほとんど例を聞いたことのない実効確保の措置勧告の申立とあわせて、かつ非常に速いスピードで申し立てることを要求される形で、幕を開けた。
私は、自分でも信じられないくらい荒い不当労働行為救済申立書を起案した。村田先生は実効確保の措置勧告の申立書を起案し、井上耕史先生が双方をチェックした。そして7月1日、大阪市食肉市場株式会社を被申立人とするこれら二つの申立書を、大阪府労働委員会に提出した。

すると7月8日、大阪市食肉市場株式会社は労働委員会に対し、「7月 日の整理解雇は実施しいたしません」とする意見書を提出した。
労働委員会はこの意見書の影響もあってか、実効確保の措置勧告を出すことはなかった。しかし、7月15日から現在までの間、大阪市食肉市場株式会社は、組合員をだれ一人として解雇していない。組合員の解雇の危機は、一応過ぎ去ったのである。
実効確保の措置勧告を申し立てた効果があってよかった、この申立てをしたから、なんとか間に合った。そう私は思っている。
また、この危機回避を経て、組合の団結は今までにないほど強くなっているようで、積極的に団体交渉に臨んでいる。こういう効果をもたらしたという点でも、実効確保の措置勧告を申し立てた意味があった、と評価してよいだろう。

しかし、会社は組合との団体交渉に誠実に応じないし、組合の上層部に対してした理由のない懲戒処分の問題など、解雇以外の不当労働行為の問題が残っている。会社も、解雇の可能性を完全に否定したとはいいがたい状況でもある。
どうやら私の「はじめての労働委員会」は、まだ終わらないようだ。
村田浩治先生、井上耕史先生と一緒に、なんとか良い解決を導けるその日まで、全力で頑張ろうと思う。

解雇問題の焦点についての一問題提起

島根大学名誉教授 遠藤 昇三

「解雇の金銭解決制度」についての民法協の総会で決定された方針や決議に、異論がある訳ではありません。当面する緊急の課題であることは、言うまでもありません。しかし、もう少し大きく解雇問題を考える必要があるということで、問題提起をさせてもらいます。

解雇問題の歴史的経過として重要なのは、いわゆる判例法理としての解雇権濫用法理の立法化(当初労働基準法18条の2=2003年、現行労働契約法16条)に至った段階の状況・背景です。大企業・財界は、「解雇ルールの明確化が必要」と称しつつ、解雇権濫用法理により妨げられているところの使用者による自由な解雇権の確立、その一環としての使用者による自由な「解雇の金銭解決制度」の導入が、目論まれていました。大企業・財界が狙ったのは、あくまでも「解雇がやり易くなるルール」の確立であって、解雇権濫用法理の廃棄や金銭解決制度の主張にも、そうした意図が貫かれていました。その意図は、現在でも変わっていません。言い換えれば、今回の金銭解決制度が成立すれば、それで終わりではなく、使用者の解雇の十全な自由の確立が、目指されているということです。2003年当時は、労使の妥協の産物として、解雇権濫用法理の立法化となったわけですが、それにも拘わらず、解雇権濫用法理の生命力は、風前の灯という状況だったと思います。そうしたことを踏まえれば、今現在求められているのは、使用者の解雇権を全般的に制約すること、即ち、解雇は正当な事由がない限り出来ないとする解雇正当事由説(使用者には解雇の自由・解雇権がなく、正当事由があって初めて解雇の自由・解雇権が成立するという見解、その根拠・理由や解雇の法的問題全般については拙著『労働保護法論』日本評論社、2012年、第6章参照)の確立、それを土台とした解雇規制立法の実現です。但し、解雇正当事由説は、労働法学界で未だ極少数説ですので、その確立を待っての立法化要求では、立ち後れると思いますが(従って、以下では解雇規制立法だけに言及します)。

1960年代に成立し70年代に確立した企業社会は、70年代のオイルショック・不況を減量経営とME化で克服していったわけですが、その際「雇用の確保か労働条件の低下か」の選択を迫り、大企業の企業協調的労働組合は、雇用を選択しました。しかし、その抵抗の脆弱性とも拘わって、大企業中心に、いわゆるリストラと称する解雇と非正規労働者の増大が行われました。90年代以降、グローバリゼーションへの対応と多国籍企業(=グローバル企業)化を目指しあるいはそれに必要なものとして、企業社会の再編成ないし解体が進められています。正規労働者の徹底的削減、そのためのリストラが猛威を振るったのです。その意味では、従来の企業社会の重要な支柱である長期雇用慣行は、少数の労働者に対するかつ不安定な慣行に過ぎないものとなっています。しかし、ここで注目したいのは、企業社会とその再編成・解体を通じて、企業・経営の独裁という側面は、全く変わっていません。そして、その独裁を最終的に支えているのは、使用者の解雇権(懲戒権は一層ですが、別に検討・問題提起したいと思っています)です。そして、大企業労働者・その組合が、そのリストラ解雇に立ち向かったという状況にはありません。企業・経営の独裁は、解雇の面で貫徹しています。

