民主法律時報

2017年12月号

石綿被害者の救済を広めるために ―― 厚労省を動かす!

弁護士 奥村 昌裕

 大阪・泉南アスベスト国賠訴訟は、平成26年10月9日の最高裁勝訴判決で全て解決したと思われている方が多いと思います。しかし、そうではありません。

最高裁判決を受けて国は、最高裁が、国が責任を負うべきだと認定した基準に合致する被害者が、国を相手に訴訟を起こせば、最高裁判決で認定した慰謝料額で和解することを約束しました。そして、最高裁判決後、大阪地裁だけでも39名が提訴し、うち33名(被害者数)の和解解決をみています。

和解基準の概要は、「昭和33年5月26日から昭和46年4月28日までの間に、局所排気装置を設置すべき石綿工場内において、石綿粉じんにばく露する作業に従事し、石綿関連疾患を発症したこと。」です。

この「石綿粉じんにばく露する作業に従事」する者は、石綿工場事業者と雇用契約をして、工場内で、石綿製品の製造にかかわっていた労働者だけではありません。最高裁判決は、石綿工場と雇用契約のない、石綿の原料を石綿工場に運送し、工場に搬入していた労働者が、石綿工場内に飛散していた石綿粉じんにばく露して病気を発症したことについて、国の責任を認めました。石綿工場の業務に不可欠な作業のために、石綿工場に出入りしている労働者について、石綿工場の事業者が雇用している労働者と同視できるとして、国が責任を負うべき労働者の範囲に含めたのです。

この判断に基づき、平成29年11月1日、和解事案では初めて、石綿原料を港でトラックに積み込み、泉南地域の石綿工場に運送・搬入していた被害者が提訴し、国が争うことなく速やかに和解が成立しました。このように石綿工場事業者と直接雇用関係のない労働者も、作業実態に基づき和解解決ができます。過去、石綿工場に石綿原料を運送していた労働者が工場内で石綿にばく露して石綿関連疾患を発症しているかもしれません。また運送業以外でも、出入りの業者で、石綿工場の業務に不可欠な作業(例えば、機械の点検・修理)をして深刻な病気を発症しているかもしれません。このような被害者にも国は和解に応じるものであり、広く周知することが必要です。

これまで弁護団は厚労省に対し、労災受給者など国が把握している被害者に積極的に広報するよう要求してきました。それに対し、国はやっと重い腰を上げ、平成29年11月に、まず全国の労災受給者に対し、上記基準で国が和解に応じて賠償金を支払うことを、個別に通知しました。12月には、じん肺管理区分の認定のある被害者にも通知されました。

もっとも、この通知は「石綿ばく露作業による労災認定等事業場一覧表」の「石綿ばく露作業状況」のうち、主に石綿・石綿製品の製造・加工(切断・穿孔等)作業に従事した被災者を抽出して送付しており、「石綿原綿又は石綿製品の運搬・倉庫内作業」などに分類される「運送業」従事者には送付されていないと思われます。石綿工場に出入りしていたか否かは、労災認定時の被災者「聴取書」等によって確認できる場合があるので、厚労省は労災記録を確認した上で、泉南型国賠対象可能性のある被災者に漏れなく個別通知すべきことはもちろんですが、私たち弁護士が、このような被害者から相談を受けた際、国の和解対象の可能性があることを相談者に伝えることが大事です。

自分たちのためだけではなく、同じ石綿被害者の全面救済を目指し約8年半にも及んだ泉南アスベスト訴訟で勝ち取った成果を、多くの被害者に利用してもらいたい。それが、原告、弁護団、支援の思いです。

テーエス運輸兵庫県労委命令取消訴訟 勝訴判決の報告

弁護士 杉島 幸生

1 事件の概要

テーエス運輸は、全国に六営業所をもつ高圧ガス配送会社です。会社は、定年となった倉敷営業所勤務の建交労テーエス支部の組合員を運転手ではなく内勤者として再雇用し収入を大幅減少させ(2012年12 月)、それによる人手不足を理由に、組合事務所のある尼崎営業所から書記長と、四日市営業所の分会長を倉敷営業所に配転しました(2013年1月)。その救済を求めた不当労働行為救済申立事件で兵庫県労委は、書記長の配転には救済命令を出したものの、定年後の内勤者としての再雇用、分会長の配転については棄却命令をだしました。その是非が争われたのが本件です。

