解雇の金銭解決制度について

2019年05月15日

弁護士 須井 康雄

1 検討会での審議状況

政府は、2015年10月、「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」を設置し、2017年5月に最終結論を出さず、「有識者による法技術的な論点について専門的な検討を加えることが必要」との報告書を取りまとめた。

これを受けて、政府は、2017年12月、「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」を設置し、2018年6月30日から2019年3月19日まで6回開催した。検討会の構成員(肩書等は発足時のもの)は、岩村正彦教授(東大)、垣内秀介教授(東大)、鹿野菜穂子教授(慶大)、神吉知郁子准教授(立教)、小西康之教授(明治)、中窪裕也教授(一橋)であり、労使団体の推薦する弁護士からのヒアリングが第4回検討会において行われた以外は、労使不在のまま議論が進められている。なお、検討会の議事録等は、https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-roudou_558547.htmlをご参照ください。

2 最新(2019年3月 日検討会)の論点整理の状況

(1) 権利者は労働者に限られ、対象は、すべての解雇・雇止めとされている。
(2) 金銭解決制度において使用者が支払う金銭(労働契約解消金)の定義を「無効な解雇として確認された労働者の地位を、労働者の選択により解消することの対価」とし、その法的性質は、形成権とされている。形成権とされる意味は、当初の解雇通知の時点ではなく、その後、労働者が解消金を請求し、使用者が解消金を払った時点で初めて労働契約が終了するというものである。
(3) 解消金発生の要件として、①解雇がなされたこと、②解雇が無効であることと整理されている。
(4) 解消金を請求する方法として、制度創設時は、訴えの提起に加え、労働審判の申立ても含めるかどうかが論点とされている。
(5) 解消金を請求する意思表示の撤回可能な期限を、判決確定時とするか事実審の口頭弁論終結時とするかが論点とされている。
(6) 使用者による解雇の意思表示は撤回できないとされている。
(7) 労働者の就労義務について、解雇無効であることが前提である以上、労働契約は継続しており、労働者に就労命令を出すことができ、この就労命令を拒否した場合、バックペイの発生を停止する場合もあるという整理でよいかが論点とされている。また、この就労命令に応じなかったことを理由とする新たな解雇の意思表示の有効性は、解雇権濫用法理に照らして判断してよいかどうかが論点とされている。
(8) 解消金請求権の事前放棄については、解雇の意思表示がなされる前からの放棄は無効だが、解雇の意思表示がなされ、具体的な権利となったあとの放棄は許されるとされている。
(9) 解消金請求権と他の債権を相殺できるか、あるいは、解消金請求権を差押できるかは、解消金の性質を踏まえ政策的に判断するものとされている。
(10) 解消金の中身として、①労働契約解消の対価たる部分、②バックペイにあたる部分、③損害賠償(慰謝料)にあたる部分のどこまで含ませるかが論点とされている。
(11) 解消金の算定方法は、具体的な数値(勤続年数、給与額、その他の調整率)を前提とする算定式の基準額をもとに、解雇の不当性、労働者の帰責性の度合いを勘案して算定する方法が考えられるとされている。考慮要素について、年齢や企業規模を含ませるかどうかが論点とされている。また、労働者の帰責性に応じて減額することをどう考えるかも論点とされている。
(12) バックペイを含ませる場合、バックペイの期間は、労働者が就労意思を有している範囲で、解雇から解消金支払時までとすることを原則としてよいかが論点とされている。
(13) 集団的労使合意により算定方式に別段の定めを置くことをどう考えるかが論点とされている。
(14) 解消金請求権の行使期間は、2年程度確保する必要があるが、具体的には政策的に判断されるものとしている。

3 今後の取組

有識者による論点整理のとりまとめがなされると、解雇の金銭解決制度の導入に向けた動きが一気に進むことが考えられる。

しかし、これまでの論点整理から、①そもそも解雇無効を解消金請求権の発生原因としているが、解雇の有効性をめぐり争いがあれば決着がつくまでに現行の地位確認訴訟などと同じ負担がかかること、②バックペイや損害賠償(慰謝料)に相当する部分を含まない制度であれば、解消金請求手続と別の訴えを提起しなければ、労働者は完全に救済されないこと、③解雇の意思表示後も就労義務があるとされているのは、理屈はともかく紛争の実情に照らすと、非常に珍奇な制度設計というほかなく、労働者を混乱させることなど、様々な問題点が洗い出されたといえる。

労働は給料をもらうだけではなく、仕事を通じて多くの人と出会い、自己の能力を発展させ自己実現を行うかけがえのない場である。また、正当な権利行使をしたことを理由とする違法な報復的解雇を金銭の支払いによって簡単に終わらせることができるとすることは、公正な社会の実現という観点からも、問題があるであろう。当初は労働者側にしか請求権を認めない制度設計であるが、使用者側は使用者側にも申立権を付与するよう主張しており、いずれ使用者側にも申立権が拡大されることが強く危惧される。労働審判や地位確認訴訟における現行の解決水準にも悪影響を与えかねない。解雇の金銭解決制度は、たとえ労働者側にしか請求権が与えられない体裁をとっていても、反対していく必要がある。