民主法律時報

2019年4月号

第2回労働相談懇談会 長時間労働と36協定について学習

おおさか労働相談センター事務局次長 宮崎  徹

2019年2月22日(金)午後6時30分より、国労大阪会館で今期2回目となる労働相談懇談会が開催されました。当日は6つの産別組織から15名、5つの地域組織から16名の組合員が参加、弁護士や研究者などを含めると合計45名の参加で、会場はほぼ満席となりました。安倍「働き方改革」への関心の高さがうかがえます。

冒頭、川辺所長は「職場から『安倍働き方改革』を跳ね返すため、内容をしっかり学習し、利用できる点と絶対阻止すべき改悪事項を理解しよう」とあいさつ。

最初に、清水亮宏弁護士から直近の労働事件の判例や地労委命令について報告があり、泉佐野りんくう総合医療センターで働く看護師70名が訴えた残業代請求訴訟の概要、大阪医科大学の時給制で働くアルバイト職員に対して賞与が支払われていない、夏季・病気休暇が認められていないのは不合理だとして、正職員に対する賞与の6割の支払いや休暇の付与などを命じた大阪高裁の判決内容、東京メトロ子会社で10年前後働く契約社員に対する待遇格差は違法として、退職金や手当の差額について賠償を命じた東京高裁の判決内容などについての説明がありました。

続く学習会では、講師の須井康雄弁護士が「長時間労働と36協定について」分かりやすい資料を使いながら、安倍「働き方改革」によって労働と労働時間規制がどのように変わるのか、留意点はどこにあるのかなど要点をしぼって講演され、参加者は熱心に聞き入っていました。

労働基準法では36協定をはじめ労働時間に関する多くの事項について、労働者代表との協定が必要とされており、この労働者代表の選出を適正に行わせることが重要です。労働組合が過半数を組織していれば、労働組合の代表者が協定を結ぶ当事者となりますが、過半数を下回っている場合「従業員の過半数代表」を獲得する為の活動を強化する必要があります。また、法律による労働時間の規定は最低基準であり、よりよい労働条件の確立をめざすことを念頭に置くことが大切です。

新たな36協定締結をこれまでの不十分だった協定内容を改善する機会ととらえ、いつ改訂時期が来るかをチェックしておくこと、新しく締結した協定の内容に基づいて遵守状況のチェック機能強化の具体的な対策を盛り込むこと、残業許容時間の延長、休日労働の許容に関する労使協定では「延長する業務の種類」「業務の区分」を細分化し、明確化すること、「業務の都合上やむをえない場合」などの表現は認めないという姿勢で臨むことが大事です。また、過半数代表が取れない場合、積極的に過半数代表に要求を伝え、会社と交渉するよう働きかけることが大事です。

なお、36協定の締結は義務ではないことを再認識し、労働者にとって著しく不利益な内容であれば、締結を拒否するという姿勢を明確にし、会社側に譲歩させることも可能です。

こうした点を学べた今回の学習会は、非常にタイムリーで有意義な内容であり、講演後の質問時間でも会場から多くの質問や事例が出されていて、参加者にとっても満足する労働相談懇談会でした。

アルバイト職員への賞与の不支給は違法――大阪医科薬科大20条裁判大阪高裁逆転勝利判決

弁護士 西川 大史

1 はじめに

2019年2月15日、大阪高裁第3民事部(江口とし子裁判長、大藪和男裁判官、森鍵一裁判官)は、大阪医科薬科大労働契約法20条裁判について、一審大阪地裁の敗訴判決を取り消し、アルバイト職員と正職員との間の賞与・夏期休暇・私傷病休職中の給与保障に関する労働条件の相違を不合理とし、大学に対し約109万円の損害賠償を命じる逆転勝利判決を言い渡しました。

全国各地で20条裁判が闘われていますが、ハマキョウレックス事件、長澤運輸事件の最高裁判決後、賞与の相違の不合理性を認めた判決は初めてであり、マスコミでも報道され、ネット上でも大きな話題となっています。

2 事案の概要

原告は、2013年1月から2016年3月まで、大学の薬理学教室で、教室秘書(アルバイト職員)として勤務してきました。各研究室には、1~2名の教室秘書(正職員、契約職員、アルバイト職員等)が配置されており、原告と他の研究室の正職員の秘書の職務内容は同じでした。

しかし、原告の給与は正社員に比べて低く、賞与もありません。年収にすると、新規採用の正職員と比較しても2倍近くの格差がありました。また、アルバイト職員には夏季特別休暇もありません。私傷病によって欠勤した場合には、正社員には6ヶ月間は賃金全額が支払われ、その後も休職給が支払われるのに対して、アルバイト職員にはこのような補償もありません。