2 兵庫県労働委員会と神戸地裁の判断

県労委の判断は、運転手として再雇用を求める権利がないから不当労働行為ではない、書記長の転勤は組合活動への影響が大きいから不当労働行為だが、分会長はそうではないとするものでした。民事上の権利性の有無、組合活動への影響の大小で判断するという不当労働行為制度の意義を理解しない不当な命令でした。組合は即座に行政訴訟を提起しましたが神戸地裁は、県労委の救済命令部分を取り消し、棄却命令部分を維持しました。労側の全面敗訴です。神戸地裁も権利性の有無、組合活動への影響力の大小を不当労働行為の判断基準としたのです。しかも神戸地裁は、倉敷と尼崎はそれほど遠距離でなく、通信技術の発達を考えれば組合活動に与える影響はそれほどではないとまで言い切ったのです。当時、再雇用された組合員と分会長は、事故の発生を理由とする下車勤務命令の効力を争う民事訴訟を提起して争っていました。本件再雇用と転勤はその最中に起こされました。この民事訴訟は、県労委での審理中に高裁で不当労働行為であったとの判決がだされています(神戸地裁では敗訴)。当然、不当労働行為意思の連続性を考慮すべきところですが、県労委も神戸地裁もこれを無視したのです。

3 高裁での逆転判決

しかし大阪高裁(2017年10月30日 判決)は違いました。建交労テーエス支部と会社の間に多数の労使紛争が生じていること、二名が訴訟の当事者であり、下車勤務命令の不当労働行為性が認定されていることから、本件でも使用者の不当労働行為意思を推認し、それを覆すに足る合理的な理由がなく、定年となった組合員を運転手として再雇用すれば倉敷営業所の人手不足も生じず配転の業務上の必要性も乏しいとして、組合員全員について不当労働行為性を認めたのです。労側の全面勝訴です。

4 本件判決の意義

本件判決の第一の意義は、権利性の有無、影響の大小で不当労働行為の成否を判断するという誤った判断枠組みを是正することができたことです。第二の意義は、実は、配転について民事訴訟(配転を無効とする仮処分決定がでたことにより配転が取り消され、損害賠償等請求として継続)で労働者側の敗訴が確定(神戸地裁の判断はこれをなぞったものでした)していたのですが、不当労働行為制度の枠組みでそれを覆すことが可能であることを示したことです。しかし、本件はこれで終わりではありません。まだ最高裁、県労委での再審理があります。労働者がその権利を守ることのなんと大変なことか。当事者組合員と建交労テーエス支部の奮闘には頭が下がります。最終的勝利までもう少し、弁護団としても組合とともに頑張っていきたいと思います。

(弁護団は、杉島幸生、中筋利朗、山室匡史)

「外国人技能実習」 に関する新しい動き

弁護士 仲尾 育哉

 外国人技能実習制度は、開発途上国に日本の技能や知識を伝える「国際貢献」を目的として、1993年から続き、2017年には、25万人に及ぶ技能実習生が日本で働いています(法務省の統計)。

しかしながら、「国際貢献」は建前にすぎず、安価な労働力を確保する手段として外国人技能実習制度を利用している実態が、国内外から批判されています。技能実習生は、実習先が決められていて事実上職場の移動ができないなど、労働者として弱い立場に立たされており、受け入れ団体や企業による賃金不払い、長時間労働、労災隠し、旅券の取り上げ、強制貯金、職場におけるパワハラ、セクハラなど様々な労働問題、人権問題が横行するともに、本国の送り出し機関への保証金の支払いなど中間搾取も指摘されてきました。

こうした中で、2016年11月18日、「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」(以下、「技能実習適正化法」といいます。)が成立し、2017年11月1日から施行されています。

