民主法律時報

またもや、 生活保護基準の引き下げ! 都市部の世帯、子どものいる世帯、母子世帯に大きな被害がおよぶ!

全大阪生活と健康を守る会連合会(大生連) 会長 大口 耕吉郎

今年から3年かけて引き下げようとしている厚生労働省案とは

安倍政権は、2013年~2015年にかけて生活保護の生活扶助基準(衣食その他の日常生活の需要を満たす扶助費)の引き下げ(最大マイナス10%、平均マイナス6.5%、マイナス670億円、戦後最大の引き下げ)、さらに、2015年には住宅扶助の削減(マイナス190億円)と冬季加算の削減(マイナス30億円)を行いました。今回の引き下げ案はこれに続くものです。

厚生労働省案では、2018年から3年かけて生活扶助費をはじめ、母子加算、児童養育加算、学習支援費などの削減を行おうとしています。

名古屋市立大学の専任講師・桜井啓太氏によると、母子加算は月額2万1000円(平均)から1万7000円に削減(マイナス69億8千万円)。減額されると生活保護を利用している母子世帯の子ども18万8千人が影響を受けます。児童養育加算は、月額1万5千円から1万円に減額(マイナス13億3千万円)されます。対象となるのは0~2歳の児童2万2305人です。学習支援(年額)は小学生3万1560円、中学生5万3400円、高校生6万1800円が大幅にカットされます(改悪案:支援はクラブ活動にかかる費用のみとする)。実施されると18万9千人の子どもに影響が出ます。

生活扶助費の削減も強行しようとしています。とくに都市部の保護世帯に狙いを定めています。桜井氏の試算によると、大阪市などの大都市部の1級地の1の生活扶助の引き下げは表のようになります。

 

2017年

2018年

30代夫婦と子(3~5歳)

14万8380円

14万4760円

40代夫婦と子2人(小学生・中学生)

18万5270円

17万6007円

40代母子と子2人(小学生・中学生)

15万5250円

14万7488円

75歳単身世帯

7万4630円

7万0899円


現実を見ないギマンに満ちた基準引き下げ

今回の引き下げ根拠は、第1・十分位の消費水準に合わせたものです。第1・十分位とは、所得階層を に分けた下位10%の所得階層です。しかし、日本の生活保護の捕捉率(生活保護を利用しなければならない世帯のうちどれだけ捕捉しているかの率)は20%未満しかありません。したがって第1・十分位の階層の中には生活保護以下の所得の人たちが多くふくまれています。この階層を「基準」にすれば、引き下げに歯止めがかからなくなるでしょう。

厚生労働省の生活保護基準部会(2017年12月14日)でも第1・十分位の単身高齢世帯の消費水準が低すぎるという意見が出ています。

今回の引き下げ案は、生活保護法第1条の「日本国憲法第25条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障」するという理念を放棄するものであり、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と定めた憲法25条を完全に否定するものです。

引き下げは、生活保護の問題だけではない

生活保護基準は1級地から3級地まであります。1級地は大阪市や堺市など、2級地は富田林市など都心部から離れた市、3級地は岬町や能勢町です。住民税非課税となる所得限度額が1級地35万円、2級地31万5千円、3級地28万円と定められています。

2013年に生活保護基準が引き下げられましたが、住民税非課税基準は引き下げられていません。これは各種制度に与える影響が大きいため、国は今のところ引き下げをストップしています。同時に生活と健康を守る会をはじめとする多くの団体の運動のがんばりによるものです。

吉永純(あつし)花園大学教授によると、もし、住民税非課税の限度額が引き下げられ、それまで非課税だった人が課税されると、医療費の自己負担限度額は3万5400円から8万円以上になり、障害児・者の居宅・通所サービス料を免除されていた人が、9300円~3万7200円以下の負担を強いられます。

最低賃金法にも影響します。最低賃金は生活保護基準と整合性を持たせると明記しています。また各種減免制度も生活保護基準を目安にしています。就学援助は引き下げられ28万人(2015年時点)の生徒が認定除外となりました。

これからの運動

2013年の生活保護基準引き下げでは、生活と健康を守る会をはじめ、全国の反貧困団体が怒りを込め、1万件以上の審査請求をおこないました。それまでの生活保護の審査請求数は2009年の約1000件が過去最大でした。現在、全国で900人以上の生活保護利用者が裁判を闘っています。昨年は裁判を支援する全国の会「いのちのとりで裁判全国アクション」が結成されました。今回の引き下げはこれまでの運動を上まわる闘いが求められています。全大阪生活と健康を守る会連合会(大生連)は多くの団体・個人と共に頑張る決意です。

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