3 第一審の不当判決

大阪地裁(内藤裕之裁判長)は、原告と事務系正職員全体を比較すると、職務内容などが大きく異なっており、アルバイト職員にも正職員への登用試験制度があり能力や努力で労働条件の相違の克服が可能であること、年収55%というと相違の程度は一定の範囲に収まっていること、長期雇用のインセンティブなどを理由に、労働条件の不合理な相違とはいえないとして、原告の請求を全面的に棄却しました。

4 画期的な高裁判決

高裁判決も、比較対象者については、大学側が主張するとおり、事務系正職員全体を比較対象としたのですが、賞与・夏期休暇・私傷病休職中の給与保障に関する労働条件の相違を不合理と判断しました。

高裁判決は、賞与の趣旨について、正職員に一律支給されていることから、大学に在籍して就労したことへの対価であるとし、同じく有期雇用の契約社員には正職員の8割の賞与が支給されていることから、長期雇用のインセンティブには疑問があるとして、アルバイト職員に賞与を一切支給しないことは不合理であり、正職員の6割の賞与の支給を命じました。正職員の6割とはいえ、賞与を支給すべきと命じたことは、賞与の有無が非正規労働者と正規労働者の所得格差の大きな要因になっている現状からすると大きな意義があり、非正規労働者への影響は大きいものです。

また、高裁判決は、アルバイト職員に夏期休暇を付与しないこと、私傷病休職の給与保障がないことも不合理としました。郵政の 条裁判でも同様の判断がなされており、確固たる司法判断となったといえるのではないでしょうか。

もっとも、高裁判決も、基本給については、正職員とアルバイト職員では求められる能力に相違があるとして、不合理な相違とはいえないとしました。

5 最高裁での闘いに向けて

高裁判決が、比較対象者を事務系正職員全体とした点や、基本給について不合理な相違としないことなど不満な点もあります。しかし、地裁判決を明確に否定し、労契法 条の趣旨、有期雇用労働者が等しく就労してきた実態やその思いを正面から受け止め、賞与等の相違の不合理性を認めた点は画期的であり高く評価できるものです。

しかも、この判決の数週間前には、郵政西日本20条裁判において、大阪高裁が、契約期間が通算して5年を超える期間雇用社員に限って格差が違法であるという特異な判断を示しました。仮に、郵政西日本事件のような判決がまかり通れば、この事件の原告は5年を超えて勤務していないため、救済されないことになるのですが、判決が郵政西日本事件のような特異な判断をしなかったことに安堵しています。

大学側が最高裁に上告・上告受理申立をしたため、原告も上告受理申立をしました。闘いはまだまだ続きます。高裁判決の維持、さらなる前進のために全力を尽くします。今後ともご支援くださいますよう宜しくお願い申し上げます。

(弁護団は、鎌田幸夫、河村学、谷真介各弁護士と西川)

全港湾阪神支部・日検事件 ~派遣先の使用者性を否定する不当命令

弁護士 西川 大史

1 はじめに

全港湾阪神支部は、一般社団法人日本貨物検数協会(日検)による団体交渉拒否について不当労働行為救済申立を行いましたが、府労委は、2019年2月12日、組合の申立を棄却しました。

2 事実の経過

日検は、港湾物流において検数等の事業を営む社団法人です。検数業務は、その専門性ゆえに、日検などの4協会と、4協会に指定された事業体の労働者でなければ行うことができません。

日検の指定事業体の一つである日興サービス株式会社の従業員は、日検名古屋支部の職員からの直接の指揮命令の下、検数業務を行ってきました。日興サービスの従業員の就労実態は、派遣労働でした。なお、府労委の調査・求釈明で、日検と日興サービスでは業務委託契約を締結していたことが明らかとなりました。日検は偽装請負の事実を隠してきたのです。

組合は、労働条件の改善や長時間労働の是正を求めるなど積極的な組合活動を続けてきたのですが、日検・日興サービスは組合を嫌悪し、残業差別、配転などの不当労働行為を繰り返しました。そのため、組合は、2016年3月に、愛知県労働委員会に救済申立をしたところ、日検から和解による解決の申出があり、2016年3月23日、「指定事業体からの職員採用に関しては、平成28年度から平成30年度まで、毎年度約120名の採用を実施するよう努力する」との確認書を取り交わすことになり、救済申立てを取り下げました。

組合は、確認書に基づき、日興サービスの従業員である組合員について、日検で直接雇用するよう団体交渉を申し入れました。しかし、日検は、団体交渉に応じるべき立場にはないとして、組合との確認を反故にして、団体交渉を拒否したのでした。