そうした状況に歯止めをかける上で、現在の解雇規制では全く不十分です。そこで、ドイツ、フランス等のヨーロッパ諸国並みの全般的な解雇規制立法による、外からの歯止めが緊急に必要となっているように思います。勿論、労働者の利益・権利の拡充に役立つ立法を立法運動として実現することは、それが何であっても、現状の政治状況からすれば一般に困難ですし、ましてや企業独裁の切り札である使用者の解雇権を規制する立法が実現する見通しは、乏しいとは思います。しかし、解雇規制立法を実現しない限り、現状を一歩でも良くする方向に踏み出すことは、不可能です。その立法化への努力を、皆さんに訴えます。

〈裁判・府労委委員会例会〉 私立大学教職員組合は、民主主義のために、経営者の横暴を止めなくてはならない ―― 近畿大学教職員組合の闘い

大阪産業大学経済学部教授 窪  誠

2019年8月5日、エル・おおさかにおいて、裁判府労委委員会が行われた。今回は、近畿大学教職員組合(以下、教職員組合)の闘いがテーマとされた。最初に吉岡孝太郎弁護士より、9件の訴訟および8件の不当労働行為救済申立の特徴が説明された。次に教職員組合書記長である浜田太郎経済学部教授から、問題の背景について説明がなされた。

まず、吉岡弁護士は、集団的労使紛争について、以下の3特徴を指摘した。

1.当局による労使間ルールの無視
平成28年6月2日、教職員組合と当局は、府労委において、年間スケジュールに基づく団体交渉はスケジュールに基づいて実施し、それ以外の団体交渉はその要求から約3週間後に開催すること等を内容とする和解協定を締結した。しかし、その後、当局は、年間スケジュールの交付を一方的に取りやめ、教職員組合からの団交要求を長期間放置した。

2.団体交渉の完全な形骸化
たとえ、団体交渉が実現しても、当局は、根拠なき形式的答弁を繰り返し、入試手当のような明らかに教職員の待遇に関わる事項についても、「義務的団交事項でない」とか、裁判継続の事実を回答拒否の理由とするなど、団体交渉自体が完全に形骸化するに至っている。

3.教職員組合に対する徹底的な敵視
他の労働組合に認めている掲示板や組合事務室の複数貸与を教職員組合には認めず、これまで応じていた分会交渉自体に全く応じなくなった。また、当局は、教職員組合からの協議要請を無視し、教職員組合の活動の中心である東大阪及び奈良キャンパスにおいて、一方的に過半数代表選挙を強行した。また、就業規則改定について、教職員組合からの意見事前聴取という従来の労使慣行を一方的に破棄。さらに、当局は教職員組合の発言をとりあげ、その謝罪がない限り団体交渉に応じない旨を一方的に通知してきた。団体交渉にこうした前提条件を設けること自体が不当労働行為であるにもかかわらず、その上で、夏季賞与支給の条件として団体交渉を課してきた。

個別的労働紛争における労働法の重要な法律問題については、不更新情報の有効性、育介法第 条の該当性、労働協約締結権限とその瑕疵の治癒の可否、過半数代表選挙の有効性などが指摘された。

続いて、浜田太郎経済学部教授は、まず、近畿大学教職員組合の闘いの基本的な位置づけを明らかにした。多くの私立大学では、教授会、教職員組合が弱体化すると、横暴な経営が行われてしまう。それにより、公的高等研究教育機関としての大学の機能が失われるおそれがある。よって、近畿大学の事例を世に問い、教職員組合が経営者の横暴に歯止めをかけてゆくことが、民主主義に絶対必要であることを強調した。

近畿大学の特徴として、世耕家による世襲経営が指摘された。教職員組合は経営の民主化を追求した。1980年代前半には、組合員数が約500人で推移するも、その後停滞。2013年には 名にまで減少。同年、第 期執行部が「組合の再生」を掲げ、従来あまりなかった訴訟、救済申立といった法的手段に訴えるようになった。