技能実習適正化法の施行により(入管法改正を伴う)、新たに「技能実習3号」の在留資格が創設され、技能実習の最長期間が3年から5年になり、実習先の技能実習生の受け入れ人数の枠が広げられました。あわせて、2017年11月1日から、技能実習の対象職種が77職種に拡大され、初めての対人サービスである「介護」が追加されました。

一方、賃金不払い、長時間労働など技能実習生の劣悪な労働環境が国内外で批判されていることを踏まえて、技能実習適正化法は、技能実習制度の適正化と技能実習生の保護を掲げています。外国人技能実習機構(法務省と厚生労働省が所管する認可法人)を新設し、技能実習生の受け入れ窓口となる監理団体や受け入れ企業への監督を強化しています。監理団体は許可制、受け入れ企業は届け出制になり、監理団体や企業は、実習生ごとに報酬や労働時間を明記した実習計画を作成し、機構の認定を受けなければ、実習生の受け入れができなくなり、実習生の待遇改善のため、認定には、賃金が日本人と同等であることを示す資料の提出が義務付けられています。また、機構が認定後も監理団体や企業を実地検査し、実習計画が守られているかを調べ、計画に反していれば、許可を取り消すことも規定しています。さらに、長時間労働などの労働法上の違法行為だけではなく、外出禁止などの私生活の不当制限や、旅券の取り上げなどの人権侵害行為にも新たに罰則を設けています。

裁判・府労委闘争委員会例会報告 ――エミレーツ航空事件をテーマとして

弁護士 片山 直弥

1 はじめに
2017年10月30日、裁判・府労委闘争委員会の例会がエル・おおさかで行われました。今回は、「エミレーツ航空事件」をテーマに、個別事件の検討を行いました。

最初に、弁護団の森信雄弁護士から会社の特徴、解雇までの経緯、労働委員会・裁判での闘争内容などの詳細なご報告を頂きました。
次に、航空連スカイネットワーク大阪エミレーツ航空分会の原告から運動に主軸をおいてのご報告を頂きました。
最後に、頂いた報告内容を踏まえて、活発な議論が交わされました。

2 エミレーツ航空の特徴
事案については、民主法律時報2017年11月号(No. 539)で原告の方が執筆しました「エミレーツ航空は日本の法律を守り、3名を復職させ、労働環境の改善を!」をご覧いただければよいか、と思うのですが、例会でお聞きしていて特に印象的だったのは、「エミレーツ航空は、完全にトップダウン式の外資企業であって、日本支社単独では解決能力がない」という点です。

少し詳しく書きますと、エミレーツ航空は王族国家であるドバイに本社があり、その会長兼最高経営責任者も殿下が務めています(驚くべきことに会社内でも「会長」ではなく「殿下」と呼ばれていたようです)。そのため、さきほどは「外資企業」と書きましたが、「王族が行う国営に近い企業」というのが実情のようです。

3 上記2に由来する問題点及び闘争上の課題
エミレーツ航空の「完全なトップダウン式」や「日本の法律を守る意識が薄い姿勢」(=労働組合を軽視・敵視する姿勢)という問題は、このような企業体質に由来するのでしょう。

ただ、企業体質は、一朝一夕で改善できるものではありません。そのため、労働闘争としては、解決能力のない日本支社ではなく解決能力のある本社等を動かすためにどうするか、を考えねばなりませんでした。

そこで、労働闘争として通常は、労働委員会か裁判か、また、裁判をするにしても仮処分か訴訟か、と選択的に行うことが多いですが、本件では、「手数を増やして追い込んでいこう」という考えで、そのすべてを行い、また、運動としても国外にダイレクトに伝えられるSNS(=FacebookやTwitter)の活用まで行ったと聞いています。

4 さいごに
エミレーツ航空は、原告側ほぼ全面勝訴の一審判決を受けて控訴をしたようです。上記3のように、問題の根がとても深い事件ですので、裁判や労働委員会での活動のみならず、それ以外の運動も重要になると思います。運動のさらなる活発化のために、私自身、応援していきたいと思います。そして、よいご報告が頂けることを期待してやみません。

