民主法律時報

2019年5月号

育児休業取得による昇給抑制を 違法と判断 ―― 近畿大学事件 ――

弁護士 吉岡 孝太郎

1 はじめに

本件は、育児休業を取得したことにより定期昇給が認められなかった近畿大学の男性講師が、このような対応は育児介護休業法第10条が禁止する「不利益な取り扱い」に該当し、違法無効であるとして、近畿大学に対して、差額賃金相当額等の支払いを求めた訴訟です。

平成31年4月24日、大阪地方裁判所(内藤裕之裁判長)は、近畿大学に対して、約50万円の賠償を命じる判決を言い渡しました。

2 事案の概要

原告は、平成24年4月より近畿大学の専任講師として着任しました。平成27年9月に第四子が生まれ、平成27年11月より平成28年7月までの間、育児休業を取得しました。当時の学内規程では、育児休業の期間は昇給のための必要な期間(12ヶ月)に参入されなかったことから、平成28年8月より職場復帰した原告の定期昇給(平成28年度)は認められませんでした。

近畿大学では、減年調整(勤続5 、10、15年時に初任給決定時に反映されなかった経歴に一定の数を乗じて、基本給の昇給を認めるもの)という制度があり、育児休業を取得しなければ、原告は平成29年4月に減年調整されることになっていました。しかし、育児休業を取得したことから、原告は平成 年4月に減年調整を実施されることなく、既に授業を終えて賃金として支給されていた増担手当等の返還等を求められました。

3 大阪地裁判決の内容及び意義

大阪地裁判決は、定期昇給の抑制の点について、第一に、昇給基準日前の1年間のうち一部でも育児休業を取得した職員に対して、残りの期間の就労状況如何にかかわらず当該年度に係る昇給の機会を一切与えないというのは、年功賃金的考え方を採用している定期昇給の趣旨と整合せず、第二に、定期昇給の抑制による不利益は、将来的にも昇給の遅れとして継続し、その程度が増大する性質を有すると認定しました。その上で、大阪地裁判決は、当時の学内規程をそのまま適用して定期昇給の抑制をすることは、休業期間に不就労であったことによる効果以上の不利益を与えるものであり、育児介護休業法第10条が禁止する「不利益な取扱い」に該当すると判断し、近畿大学が違法な対応をしたことについて少なくとも過失があるとし、原告に対する不法行為責任を免れないとしました。

労働力人口が減少し、労働力不足が深刻化する中で、子どもを産み育てる環境整備は国策として必須になってきています。しかし、判決が指摘するように、近畿大学の賃金制度によると、いったん昇給が遅れるとその後の昇給も遅れ続けることになり、減収の不利益は単年度にとどまらず、蓄積、増大します。また、基本給は、手当、賞与、退職金、退職後の年金の算定の基礎になりますので、本件で基本給の昇給が抑制されることによる経済的不利益は極めて大きいものがあります。家族が増えて経済的負担が増すにもかかわらず、育児休業を取得して上記のような経済的不利益を一生受け続けることを受忍せよと言うのであれば、男性が育児休業を取得することに躊躇するのは当然であり、これでは育児介護休業法の目的が達成できません。また、子どもを産み、子どもを育てるために現実的に育休を取らなければならない女性に対しては、子どもを持てば持つほど、男女の経済格差を助長することにもなりかねません。

その意味において、大阪地裁判決が本件の定期昇給の抑制を育児介護休業法第10条が禁止する「不利益な取扱い」に該当して違法であると判断したことは、育児休業を取得したことによる不合理な経済的不利益を否定して、原告の救済を図った点で大きな意義があり、更には、近畿大学と同様の昇給規程を設けている企業等にも見直しの契機を与えるものであり、この点からも大変大きな意義があると考えます。

4 本判決の問題点と今後の対応

他方で、大阪地裁判決には問題もあります。

育児休業を取得したことにより減年調整の実施時期が遅れた点について、大阪地裁判決は、減年調整の制度自体が労働契約の内容になっていないという理由で権利性自体を認めず、裁量権の逸脱又は濫用も認めませんでした。また、育児休業を取得したことにより既に支払いを受けていた増担手当の返還等を求められた点についても、大阪地裁判決は、増担手当の返還要求自体が育児介護休業法第10条が禁止する「不利益な取扱い」に該当すると判断しながら、現実に原告が増担手当の返還をしていないという理由で、慰謝料請求を認めませんでした。

