パナソニックアドバンストテクノロジー事件報告

2018年12月15日

弁護士 和田  香


1 解雇無効等請求訴訟と労災認定を求める行政訴訟

先日、社長らから「殺すぞ」、「殴ったるで」、「汚い男」、「アホ」、「人間力ゼロ」などと1時間ほどにわたり暴言を受けて適応障害を発症し、後に会社から解雇されたS氏について、解雇の無効を争う地位確認等請求訴訟の判決が大阪地裁で、適応障害の発症が労災かどうかを争う行政訴訟の控訴審判決が大阪高裁で言い渡された。

結論は、解雇無効は認められ原告勝訴(判決日2018年9月12日)、労災については第1審の大阪地裁判決(判決日2017年4月26日)に続き、業務起因性が否定され原告敗訴(判決日2018年10月12日)となった。

解雇無効については、会社がS氏の言動が懲戒解雇事由に該当することを理由に普通解雇にしたと主張したのに対し、判決では懲戒解雇事由に該当する程の言動がなかったという原告側の主張が認められた形となった。しかし、解雇処分に対する慰謝料請求等は認められず、現在、原告・被告双方が控訴中である。

2 行政訴訟判決の問題点

(1) 争点と裁判所の判断の概要
さて、今回の報告で特に問題にしたいのが、行政訴訟の判決、特に、高裁判決である。
争点は、裁判所の整理によれば、Ⅰ精神障害の発症の有無、Ⅱ発症した精神障害が休職する前に治癒していたかどうか、Ⅲ精神障害を発症していた場合、発症に業務起因性があるかどうか、である。

しかし、まず、この順番はおかしい。本来、Ⅰ→Ⅲ→Ⅱの順番に判断されるべきであろう。

それはさておき、Ⅰについて、地裁、高裁とも、S氏が社長から暴言を言われた平成19年3月下旬頃、適応障害を発病したことを認定した。

しかし、Ⅱについて、地裁も高裁も、S氏が精神科の通院を中断した平成19年11月10日若しくは遅くとも会社との和解が成立した同年 月頃までには治癒したと判断し、その後に開始した休職は平成 年3月下旬頃に発症した精神障害とは無関係であると判断した。Ⅱの論点は、非常に複雑なところに入り込むので、ここでは割愛する。

パワハラ事件全てに関連し、大問題なのはⅢである。原告は、以前社長らと面談した際も威圧されたため、今回は録音機を持って面談に臨み、峻烈な暴言や机を叩く音が1時間ほどにわたり、しっかり録音されている。話しているのは冒頭5分程度を除き、殆どが社長であり、暴言である。ところが、地裁も高裁も、社会通念上客観的に見て、精神障害を発病させるに足りる強度ではなかった、と判断した。
一体、どうして、このような判断になったのか。

(2) 録音機を持ち込む行為は「周到な計画」、暴言を受けても「内心で優位」なので発病しない!?
ア 地裁判決
まず、地裁は、Ⅲについて、社長らの暴言については、①社長らとの面談は原告の希望で設定された、②事前に出席者は知らされており、原告も録音機を持ち込むなど準備していた、③社長は以前原告と面談した際に特段強迫的な発言や人格否定をしていない、④社長の発言は原告が延々と自らの主張を述べたことに激高したもので原告の言動に原因の一端がある、⑤延々自身の主張をする原告の言動によって社長の叱責や暴言が一時のものとして沈静化しなかった一因である、⑥原告は面談後普通通りだった、⑦本件面談以外に原告の人格や人間性を否定する言動はなかった、ことを理由に社会通念上客観的にみて、精神障害を発症させるに足りる強度の精神的負荷とまではいえないとして、暴言と発症との相当因果関係を否定した。

①~⑦の事実認定については、争いがある。
事実認定の誤りについては字数の関係で省略するとして、評価の問題で、我々が絶対におかしいと控訴審で特に主張したのは、②の録音機を持ち込んだことをもって、精神的負荷が軽減されたかのような判断部分である。

イ 高裁判決
ところが、高裁判決は、地裁判決のショックを忘れる程、酷い判断をした。
すなわち、前にも上司から暴言を受けたことのあるS氏が、今回も暴言を受けるのではないかと思って録音機を持ち込んだことについて、「録音されていることを知らないA(社長)が激高し、不当な発言等を続けるのを聞き、適宜対応していたものであるから、内心では優位な立場にあった」、「Aを挑発することによって、同人が激高の余り、不当な発言等をする可能性をある程度は予期した上で、これを証拠にすることによって、その後のBとの交渉を自己にとって有利に進めるという周到な計画のもと、録音機を持参し、面談に挑んだものであると考える余地も十分にある」、と判断したのである。

S氏は、上司から暴言を受けている間、謝罪を続け、特に挑発した発言がないことは録音上も明らかである。また、「周到な計画」は国・会社側は全く立証しておらず、大阪高裁の想像に過ぎない。

大阪高裁は、この暴言のあと、S氏が精神障害を発病したことは認めている。仮に、大阪高裁の想像したとおり、S氏が自分の利益のため「周到な計画」を立てて「内心では優位」な状況で暴言を受けていたら、どうして精神障害を発病したというのであろう。明らかな不当判決である。

3 更なるご支援を宜しくお願いします
パワハラは、往々にして加害者と被害者以外がいない場所で行われる。そのため、後日加害者がパワハラを否定すると、被害者には立証の手段がなく、裁判所が「パワハラを認めるに足りる証拠はない」と判断しかねない。そのため、録音は最も重要な立証手段である。

ところが、録音をしたことで心理的強度が軽減されると判断されることになると、パワハラの被害者は泣き寝入りするほかない。

事実上多くの人にとって裁判所の判断を仰ぐ最後の機会となる高裁で、裁判官が労働者に対し穿った見方をし、パワハラの立証について上記のような考え方を持っているということは非常に危険である。
S氏は、現在上告・上告受理申立中である。何とか、高裁の誤った判断が覆るように、更なるご支援を宜しくお願い致します。

(弁護団は、村田浩治弁護士、立野嘉英弁護士、和田)