組合は、日検の団交拒否が不当労働行為であるとして、府労委に救済申立をしました。争点は、派遣先である日検が労働組合法7条の「使用者」に該当するかであり、①確認書の存在と、②偽装請負の申込みなしによって、近い将来に雇用契約が成立する可能性が現実的かつ具体的に存するといえるかです。

3 確認書について

府労委は、確認書は組合員を無条件で転籍させることまで認めたものではなく、職員採用について努力することが確認されているにすぎないとして使用者性を否定しました。

府労委の判断はあまりにも形式的であり、受け入れることはできません。組合と日検では、指定事業体からの職員採用に関して文書まで確認しています。しかも、この確認書は、日検からの申出により作成されたのです。にもかかわらず、団体交渉に応じる必要がないというのであれば、確認書の意味がなく、派遣労働者の救済が図られません。

4 偽装請負の申込みなしについて

府労委は、偽装請負であったとしても、組合からの団交申入は派遣法40条の6が定める申込みなしに対する組合員の承諾にはあたらないと判断しました。なお、日検は、派遣契約に切り替えるにあたって、労働者の同意を得ておらず、労働局から指導されていたのですが、それは手続の不備についての是正を求められたに過ぎないと判断しています。

偽装請負の申込みなしに対する承諾についての判断も、改正派遣法の趣旨に沿わないものです。しかも、日検は府労委からの求釈明にも応じることを拒んで偽装請負を隠そうとしていたのですが、これを府労委が何ら問題視していないところにも怒りが込み上げてきます。

5 中労委での逆転勝利を!

組合は、中労委に再審査申立をしました。府労委命令のような判断がまかり通るのであれば、派遣労働者の救済を図ることができません。改正労働者派遣法も骨抜きにされてしまい、申込みなし制度も絵に描いた餅になってしまいます。
必ず中労委で逆転できるよう、一層の奮闘を誓います。

(弁護団は、坂田宗彦、増田尚、冨田真平各弁護士と西川)

長時間労働で適応障害発症 高校教諭が大阪府を提訴

弁護士 田中  俊

1 本事件の提訴とその後の反響

2019年2月25日、大阪府立高校の教員である西本武史さんが、授業準備や部活指導などで長時間労働を強いられた結果、適応障害を発症して一時休職を余儀なくされたとして、大阪府に対し、230万円の損害賠償を請求する訴訟を提訴した。

現役教諭が過労問題で国賠法に基づき自治体の責任を求めて提訴することは極めて異例のことであり、しかも記者会見で、原告が実名および顔を隠すことなく取材に応じたこともあって、マスコミは、テレビ、新聞等で大きく報道した。また、報道を見てこの事件のことを知った方々からも支持する声が、私の元にも多数届いた。法律上、無制限での時間外労働が認められ、長時間労働を強いられている教員の労働実態に疑問を持ち、その改善を求める声が、教育現場で根強いことが伺える。実際、この提訴を受けて、2019年3月5日、大阪府立高等学校教職員組合(府高教)は、本件提訴に連帯する旨の声明を出している。

2 本事件の概要

(1) 西本さんの職務内容
西本さんは、民間企業で勤務後、非常勤講師を経て2012年に大阪府立高校の教員として採用され、現在、2016年からは大阪府立山田高校に教員(社会科)として赴任して以降、2017年度は、世界史の教科担当、1年生のクラス担任、生活指導部の担当、国際交流委員会の責任者、ラグビー部顧問(監督)等の校務を担当していた。

(2) 精神症状の顕在化
2017年7月21日、西本さんは、「不安感・イライラ・仕事のことが頭から離れられない」などの精神症状が顕在化し、クリニックで慢性疲労症候群と診断された。

実際、西本さんは、クリニックに行く少し前に、校長に対し、「不謹慎かもしれませんが、電通の社員よりも働いています。いつか本当に過労死するのではないかと考えると怖いです。体も精神もボロボロです。」「成績も授業も間に合わない。オーストラリアに行く前に死んでしまう。」との内容のSOSを訴えるメールを送っていた。

(3) 校長らの対応
西本さんは、国際交流委員会の責任者として、同月25日から生徒を語学研修にオーストラリアに引率指導することになっていたが、その前日の24日に慢性疲労症候群との診断結果が記載された診断書を校長に提出した。校長らは、診断書を撤回しなければオーストラリアには行かせることはできないと言って、診断書の撤回を求めた。西本さんは、責任感からオーストラリアには今更行かないわけにはいかないので、校長と一緒にクリニックに行って診断書を返却した。