前者の問題は、基本給の昇給に関わる問題です。そのため、定期昇給の場合と同様に、昇給が抑制されることによる経済的不利益は大きいものがあり、容認できるものではありません。また、後者の問題は、賃金の定期払いの原則に反しており、全く不当な対応というほかありません。原告は、育児休業を取得することにより無給となったにもかかわらず、逆に近畿大学より法に反する賃金の返還請求をされ、どれだけ生活不安に襲われたかを大阪地裁判決は理解していません。

控訴審ではこれらの判示部分を徹底的に批判し、是正させる必要があると考えます。

「今、労働組合はどうあるべきか」――「財は友なり」著者 髙岡正美さんを囲んで

弁護士 鶴見 泰之

 2019年4月12日、国労大阪会館で、「財は友なり」の著者である髙岡正美さんの学習会が行われ、40名近くの方々が参加されました。
城塚健之弁護士が開会の挨拶をし、2018年に労働組合の在り方を考えさせられる重要な書籍が2冊出版され、そのうちの1冊は「財は友なり」だと紹介されました。

 冒頭、髙岡さんから「財は友なり」の執筆経緯が紹介されました。大川真郎弁護士から、「(これまでに多くの経験をしてきた髙岡さんには)書き残す責任がある」と勧められたことで、髙岡さんは執筆を決意されました。執筆をし始めた当時、髙岡さんはガンの治療中で、資料を収集するだけでも一苦労されたそうです。

髙岡さんは、大学を卒業後、全国紙パルプ産業労働組合連合会(紙パ労連)の専従組合員になり、製紙会社の争議を支援するようになりました。髙岡さんは、東中法律事務所(現在の関西合同法律事務所)の当時 代だった宇賀神直弁護士から、第一製紙の工場閉鎖に伴う従業員全員解雇事件のことで、付きっきりで助言を受けました。髙岡さんと宇賀神弁護士の付き合いは、出会ってから約 年が経過した現在も続いています。

1976年、ハリマ製紙の振り出した手形が不渡りになり、事実上倒産した後、髙岡さんは、会社を存続し、従業員の雇用を確保するため、地元の有力企業から支援の約束を取り付け、会社更生手続により、会社を再建させました。

チューエツの再建事例も紹介されました。チューエツのメインバンクは会社の資産を売却し、貸金を回収する方針でしたので、髙岡さんをはじめとした組合が、会社を再建するように方針の転換を求めたところ、メインバンクから、「では、組合が会社を経営してみろ」と無茶な要求をされました。髙岡さんら組合は、メインバンクからの挑発的な要求に対して、けんか腰になることなく、会社経営に参加する方針を打ち出し、組合役員を会社の工場長などの主要部門に派遣し、数年後には経営は黒字に転換しました。髙岡さんは、取締役への就任を打診されましたが、辞退し、チューエツの従業員として雇われることになりました。雇用契約締結後、髙岡さんは、チューエツに休職願を提出し、専従組合員となりました。

「会社存続・支援・協力」という髙岡さんの組合運動のスタイルが、「経営参加型の組合運動」に変わることになった丸三製紙の闘争が紹介されました。12年間に及ぶ会社更生手続の中で活躍された管財人代理が、再建後の会社の代表取締役を引き受ける条件として、髙岡さんが丸三製紙の取締役に就任することを提案されました。髙岡さんは、役員報酬を辞退するかたちで、30数年間、丸三製紙の取締役を務めました。

髙岡さんは組合運動をする上で心掛けていたことがあります。経営者を説得するために、労働組合が会社の財務諸表、取引先、経営戦略のことを知ること、そして、いつでも、労働組合が会社の経営を交代するつもりの心意気を持つことです。言葉で言うのは簡単なことですが、それを実践するのは非常に大変なことです。実際に、言葉通りに実践されてきた髙岡さんから我々は学ぶべきことがあると感じました。

 髙岡さんのお話の後、参加された元組合員の方々から、組合での取組みが紹介されたり、髙岡さんに対して補足説明を求めるなど、学習会は終始活発な雰囲気のまま終了しました。

その後、国労会館近くの料理店で懇親会が行われました。学習会で発言の機会がなかった方々が、今日の学習会の感想を話したり、髙岡さんをよく知る方々から髙岡さんが金融機関と交渉をしたときのエピソードが紹介され、笑いの絶えない懇親会でした。