一方、法人は、以下のようなやり方で、組合潰しを熾烈化させている。総務部長や顧問弁護士が不当労働行為を恐れもせず、違法と承知しながら平然と行う。法人は、組合の要求に対して、団交拒否・不誠実団交(形式団交)をしてよいと考えている。裁判や不当労働行為救済申立において、法人側職員が虚偽証言をしても何らの刑事罰も受けないので、平然と嘘を言う。

最後に、浜田教授は、今後の課題として「連帯」を強調し、近畿大学教職員組合と近畿大学九州教職員組合の統合実現の例を紹介した。

レイバーノーツアジア大会 「ストライキをどう組織するか (How to Organize a Strike)」 報告

弁護士 安原 邦博

1 はじめに

2019年8月16日(金)~18日(日)に台北市内でレイバーノーツアジア大会が開催された。本稿では、17日(土)午前(9時~12時15分)にあった、「ストライキをどう組織するか(How to Organize a Strike)」の分科会について報告する。

レイバーノーツアジア大会のスケジュール表に記載されていた同分科会の紹介文は、「ストライキが帰ってきました! 世界中の労働者が、労働者の最強兵器を活用しています。このファシリテーション討論では、ストライキをどのように計画するか、どのようにして同僚を巻き込むか、地域や労働者の協力をどのようにして得て、そして使用者の弱点(使用者に圧力をかけるポイント)をどのようにして見つけるか、について話し合います(The strike is back! Workers across the world are turning to labor’s most powerful weapon. In this facilitated conversation, we will discuss how strikes are planned, how to get our coworkers on board, how to bring in community and labor allies, and how to find our employer’s pressure points)」というものであり、とてもワクワクするものであった。

この分科会の参加者は50~60名程で、台湾、香港、韓国、タイ、フィリピン、カンボジア、ミャンマー、バングラデシュ、アメリカ、日本等からの活動家や弁護士等であった。内容は、5~10名くらいの9つの小グループに分かれて、「どんなストライキがあるか(各国でどんなストライキをやっているか)?」「より効果的なストライキは何で、その理由は?」という問いについて話し合い、それを全体で報告しあって検討するというワークショップであった。

2 ワークショップ

(1) アジア各国において実践されているストライキ
各グループから、次のような実践例の報告があった(報告された実践例全てを記録できたわけではないので、紹介するのは一部のみである)。アジアではストライキが日本より厳しく規制されているところが多いが、日本の法が適用されても違法とされるであろうアグレッシブな実践例が多々あり、大変興味深かった。

・職場の中で何もしない、何もしゃ べらない
・仕事を止めて職場を出ていく
・スローダウン
・時限スト
・一斉休暇
・職場の電気を止める
・火災報知器を鳴らし「火事なので出よう!」などと呼びかけて労働者を職場から出す
・職場に入り込んで商品を壊す
・使用者の前で座り込みをする
・政府の建物の前で座り込む、デモをする
・高速道路を止める
・日本に対する悪感情などを利用して一体感を出す(また政府等からの攻撃をかわす)
・ストライキの基金(ストをしている間の生活費のための基金)を作る

(2) ユニオンみえの実践例
私が入った小グループは主にユニオンみえの実践例について報告をした。下記の①~⑥のような創意工夫のストライキである(下記の説明は私の理解であり、細かい点に誤りがあるかもしれないが、ご容赦されたい)。
このうち、ユニオンみえの実践では、下記④の「ダブルワーク・ストライキ、マルティプルワーク・ストライキ」が最も効果的とのことである(労働者はストをしながら他で働いて生活費を稼ぎ、一方でストの相手である使用者には社会保険料を支払わせてさらなる経済的な打撃を与えることができているとのこと)。

①工場の中での時限スト(30分や1時間)
②工場の外でのストライキ
正面出入口あたりでスピーチ等をする(工場内の労働者にも聞こえる)
③解雇された労働者による最後日でのスト突入
100%の賃金保障を要求し、会社が要求を呑むまでストを続けると宣言する(2、3か月は続ける)
④ダブルワーク・ストライキ、マルティプルワーク・ストライキ
ストに入ると賃金が出ないため、他のところで働きながらやる
⑤1人ストライキ
1人でストをし、工場の中に入って、働いている他の同僚に働きかける
⑥スローダウン
工場の生産が多い時期は効果的