日本労働弁護団全国総会のご報告

弁護士 須井 康雄

2017年11月10日から2日にわたり日本労働弁護団第61回総会と60周年記念レセプションが開かれた。
1日目のシンポ、棗一郎弁護士の司会で、上田絵理弁護士(北海道)、佐々木亮弁護士(東京)、風間直樹氏(東洋経済記者)、鈴木剛氏(全国ユニオン)が登壇。

上田弁護士は、北海道新聞社と札幌弁護士会が労働法サロンを開いたところ、新聞社のLINEで普段接点のない人にも取組が広がったことを紹介。佐々木弁護士は、労働時間の適正把握を訴えて、ウサギの着ぐるみで「キロクシロ」と言って踊る動画をユーチューブで配信。労働組合以外にどう伝えるかを常に考え、社会性を感じた事件は、記者に意見を聞くとのこと。すると、違った視点で興味を示されることがあるとのこと。風間氏も消費者問題で冠婚葬祭業界の取材を弁護士にしたところ、雇用形態の問題も教えられ、記事にしたとのこと。鈴木氏は、中小企業の後継者不足問題は好機と述べる。ある農機具メーカーで役員も含めて160名が組合に加入し、暴力的なオーナーを追い出し、労組が自主管理し、増収増益を実現した例を紹介。

民法協の清水亮宏会員が大阪でのワークルールの取組を報告。ロールプレイやディスカッションを取り入れ、クラスのにぎやかな生徒に残業代を請求する役割をしてもらうなど工夫しているとのこと。

神奈川県の団員から、無期転換問題に関し、雇止めを撤回させた事例が報告。団交を重ね、労働委員会の不当労働行為救済申立(不誠実団交)、実行確保措置勧告と労働局の行政指導を活用したとのこと。

労働弁護団賞は、民法協から中村和雄会員が受賞。期間の定めなしの求人票で採用されたが、勤務開始後、有期契約とする書類に署名押印、その後、雇止めされた事案。判決(京都地裁2017年3月30日)は、無期雇用の成立を認めたうえで、有期への変更は不利益変更であり、労働者の自由な意思に基づいてされたといえる合理的理由が客観的に存在するかという観点からも判断すべきとした山梨信組事件最高裁判決の枠組みを採用し、有期への変更を否定。求人詐欺への効果的な対策になることや退職金に関する前記最高裁判決の射程を広げた点が評価。中村会員は、弁護士が当事者と一緒にビラ巻きをしたという塙悟弁護士の話を読んで、若いころは、ビラ配りの時間があれば準備書面でも書けばいいのにと思ったが、今は違う、依頼者と共に闘い、依頼者の現状を裁判所にいかに伝えるかを考える弁護士でありたいとスピーチ。

他に郵政20条東京事件とエイボン事件が受賞。郵政20条事件は、均等待遇に消極的な裁判所に風穴を開けた点を評価。比較対象となる正社員が出廷し、期間雇用社員がいかに自分たちと同じように働いていたかを証言したとのこと。
エイボン事件は、会社分割の際のいわゆる5条協議義務違反により、分割先との雇用契約の承継を否定し、エイボンとの間の地位確認を認めた事案で、会社分割の際に労働者にとって大きな武器となる判決となったことが評価。

レセプションでは、民法協の塩見卓也会員が、若手弁護士を代表してスピーチ。自分が担当したストライキの事案と労働弁護団とのかかわりを述べる。ストライキは、現在、もっと活用の機会を検討されてよい。労働弁護団の来し方と未来をつなぐ力強いメッセージだった。

2日目は、働き方改革一括法案への対応など意見交換。同法案に反対する意見書は労働弁護団のHPで公開。

日本労働弁護団は、会費月額1000円(現在)で、季刊「労働者の権利」がもらえ、MLで労働事件の相談ができる。来年の労働弁護団総会は、2018年11月16日から札幌市で開催。ぜひご参加を。