過労死防止大阪センター総会 「やりがい過労死を考える」シンポジウム

弁護士 西川 翔大

2019年4月25日(木)18時半からエル・おおさかで、過労死防止大阪センター総会・シンポジウム「やりがい過労死を考える」が開催されました。

1 松丸正弁護士の講演

初めに、過労死弁護団全国連絡会議代表幹事である松丸正弁護士の講演がありました。
(1) まず、松丸弁護士は、労基法は「人たるに値する最低限度の法律」であるものの、労基法に違反していない企業でも過労死がなくならない原因を考えなくてはならないと語りかけました。過労死ラインに設定されている三六協定の実情や労働時間の適正な把握ができない現状こそが過労死を生み出す原因にあり、なぜ労働者が労働時間の過少申告をしてしまうのかを考察した第一次電通事件の最高裁調査官解説を紹介されました。それによると、成果主義という社内体制の下、短時間で成果を上げた事実を残すために労働者は労働時間を過少申告する傾向にあることが分析されていました。このことから、成果主義を奨励する社会が過労死の発生を助長する一つの原因であることを認識しました。

(2) 次に、やりがい過労死の事例として、①勤務医・研修医、②教員などの事案を紹介されました。①勤務医の例は、自身の体調の悪化を認識していたとしても、緊急の患者のために、我慢して仕事を続けざるを得なかった事案でした。松丸弁護士は、医師が過労死ラインで働くことが当然の前提とされ、医師のやりがいを支えに国民の医療を成り立たせるか、医師が壊れるかの二律背反の状況にある現状を指摘されました。②教員には、公立学校の場合は「給特法」により、超勤4項目以外(部活は含まれない)の時間外勤務は教員の自主的活動であると定められているため、部活動等の時間外勤務に残業代は一切支払われないこと、公立・私立を問わず教員には授業以外の業務も多くある中で、授業の質を低下させるわけにはならないため、持ち帰り残業が常態化していることなど、教育現場は教員のやりがいと善意によって支えられている現状が紹介されました。

(3) 最後に、松丸弁護士は、やりがい過労死をなくすために使用者や国が社会的意義ややりがいを労働者に対して押しつける中で、労働者が家族も含めて安易に受け入れずに対抗していくことが必要であるとお話されました。

2 パネルディスカッション

次に、過労死防止大阪センター副代表幹事の岩城穣弁護士を司会に、看護師、生協職員、公立高校教員、私立高校教員の方々とのパネルディスカッションが行われました。

まず、看護師の方からは、病院が看護師のやりがいにつけ込み、過酷な夜勤や研修・勉強会を当然のものと受け入れるように求めてくる中で、妊娠中の看護師には原則夜勤を割り当てないこと、結婚特別休暇の導入など組合活動を通じて病院に対抗することができたことをご報告いただきました。また、生協職員の方からは、職員の主体性を重視する職場であるにもかかわらず、ノルマの達成と労働時間管理を使用者から口うるさく指導されることから、労働時間を過少申告する人がいる現状についてご報告いただきました。さらに、教員については、公立高校では、授業以外の業務として部活や課外活動は使命感がある教員に集中してしまう、まさに「やりがい搾取」が横行している構造的な問題が学校にはあること、私立高校では、公立とは異なり経営的な側面が非常に強く、教育本来の目的より経営の論理を優先して教員が利用されている実態についてご報告をいただきました。

以上のご報告をお聞きして、それぞれの職場で労働者のやりがいを利用した不当な勤務状況がある一方で、労働組合や訴訟を通じて対抗していく術があることは非常に参考になりました。

3 最後に

働くことにはやりがい・人間発達といった側面と辛く過酷な面があります。労働者が会社のために一生懸命に働いても会社にとって単なる歯車であり、過労死しても会社が責任をとってくれるとは限りません。この現状を重く受け止め、労働者のやりがいを利用した過労死が起こる前に労働者やその家族は自分たちの身を守るために対抗していく必要があると強く感じました。

解雇の金銭解決制度について

弁護士 須井 康雄

1 検討会での審議状況

政府は、2015年10月、「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」を設置し、2017年5月に最終結論を出さず、「有識者による法技術的な論点について専門的な検討を加えることが必要」との報告書を取りまとめた。

これを受けて、政府は、2017年12月、「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」を設置し、2018年6月30日から2019年3月19日まで6回開催した。検討会の構成員(肩書等は発足時のもの)は、岩村正彦教授(東大)、垣内秀介教授(東大)、鹿野菜穂子教授(慶大)、神吉知郁子准教授(立教)、小西康之教授(明治)、中窪裕也教授(一橋)であり、労使団体の推薦する弁護士からのヒアリングが第4回検討会において行われた以外は、労使不在のまま議論が進められている。なお、検討会の議事録等は、https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-roudou_558547.htmlをご参照ください。