その後、9月19日、西本さんが作成した人事調書の中に、「慢性疲労症候群(1ヶ月就労不可の診断書が出たが返却して勤務を続けた)」との記載があったことを校長らは問題視し、「過労による慢性疲労症候群」との記載に書き換えることを強要した。西本さんは、しぶしぶ書き換えに応じた。

(4) 休業へ
9月25日、西本さんは、クリニックから3ヶ月程度の自宅療養が必要との診断を受けた。その後、西本さんは、勤務困難であるとして2度にわたって合計約5ヶ月間休業した。

なお、西本さんは、同月29日には、別のクリニックから適応障害の診断を受けている。
現在は、症状は寛解し、様子をみながら学校に復帰している。

(5) 長時間労働の実態
2017年度には、前述したように、西本さんの校務は多岐に亘るようになり、適応障害を発症した2017年7月中旬の前6ヶ月の時間外勤務は、以下のとおりであった。

発症前1ヶ月目 、勤務時間286時間57分 時間外勤務126時間57分
同 2ヶ月目、勤務時間323時間37分 時間外勤務155時間37分
同 3ヶ月目、勤務時間277時間24分 時間外勤務117時間24分
同 4ヶ月目、勤務時間260時間08分 時間外勤務103時間13分
同 5ヶ月目、勤務時間231時間26分 時間外勤務57時間43分
同 6ヶ月目、勤務時間254時間07分 時間外勤務86時間07分

なお、西本さんが自宅に持ち帰って行った授業準備等については、時間数には入っていない。
また、校務の処理のため休日出勤も日常的になされていた。特に本件発症前の5月29日からの概ね1ヶ月は連続勤務となっていた。

西本さんの時間外労働時間は、地方公務員労働補償基金の精神障害発症についての認定基準である「精神疾患等の公務災害の認定について」及び厚生労働省の認定基準である「心理的負荷による精神障害」の認定基準に該当するものである。

3 大阪府の責任=安全配慮義務違反

(1) 給特法の存在
長時間労働については、公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(以下、「給特法」という)によって、労働基準法第37条の適用を排除され、時間外勤務手当や休日勤務手当を支給しない代わりに、給料月額の4%相当を支給することが定められている。その趣旨は、教育職員の職務執行の成果は時間等で計測できず、その自主性、創造性に基づく職務執行が期待されているという勤務の特殊性を理由とする。

この点を正面に据えて争った事案としては、平成16年に京都地裁に提訴された事件がある。この事件は、最高裁まで争われたが、原告の敗訴で終わっている。本件訴訟は、この京都の事件と異なり給特法の違憲性や違法性について争う法律構成は取っていない。それは勝訴判決を取ることが重要であるという訴訟戦術的理由と教職員の時間外労働の問題を社会的に警鐘するには取り敢えずこれで十分であると考えたからに他ならない。

(2) 安全配慮義務違反
具体的な安全配慮義務の違反の理由としては、大阪府は、国家賠償法第1条の注意義務として、公務員が職務を遂行する公務の管理にあたって、公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮する義務を負っている(最高裁昭和5 0年2月25日判決)。

本件は、校長が、国家賠償法上の代理監督者、安全配慮義務上の履行補助者に該当するところ、西本さんに対する常軌を逸した長時間勤務を現認しており、また西本さんの勤務時間について校務文書をもって認識あるいは認識し得たにもかかわらず、勤務時間並びに勤務内容を軽減・是正する措置をとらず、その結果、適応障害の発症に至ったことを理由として、生じた損害に対して、国賠法1条(注意義務懈怠)並びに安全配慮義務違反(民法415条)の責任を追及するものである。

 今後、弁護団は、訴訟の中で、西本さんの長時間労働の実態を明らかにしていく方針である。争点としては、1.適応障害の発症時期、2.学校の安全配慮義務違反の有無、3.長時間労働の事実認定などが考えられる。

4月23日(火)13時15分から第1回口頭弁論が予定されている。弁護団は、引き続き募集しているので、意欲と興味のある方は当職まで連絡をください。連絡先は、shun.t@evis-l-a.com。

(弁護団は、松丸正、田中俊、佐野史佳)

時間外手当請求事件での出退勤の時間をどう特定するか―― グーグルマップタイムラインの活用

弁護士 小林 保夫

1 正確な労働時間の把握のむずかしさ

時間外手当の請求にあたって、労働時間をどう把握するか、出退勤の正確な時間をどう把握するかは、タイムカードが備え付けられていない場合は、容易でない。とりわけ、中小企業の場合は、使用者の善意・悪意は別として、タイムカードが備え付けられていないことが多く、そのため労働時間の把握が難しく、未払時間外手当の請求に難渋することになる。