過労死連絡会シンポジウム報告

弁護士 和田 香

1 シンポジウム『過労死促進法 ~労基法改正を考える』を開催しました
大阪過労死問題連絡会では、2017年11月15日、シンポジウム『過労死促進法 ~労基法改正を考える』を開催しました。

2 基調講演
基調講演は、大阪市立大学名誉教授西谷敏先生に『「働き方改革」と労働時間・過労死問題』と題して政府が進めようとしている労基法改正案の内容の解説、改正案の問題点に始まり、日本の労働時間問題について講演頂きました。

講演は、現行の労基法は酷すぎる、改正が必要である、ということを出発点に、しかし、政府の労基法改正案では過労死さえ防げないことを確認することから始まり、日本の長時間労働を支えるものは何か、それを解決するにはどうしたらよいのかということを話して頂きました。

私が、西谷先生のご指摘でハッとしたのは、本来は人間の自由時間をいかに確保するかということも含めた広い概念である「労働時間」を過労死を基準にして決めようとしていることのおかしさについてです。働き方改革では、残業時間の上限を月100時間などとする労基法改正が盛り込まれており、それは36協定さえ結べば青天井だった残業時間に上限を設けるものとして社会的評価を受けようとしています。これについては、設定された上限では労働時間が長くなり過ぎて過労死を防ぐことができないということは、労働問題に取り組むみなさんにとっては周知のことだと思います。しかし、それは100時間では過労死は防げない、といういわば生命維持の最低ラインから考えた批判であり、じゃあ、何時間なら死なないかという議論になります。それでは、死なない程度であれば最大限働かせてよいという労働時間法制をつくることになってしまいかねません。

西谷先生は、「労働時間」とは、人間の自由時間、すなわち、ゆっくりと物事を考えたり、私的な人付き合いをしたり、自己研鑽などの時間を確保することを含めて考えるべきであるという指摘をされました。

確かに労働時間を考えるとき、本来は人間らしい生活ができる時間を元に上限を設定すべきであり、検討されなければなりません。ところが、現在は、「過労死」させなければよいと言わんばかり(実際は過労死さえ防げない改正案)、「過労死」をしないラインはどこかというせめぎ合いのような議論がなされています。

電通の高橋まつりさんの事件が公表され、それを契機に過労死・過労自殺事件の報道が多くされるようになりました。過労死問題に光が当たることは、国民の問題意識を高める上で重要なことだと思います。しかし、過労死から労働時間法制を考えるのは間違いであり、もっと大きな観点から議論すべきであるということについて西谷先生のお話を聞いて忘れていたことを思い出したような気持ちになりました。

3 労働時間の適正把握がなかったために生じた過労自死事件の報告
シンポジウムの1つのテーマである「労働時間の適正把握」がなされなかったために生じた過労自死事件について、事件を担当した立野嘉英弁護士と当事者の遺族の方から報告を頂きました。

事案は、システム会社でSEとして働いていた方が自死された事件です。会社が遺族に交付した“公式 ”な労働時間は、発病前6か月間の時間外労働時間が20時間30分から85時間30分程度と過労死ラインに満たないものでした。ところが、証拠保全等で入手した記録により実際の時間外労働時間は約131時間30分から170時間程度と、過労死ラインを優に超えたものであったことが判明しました。

適切な労働時間管理がなされなかったために過労死が生じた実例として、被災者やその家族に大きな悲劇をもたらしたことのお話を聞いて、改めて労働時間管理のあり方を“適正 ”にさせることの重要性を感じました。

4 働き方改革法案の働かせ方改悪法案
連絡会の会長である関西大学名誉教授森岡孝二先生からは、働き方改革法案が働かせ方改革法案となっており、廃案しなければならないことについて報告を頂きました。

現在、政府が進めている働き方改革法案は、残業の上限規制として過労死の労災認定基準における残業時間を上限時間に設定しています。このことなどから、今後、法案が法律として成立してしまうと過労死の労災認定や企業補償が困難になること、労働時間の間接規制としての残業代支払い義務も緩和される恐れが高く、反対世論を盛り上げる必要があることについて報告がなされました。