2 最新(2019年3月 日検討会)の論点整理の状況

(1) 権利者は労働者に限られ、対象は、すべての解雇・雇止めとされている。
(2) 金銭解決制度において使用者が支払う金銭(労働契約解消金)の定義を「無効な解雇として確認された労働者の地位を、労働者の選択により解消することの対価」とし、その法的性質は、形成権とされている。形成権とされる意味は、当初の解雇通知の時点ではなく、その後、労働者が解消金を請求し、使用者が解消金を払った時点で初めて労働契約が終了するというものである。
(3) 解消金発生の要件として、①解雇がなされたこと、②解雇が無効であることと整理されている。
(4) 解消金を請求する方法として、制度創設時は、訴えの提起に加え、労働審判の申立ても含めるかどうかが論点とされている。
(5) 解消金を請求する意思表示の撤回可能な期限を、判決確定時とするか事実審の口頭弁論終結時とするかが論点とされている。
(6) 使用者による解雇の意思表示は撤回できないとされている。
(7) 労働者の就労義務について、解雇無効であることが前提である以上、労働契約は継続しており、労働者に就労命令を出すことができ、この就労命令を拒否した場合、バックペイの発生を停止する場合もあるという整理でよいかが論点とされている。また、この就労命令に応じなかったことを理由とする新たな解雇の意思表示の有効性は、解雇権濫用法理に照らして判断してよいかどうかが論点とされている。
(8) 解消金請求権の事前放棄については、解雇の意思表示がなされる前からの放棄は無効だが、解雇の意思表示がなされ、具体的な権利となったあとの放棄は許されるとされている。
(9) 解消金請求権と他の債権を相殺できるか、あるいは、解消金請求権を差押できるかは、解消金の性質を踏まえ政策的に判断するものとされている。
(10) 解消金の中身として、①労働契約解消の対価たる部分、②バックペイにあたる部分、③損害賠償(慰謝料)にあたる部分のどこまで含ませるかが論点とされている。
(11) 解消金の算定方法は、具体的な数値(勤続年数、給与額、その他の調整率)を前提とする算定式の基準額をもとに、解雇の不当性、労働者の帰責性の度合いを勘案して算定する方法が考えられるとされている。考慮要素について、年齢や企業規模を含ませるかどうかが論点とされている。また、労働者の帰責性に応じて減額することをどう考えるかも論点とされている。
(12) バックペイを含ませる場合、バックペイの期間は、労働者が就労意思を有している範囲で、解雇から解消金支払時までとすることを原則としてよいかが論点とされている。
(13) 集団的労使合意により算定方式に別段の定めを置くことをどう考えるかが論点とされている。
(14) 解消金請求権の行使期間は、2年程度確保する必要があるが、具体的には政策的に判断されるものとしている。

3 今後の取組

有識者による論点整理のとりまとめがなされると、解雇の金銭解決制度の導入に向けた動きが一気に進むことが考えられる。

しかし、これまでの論点整理から、①そもそも解雇無効を解消金請求権の発生原因としているが、解雇の有効性をめぐり争いがあれば決着がつくまでに現行の地位確認訴訟などと同じ負担がかかること、②バックペイや損害賠償(慰謝料)に相当する部分を含まない制度であれば、解消金請求手続と別の訴えを提起しなければ、労働者は完全に救済されないこと、③解雇の意思表示後も就労義務があるとされているのは、理屈はともかく紛争の実情に照らすと、非常に珍奇な制度設計というほかなく、労働者を混乱させることなど、様々な問題点が洗い出されたといえる。

労働は給料をもらうだけではなく、仕事を通じて多くの人と出会い、自己の能力を発展させ自己実現を行うかけがえのない場である。また、正当な権利行使をしたことを理由とする違法な報復的解雇を金銭の支払いによって簡単に終わらせることができるとすることは、公正な社会の実現という観点からも、問題があるであろう。当初は労働者側にしか請求権を認めない制度設計であるが、使用者側は使用者側にも申立権を付与するよう主張しており、いずれ使用者側にも申立権が拡大されることが強く危惧される。労働審判や地位確認訴訟における現行の解決水準にも悪影響を与えかねない。解雇の金銭解決制度は、たとえ労働者側にしか請求権が与えられない体裁をとっていても、反対していく必要がある。

Uber Eats (ウーバーイーツ)の 労働問題

弁護士 加苅  匠

 「UBER EATS」とロゴの入った四角い黒と緑の大きなバッグを背負って自転車を走らせている人々を見かけたことはないでしょうか。彼らは、米配車大手ウーバー・テクノロジーズが手掛ける料理配達サービス「Uber Eats(ウーバーイーツ)」の配達員です。

Uber Eatsとは、スマートフォンのアプリを利用して、近くのレストラン等から料理を注文することができるサービスです。注文した料理は、自宅など指定した住所へ配達してくれます。