2 依頼者の就労状況

私もまさにこのような事例について時間外手当の請求を依頼された。

依頼者は、ダンプカーで砕石や砂などを、採石場からコンクリートの製造工場に運送する事業を経営する小企業に雇用されて働いた。しかし、使用者は近代的な労使関係のありかたに疎く、きわめて悪質で、みずからの親族については社会保険をかけていたが、従業員については、雇用保険、労災保険、健康保険、厚生年金など一切の社会保険をかけず、かかる指摘に対しても平然としていた。

この企業においては、時間外手当を支払ったり、時間外手当の支払をめぐって争われた前例はなく、本件訴訟に至って、日給は、時間外手当を含むものであると強弁して逃れようとした。

結局依頼者は、使用者の悪質な労務管理のもとで働くことに嫌気がさして、約8ヶ月で退職した。

3 妻へのスマホによる退社時間ないし帰宅時間の送信

この企業にあっても、タイムカードは備え付けられていた。しかし、使用者は、従業員に対して、朝の出勤時間については打刻を求めていたが、退社時間にについては、打刻を求めず、むしろ打刻をしないように指示していた。時間外手当の請求をさせないため悪智慧を働かせたものか。

そのため、すべての従業員が、退社時間についてタイムカードを打刻することはなかった。依頼者も他の従業員にならい打刻をしていなかった。

しかし、退職後に時間外手当を請求することを思い立った依頼者は、退職する直前約1ヶ月については退社時間についてもタイムカードを打刻し、これをひそかにコピーして保管した。

しかし、後に時間外手当の請求を行うについて、約7ヶ月については、退社時間の正確な記録はなかった。

私は、依頼者から、在職していた約8ヶ月間にわたる未払時間外手当の請求訴訟の提起を依頼されたのであるが、出勤時間については、タイムカードの記録があったものの、退社時間については、正確な時間を裏付ける資料がなかった。

そこで、依頼者が、毎日、退社の直前ないし直後に、妻にスマホで退社時間ないし帰宅時間を送信していた記録を残していたことから、この記録に基づいて退社時間を推定し、時間外手当を算出することにした。

この依頼者が、約8ヶ月間にわたり、ほとんど毎日欠かすことなく妻に退社時間ないし帰宅時間を送信していたのは希有な例ではないにしても、きわめて有益な習慣であった。

時間外手当請求事件の前例では、このような記録も有力な資料とされているが、退社時間を正確に特定するにはいたらないことから、裁判上の和解を余儀なくされ、あるいは判決においても相当な減額を余儀なくされるおそれは免れないだろう。

4 グーグルマップのタイムラインの活用

私たちは、訴訟提起にあたっては、出勤時間についてはタイムカードの記載を、退社時間についてはスマホの記録を踏まえて時間外手当の算出をすることを余儀なくされた。

しかし、訴訟の途中に、インターネットで、出退勤時間の立証についてグーグルマップのタイムラインの記録を活用することもありうる旨の示唆に出会ったので、依頼者に尋ねたところ、自分も気がつかないまま早くから自分のスマホのタイムラインを作動させていたことが明らかになった。

そこには、依頼者の在職期間のすべてにわたり、出勤時間、退社時間を含む正確な行動記録が残されていたのである。

そこで、 私たちは、グーグルマップのタイムラインの記録により依頼者の正確な出勤時間、退社時間を把握することができ、あらためて正確な時間外手当を算出し直し、証拠として提出することができた。

ちなみに、これまで時間外手当をめぐる案件を100数十件処理してきたという担当裁判官(大阪地裁民事5部)も、このようなタイムラインの記録に基づく算出事例を扱ったことはないとのことであった。

裁判官からは、在社していた時間のすべてが労働時間にあたるかどうかについての指摘があったが、出退勤時間についての疑義はなかった。

ちなみに、裁判は、裁判官から執行の困難や手間についての配慮から強く和解を勧告され、依頼者の生活上の必要もあって裁判上の和解による解決を余儀なくされる結果となった。 私としては、悪質な使用者に対する付加金の制裁やグーグルマップのタイムラインについての証拠方法としての判断を得られない不満を残したが、余儀ない対応であった。

森岡孝二先生追悼のつどい、 盛大に開かれる

弁護士 岩城  穣

 2018年8月1日、関西大学名誉教授で過労死問題の研究と救済・予防に巨大な足跡を遺された森岡孝二先生が急逝された。

当初はただ茫然と立ちすくむしかなかった私たちだったが、同年9月3日、森岡先生と関わりのあった有志の人たちに声をかけて追悼実行委員会を発足させ、①「追悼のつどい」の開催に向けた準備と②追悼記念誌の製作を開始した。