5 関西大学高槻ミューズキャンパスにおける過労の問題(当事者の教職員の方からのご報告)
学校という教育の現場で労基法違反行為、そして是正を求めた教職員への不当な処分が強行されているとの報告がなされました。

学校法人関西大学の初等部、中等部、高等部の教職員について、所定終業時刻が高等部では授業中になるなど、不備のある就業規則が制定されたことを契機とした問題です。

同法人は、その後、教職員の出退勤時刻を適切に把握していない、適切な時間外手当を支払っていなかったなどとして、茨木労働基準監督署から是正勧告を受け、現在は不払いとなっていた時間外勤務手当の支払いについて団体交渉が継続中とのことです。同法人では初中高の15%を超える教員が過労死ラインを超えて働いていることが分かったものの、現在でも労働時間の把握方法に不備があるという報告でした。また、この問題の中心となっていた教諭に自宅待機命令が出されるなど、問題が継続しているということです。

教育機関において、このような法律違反が堂々となされており、是正指導にも応じないということに驚くと共に、使用者側の意識の低さを改めて感じました。

6 討議
以上のような講演・報告を踏まえ、会場からは労働時間に関する意識改革の問題、労働組合のあり方について意見が出されるなどしました。

労基法をよい方向へ改正する必要があること、政府が進める労基法改正では過労死を防ぐことができないどころか、過労死を促進することになりかねないことを再確認するシンポジウムとなりました。

勉学の秋、ブラック企業対策! 労働判例研究ゼミに学ぶ

弁護士 西田 陽子

1 秋の判例ゼミ、開催!
2017年11月15日、秋のブラック企業対策! 判例ゼミが開催されました。この時期のゼミは、毎年、司法試験合格者が多く参加するので、若手弁護士一同、はりきって準備をして臨みました。
当日は3名の 期修習予定者等にご参加いただき、「退職をめぐるトラブル」をテーマに、活発な議論が交わされました。以下では、その勉強内容の一部をご紹介いたします。

2 ゼミの内容
①丸一商店事件(大阪地判平成10年10月30日労判750―29。安原弁護士担当)
使用者からの勧告を受けて労働者が「辞めさせてもらいます」と返答した件につき、解雇と判断された事例です。使用者が労働者に対し、「残業をつけないか、それがいやなら辞めてくれ」と二者択一を迫ったことから、辞めるとの発言は、自発的意思表示ではないとされました。

②朋栄事件(東京地判平成9年2月4日判時1595―139。西川弁護士担当)
配転に従わない場合は退職するしかないとの提案に対して、「グッド・アイデアだ」と返答した件につき、退職の合意が否定された事例です。無断欠勤した労働者に対し「ファイアー!」(※英語で「解雇する」の意)と言った等、事案自体のおもしろさもあり、笑いの起きる場面もありました。

③大通事件(大阪地判平成10年7月17日労判750―79 。清水弁護士担当)
労働者が「会社を辞めたる」との発言をしたものの、辞職の意思表示ではなく、合意解約の申込みと解釈した事例です。「確定的に雇用契約を終了させる旨の意思が客観的に明らかな場合」の内容につき、修習予定者の方からの質問もありました。

④昭和電線電纜事件(横浜地川崎支判平成16年5月28日労判878―40。冨田弁護士担当)
退職願を提出しなければ解雇にされると誤信してなされた合意解約の申込みに対する承諾の意思表示を錯誤無効とした事例です。錯誤の要件の分析において、冨田弁護士の鋭い考察が光りました。

3 終了後懇親会
若手弁護士と修習予定者が、なりたい弁護士像、修習の心構え、弁護士の日常等について語り、楽しい時間を過ごすことができました。

4 今後の日程等について
次回は1月17日の開催を予定しています。判例ゼミは、予約不要、参加費無料であり、終了後に懇親会がございます(修習生、法科大学院生等は無料)。皆様、お誘い合わせの上ご参加下さい!
※奇数月第3水曜日18時30分~ 20時頃を定例としています。