いわゆる「出前」サービスとは、注文した料理の配達をレストラン等の従業員ではなく、「Uber(ウーバー)」という仲介者(シェアリングエコノミー:インターネット上のウェブサイトを介して、相手方に特定の労務やサービスを提供するサービス)を介して集められた配達員が行う点で大きく異なっています。利用者から注文が入ると、ウーバーイーツはアプリを介して注文の入った店の近くにいる登録配達員に対して、店と配達先を示して配達を依頼し、配達員がこの依頼に応じれば業務が発生するという仕組みで、時間や場所に縛られない新しい働き方として注目を集めています。一方、配達員とウーバーは直接的な雇用関係になく、ウーバーも配達員を請負契約の個人事業主として扱っています。そのため、配達中に交通事故に巻き込まれても労災保険は適用されず、医療費は自己負担、休業補償も出ないなど、働く人に対する保障が存在しないのが現状です。

はたしてウーバーイーツの配達員に労働者性は認められないのでしょうか。配達員の実態をみますと、ウーバーイーツからの配達依頼に対して応答率が一定の率( %前後といわれている)を下回るとアプリが利用停止又は自動登録抹消されてしまうため、実際上配達の依頼に対する諾否の自由はほとんどありません。配達物や配達先、配達までの時間など、仕事の内容の特定や進め方は全てウーバーイーツが決定し、配達員はそれに従わなければなりません。当然、依頼を受けた後は、時間的・場所的拘束力を受けます。また、報酬についても、固定単価に加えて配達距離に応じて一律に増額されるなど、ウーバーイーツがあらかじめ一律的に決定しています。配達人がウーバーや顧客(レストラン等)と報酬や配達料金について交渉することはできません。

以上のような実態から、ウーバーイーツ配達員は個人事業主ということはできず、労働者性が認められる可能性は十分あるのではないかと思われます。実際、諸外国でもウーバーの下で働く就労者の労働者性が大きな社会問題となっており、フランスでは2016年にウーバーのようにアプリで仕事の仲介を行う企業に対して直接的な雇用関係がなくても労災保険や職業訓練の費用分担、団体交渉に応じることを定めた法律を制定するなど、一定範囲において労働者性を認めたり、労働者類似の法的保護を与えることが試みられています。

なお、民法協研究会の一つである中小零細事業主のための独禁法研究会では、ウーバーイーツの配達員をはじめとした「雇用によらない働き方」で働く人々の保護の在り方について研究しております。雇用によらない働き方に関してトラブルがありましたら、お気軽にご相談ください。

ワークルール教育推進法の成立に向けて

弁護士 清水 亮宏

 電通の過労死事件等をきっかけに、若者の中で働き方に対する関心が高まっています。しかし、ワークルールに関する知識や、トラブルに直面した場合の対処法が十分に浸透しておらず、職場で何か困ったことがあったとしても、労働組合などに相談せずに泣き寝入りしてしまう人がほとんどという状況です。基本的なワークルールの知識のみならず、問題が生じたときの解決手段や労働組合の役割を含めた実践的なワークルール教育を学生が受けられる環境を作らなければなりません。

さて、ワークルール教育推進法が国会に提出される見通しであるとの報道が2017年末頃からなされるようになりました。ワークルール教育推進法は、労働法の知識や活用法に関する教育を推進するための法律です。超党派の国会議員による非正規雇用対策議員連盟が2016年にワークルール教育推進法案検討チームを結成し、法案提出を目指してきました。2018年2月には、ワークルール教育推進法の制定を求める院内集会が開催され(筆者も参加・発言してきました。)、国会議員や経営者団体なども含めた参加者間で、早期の法案提出を目指すことを確認しました。また、働き方改革関連法の成立に際しても、「多様な就業形態が増加する中で、経営者あるいは労働者自らが労働法制や各種ルールについて知ることは大変重要であることを踏まえ、ワークルール教育の推進を図ること。」との附帯決議がなされました(附帯決議41項)。

しかし、残念ながら、現段階では、ワークルール教育推進法が国会に提出されるには至っておりません。法案の提出と成立には、世論の力と私たちの運動が欠かせません。
ぜひ、ワークルール教育に関心をお寄せいただき、情報発信や学習会の開催等を通じてワークルール教育推進法の制定に向けた運動を盛り上げていただければ幸いです。

なお、各地の弁護士会ではワークルール教育の講師派遣を行っています。会員弁護士の多くが所属している大阪弁護士会でも講師派遣を行なっているほか、労働法出張授業PTを立ち上げて教材を作成するなどの取組みも始めています。興味のある方はぜひ筆者までご連絡ください。