 追悼のつどいは2019年2月23日、「シティプラザ大阪」で開かれた。「旬の間」での第1部の追悼レセプションは、大阪過労死家族の会代表の小池江利さん、弁護士の清水亮宏さんの司会のもと、青木圭介さん(京都橘大学名誉教授)の心のこもった開会あいさつ、参加者全員による黙祷、森岡先生を振り返る20分間のビデオ上映に続いて、毎日新聞新潟支局長の東海林智さんが感動的な記念講演をしてくださった。

続いて、森岡先生が関わってきた主な団体や取り組みで共に活動した、10人の方々によるパネルディスカッションを、私がコーディネーターとなって行った。
(1)川人博(過労死弁護団全国連絡会議幹事長)
(2)寺西笑子(全国過労死を考える家族の会代表)
(3)村山誠(厚生労働省労働政策担当参事官)
(4)黒田兼一(過労死防止学会代表幹事)
(5)松丸正(大阪過労死問題連絡会)
(6)阪口徳雄(元株主オンブズマン事務局長)
(7)中谷武雄(基礎経済科学研究所理事長)
(8)大口耕吉郎(全大阪生活と健康を守る会連合会会長)
(9)川西玲子(NPO法人働き方ASU-NET副代表)
(10)森岡真史(森岡先生のご子息で立命館大学国際関係学部教授)

これらの錚々たる方々が、森岡先生の描いた未来はどのようなものだったか、私たちは何を引き継ぐかについて語ってくれた。時間の制約から、お一人5分程度のご報告であったが、それだけに大変濃密で感動的なものだった。特に最後の、森岡先生のご子息でもある森岡真史さんの発言は大きな感動を呼んだ。
最後に、私が閉会あいさつをさせていただいた。

第1部の参加者は332人にのぼった。全国からこれだけの人たちが集まり、森岡先生のこれまでの道のりと目指したものを共有し合えたことは、何よりも森岡先生への最大のはなむけになったと思う。また、森岡先生の奥様をはじめご家族、親戚の皆さんが多数参加してくださったことも、私たちにとって嬉しいことであった。

 続いて隣の「燦の間」で行われた、第2部の追悼レセプションにも205人の参加があった。全国過労死家族の会代表の寺西笑子さんと私の司会のもと、滋賀大学名誉教授の成瀬龍夫さんが献杯あいさつ。その後食事をしながらの歓談の後、①衆議院議員で「過労死防止を考える議員連盟」会長代行の泉健太さん、②連合労働局長の村上陽子さん、③全労連副議長の橋口紀塩さん、④全労協事務局長の中岡基明さん、⑤わざわざ韓国からお越しくださった韓国過労死予防センター理事長のイム・サンヒョクさん(通訳は呉民淑(オ・ミンスク)さん)、⑥兵庫過労死家族の会の西垣迪世さん、⑦NPO法人POSSE代表の今野晴貴さん、MBSディレクターの奥田雅治さんが次々と心のこもったスピーチをしてくださった。

次に、森岡先生の娘婿で、全盲の落語家である桂福点さんが「孝二おじいちゃんの思い出」と題して、紙芝居も使いながら楽しい落語を披露してくださった。

スピーチの後半では、①民法協会長の萬井隆令先生、②金沢大学名誉教授の伍賀一道先生、③関西大学の森岡ゼミ卒業生で現在は高校教員をしている鳥羽厚史さん、④経済理論学会の八木紀一郎先生、最後に⑤和光大学教授の竹信三恵子先生が次々と登場した。

続いて、上出恭子弁護士の音頭で、参加者全員で「We shall overcome」を歌った。第2部最後の閉会あいさつは、龍谷大学名誉教授の脇田滋先生が締めてくださった。

 この日参加者に配布された追悼記念誌「森岡孝二の描いた未来 私たちは何を引き継ぐか」(全148ページ)は、合計116人に及ぶ方々の追悼文の、その一つひとつが森岡先生のあゆみとお人柄の記録となっている。記念誌の末尾には、森岡先生のご経歴、膨大な研究業績や著作、NPO法人働き方ASU-NETのホームページに連載した348に及ぶエッセイのタイトル一覧、森岡先生の活動を紹介した新聞記事、思い出の写真などを、不十分ではあるがまとめることができた。この冊子は、残された私たちにとって、またこれから働き方や日本の企業社会のあり方を考えたいと思う人たちが森岡先生をひもとく上で、大きな資料的価値があると思う。なお、この記念誌は若干の余部があるので、1冊1000円でお分けしています。申し込みはいわき総合法律事務所(06-6364-3300)まで。