3 おわりに

9つの小グループによる報告の後、成功したストの共通点等を全体で検討した。ストライキの計画や遂行における労働者間の意思疎通や合意、地域的・国際的な支援を受けて社会的な連帯で使用者を包囲すること、長期のストにおける基金などが挙げられた。

また、ストライキが全面的または部分的に違法とされていたり、ストライキを実行するのに高いハードルを課す法規制があったりする中で、「違法」かどうかで運動を決めるのではなく、労働者の正当な活動が「違法」とされることに対し闘うことが重要であるという指摘もなされた。

以上のように、本分科会は、アジア各国の活動家のストライキに関する経験や知恵に一挙に触れられる貴重な機会であった。

ココロちゃんのカウンセリング教室(第3回)―質問介入と対話の促進・深化―

弁護士 西田 陽子

*当連載は、弁護士西田がカウンセリング教室で学んだエッセンスを、 法律相談の妖精ココロちゃんとの対話形式でご紹介するものです。

●K先生(以下「K」):今回は、「質問介入」の目的と種類について見てみましょう。
質問介入は、話の流れを大きく左右する「積極的な介入」です。相談者が語った全体の文脈に沿った質問である必要があり、興味本位や自己都合からの質問になっていないか、介入の目的への高い自覚が求められます。また、質問に対する相談者の回答に対しては、尊重し、受容する姿勢が重要になります。前回説明した「伝え返し」をするなど、丁寧な対応を心がけてください。

○ココロちゃん(以下「コ」):法律相談では、法的観点から重要な事実を聞くことに意識がいってしまい、相談者の語る文脈が二の次になってしまうことが多いですね。相談者が不安や悩みを打ち明けているときは、とくに丁寧に対応しようと思います。

●K:まず、質問の種類についてですが、オープンクエスチョン、クローズドクエスチョンという分類は聞いたことがありますか。

○コ:はい。クローズドクエスチョンは、「はい」や「いいえ」、単語や数字で答えられる質問です。オープンクエスチョンは、「なぜですか」など、ある程度の幅をもって具体的な内容を聞く質問です。この2つは、法律相談や尋問のときに意識的に使い分けています。

●K:そうですね。目的に応じて、この2種類の質問を上手に使い分ける必要があります。質問介入の目的は概ね4つに分けられます。まず、問題を焦点化する質問(①)です。相談者が問題状況をどのように捉えているかを把握します。オープンクエスチョンでは「何に困っていますか?」ですね。そこからクローズドクエスチョンでさらに焦点を絞ります。焦点を絞ったら、目的を明確化する質問(②)をします。相談者がどのようになりたいかを問いかけるのです。①と②は、相談者が周りの状況をどのように認知しているかを確認する質問です。

○コ:法律相談では、相談者の認知はあまり重視しないことが多いと思います。認知を確認することには、どのような意味がありますか。

●K:法律相談の場面であっても、さまざまな悩みが語られ、そのすべてが裁判により解決するものではないと思います。本人の認知や行動が変わることで解決する問題もたくさんあります。ですので、前提として、本人の認知を正確に理解することが必要です。

○コ:確かに、離婚事件やハラスメント事案は、とくに認知のずれを感じることがありますね・・・。

●K:認知を確認したら、次は、状況の改善のためにできること、やろうとしていることを尋ねる質問(③)をします。それから、相談者の表現には抽象的な表現が用いられることが往々にしてあるので、それを明確化する質問(④)もします。「何をやってもだめとは、例えばどんなことですか?」といった質問ですね。

○コ:なるほど。これから、目的に応じて、質問を意識的に使い分けたいと思います。

●K:第2回と今回お話しした技術を用いながら、援助者が相談者に対し「積極的傾聴(アクティブ・リスニング)」をし、受容的・共感的にかかわることで、相談者の話は促進されていきます。すると、相談者は思うことや感じることを自由に表現することができるようになり、やがて、相談者に「気づき」が生じ、その人の本心が表出していきます。それが、ようやくたどり着いた「心の領域」であり、そこには問題の核心と解決の糸口があります。

○コ:そういえば、ある労働事件の交渉の過程で、相手方が相談者の方を非常に評価していたことが分かったとき、相談者が「気が済みました」とおっしゃり、事件が終了したことがありました。法的な紛争であっても、相談者の本心を捉えることにより、早期に解決することがあるのかもしれませんね。

●K:法律相談だけでなく、あらゆる人間関係に役立つと思いますよ。次回は、援助者の側から解決提案を行う「コンサルテーション」について説明します。

(第4回へ続く)