 また、同じくこの日、森岡先生が構想していた新著「雇用身分社会の出現と労働時間 過労死を生む現代日本の病巣」が、桜井書店から発刊された。

森岡先生がパソコンに残していた原稿などのご提供をご遺族から受け、あとがきを森岡真史さんが書かれた、文字どおり森岡先生の遺著である。死してなお本を遺すというのはそうできることではない。最後の最後まで森岡先生らしい締めくくり方だと思う。

 森岡先生のご遺族からのご報告によれば、森岡先生が75歳の誕生日を迎えるはずであった3月23日、森岡先生の遺骨の一部を、森岡先生が愛してやまなかった小豆島の海に散骨したとのことである。森岡先生のご冥福をお祈りするとともに、先生の遺志を引き継いで、多くの方々と力を合わせて進んでいきたい。

2019年第2回新人学習会のご報告

弁護士 西川 翔大

1 第2回新人学習会の概要
2019年3月27日、大阪弁護士会館1205号室において、京都第一法律事務所の渡辺輝人弁護士を講師にお招きして「労働時間法制と割増賃金請求実務」というテーマで第2回新人学習会が開催されました。

渡辺弁護士は、労働者側で労働事件に多数関与し、残業代計算ソフト「給与第一」を開発し、最高裁も使用を推奨する「きょうとソフト」の開発にも大きく寄与されるなど残業代請求事件実務で大変ご活躍され、最近では「残業代請求の理論と実務」という著書も出版されていることから、今回の勉強会は新人弁護士や司法修習生だけでなく、経験のある弁護士や労働組合、事務局の方々など総勢24名もの方々に参加していただき、注目の高さが伺われました。

2 労働時間と立証方法について
まず、労基法上の「労働時間」に関する最高裁(三菱重工長崎造船所事件(最判平成12年3月9日))の判断基準を確認した上で、具体的に労働時間該当性が争われた裁判例を複数検討しました。現時点では、出張のための休日中の移動時間や持ち帰り残業時間は労働時間該当性が否定される傾向にあるものの、渡辺先生の裁判例への疑問点や見解を受けて、今後争う余地が十分にあるように感じました。

また、「労働時間」の立証方法については、①記録の対象となる時間の労働時間近接性、②記録の正確性という2つの視点を軸に証拠の分類を行った上で、類型的な証拠の信用性を緻密に検討するものであり、今後の立証活動に参考になるものでした。また、決まりきった証拠はないという前提のもと、粘り強く証拠の収集や分析を続けることの重要性も学びました。

3 残業代の計算・固定残業代について
次に、割増賃金請求の計算式、月給制の賃金単価の算出方法や、請負制(歩合給)賃金の賃金単価の算出方法等、割増賃金請求事案に対応するために必要な知識を整理していただきました。賃金の種類をきちんと把握し、計算方法を概念的に身につけることの重要性を説かれました。

さらに、固定残業代については、制度の由来から従来の裁判例や最高裁判決、学説の状況に至るまで詳細な説明がなされました。賃金の性質の見解の対立を踏まえて、現在の固定残業代事件の実務が混乱している要因を分析されました。

4 終わりに
今回の渡辺先生による講義は、残業代請求実務のいろはを余すことなくお伝えいただき、新人弁護士にとっては残業代請求事案に関するこれ以上ない学習会となりました。民法協では、毎月各種の研究会が実施され、日々の業務にも大変参考になる議論がなされておりますので、今後も是非各種研究会にお越し下さい。

ブラック企業対策! 労働判例研究ゼミ

弁護士 足立 敦史

1 2019年3月のブラック企業対策! 労働判例研究ゼミ
2019年3月28日18時30分から、民法協事務所でブラック企業対策! 労働判例研究ゼミが開催されました。労働組合の方や会員弁護士にご参加いただきました。今回のテーマは「休職と復職(特にリハビリ出勤の点について)」です。

2 検討した判例・裁判例
まず、休職と復職の前提知識、特に復職の要件である「治癒」=(休職事由の消滅)該当性の判断基準について検討しました。

その後、NHK名古屋放送局事件(名古屋高判平成30年6月26日 労判1189号 頁)について、筆者から報告させていただきました。テスト出局(いわゆるリハビリ出勤)中は、期間によって無給であるとする就業規則があったものの、テスト出局中の労務は労基法上の「労働」に当たるとして、最低賃金相当額は支払われるべきだと示された裁判例です。リハビリ出勤の対価は、最低賃金では労務対償性を欠くため、予め業務内容に応じて賃金額を規定しておくことが重要であると確認されました。

続いて、西川翔大弁護士から、東京電力パワーグリッド事件(東京地判平成29年11月30日 労判1189号 頁)について報告いただきました。労働者がうつ病であることを認めず、リワークプログラム(うつ病による休業からの復職を目的とした医療機関のリハビリプログラム)への出席に積極的でなかった等の理由から、休職期間満了時に「治癒」したと認められなかった裁判例です。裁判所は休職事由の消滅の判断にリワークプログラムへの出席を重視していることから、うつ病であることを否定することに固執しすぎても労働者が救済されない場合があることを学びました。

最後に、清水亮宏弁護士から、綜企画設計事件(東京地判平成28年9月28日 労判1189号 頁)について報告いただきました。リハビリ出勤後に休職事由が消滅したかどうかを判断するに当たっては、従前の職務を通常程度に行うことができるかのみならず、相当期間内に作業遂行能力が通常の業務を遂行できる程度に回復すると見込めるかどうかの検討を要すると判断した裁判例です。本件では、使用者からの通知の意味も争われ、休職期間の満了による退職なのか解雇なのかは、就業規則の定め方次第であることも確認されました。

本日のゼミでは、参加者から、リハビリ出勤中の賃金について最低賃金では到底生活できないこと、労災給付との関係も問題になること、うつ病による休業の場合、通勤するだけでも相当な精神的負担がありうること等の意見も出て、現場の声を踏まえた有意義な議論となりました。

3  さいごに
次回のブラック企業対策! 労働判例研究ゼミは2019年6月11日(火)18時30分~@民法協事務所を予定しています。皆様のご参加をお待ちしております。

《書籍紹介》『過労死落語を知っていますか』を読んで、「落ちる」もの

弁護士 豊川 義明

 桂福車(落語家)、松井宏員(毎日新聞夕刊編集長)両氏の表題の本を読んだ。この本は、第一部が松井氏による「過労死落語」が出来るまでの由来書きである。この由来書きによって大阪を中心とする過労死裁判事件のこれまでの取組、2014年6月の過労死防止法の成立と2018年6月「働き方改革法」の成立をめぐる過労死家族の会の寺西笑子さん、平岡チエ子さん、佐戸恵美子さんらの未来のための懸命な活動、そして私も親しい笑工房の小林康二さんの活動の原点と憲法漫談のエッセンスも紹介される。松丸正、髙橋典明、岩城穣の各弁護士も登場する。

全国に先んじて大阪の地で過労死問題が取組まれたのは、1981年の『大阪急性死等労災認定連絡会』であった。故田尻俊一郎医師(西淀川社医研)や松丸、髙橋弁護士らの研究と実践的な運動体の誕生である。心臓や脳の疾患によって突然に労働者が亡くなるので、当時は急性死と言われていた。過労死家族の会の方々の過労死防止法の制定、そして安倍働かせ方改革法案に反対する、それこそ命がけの献身的な、現在の労働者と未来社会への連帯行動に対して私は深い敬意を抱いている。労働者ではない、その家族の皆さんが現在の労働社会に対し強い警鐘を鳴らされているのだ。その心、意思の深さと広さに感じることのない人はいない筈である。だから安倍首相は家族の会との面談から逃げたのである。

 第二部は桂福車さんの「エンマの願い」(作・小林康二)である。第一部に紹介のあった作家の小林康二さんと桂福車さんとの「打合せ」や「手見せ」の厳しいやりとりが紹介されているので、この創作落語は現実の寄席を聞いている様によくわかる。

閻魔の庁に過労死で亡くなった人が青鬼、赤鬼(なぜか28号とある)とやりとりをする。生者の現在を写す「浄波璃の鏡」が持ち出され過労死家族の国際活動も写しだされるとともに亡くなった人の母親(白髪となり痩せてしまった)の現在が写しだされる。母親への息子の言葉がけに思わず鬼が泣いてしまう(福車さんも演じつつ必ず泣く)。その内、エンマ大王によって過労死で亡くなった人専門の窓口に指名された赤鬼28号、青鬼31号も過労のため倒れてしまう。そこで岩鬼が大王に呼ばれ、岩鬼とその仲間が家族の会とともに戦う過労死弁護団になるという「落」語である。

桂福車さんは、落語を通じて伝えたい「過労死防止」の大切さという題名の下に、落語を通じての世の中へのメッセージの意味について、過労死などの原因や労基法など重い内容でも「落語にすると、わかりやすいので印象に残る、楽しみながら勉強にもなるはずです」、「共鳴とか感激とかは理屈でなく文化の成せる力」であるとして伝統芸能としての落語力の有用性を強調している。

確かに『エンマの願い』は、この物語りの「落ち」より以上に読む者(福車さんの声がきけるCDがないので)にエンマ大王と過労死家族の会の願いである「20??年過労死ゼロの達成にむけての運動の大切さ」を私達の肚に「落とす」のである。

※ご注文は「笑工房」まで
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